特訓と牢屋と
「グワッグワァッ!!」
「良かったです。元気になったみたいですね」
ベルは朝方アンジェリーナの様子を見に来ていた。
簡単な手当しか出来なかったのだが、もう傷がほとんど治っている。風穴が空いていたはずの右翼が、もう形を取り戻している。
(すごい治癒能力…いや、再生能力です…)
「おはようベル」
ジーマが欠伸をしながらやってきた。
「おはようございます!」
「アンジェリーナの様子はどう?」
「それが、びっくりすることに、もうほとんど治っていて…」
「そうか。良かった…。アシードは一体どこで仲間にしてきたんだろう…。見たことのない種類の鳥だもんね」
「そうですね…。私もこんなに大きな鳥は初めてです」
ベルがアンジェリーナを撫でると、グワッグワァと声を上げて喜んでいた。
「アシードから連絡があったよ。今のところ問題ないみたい。ヒズミの様子はどう?」
「それが、もう治ったなんて言って、朝から道場に」
「ええ?! 元気だな…やっぱり若いからかな…。ちょっと行ってみるよ、ありがとう」
「いえ。また何かあったらすぐによんでください」
ジーマはそのまま道場へと向かった。
何やら騒がしい声が聞こえる。
「必殺! 火炎散乱弾!」
「うわぁ! 何それ!ずるいよ!」
二人の特訓はヒートアップしていた。
ヒズミの吹いた炎は、マシンガンのように数多く放たれた。
ジーマがドアを開くと、いきなり鉄砲のように炎の弾が襲ってきた。
彼は左腰の刀の鍔を親指で持ち上げた。
ヌゥは避ける場所を失い、炎を食らって尻もちをついた。
「じ、ジーマさん! 大丈夫ですか? あれ…なんもケガしてないですやん」
「……ヒズミ、身体は大丈夫なの?」
「めっちゃ元気になりましたわ! 今からでも出発できますよ! あ、アンジェリーナとアシードさんたちはどうなりました?」
「アンジェリーナは起きたらキズがほとんど治っていたよ」
ヌゥは起き上がると、二人の元に駆け寄った。
「へぇ〜! 俺みたいだね」
「そうだね。異様な回復力だ…。アシードたちから連絡があったよ。ドラゴンに襲われてはぐれたけれど、無事に合流したらしい。巨大生物もほとんど倒し終わって、これからドラゴンの討伐に向かうといっていたよ」
「ドラゴン?! かっこいー!! 見てみたいなあ〜」
「無事で何よりやわ。めっちゃ心配しましたよ」
(ヒズミもかなり回復しているみたいだね…本人の体力もそうだけど、ベルの治療のたまものでもあるかな…)
「出発は予定通り明日にしよう。朝になったら全員でグザリィータまで飛ぶ」
「わかりました!わいはいつでも!」
「わかった! じゃあジーマさん、昨日の続きしようよ!」
「なんや? 昨日の続きて」
「特訓だよ!」
ヌゥはジーマに長剣を投げた。ジーマはそれを掴むと、ニコッと笑った。ヌゥは剣を構えた。
「ねえ、さっきどうやってヒズミの弾を避けたの?」
「避けてないよ。斬ったんだ」
ヒズミは二人から距離をとって、椅子に腰掛けて休みながら二人を見ていた。
(斬った…?! 炎をかいな…てかそんな素振り見せよったか…? そもそもジーマさんが戦うとこなんて見たことないんやけど?!)
「やっぱりすごいな…ジーマさんは」
ヌゥはジーマに向かっていった。
ジーマはヌゥの高スピードの攻撃を軽々と防ぐ。
(速い…全く目でおえへん…。なんなんやこの二人…)
「無駄な動きが多いかな。速ければいいってものじゃない。次の動きを表情に出さないで、読まれるよ」
ジーマはヌゥの剣を払った。
(ま、まじかいな…)
「くっそ〜〜」
ヌゥは悔しそうに剣を拾いに行く。
(ヌゥが全然歯が立たへんやん…嘘やろ…事務ばっかしとる人ちゃうの…? まあ確かにそんな人がアリマに行ったりせんか…それにしても…この人らほんまなんなん。同じ人間かいな…)
二人の攻防を見ながら、ヒズミは唖然としている。
「動きが悪いな…疲れてるんじゃない? 朝からずっとヒズミと特訓してたんでしょ?」
「大丈夫! 全然疲れてない!」
ヌゥはジーマを攻め続けるが、軽々と剣で受けられてしまう。
(全っ然駄目だ…剣先かすりもしない…てか完全遊ばれてるもん…ああ、駄目だ…集中力がなくなる…せっかくジーマさんに相手してもらっているのに…どうして…こんなに強いの…勝てない…くそ…悔しい…)
【…お前は強い。この男に勝てる力だって、持っている】
(え…?)
脳内に声が響いた。アリマの時みたいに。
【力を解放しろ。恐れるな。我と共に、この世界を統べようぞ】
(何で? 君は、誰なの? 俺は全く怒ってなんかいない! 出てくるな!)
突然、ヌゥは目の前が真っ暗になる。
暗い闇の中、一人で立っていた。
(ここは、どこなの…?)
トントンと、誰かが歩いて近づいてくる音がする。
足音はだんだん大きくなって、ヌゥの前で止まった。
うつむくヌゥの視界に、近づいてきた誰かの足が見える。
ヌゥはおそるおそる顔をあげた…。
「ヌゥ! 危ないで!」
ヒズミの声が聞こえたとき、ヌゥはジーマの攻撃をもろに受けた。綺麗に峰打ちが入って、ヌゥは倒れた。
「ぬ、ヌゥ君!」
ジーマは彼の身体を起こすが、気絶してしまっていた。
「やっぱり疲れてたのかな…」
「朝からずっとわいの攻撃避け続けてたんですよ…ちょっと休ましたりましょ」
ヒズミはヌゥを抱えて持ち上げた。
(軽いな……)
眠っている彼の顔はとても綺麗で、女の子みたいだった。
ヒズミは彼に見とれてしまって、ハっとして首をブンブン横に振った。
ヒズミはそのままヌゥを道場の隅にねかせた。
ヒズミとジーマは、すぐ側の椅子に腰掛けた。
「ジーマさんて…何者なんです…」
「別に、何者でもないけど…」
「何言うてんですか! めっちゃ強いのなんで隠してるんですか」
(なんか前にも言われたような気がするな…)
「隠してないよ。剣術は…国家精鋭部隊で騎士団に入っていたときに習ったんだ。それから王族の直属の護衛をしていたよ。僕にはこれしか…剣しかなかったから…人より少し、うまく使えるだけだよ」
「少しちゃいますよ…いや、ほんまに凄いです。ヌゥもめちゃめちゃ強いとおもてましたけど…それ以上なんて驚きました」
「いやいや…そんな大したことはないよ…」
「ジーマさんがおったら、どんな強いシャドウでもひとひねりですわ! あ〜ほんま仲間でよかったわ〜」
ヒズミは笑って言った。
ジーマも笑みを浮かべると、言った。
「大丈夫。誰も殺させたりしない。この国を…仲間を…僕が皆を守るから」
どんなに敵が強くても。
絶対。
この命にかえても。
アグはその頃、ベーラと共に、捉えたシャドウたちの牢屋にきていた。
牢獄の看守の中にはアグの顔を知っている者もいる。ベーラに借りたフード付きのローブを借りて、顔をマスクで隠し、そこに来ていた。
ベーラも一緒だったため、特に不審に思われることもなく、牢屋の鍵を借りることができた。
「なんだ、調べたいことって」
「いえ、すぐに終わるので…すみません。一緒に来てもらって…無断外出になったらいけないなって」
「うむ。何か手伝うことがあったら言ってくれ」
「ありがとうございます」
捉えたシャドウたちは、一人ひとり牢屋の中に閉じ込められ、手足を縛られ動けなくなっていた。
懐かしいな…この感じ…。
個人部屋だとこんなに狭いのか…。そう思うと特別独房は広かったな…。
アグは1人に向かって催眠ガスを噴射した。あっという間にシャドウは眠ってしまった。
アグはカギを使って、中に入った。深い眠りについているシャドウの顔を持ち上げると、左耳の後ろを見た。
(B43……)
アルファベットの後ろに数字が並ぶ。字体はヌゥのそれと一緒だった。
他のシャドウも調べるが、皆同じように、アルファベットの後ろに数字がかかれていた。
(嘘だろ……)
あの時から嫌な予感がしていた。
アルファベットはなかったけれど、ヌゥの耳にも同じ位置に同じ字体で、98の番号…。
(ヌゥが…シャドウだっていうのか…? でもヌゥの血は赤い…。こいつらとは違う)
ヌゥは言っていた。メリの血も、赤かったと。
(生きたシャドウ……メリと同じ……)
ヌゥがシャドウであることは、俺の仮説でしかない…。
でも、もしそうだとすれば、いくつか可能性が生まれる…。
ウォールベルトの奴らはヌゥがシャドウだと気づいていない可能性。
または気づいているが、放っておいている可能性。
そして…ヌゥが元より、奴らの仲間だという可能性…。
いや…それはないだろ…。
ヌゥはメリに襲われているし…あいつが嘘なんてつけるか…?
ヌゥが裏切り者だなんて可能性は、俺の中では全くなかった。
わからない…。どうする…。
誰かに話したほうがいいのか…?
ジーマさんに…?
でももし話して、ヌゥが裏切り者だと思われたりしたら…?
話せない…。まだ何もわかってない…。
突き止めるんだ…奴らの国で…。
見つけるんだ…真相を…証拠を…。
シャドウとはなんなのか…。
メリ…あの子が誰なのかわかったら…もしかしたら……。
くそ…あの日のフラッシュバック以来何も思い出せない…。
あの国に行けば…何かがわかるのか…。
アグは牢屋をあとにした。




