”PLAY” Your Role⑥
――――徳臣開発DARG事業部
――――GMルーム
大学の講義室のような段差のついた部屋の中で、机に並べられたPCモニタが様々なプレイヤーの行動を映し出している。
PCモニタの数に対して人の気配は少ない。
大学であれば大きな黒板が設置されているはずの正面には巨大なディスプレイが設置されており、とあるプレイヤーが老人を拉致してチュートリアルタウンを旅立つ光景が映し出されていた。
「六軒マネージャー。18人目のチュートリアルイベント完遂者が出ました。これから東のメメレケレレ山へ向かうとのことです。」
眼鏡をかけた知的美人系の女性オペレーターが、部屋正面の大型モニタを立ったまま眺めている1人の男性に話しかけた。
「うん…これでアマチュア勢では三人目かな?ちょっと早くない?」
「はい、記録によると、彼はVR訓練期間に毎日ゲームにアクセスしてひたすら大型モンスターとの戦闘訓練を繰り返していました。最初は実体とかなり乖離のあるアバターボディのコントロールに難儀していましたが、訓練を重ねて習熟したようです。開始当初の勝率は10%を切っていましたが、最後の3日間は74.2%という記録を叩き出して数時間ですが、勝率トップの座も手にしていました。」
「すごいな。彼もなんとか特殊作戦の方に加えられないかな?」
六軒マネージャーがプレイヤーの勧誘を提案する。
女性はプレイヤーのパーソナリティーを確認して少し眉を寄せた。
「このプレイヤーはゲー厶性を純粋に楽しみたくてプレイをしているようです。直接的な破壊活動を伴う特殊作戦に加えるよりも冒険の形で関わらせるほうが本人のスタイルに合っていると思われます。」
「なるほど…表の英雄にでもなってもらうわけか。」
顎に手を当てた六軒マネージャーがニヤリとした。いつも悪巧みをするときのクセだ。
「あまり贔屓しすぎないでくださいね。今は転生同盟の監視もあります。」
「そのせいで、このゲームではプレイヤー全員にAIパートナーを用意することになったんだよねー。かなりの予算が飛んじゃって取締役会に呼び出されたときは生きた心地がしなかったよ。」
六軒マネージャーは苦虫を噛み潰した表情で頭を振る。
「そんなに落ち込まないでください。今回の世界は希少資源の埋蔵量もかなり期待できますよ。それでは。」
これ以上話すと呪延々と愚痴を聞かされそうだったので、女性オペレーターは困ったように苦笑いしながら仕事に戻っていった。
六軒マネージャーは、再び大型モニターに注視して、ピックアップされるプレイヤーの動向を見守るのだった。
『チュートリアルタウン突破者:21名』
このゲームにおけるチュートリアルタウンとは、ゲーム開始時に並行世界の常識やルール、プレイヤースキルの最低限の成熟を目的に様々なイベントやミッションが用意された街のことである。
普通のVRゲームなどであれば、チュートリアルはスキップしてもなんとかなる仕様となっているが、DARG(Dive in Another Real Game)は一味違う。
チュートリアルタウンを一歩出てしまえば、各都市に設置されたサポート施設以外はほぼ全て生身の異世界住人や動物などが生活する場所に放り出されることになる。
壺を割ると持ち主から怒られ弁償を要求されたり、勝手に家の中に入れば不法侵入者として現地治安組織に逮捕されたり、商人との取引でボッタクられたりもする。
そんな世界に踏み出すことになるのだ。
また、道中に襲い来る”魔物”を対処する能力も必須である。
いくらアバターの替えが用意されているとはいえ、その数も無限ではない。
スペアのアバターの造成速度を超えて死亡してしまえば、デスペナルティとして、一定期間ゲーム本編にアクセスすることができなくなってしまう。
ゲームをするだけなのに、対人スキルや戦闘スキルが最初から一定以上求められるしようとなっているのだ。
一定以上の基準を満たしたと判定されたプレイヤーのみがチュートリアルタウンから旅立つことができるようになっているということだ。
下火になってはいるが、まだ市場が存在するVRゲームで言い換えると、チュートリアルタウンはキャンペーンモードで、そのモードをクリアすることができれば、チュートリアルタウンの外でのプレイが解放されるというデザインになっているのだ。
たとえば、先ほど話題に上がっていたビッグデルタというプレイヤーがなぜ一度目のイベントでチュートリアルクリアとなってのかといえば、以下のようにまとめられる。
戦闘能力については、VR訓練の時点からアマチュア勢でもトップクラスの成績を誇っており問題はなかった。次に対人スキルについてだが、ヒフニーからの依頼を受注した時点では落第点であったが、それはプレイヤーのパーソナル情報にマッチングしすぎていたためであり一考の余地ありと判断された。
その後、依頼達成後の報酬獲得の交渉に際して、3つのポイントが評価されてチュートリアルクリアと判断された。
ヒフニーが報酬の引き渡しをその場で履行できないシチュエーションを設定し、「時間」、「信用判断」、「倫理」という3つの観点からデルタがどのように対応するのかが試験されていたのだ。
1.時間:今すぐ報酬が手に入らない情報を提示し「待つ」「待たない」の判断において、「待たない」ことを選択することで、交渉条件を過度に譲らない毅然とした態度を示し交渉面における基準をクリア。
2.信用判断:ヒフニーというキャラクター性である「自分のやりたいことを優先する」人格情報から、目を離すと報酬の回収にどれほどの期間がかかるかわからないことから、ヒフニーを強制連行して素材採集することを判断したことが信用判断が的確であるとしてクリア。ここで待機を選択できてしまうお人好しなプレイヤーは、似たようなシチュエーションのイベントを連続的に体験させることで学習を促すデザインとなっている。
3.倫理:依頼達成後に報酬の回収が即座にできないという思うようにいかない状況を作り出すことで、デルタのストレス耐性を検証した。理不尽な状況で、ヒフニー殺害というゲームならではの安易な判断に走らないが、債権回収のために容赦はしないというバランスの取れた人格としてクリア判定となった。
以上の点から、ビッグデルタはゴリラント・タイラント世界に解き放たれる”神の軍団”の先鋭としてチュートリアルタウン突破に成功したのであった。
チュートリアルタウン突破をしていないプレイヤーが街から一定の距離を離れると、強制的にアバターのコントロール権限を奪われて街の入口まで戻されるようになっている。
その際、プレイヤーのコントロールを離れたアバターは景色を楽しむようにゆっくり時間をかけて移動する設定となっており、プレイヤーにとってはストレスのかかるペナルティとなっている。
そのため、一度でもこのペナルティを課されたプレイヤーは二度と同じことをしないように気を付けるようになるという魂胆である。
ゲームなのに、プレイヤーを篩にかけるようなことをしてなぜプレイ人口が確保できるのか。これもまた、この地球における常識について興味は尽きない。
―――――第576並行世界ゴリラント
―――――ゴリアル王国
―――――大会議室
「して、”神の軍団”は本当に現れたのか...…。」
「はい、突然平原の虚空に亀裂…?のようなものが無数に走り、光り輝く隧道のようなものが口を開けたと思ったら……様々な姿かたちをした集団がその隧道を通って平原に現れたとのこと。その後、大神聖僧がその集団と接触したと思ったら、地面から街が生えるぅ…?ようにして現れたとのこと。なんだこれは…」
「にわかには信じることはできないが、神の奇跡であれば可能なのだろうな…。」
ゴリアル王国の首脳がレブロト王の執務室に雁首揃えて集まっていた。
軍務大臣は斥候部隊からの報告を読み上げているが、読み上げている己の目を信じられないのか、何度も読み返すようにしてつっかえつっかえの報告となり、それなら斥候自身を呼び出して直接報告させたほうが良かったと後悔していた。
「大多数は街の中かその周辺を探索するにとどまっていますが…。そ、その日のうちに40名以上の神の軍団たちが街を出て各地へと散っていったとのことです。特定の方角に集中することなく文字通り四方八方へ散っていったため、斥候部隊を分けて追跡を試みたが、大半見失ったとのことです。彼奴らは基本的に二人一組で行動しており、片割れに導かれるように街を離れていったとのことです。」
「四方八方か…王都に一目散に向かってくるわけではないのか。しかし、王都内の警備は引き続き厳重にするように。そして、手引きしている者……ウォホル教の手のものなのか?大神僧聖の供の者たちか?」
「いえ、大神僧聖の連れの者たちは少数でした。また、彼の者たちは大神僧聖に付き従い、街の中の大聖堂へ向かっていったとのこと。」
レブロトは大きくため息をつき、それでも前向きな情報を聞き出そうと報告を思い出す。
「ほとんどの斥候が追跡対象を見失ったとのことだが、追跡が成功しているものもいるのだな?」
軍務大臣はここぞとばかりに胸を張って答える。
「はいっ!4組の追跡を継続中です。二組は東、一組はこの王都を避けるように北、最後の一組は西に向かったとのことです。その中で、うっ……」
「なんだ?」
軍務大臣は喉になにかがつかえたように苦しそうに顔を歪めて言葉を続けた。
「西に向かった者を追跡していた斥候部隊は……その斥候たちは商人に扮装していたのですが……グッ……対象に追跡を見破られ、ポールテンゲまでの案内人として徴発されたとのこと……この報告書も先方の……きょ…きょ…」
「きょ……なんだ?」
レブロトに問われた軍務大臣は進退ここに窮まったとばかりにヤケクソに叫んだ」
「許可をもらい届けられたものだそうですぅ!!」
「なんと…」
軍務大臣は顔を真っ青にして椅子から立ち上がると、床に這いつくばった。
「申し訳ありません!!!もしも敵対行動と勘ぐられてしまった場合は、私の首を差し出してください!!」
悲壮な覚悟をもって首を差し出す軍務大臣を見て、執務室の中にいた大臣たちは色めき立つ。
財務大臣がソファの肘掛けを殴りつけながら立ち上がった。
「何ということだ!だから、私は反対したのだ!!陛下!神の軍団がどれほどの戦力なのかは知りませぬが、ウォホル教との対立だけはなんとしても避けなければなりませんぞぉ!」
「今はそんなことを言っている場合かぁ!こうなったら先手必勝!一刻も早く各貴族家から軍隊を派遣させて街を潰せぇ!」
「阿呆がぁ!神の軍団も敵対行動に出ようと思えばすぐにでも動けるはずだ!それがないということは本当に味方かもしれんだろう!!」
他の大臣たちもああでもないこうでもないと騒ぎ出し、会議室の中は騒乱状態となってしまった。
その時風が吹いた。
窓を締め切った室内に突風が吹き荒れて、大臣たちは驚いて風上へ振り向いた。
ピタッと空気が止まった。
大臣たちの目線の先には、大剣を片手で振り下ろし残心しているレブロトの姿があった。
その肉体は齢五十を過ぎているにも関わらず筋骨たくましく、その覇気は周りの空気を沸き立たせる鬼気を感じさせる。
「この程度で狼狽えるな。抗議も何も届いていないのだろう?ならば好都合だ。その斥候たちには酷だが、とことんその冒険者たちに張り付かせ彼奴らの出自を徹底的に探らせろ。軍務大臣、指揮は任せたぞ。」
大剣側付きに預けたレブロトは、不動の岩の如き出で立ちで大臣たちを睥睨した。
「味方ならば魔王とやらを倒させれば良い。敵ならば血の一滴すら残さず叩き潰すまでよ」
そうだった。我々を率いているのはレブロト王であった。若かりし日は戦場を駆け、ことごとく敵を打ち砕き最後には信従させてきた覇王が冠を頂くゴリアル王国は敵を打ち砕くのみなのだ。
「おおー!」「陛下、万歳!」「さすがは武王だ!」「ゴリアル王国、万歳!」
大臣たちも心の中にへばりつく不安を押し隠し、王の強気に乗っかることにしたのだった。
「ところで、各地の辺境にて流通網が滞っている件は解決しそうなのか?見たことのない化物が出るとか報告に上がっていたな。」
途端に元気だった商務大臣の顔が曇る。
「その件については、未だ解決の糸口は見えておりません。事態を重く見た各貴族家が軍隊を派遣するも、商人たちが襲われたという現場の周辺で化物を発見できず途方に暮れております。」
なんとか持ち直した軍務大臣のもとに側近が駆け寄り、何やら耳打ちをした。
せっかく持ち直した軍務大臣の顔も、再び険しいものに変わる。
「その件でご報告があります。たった今入ってきた報告によると、被害の特に多かったエテキージョア伯爵が事態の解決のために派遣していた領軍三千が、化物の大群二百と衝突し敗走したとのこと。化物の大群は数を百余りまで減らしたものの、どこから現れたのか、群れに化け物たちが合流し始めて今度は5百ほどの勢力に拡大しているとのことです。そのまま領都エテキジョンブルへ向かって進行中とのこと。王軍の派遣を要請してきました。」
十倍以上の軍隊を持ってしても半分も勢力を残したまま敗走することになるとは、どんな化物なのか。
踏んだり蹴ったりとはこのことかと、レブロトの脳裏によぎるが、臣下の前で弱気を見せることはできない。なるべく平静を装い指示を出す。
「この状況で各方面軍を配備していたのが役に立ちそうだな。エテキジョンブルは交易の要衝。これを守らずして神の軍団も魔王もないわ。軍務大臣、差配は任せた。」
「御意!」
レブロトは机の上に広げられた地図を指さす。
「決戦の地は、メメレケレレ山の麓とする!」
そして、ゴリアル王国は魔王に率いられる魔族と神の軍団の戦いを目撃することになる。
覇王レブロト:20年前まで周辺国からの侵略を受けていたが、レブロトが王になり戦略を大転換。ちょっかいを掛けてきた国々をことごとく打ち破りそのまま侵略し返してきた。相手が敵と分かれば勇猛果敢に攻めかかり、味方と分かれば手厚く遇する器を見せる。白黒付いているのが得意のため、敵か味方かわからない相手に優柔不断となる。その煮えきらない態度を見てなめた態度を取ってきた国は敵判定を下されるため、戦争の口実を得るための演技なのではないかと噂されているが、本当にわからない場合は心の底から困っている。




