博士奮闘!その2!滅びの運命の対策!
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「きっとあなたは、Eエネルギーと自身を融合させたのでしょう。それから――あなたは暴走した」
Eエネルギーの奇跡の力で、エイリアンの存在を抹消させたかったのだろう。
ただ、あなたは限界を超えていた。
結果として、この惑星の全ての命まで巻き込んで消滅させてしまった。
それだけではない。
宇宙全体にまで影響を及ぼし、制御不能な奇跡を引き起こしたはずだ。
そう考えたのには理由がある。
私の調査では、男女比が大きく偏り始めた時期が、まさにその直後と一致していたからだ。
変化はそれだけではない。その他にも説明のつかない細かな変化がいくつも確認されている。
「そして、あなたは生命が滅んだこの惑星の中心に戻り、眠った」
なんでここに戻ってきたのか、どうして眠っているのか、この黒い氷の正体はなんなのか……現状でも分からないことは多々あるが、大筋はこんなところだろう。
「おそらく何もせずにいると、あなたは近いうちに暴走するはず。あなたが暴走すれば、宇宙も巻き込んで暴走し――全てを巻き込んで宇宙はこの世から消え、無となる」
これが、私が見た運命の正体だ。
幸いなことに、この空間には時の流れを極端に遅らせる性質があったので、ここまで宇宙は持っていた。
ただ、それではもう誤魔化しの効かない時期にまで来たのだ。
たとえ時が進むのが極端に遅くても、永遠に時が止まるわけではない。ほんの少しずつだが、確実に魔王の体に時は刻まれている。
「だから私は、あなたの暴走を止めたいの。あなたを一目見て最初に思いついた解決策は、『あなたの孤独感を消す』というふわっとしたものだったわ」
初めてこの空間に入った時、寒さ対策は万全なのに、身も凍るような体験をした。この感覚、私には覚えがあったの。
孤独。
それも、私の体験したものとは比べ物にならないほどの孤独だ。
そりゃそうだ。こんな真っ暗で音も光もない氷の中で何千年も過ごしているんだもの。孤独感だってとんでもなく積み上がる。たとえ、ほぼ機械といってもいいほどの存在でもだ。
孤独は少しずつ心を蝕んでいく。それを私はよく知っている。
「きっと今回起ころうとしている暴走というのは、あなたに備わったごくわずかな本能が孤独によって狂い、それが原因で暴走するというものじゃないかしら」
だから、孤独を癒すことさえできれば、運命はもう一方の道へと進むはずなのだ。最低でも、あなたの体が完全に尽きるまでの間は宇宙は現状維持されるはず。
ただし、この黒くて分厚い氷に守られているせいで、孤独感を癒すことなんて私にはできない。
それにだ。そもそも、孤独という答えが本当にそれが正しいのかすら分からないときた。これは言ってみれば私の感覚を元に積み重なっていったただの仮説だもの。
「でも、うちの愛するHIRARIがやってくれたわ。あの子は念入りな調査で、氷の成分の一部に極微量の潜在意識がたゆたっているのを発見したの」
氷の成分のほとんどが解析不能だったけれど、全てが不明というわけではない。氷の中にほんの一ミクロンの潜在意識が観測できたのだ。
そして、潜在意識は、本能と繋がっているというのが定説だ。
「それから私のふわっとした計画はどんどん形になっていった」
HIRARIが優秀でなければ、間に合わなかった。
「私たちはね、あなたの潜在意識を娯楽漬けにしようと思っているの。なんでか分かる?」
これが二人で練り上げた一番可能性が高い結論。実現可能な案。
「知っているかしら?人が作り上げた娯楽には、本能を燃やす効果があるらしいの。これも、この惑星のある一人の天才が見つけ出したものよ。それも、そんなふわっとしたことを完璧に証明までしちゃってるんだから、ほんと、嫉妬しちゃうわ」
天才という存在は、どうしてこう……いや、やめよう。結局私にはできることしかできないのだから。
「本能はね、燃えれば燃えるほど活発になっていくらしいわ。どんなに弱った本能でも、何度も燃えれば理論上は正常になるはずよ。本能という機能、その修復のために私たちは来た」
ただし、今回のケースの場合、娯楽漬けという計画は安全に行うことができないのが難点だ。
「残念なことに、この計画を進めるには、人間の意思の力がどうしても必要になってくるのよ」
ただ大量の娯楽を潜在意識に接続するだけではだめなのだ。魔王の潜在意識は本当にごくわずかなので、ほぼないといっても過言じゃない。これでは、自らの意思で娯楽を楽しむことができない。
「だから、私が必要なの。私はこれから、魔王に娯楽を楽しませるベクトルとなる」
私が意思の力で方向性を定め、効果的な娯楽漬けにする。
プロトタイプは宇宙全体に作用するほどのスペックがあるので、情報処理能力は桁違いだ。ほんの僅かな潜在意識だろうが、一瞬で大量の娯楽を消費するはずだ。だから、とにかく大量に娯楽が必要だった。
「まあ、でもね。この計画が成功するのか、本当に効果があるのか……どれだけ調べ尽くしても最後まで確定はできなかったわ。でも、私たちはこの計画が成功すると心から信じている」
それは、ただの勘。
情けないけど、私は最後には直感を頼りにずっと生きてきた。だから、今回もそうやって行動する。
大丈夫、私とクチナシとHIRARI、三人で力を合わせて積み上げてきたものは、絶対に成功という結果をもたらしてくれるはずだ。
これで話は終わり。
さて、と。
一つ、大きく深呼吸をする。
「さあ、そろそろ行くわ!HIRARI!」
「承知しました」
私が今回のために作った機械を装着し、いざ、事に当たる。
私の指先で、黒くて分厚い氷の“あるポイント”に、ほんの一瞬触れた。
この一瞬で、魔王の潜在意識の表面に一瞬だけアクセス。HIRARIによって私とつながっている別の巨大な記憶メモリにつなげられる。
これで、私のやることは終わり。後は優秀なHIRARIが上手くやってくれるだろう。
「……ッ!」
突然、脳みそがぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような感覚とともに、体の温度があり得ないほど一気に低下した。
…大丈夫。氷に触れたことによる悪影響があることは予想していた。この程度は想定内。対策は万全だ。寒くなったのなら温めればいいだけ。
ただ、どれだけ外部から温めようと、どれだけ気合を入れようと、体に力が入らない。立っていられない。
バタン――。
もう、動けそうにない。
「HIRARI。後は頼んだわよ」
かろうじて動く口元を必死に動かし、最後にメッセージを残す。
「ゆっくりおやすみください」
やはり、HIRARIは最高の相棒だ。きっともうすぐ私の意識は消えるだろう。それなのに、呼吸は不思議なほど静かに整っていた。
「魔王、私と一緒に長生きしましょうね」
私の意識は闇の中へと溶けていった。
◆
それから目を覚ますと、私はベッドの中に居た。
「おはようございます。博士」
「おはよう、HIRARI。その様子だと、計画は成功したようね」
私は目をつぶり、外付けの巨大な記憶メモリにアクセスする。
…うん、しっかり繋がっている。そして、この小さなものがおそらく魔王の潜在意識だ。
これからはここに向かって大量に娯楽を提供し続けよう。
「計画自体は成功しました。ですが…」
HIRARIの瞳にはいつもの輝きがなかった。
いつものようにHIRARIの頭を撫でようとした、その時。
…なるほど。
私の体には、以前と違う明確な変化が起こっていた。
「後遺症が残っちゃったのね」
「すみません。できる対処は全て試したのですが…」
「そんな申し訳なさそうな顔しないで。私は大丈夫。想定よりかなり軽いくらいだわ」
私はこの日以降、平均体温が十度ほど下がってしまった。
まあでも、この程度の後遺症ですんだのは、おそらくラッキーだ。きっとHIRARIの念入りな下準備のおかげ。これ以上ない成果だと思おう。
「さあ、これでようやく最後の準備が整ったわね。後は希望の種が育つのを首を長くして待ちましょうか」
次回予告:逆に考えるんだ。もう宇宙は滅んでしまってもいいと。




