料理ができなかった理由
「儂が一人でも料理ができる?」
「ああ、今日お前が作ってるところを見てそう確信した」
そうジョルジュが言う。
「いや、それはジョルジュの教えが上手で儂はその通りにやったからできたんじゃろ?」
「いや、私が教えたからと言ってもその通りにできない者もいる」
「うむ、確かに丁寧に教えても上手くできない者は中にはいるな」
そうシルが言う。
確かにどうしても苦手なものならいくら教えてもできない者はいるだろう。
「だがカホは私が教えた通りにちゃんとハンバーグを作る事ができた、つまりカホは教えればちゃんと料理ができると言う事だ」
「しかし、儂は不器用じゃから料理ができなかったのじゃぞ、ジョルジュ、お前さんに初めて料理を作った時もとても食べられた物じゃなかったじゃろ?」
「まあ、確かにあれはどちらかと言えば食べられない方だったかもしれないが、実際にカホは包丁でタマネギを言われた通りに切れていたし少し焦がしてしまったがハンバーグもちゃんと焼けていた、本当に不器用ならこの時点で酷いものになっているはずだろ?」
「それは、そうかもしれぬが、なら何故儂は今まで料理が上手くできなかったのじゃ?」
カホさんの疑問は当然だな。
包丁で切ったり火で焼く事も出来ていたのなら何故今まで料理が上手くできなかったのか。
ジョルジュはその答えに気づいたみたいだが。
「お前が今まで料理が上手くできず不器用だったのは、いくつもの料理を同時に作っていたからだ」
そうジョルジュが言うがカホさんは首を傾げてわかっていない様子だ。
「どう言う事じゃ?」
「思い返してみたんだが、カホが私に最初に料理を作ってくれた時、カホはいくつもの料理を同時に作っていた気がする、確かあの時はスープを作ったり肉を焼いたりサラダを切って盛り付けたりしていたな」
「そうじゃ、それなのに肉は焦げてスープはよくわからない味になってサラダはいびつな形になって盛り付けも綺麗じゃなかったのじゃ」
「そうだったな、だが今回のハンバーグは上手くできた、それはカホがハンバーグと言う一つの料理を作る事に集中できたからだ」
「一つの料理に集中?」
「ああ、おそらくだがカホ、お前はいくつもの料理を同時に作ろうとすると途中でどこまでやったかわからなくなってしまう事があったんじゃないのか?」
「あ」
ジョルジュに言われてカホさんは思い当たる節があるような反応をする。
「例えばスープを煮込んでいる間に別の料理の味付けをしておこうとかサラダを切って盛り付けておこうとか所々で料理を作るのに時間が空けば別の料理の準備をするという事がカホは苦手なのではないかと思ったんだ」
「なるほど、確かに別々の事を同時にすると途中でこれどこまでやったけってなるあれみたいな感じか」
「その通りです」
シルの言葉にジョルジュが頷く。
確かに同時に二つも三つも別々の事をすると途中でどこまで終えたかわからなくなる事があるな。
「確かに、思い返してみれば東国で料理を作る時はいつも米を炊いて味噌汁を作って玉子焼きを作って魚を焼いてといくつもの料理を同時に作っていた気がするのう、それで毎回今どの料理がどこまでできているか途中でわからなくなって頭が混乱して料理が上手くできなかった気がするのじゃ」
そうカホさんは言う。
確かに途中で一度わからなくなってしまうとどうすれば良いのかわからなくて止まってしまうな。
「じゃが、それならこのハンバーグだって色々しなければならないじゃろ?」
「確かに色々しなければならない、だが最終的にはハンバーグと言う一つの料理になる、一つの料理なら色々な工程があったとしても落ち着いて一つずつこなせばできるはずだ、カホの場合はそれができていた、だからいくつもの料理を同時に作るのは難しくても一つの料理ならカホは上手く作れるはずだ、現にハンバーグはできたのだから」
「確かにタマネギを切って炒めたりとか肉と混ぜて形を整えたりとかやる事はたくさんあったけど、それらの工程が一つの料理を作るためのものなら順番を間違えなければできるし、途中でどこまでやったか忘れてしまっても落ち着いてレシピを見て確認すればどこまでやったかがわかる、カホさんはそれができてハンバーグを完成させた、それがカホさんが一つの料理を作る事ならできる証明だ」
「う、うむ」
ジョルジュとシルの言葉にカホさんは何か考えるように目を閉じる。
「・・・・・・儂、料理ができたのか?」
「一つの料理を作るだけならできるんじゃないかな、現にハンバーグは少し焦げたけど旨かったし」
俺がそう言うとジョルジュとシルは頷く。
「そうか、儂は一つの料理を作るだけならできたのか、じゃが料理を出すなら同時にいくつもの料理ができなければ意味がないのじゃ、ご飯を作って味噌汁を作って玉子焼きを作って魚を焼いてを一つずつしていたら先に作った料理が冷めてしまうからのう」
確かに、一つずつ作っていたら相当な時間が掛かってしまうからなぁ。
料理は温かい方が旨いって言うから冷めてしまったら旨さが落ちてしまう。
「それに結婚して子供もできたら家族が増えるし、そうなったら作る分の量も増えるから余計一つの料理だけを作るわけにもいかぬ」
「「「確かに」」」
「さらに結婚した夫の家族、義父や義母、義兄や義姉、さらには義弟や義妹がいたらその者達の分まで作らなければならないのじゃ」
「そこは義母とかが手伝わないのか?」
シルが問う。
「そう言うのは嫁の仕事とか言うものじゃったからのう」
「嫌なものだな」
「さらに言うと、その者達から注文が多かったりするのもあるのじゃ、味が薄いとか濃いとか、焼き加減が違うとかこれ嫌いだとかこっちがいいとか色々とな」
「これが義家族による嫁いびりって奴か、私なら腹を立てて黙らせるかもな」
うん、シルはそういうの嫌いだからな。
「まあ、そんな感じで例え儂が一つの料理を作る事ができるとわかっても結局儂は家を追い出されていた事に変わりはないのじゃ、何故ならいくつもの料理を同時に作れないんじゃからな」
そう言うカホさんに俺達はどう答えて良いかわからなかった。
あまりにも重いからなぁ。
「じゃが、今回儂は料理が全くできないわけじゃない事を知れて良かったのじゃ、ありがとう、儂を誘ってくれて」
そう言うカホさんは本当に嬉しそうな顔をしているのだった。
そして後日。
「今朝儂が味噌汁を作ってのう、ジョルジュに飲んでもらったのじゃ、まさか愛する旦那様に味噌汁を作ってあげる日が来るとは思わなかったから味見とかしてもらって新婚夫婦みたいな感じでちょっと恥ずかしかったのじゃ」
顔を赤くして言うカホさんの話をシル達女性陣は興味深そうに聞いている。
女性って恋の話は結構聞きたがるんだな。
あ、当然ハンバーグは大好評だったぞ。
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