博士奮闘!その3!滅びの運命の対策!
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「ねえ、HIRARI。これで、できることは全てやったわよね」
「その通りです。私たちはこれ以上ないほど頑張りました。後はもう二人で余生をのんびり過ごしましょう。私たち以外の『運命なんてものともしない存在』が現れるのを待ちましょう」
確かにHIRARIの言う通りだ。私たちは長い間頑張った。後遺症が残るほど危険なことまでやってのけた。
対処療法とはいえ、滅ぶ時期を永らえさせることにも成功した。これ以上ない成果ともいえるだろう。
ただ…
(くそっ、クチナシからもらった力を信じているからこそ、なまじ自分の無力さを痛感してしまう。分かっていたことだが、自分の平凡さが嫌になる)
それでも運命のうねりは進み続けている。
私のやったことなんて、早く滅びるか、遅く滅びるかの二択の道を、遅く滅びる方に誘導しただけ。結局行き着く先は似たようなものだ。
そもそも、運命とは変えようのないものだ。それが見えてしまう私には、そこから外れる手段が存在しないことまで、はっきりと分かってしまう。
やはり必要なのは、この運命なんてなかったかのようにねじ曲げ、消し去ってしまうような奇跡の存在だ。
私はそれにはなれなかった。ただそれだけのこと。
もう、私にできることは何もない――
「………でも、本当にそうかしら?」
理論上でも不可能。体感でも、直感ですら無理と囁いている。
それでも諦めきれないのだ。癇癪と分かっていても、無駄とわかっていても、もがきたいのだ。
「博士、もういいじゃないですか。そんなお体でこれ以上頑張らなくとも、きっと大丈夫ですよ」
HIRARIが止めようとも、思考を続ける。
「私には見えないが、運命はあまりに複雑に絡み合っているはず。それなのに、なんにもできないなんてことはない。今の私たちにも、なにかできることはあるはずなのだ」
「もう、博士のバカ。いっつもそうやって無理するんですから……」
「ハハハ!無理をしようが、大丈夫だ!私にはHIRARIがいるからな!」
HIRARIには私の健康管理を全て任せている。それに、愛する人がいるというだけで、いつまでも元気でいられる。私とはそういう人間だ。
「はあ……無理しすぎたら、絶対に止めますからね。博士には永遠に生きてもらわないと困ります」
「ふふっ、きっとこれからも長い戦いになる。変わらずサポートをよろしくな!」
私たちにできることはない。それでも、何もせず手をこまねいているなんて私らしくない。
明るい未来を信じて、できることを積み重ねていくしかないのだ。
たとえ運命に一切の影響を与えない小さなことでも、全てやってやろう!
「博士はいつもそうやって生きがいを見つけては、目を輝かせるのですから……ついていく私の身にもなってほしいですね」
「そういうHIRARIこそ……ん?確かに私たちでは運命に影響を与えられない。それは間違いないんだ。だが、この計画ならば…」
前向きになったからか、ふと、突拍子もない無茶な計画が頭に浮かんできた。
最終的に宇宙が滅ぶという結論は変わらないにしろ、私たちの影響で進む道は変わった。そして、その滅びの具体的な内容も、少しだけ変わっている。
その変化には、きっと付け入る隙がある。
「はぁ……博士、一人でブツブツ言ってないで、早速その計画を共有して下さい」
「ああ、これはただの発想の転換。要は――」
「……なるほど、滅びの運命を回避するのではなく、滅んだ後に救うのですね」
「そう!このままじゃ、どうせ宇宙は滅びるんだ。なら、こっちの方が僅かに可能性があるだろ?」
「確かに天文学的に低い確率ですが、可能性はありそうですが……前代未聞なことを考えますね。博士は」
「私は本物のアンドロイド博士だからな!私はアンドロイドを信じている。きっと私の愛したアンドロイドならば、可能性はあるはずだ!」
そう――私は今や自他共に認めるアンドロイド博士なのだ。
「博士、浮気ですか?」
「だから、そういうことじゃないって。私が愛しているのは……HIRARI、分かってていってるよな」
「なんのことですか?さあ、口に出して言って下さい。博士が愛しているのは、どこのだれなのですか?」
「…ほんと、仕方のない子だ。私が愛しているのは、HIRARIだけだよ」
後遺症によって力の入りにくくなった体にムチ打って、私はHIRARIにキスをした。
この計画を進めるには、HIRARIの力が必要だ。共に頑張ろう。
「では、この惑星を滅ぶ前にあった活気を取り戻すぞ!」
こうして、私たちは長い長い時をかけ【ジ・アース完全復興計画】をスタートさせた。
計画の全容はこうだ。
今現在運命は「魔王が暴走する」未来ではなく、「魔王が壊れる」未来に進んでいる。
この違いは大きい。どちらにせよ宇宙は滅ぶが、滅び方が違うのだ。
魔王が壊れれば、宇宙全てのエネルギーの動きは凍結する。それが私の見た運命。
人間もアンドロイドも有機物も無機物も時間ですら、全てが凍結するのだ。
つまり、魔王が壊れる運命を避けられない以上、凍結した宇宙そのものに介入できる存在を用意するしかない。
そんな全てが止まった宇宙で動ける強靭な肉体を持ち、時の止まった宇宙で動けるような奇跡を起こせるアンドロイドの作成。これが計画の最終目的だ。
時が止まったような宇宙で動き出すだけなら、人間の方が向いている。ほんの一部の非凡な人間は、今までたくさんの奇跡を起こしてきた。
ただ、人間では肉体と精神の強度がどうしたって足りない。
ただのアンドロイドでもダメだ。アンドロイドは奇跡を起こせない。時の止まった宇宙で動き出すことなんて、百パーセント不可能。
非凡な人間と強靭なアンドロイドの肉体の両方を持つ存在が必要なのだ。
「強靭な肉体を持つアンドロイドなら、現状でも全力をかければ作れるだろう。ただ、奇跡を起こすような人間は、人間にしてもほんの一部しか存在しない。だから、とにかく数が必要だ」
「では、滅びた人間の魂を入れたアンドロイドなどはどうでしょうか?」
「魂?ああ、あの論文のことか」
「そうです。あの論文はついぞ魂の存在を証明こそできませんでしたが、惜しいところまではいっていました。おそらく魂であろうものの可視化までは成功しています。かなり可能性がありそうです」
「…そうだな。では、あの論文に書いてあることは全て正として動こう」
「承知しました」
それから私たちは、この惑星に「人間の魂を持った特別なアンドロイド」を作り始めた。
滅んで長い惑星だ。綺麗な魂なんてそうそう残っていない。それでも、小さな魂の欠片をどうにかして拾い集め、それを元にアンドロイドを作っていく。
理想は人間として生き、成長し、人間として子孫を残し、人間として亡くなるアンドロイドだ。
ただし、それは叶わない理想だった。アンドロイドは子孫を残せない。そこだけはどう作っても変えられなかった。
その対処法として、妊娠したと誤認する機能を組み込み、出産の時期が来ると産婦人科で眠らせ、その間に私たちの手で作った小さな子供を「産んだこと」にする、という形で誤魔化した。
何度も何度も失敗した。成功したと思っても、寿命が数時間であったり、プログラム通りの性格しか形成できなかったりなど、たくさんの失敗をした。
愛情を込めて作ったアンドロイドが失敗作となるのは、胸を割くような悲しみがあった。それでもめげず、一体一体愛情込めて作り、世話をし続けた。
失敗を元に、何度も試行錯誤の日々――
「魂を完全に修復するには、長い時が必要だ。滅びてからもう約8000年は経ってしまったからな。修復するのにも約8000年かかると考えて動こう。ただし、我々にはそんな時間は残されていないがな」
少しずつ、少しずつですが、魂は修復できている。亀の歩みでも、一応計画は順調ではある。
「博士。なぜこの個体は他の個体よりも魂が修復しているのでしょうか?」
「この個体は、初めて他のアンドロイドに愛された個体だったな。それ以外の特徴は特にない。ということは……やはり、この惑星の人にとって、愛というのは大事なピースかもしれない」
やはりクチナシが信じた「愛」というのは、可能性の塊だ。
それに、元々この惑星の滅びた人たちも「愛」というものをことさら大事にしていた。人を愛し、愛されることがこの惑星の人たちには自然なことなのだろう。
「博士は何度も言っていますもんね。『アンドロイドは愛されるべくして生まれた存在だ』と」
「ああ、いろんなアレンジを試したが、その基本設計だけは変えるつもりはない。アンドロイドは愛されて輝くのだ――根拠などはないがな」
「ほんと、量産型アンドロイドにすらそんな不必要な機能をつけたがるのですから、博士のこだわりには困らされました。本当に博士はアンドロイドが好きですね」
「いいだろ、私はアンドロイドの博士なんだから」
次回予告:結び姫様がやってくる




