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二つの魔法痕

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 発顕型と付与型──可視化されるタイプとされないタイプとの区分けだ──、魔法には二つの種類があるわけだが……、今回使用されていたのは、どうやら、後者らしかった。

 ただ、特定出来たのはあくまでもそこまでで……、魔法の内容も、いつマリナにかけられたのかも、ほとんど茫洋(ぼうよう)としていて、判然としない状態であった。

 まあ、いつ、という点に関しては、詳細な事はわからないにしても、少なくとも片方は最近で、片方はかなり昔ということであった。

 同じ種類で、内容も分からないくらいマイナーな魔法で、期間がかなり空いている……ハッキリ言って、このことが示す謎について、アタシは答えをまるで持ち合わせていない……いないのだが、しかしどうだろう、これはこれで、一歩前進としても良いのではなかろうか。

 何も情報がないよりかは。

 いくらかマシなはずである。

 ……まあ、情報が増えることで、寧ろわからない事が増える典型のような展開であることは、どうしても差し引かなくてはならないだろうが……。


「そういえば、レストラン「微妙に美味」での事件では、マリナに「透徹した眼(トランスパレントアイ)」を使っていなかったな……」


 青空の密室。

 あの時の事件では、少なくとも、マリナとサラさんに話を限定すれば、絶対的なアリバイが存在していた。

 言ってしまえば簡単な話で──レストランに着いてから事件が起こるまで、ぴったりアタシと一緒に行動していた人間が、なんの隙間を縫って殺人を犯したのだという理屈が、彼女たちの無罪を立証したのだ。

 だから、というわけではないのだが──いや、だから、だ。

 だからアタシは、あの時サラさんとマリナに関してだけは、「透徹した眼(トランスパレントアイ)」を行使しなかった。

 要するにこのことが悪さをして、魔法痕の発見を、本来より遅らせてしまったのだ。

 

「サラさん。一応このことは、他の人たちにも話しておこうと思う。……情報も欲しいことだし、少なくとも、今日中には」


「わかりました」彼女は退室するべく片膝立ちで立ち上がった。心なしか目線が険しい気がするのだが……果たして、愛娘の遺体を見るのは辛いのかもしれない。「これから、どうするのです?」


「少し、話を聞いてみたいヤツがいるんだ。そいつにいくつか質問してみるよ」


「そうですか……では、頑張ってください」


「うん。サラさんも、あまり、無理はしないでくれよ」


 サラさんは「ええ」と短く答えて、先に退室しようと歩を進めた。その足取りは、死体を見る以前とは違う。少しだけ覚束ない様子だ。「ふぅ……」


「肩を貸すよ」アタシは言う。


「……ありがとう、ございます……」


 アタシは彼女を支えつつ、サラさんを元いた部屋に帰した。







「かくかくしかじかでさぁ、情報が欲しいんだけれど」


『まるっと入って来ませんでした……』


 いま会話している相手は目前にいる……訳ではなく、自身と遠くの人間とで会話ができるという、付与型の魔法を使っての密談であった。

 名前はザイン。

 少し前に、色々あって知り合うはめになった、お貴族様のご令息だ。


「前に言ってたじゃん? 我が家は独自の捜査機関を擁する……だとかなんとか。そのお力をさ、今回、ちょっと貸して欲しいんだ」


『はぁ……まあ、良いですけれど、全体、何を知りたいんですか?』


「マリナの過去……もとい、サラさんの所に来る前のことだ」


『前?』ザインは胡乱そうに言う。『サラさんの実子だと伝え聞いておりましたが?』


「それが違ったらしいんだよ。実際は養子らしいんだ」マリナがアタシにそのことを打ち明けた、あの夜のことを思い出しつつ、言う。「実はマリナが何者かに殺されてしまったんだ。何か、ヒントになることはないかと思ってな」


『えっ!? こ、殺された!?』ザインは酷く驚いた様子だった。『大変じゃないですか!? て……、ていうかそんな大事なこと、然るべき機関に任せるべきですよっ! 何を独自に調べようとしているんですかっ!』


「お前の言う事もむべなるかなって感じだけれど……、しかし、コレばかりは譲れない。大丈夫。教会側も隠蔽する気マンマンだから、アタシの捜査にも協力してくれてるし……、第一、外に通ずる門扉さえ抑えておけば、犯人が逃れることはない」


『隙を見て逃げたかもしれないじゃないですか!』


「その辺は交代制だから隙はないさ。少なくとも、最後にマリナが目撃された時間から、誰かが外に出たという証言は無い。門扉の管理はマリナの死をもって急設されたわけではないから、ずっと見張りをしていた衛兵の人が証言してくれたわけだけれど……、コレでも不満か?」


『ふ……、不満ですよ! そりゃ、あなたは探偵かもしれない。でも、そんなのは世間が決めたことで……っ!』


「いいんだよ、その辺の理屈は」アタシは言う。「今は、とにかくもう、犯人をとっちめてやりたいんだ。コレは私怨だ。私情だ。どう言い繕っても、コレはエゴでしかなく、エゴでしかない。だからわざわざ、お前に理解を求めたりはしない……でも、アタシの独自捜査の為の情報収集、この一点だけは、どうか認めて欲しい。どうしても無理なようなら、流石に然るべき捜査機関に受け渡すつもりだが、せめてギリギリまでは、この事件に拘泥していたい。本来なら殺してやりたいくらいだが、しかし、それはしない。しない代わりに──


 ──せめてこの手で、犯人を突き止めたい。


 そう思うことは、やはり、罪なのか?」


『……………………思いはともかく、行動は罪でしょうよ。法に照らし合わせれば』ザインは数段声のトーンを落として言った。『でも、あなたの熱意は伝わりましたよ。あなたが求めなかった理解はともかく、黙認くらいなら。……まあ、情報を提供する時点で、黙認もクソもありませんが……、とにかく、こちらでも一応、調べてみます。結果は追って報告しましょう』


「ありがとう、ザイン。助かるよ」


 魔法を切断して、会話はそこで終了する。

 アタシは近くの椅子に座り、小さく呟いた。


「法に反してたんだ……」


 その場の勢いで生きすぎである。







 ザインに調査を依頼したあとで、この次に何を調べるべきなのか、無い頭で必死に考えていたのだけれど、あにはからんや、新しい情報は向こうから、あるいは過去からやってきた。


「ガルムードさん! 犯行に使われた凶器の、その行方の調査が終わりました!」


 大きな声でそう報告してくれたのは、アタシに解決済みの密室を出題したは良いものの、それはそれとして返り討ちにあい、使いっ走りにまで身を堕とした、あの、例の男だった──名前はダイというらしい。


「おう、どうだった」アタシは鷹揚(おうよう)に手で応えつつ、そう聞いた。


「ありませんでした!」アタシがその報告に眉根を寄せると、彼は矢継ぎ早に二の句を継いだ。「教会にいる人間は全員調べたのですが、誰も隠し持っている様子はありませんでした!」


 アタシは念の為に質問をする。「……それはその、どれくらいしっかり調べたんだ?」


「全員の着ている服を剥ぎました!」


「え?」


「聞こえませんでしたか? ではもう一度。全員の衣服を剥いで調べ……」


「いや、もういい、分かったから。黙れ。……一応聞くけれど、流石に女性と男性とで、調べる人間は分けたんだよな?」


「それはもちろん」


「よかった……その辺の常識はあるんだな」


「男性を女性に、女性を男性に任せました!」


「バ、バッカじゃねぇの!? より悪いじゃねーか!?」


「冗談です。流石に馬鹿にしすぎですよ……。ちゃんと男女で別の部屋を用意して、男性が男性を、女性が女性を調べました」


「お……」胸を撫で下ろすと同時に、言い知れぬ怒りが込み上げてきた。「お前なぁ! 言っていい冗談と悪い冗談が!」


「申し訳ありません?」


「ハテナひとつで謝意がカケラも感じられない!」


「申し訳は在庫切れです」


「謝られてるのになんかガッカリするーーっ!?」


 ……ともかく、だ。


「無いんだな? 絶対に」


「仮に縄を凶器に使っていたなら、燃やすか、それかバラバラにする事もできます」ダイは続ける。「ですが、バラバラにした可能性は無いと思います。結構な人数で、そこら中くまなく探しましたが……、やっぱり、それらしいものは見つかりませんでしたから」


「燃やした線は?」


「全員の服を剥いたときには、少なくとも、発火しそうなものはありませんでした。もちろん、その類の魔法を使った痕跡も、探した限りには見当たりませんでしたし……」


「じゃあ、どこかに忍ばせてあったマッチか何かを、脱走後すぐに回収して、その場で燃やしたということだろうか……」


「いや、実はですね……」ダイは気まずそうに言った。「自分で提示しておいてなんですが、凶器を燃やした線は無いんですよ」


「……なぜ?」いまいちよくわからなかったので、ここは簡潔に聞いておく。


「この教会、実は一度全焼してるんです。だからその時以来、堂内での火気を検知すると、大きな音が鳴るようになっているんですよ。なので、仮に火を使って燃やしていたなら、確実に気づいていたはずです」


「……それも魔法なのか?」


「ええ。随分応用的ですけれどね」


 ふぅーむ。

 透明人間のことといい、なんだかよくわからん発展を遂げているな、この教会は。

 

「魔法による検知で、マリナの死亡時刻を弾き出したりもしていたな……。その死亡時刻は、確か……」


「第一発見者の……、つまり、加害者の悲鳴があった時刻と、ほとんどタイムラグはありませんでした」


「そう、だったな……」なら、とアタシは考える。「それなら余計に、凶器を隠すことなど出来ない筈だ……、時間的に、ほとんど不可能だったはず」


「でも、現場から逃走した後に関しては、結構時間がありましたよね」ダイは慎重に発言する。「あのあと私が調査に乗りだすまでに、そんなに時間的なラグはなかった……けれど、教会には結構人数がいたのもあり、調べられたのが後半であればあるほど、時間的な余裕はあったでしょうね」


「そうか。なら……いやでも……」アタシは考える。考えて、そして言う。「時間的な余裕があったところで、だ。どうあれ処理のしようがない」


「紐だかロープだか……とにかく、凶器が残ってさえいれば、そこから魔法による探知で、指紋から犯人を逆算できたんでしょうけれど……」


「でも、見つからない……、か」


「ええ」ダイは無力感に苛まれている風にそう言った。








 ザインの報告を待つ間、さしあたり新たな情報を探る意味合いで、マリナの遺体に正体不明の魔法痕が二つあったことの旨を、サラさんの約束の通り、教会にいる人々に伝えて回ろうと歩を進め出したその時、


『ガルムードさん、報告です。アナタから頼まれたマリナちゃんのことについて』


 という、さっき聞いたばかりで大して懐かしくもない、聞き慣れた令息の声が聞こえてきた。


「なんだ、もう分かったのか」アタシは続けてザイン、と名前を呼んだ。


『流石に全てを洗い出したわけではないのでアレなんですけれど……、重要かと思いましたので、一応』

 

 アタシが「まあ、とりあえず言ってみろ」と促すと、ザインはそれを受けて頷いた(そういう間があったのだ。実際にそれを見たわけじゃない)。


『どうやら彼女は五年前ほど前まで、孤児院で保護されていたらしいんですけれど……、どうもそれ以前の彼女の記録については、完全に抹消されているようなのです……』


「なに? どういうことだ」アタシは思わず詰問口調でザインに問う。「なぜ記録が消されている?」


『……わかりません。ですが、なにかあることは確かです』


「ふむ……」顎の下で指を添える。なんというか、いささか記号的な「考えるポーズ」かもしれない。「誰かにとって、或いは、何かにとって不都合だった……だから、施設以前の記録を抹消された」


『ない話ではないでしょうね』


「うん。その線で考えてもいいかもしれない。……ん?」


 今、何かがひっかかったような……?

 なんだろう、この違和感は。


 左右にかぶりを振って、アタシは脳内の話題のチャンネルを強引に変える。「そう言えば、ついでに調べてほしいことがあるんだけど」


『なんですか?』


「マリナの死体に、魔法痕が二つ残っていたんだ。一つは比較的最近で、もう一つは、少なくとも何年も前からの魔法痕なんだけど……」アタシは続けて言う。「その魔法痕が何の魔法なのか、どうにも判然としないんだ。多分、極度にマイナーな魔法なんだろうけれど……、古さも相まってかとにかく茫洋としていてな」


『……それで分かるはずないじゃないですか』ザインはいかにも不満そうな口調でそう言った。


「うん。まあそれはそうなんだけれど……、少なくともアタシが知らないってことは、相当にマイナーってことだと思うんだ」


『まあ……』ザインは訥々と言う。『それはまあ、そうなんでしょうね。それなりに詳しいイメージがありますし。……なんでしたっけ、一時期魔法一覧を覚えるのが生き甲斐の時期があった、みたいな話』


 そんなことも言ったなと赤面しつつも、「だからさ、ザイン」と言い、一旦言葉を短く区切った。「危険すぎるあまり、開発されるや否や普及しきらない段階から芽をつまれてしまった、極度にマイナーな魔法のリストを調べてほしいんだよ」


『…………それは、例えば?』

 

 アタシは少しの間を置いて、


「例えば──「姿を変える魔法」みたいな」


 と、言った。







『興味本意で調べたことがありましたね、実は手元にあるんですよ』国が恐れて存在ごと消した魔法のリスト、ザインは得意そうにそう言った。


「……話が早い」本当に早い。なんて便利な知り合いなんだ。「数は? 内容は? 各魔法が消された時期は?」


『数は「姿を変える魔法」を含め六つ。 内容は「姿を変える魔法」を除くと「概念を変える魔法」、「時間を遡る魔法」、「天地が反転する魔法」、「任意の情報を漏らさない魔法」、「任意の情報を開示させる魔法」の五つ。時期は同じ順番で五十八年前、二十三年前、四十九年前、十一年前、百九年前……、「姿を変える魔法」は五十一年前ですね。ちなみに消されたと言っても、その魔法を使っている人間を捕まえられず、しばらく使っている様子が観測出来なければ、それでもう消滅した判定だったらしいですよ』


「オーケー。ありがとう」


『お役に立てたなら何よりですが……』ザインはいかにも釈然としないといった風に言う。『この六つの中から候補は絞れるんですか? そりゃまあ、何もないよりは遥かにマシでしょうけれど……』


「絞る他あるまいよ」うなだれて頭を抑えながら、努めて平静を保ちつつ言う。「幸いアタシには、マリナと浅からぬ交流がある。日常の最中にヒントがあったかもしれない」


『そうですか……』これ以上は口出し無用と判じたのか、ザインはそれきり喋らなくなった。ありがたい気遣いである。


「本人に聞ければ良いんだけれど……、問うたところで、その答えが帰って来るはずもない。彼女は、死んでしまったのだから……」


 死人に口なし。

 不謹慎だが、良く言ったものだ。


「………………うん?」


 そう言えば、マリナと話していて、二回だけ返答がなかった時があるよな。

 普段はよく喋る子だったのに……、何故かその時に限り、彼女は緘黙(かんもく)したのだった。

 ともすれば偶然と片付けかねない程度の違和感だけれど……、しかし手掛かりと決めかかってみれば、これがマリナに遺体に残る魔法痕のヒントだと、言って言えないこともない。

 その二回には共通項があったのだ。

 それは──


 例えば、サラさん家でお相伴に預かった時。


 ──……なあマリナ。アタシはさっきたまたまお前を助けてあげられたけど、自分があの変なヤツに尾けられるような理由に、何か身に覚えはないのか?


 例えば、マリナがアタシに、自身が養子であることを告白した時。


 ──アタシがマリナを助けた時──あの不審者から助けたと伝えた時……サラさんはメチャクチャ感謝してくれたんだぜ

 

 アタシがあの話題を出した時──マリナを追う奸物を話題が出たときには、彼女は必ず沈黙を守ってきた。

 ならば、答えは一つ。


 マリナの魔法痕の正体は──「任意の情報を漏らさない魔法」だ。


 今回のことに於ける「任意の情報」とは、つまりマリナを追っていたあの不審者に関する事であるらしい。

 ……だからなんなんだよ。

 この魔法をかけたのが犯人だと仮定したところで、その意図が全く見えてこない。

 消された魔法。

 不都合な魔法。

 それはとりもなおさずに、拡散する前に芽をつめるくらい、使用者が少ないということでもある。

 そこから考えれば、何か天啓らしいものが降りてくる気配もあるのだが…………不都合、不都合、ね。


「──っ! 犯人にとって不都合なこと!?」


 これはひょっとして……ひょっとするかもしれないぞ。


「ザイン、前にお前から、犯人の犯行について教わったことがあったよな?」


『え?』一瞬胡乱そうな声色で受けるも、彼はすぐにそれを首肯した。『はい、ありましたね。……でも、それがどうしたんですか?』


「アレは確か叙述トリック調にしてあったけれど、叙述トリックということは、つまり嘘はついていないわけだよな?」


『ええ、まあ、そうですけれど……』


 前に使った「事実」と「感情」を切り離して考えればよいというのは、この場合、叙述トリックにも適応できるはずである。

 感情部分は、ザインが勝手に書いたミスリードを誘う為の嘘と見ていいし、逆に、明言している情報に関しては、取り繕うべくもなく「事実」のはずである。

 ……いや、「事実」で騙すのが叙述トリックなのだから、その辺は気をつけなければならないが、あの時あった叙述トリックは既に明かされている。

 

「あのとき地の文というか、モノローグでこんな事が明かされていたよな? 詳細は忘れたけれど、確か……被害者が付き合っていた彼氏に振られて、ショックを受けているという旨の話が」


『ああ、確か……『いろいろな記憶が脳内で瞬またたいて、現れては立ち消えるのを幾度となく繰り返すうち、彼氏ができたと笑う彼女の、花のようなまばゆい笑顔を思い出した。

 僕はそれを直視できたのだったか。

 彼女がその彼と別れて泣いていた時、そのことを嬉しいと思ってしまった記憶が嘘だと……僕は果たして、心から言い張れるだろうか』ってやつでしたか』


「覚えてんのキモ」アタシは素直な気持ちを躊躇いなく吐露した。


『酷いですねぇ』さほど思って無さそうにザインは言う。『情報は正確な方が良いはずでしょう?』


 「……」一旦無視して、アタシは話を進めることにした。「とにかく被害者であるイヴ・イクシヴは、一時期恋人がいて、()()()()()()、別れていることは確かだ」


 そろそろ結論を言ってほしいと言わんばかりに、ザインは『それがどうしたというのです?』と言った。


「ここからは完全に憶測なんだが……そして、どうせお前は調べているだろうから、質問の意味合いも込めて言うんだが……」アタシは慎重に前置きする。保険をかけているのである。「ひょっとするとイヴ・イクシヴは、その当時付き合っていた彼氏との子を()()してしまい、そのせいで捨てられたのではないか?」


『そうです』


 ザインはことのほか静かに肯定した。


「やはりか……」


「でも、やっぱりそれが何に繋がっているのかがわかりません……どういうことなんです?」


「いや、だからさ──」


 アタシはこともなげに言う。


「マリナは──イヴ・イクシヴの子供だと思うんだ」







「犯人が前の犯行の事を口封じする為に、病院で寝ているイヴ・イクシヴを殺しに向かうシーンがあったよな?」


『ええ、ありましたけれど……』


「憶測に憶測を重ねるようだが、口封じをしなくてはならなくなった原因である、一度目の犯行──その時に犯人は、現場でうっかりマリナと鉢合わせしてしまい、その口封じに「任意の情報を漏らさない魔法」を使ったのではないか?」


『そうなんですか?』


「そうだと仮定するんだ。イヴ・イクシヴについては殺したと()()()()()から、犯人はわざわざ口封じする必要がなかったと考えたのかも知らないが……、マリナに関しては違った。たまたま現場に居合わせて、犯行を見られてしまい、殺す以外の口封じができたので、それをした。けどそれがいけなかった。犯人が口封じに使ったのは、現在完全に滅ぼされたとされている「任意の情報を漏らさない魔法」だ。消滅した魔法のリストに載っているということは、それはとりもなおさずに、消滅させられるぐらいには、使用者が少ないということでもある。お前の言を信じるなら、しばらく使用者が見つからなければ消滅したことになるくらいには、すさまじくガバガバな管理だったらしいけれど、いくら緩いとは言え、そんな限定的な魔法を使ってしまえば、その魔法痕から犯人が特定されかねない──今はバレていないからって、一度は洗われた経歴だ──。だから犯人にとって、マリナはその体に犯罪の証拠を残した()()()()()()だったんだ。いつそのことから足がつくか分からない恐怖から、犯人は血眼になってマリナを探したろうが……、その時マリナは──コレも完全な憶測だが──なんらかの事情からイヴ・イクシヴから捨てられてしまい、孤児院側が二回もイヴ・イクシヴを殺そうとした犯人の粘着性を見咎めて、ひょっとするとマリナにも魔の手がかかるかもしれないからと、彼女の過去を抹消した。その方がマリナの人生にとって、都合が良いと判断したから──そう、我々はさっき「誰かにとって、或いは、何かにとって不都合だった」などと考えていたが、これに関してはむしろ逆と考えるのが自然のようだな」


「な、なるほど……でも」ザインは反駁する。「それでもやはり、イヴ・イクシヴがマリナの実母である証拠とは言い難いですよ。仮にイヴに実子がいるとしても、それがあのマリナとは……」


「まあ、こんなのは憶測でしかないからな。その気持ちもわかる。でも、こう考えると辻褄が合う部分が多いんだよ」


 例えば、とアタシは話を続けた。


「十三年前、イヴ・イクシヴの殺人(未遂)事件が起こった。八年前、その犯人がこの街に来た(顔は割れている為、多分正しいとされている)。五年前、《平和の会》が設立された。一見関係ないようにも思えるが、この一連の流れからは、一つのストーリーが読み取れる」


『ストーリー?』いかにも胡乱そうにザインは問い返す。『どういうことです?』


「時期の符号を見るんだよ。例えば五年前だ。その当時、《平和の会》が設立され、時期を同じくして犯人が姿をくらませた。このことからアタシたちは、犯人は《平和の会》設立に関与しており、そこに潜伏していると予想したわけだが、仮にそれが正しいとして推理を進めると、思いの外それらしい理屈が通る。犯人は、自分が残した犯罪の生き証人である、マリナを消したいと考えていた。しかしマリナの経歴というか、生きた変遷みたいなものは、基本的には、全て孤児院の手でデリートされてしまっている。だから犯人は、マリナを探さなくてはならなかった。実際、大まかなところは探し出せたのだろうが……、しかし具体的にどこに住んでいるのかまでは分からなかった。だから《平和の会》を設立し、教えを広めるという体で、広く探索の手を広げてきたんだ。そしてついに、マリナは《平和の会》に入信するという形で、犯人との何年振りかの再会を果たす。マリナからしたらやはり会いたくはなかったのだろうが、いかんせん犯人と面識があったのは幼少の時分だったから、マリナからはそれと気づかず、そのまま安穏と日々を暮らしたに違いない。犯人からしたら、以降はどうやってマリナを安全に殺すかの勝負だっただろう。現にこうしてマリナを殺害し、第一発見者としての立場を使って、疑いの目から逃れようとした。凶器も誰にも気取られることなく隠滅しているのも、その周到さから来るものだろう。あとは死体を《平和の会》の公式的な動きとして処理しようという算段だったところを、アタシという「探偵」に妨害された形になるな。……纏めると、十三年前に逃した自身の犯罪の生き証人を、八年前に《平和の会》の教えを広めるという体で行方を探し出し、ついに少し前、犯人は目的を達成したという事になる。そう考えると、それらしいストーリーに見えてこないか?」


『たし、かに……』一瞬納得した様子を見せたザインだったが、なおも食い下がりこう訊いた。『でも、《平和の会》を設立した一人ということは、かなりの上層部ということになりますね。全体誰なんですか? 犯人は』


「一つ言えるのは──」


 アタシは少し表情に翳りを落としつつ言う。


「間違いなく犯人は「姿を変える魔法」を使えるということだろう」


『だ……』息を呑んだ様子で、ザイン。『だ、誰なんですか、それは』


「あとで分かる」韜晦(とうかい)するようにアタシはそう言った。








 話し終わった後、当面のやる事がなくなりどうしようかとしばし頭を悩ませたけれど、ザインから「例の魔法痕の話を、教会のみんなに触れ回る約束があったのでは?」と言われ、やるべき事を思い出し……もとい、思いついた。

 そしてやるべき事をやり終えたあと──


 ──《平和の会》は全焼した。

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