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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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特訓と牢屋と

「グワッグワァッ!!」

「良かったです。元気になったみたいですね」


ベルは朝方アンジェリーナの様子を見に来ていた。

簡単な手当しか出来なかったのだが、もう傷がほとんど治っている。風穴が空いていたはずの右翼が、もう形を取り戻している。


(すごい治癒能力…いや、再生能力です…)


「おはようベル」


ジーマが欠伸をしながらやってきた。


「おはようございます!」

「アンジェリーナの様子はどう?」

「それが、びっくりすることに、もうほとんど治っていて…」

「そうか。良かった…。アシードは一体どこで仲間にしてきたんだろう…。見たことのない種類の鳥だもんね」

「そうですね…。私もこんなに大きな鳥は初めてです」


ベルがアンジェリーナを撫でると、グワッグワァと声を上げて喜んでいた。


「アシードから連絡があったよ。今のところ問題ないみたい。ヒズミの様子はどう?」

「それが、もう治ったなんて言って、朝から道場に」

「ええ?! 元気だな…やっぱり若いからかな…。ちょっと行ってみるよ、ありがとう」

「いえ。また何かあったらすぐによんでください」


ジーマはそのまま道場へと向かった。

何やら騒がしい声が聞こえる。


「必殺! 火炎散乱弾!」

「うわぁ! 何それ!ずるいよ!」


二人の特訓はヒートアップしていた。

ヒズミの吹いた炎は、マシンガンのように数多く放たれた。

ジーマがドアを開くと、いきなり鉄砲のように炎の弾が襲ってきた。

彼は左腰の刀の鍔を親指で持ち上げた。

ヌゥは避ける場所を失い、炎を食らって尻もちをついた。


「じ、ジーマさん! 大丈夫ですか? あれ…なんもケガしてないですやん」

「……ヒズミ、身体は大丈夫なの?」

「めっちゃ元気になりましたわ! 今からでも出発できますよ! あ、アンジェリーナとアシードさんたちはどうなりました?」

「アンジェリーナは起きたらキズがほとんど治っていたよ」


ヌゥは起き上がると、二人の元に駆け寄った。


「へぇ〜! 俺みたいだね」

「そうだね。異様な回復力だ…。アシードたちから連絡があったよ。ドラゴンに襲われてはぐれたけれど、無事に合流したらしい。巨大生物もほとんど倒し終わって、これからドラゴンの討伐に向かうといっていたよ」

「ドラゴン?! かっこいー!! 見てみたいなあ〜」

「無事で何よりやわ。めっちゃ心配しましたよ」


(ヒズミもかなり回復しているみたいだね…本人の体力もそうだけど、ベルの治療のたまものでもあるかな…)


「出発は予定通り明日にしよう。朝になったら全員でグザリィータまで飛ぶ」

「わかりました!わいはいつでも!」

「わかった! じゃあジーマさん、昨日の続きしようよ!」

「なんや? 昨日の続きて」

「特訓だよ!」


ヌゥはジーマに長剣を投げた。ジーマはそれを掴むと、ニコッと笑った。ヌゥは剣を構えた。


「ねえ、さっきどうやってヒズミの弾を避けたの?」

「避けてないよ。斬ったんだ」


ヒズミは二人から距離をとって、椅子に腰掛けて休みながら二人を見ていた。


(斬った…?! 炎をかいな…てかそんな素振り見せよったか…? そもそもジーマさんが戦うとこなんて見たことないんやけど?!)


「やっぱりすごいな…ジーマさんは」


ヌゥはジーマに向かっていった。

ジーマはヌゥの高スピードの攻撃を軽々と防ぐ。


(速い…全く目でおえへん…。なんなんやこの二人…)


「無駄な動きが多いかな。速ければいいってものじゃない。次の動きを表情に出さないで、読まれるよ」


ジーマはヌゥの剣を払った。


(ま、まじかいな…)


「くっそ〜〜」

ヌゥは悔しそうに剣を拾いに行く。


(ヌゥが全然歯が立たへんやん…嘘やろ…事務ばっかしとる人ちゃうの…? まあ確かにそんな人がアリマに行ったりせんか…それにしても…この人らほんまなんなん。同じ人間かいな…)


二人の攻防を見ながら、ヒズミは唖然としている。


「動きが悪いな…疲れてるんじゃない? 朝からずっとヒズミと特訓してたんでしょ?」

「大丈夫! 全然疲れてない!」


ヌゥはジーマを攻め続けるが、軽々と剣で受けられてしまう。


(全っ然駄目だ…剣先かすりもしない…てか完全遊ばれてるもん…ああ、駄目だ…集中力がなくなる…せっかくジーマさんに相手してもらっているのに…どうして…こんなに強いの…勝てない…くそ…悔しい…)


【…お前は強い。この男に勝てる力だって、持っている】

(え…?)


脳内に声が響いた。アリマの時みたいに。


【力を解放しろ。恐れるな。我と共に、この世界を統べようぞ】

(何で? 君は、誰なの? 俺は全く怒ってなんかいない! 出てくるな!)


突然、ヌゥは目の前が真っ暗になる。

暗い闇の中、一人で立っていた。


(ここは、どこなの…?)


トントンと、誰かが歩いて近づいてくる音がする。

足音はだんだん大きくなって、ヌゥの前で止まった。

うつむくヌゥの視界に、近づいてきた誰かの足が見える。

ヌゥはおそるおそる顔をあげた…。


「ヌゥ! 危ないで!」


ヒズミの声が聞こえたとき、ヌゥはジーマの攻撃をもろに受けた。綺麗に峰打ちが入って、ヌゥは倒れた。


「ぬ、ヌゥ君!」


ジーマは彼の身体を起こすが、気絶してしまっていた。


「やっぱり疲れてたのかな…」

「朝からずっとわいの攻撃避け続けてたんですよ…ちょっと休ましたりましょ」


ヒズミはヌゥを抱えて持ち上げた。


(軽いな……)


眠っている彼の顔はとても綺麗で、女の子みたいだった。

ヒズミは彼に見とれてしまって、ハっとして首をブンブン横に振った。

ヒズミはそのままヌゥを道場の隅にねかせた。


ヒズミとジーマは、すぐ側の椅子に腰掛けた。


「ジーマさんて…何者なんです…」

「別に、何者でもないけど…」

「何言うてんですか! めっちゃ強いのなんで隠してるんですか」


(なんか前にも言われたような気がするな…)


「隠してないよ。剣術は…国家精鋭部隊で騎士団に入っていたときに習ったんだ。それから王族の直属の護衛をしていたよ。僕にはこれしか…剣しかなかったから…人より少し、うまく使えるだけだよ」

「少しちゃいますよ…いや、ほんまに凄いです。ヌゥもめちゃめちゃ強いとおもてましたけど…それ以上なんて驚きました」

「いやいや…そんな大したことはないよ…」

「ジーマさんがおったら、どんな強いシャドウでもひとひねりですわ! あ〜ほんま仲間でよかったわ〜」


ヒズミは笑って言った。

ジーマも笑みを浮かべると、言った。


「大丈夫。誰も殺させたりしない。この国を…仲間を…僕が皆を守るから」


どんなに敵が強くても。

絶対。

この命にかえても。





アグはその頃、ベーラと共に、捉えたシャドウたちの牢屋にきていた。

牢獄の看守の中にはアグの顔を知っている者もいる。ベーラに借りたフード付きのローブを借りて、顔をマスクで隠し、そこに来ていた。

ベーラも一緒だったため、特に不審に思われることもなく、牢屋の鍵を借りることができた。


「なんだ、調べたいことって」

「いえ、すぐに終わるので…すみません。一緒に来てもらって…無断外出になったらいけないなって」

「うむ。何か手伝うことがあったら言ってくれ」

「ありがとうございます」


捉えたシャドウたちは、一人ひとり牢屋の中に閉じ込められ、手足を縛られ動けなくなっていた。


懐かしいな…この感じ…。

個人部屋だとこんなに狭いのか…。そう思うと特別独房は広かったな…。


アグは1人に向かって催眠ガスを噴射した。あっという間にシャドウは眠ってしまった。

アグはカギを使って、中に入った。深い眠りについているシャドウの顔を持ち上げると、左耳の後ろを見た。


(B43……)


アルファベットの後ろに数字が並ぶ。字体はヌゥのそれと一緒だった。

他のシャドウも調べるが、皆同じように、アルファベットの後ろに数字がかかれていた。


(嘘だろ……)


あの時から嫌な予感がしていた。

アルファベットはなかったけれど、ヌゥの耳にも同じ位置に同じ字体で、98の番号…。


(ヌゥが…シャドウだっていうのか…? でもヌゥの血は赤い…。こいつらとは違う)


ヌゥは言っていた。メリの血も、赤かったと。


(生きたシャドウ……メリと同じ……)


ヌゥがシャドウであることは、俺の仮説でしかない…。

でも、もしそうだとすれば、いくつか可能性が生まれる…。


ウォールベルトの奴らはヌゥがシャドウだと気づいていない可能性。

または気づいているが、放っておいている可能性。

そして…ヌゥが元より、奴らの仲間だという可能性…。


いや…それはないだろ…。

ヌゥはメリに襲われているし…あいつが嘘なんてつけるか…?

ヌゥが裏切り者だなんて可能性は、俺の中では全くなかった。


わからない…。どうする…。

誰かに話したほうがいいのか…?

ジーマさんに…?

でももし話して、ヌゥが裏切り者だと思われたりしたら…?


話せない…。まだ何もわかってない…。

突き止めるんだ…奴らの国で…。

見つけるんだ…真相を…証拠を…。

シャドウとはなんなのか…。


メリ…あの子が誰なのかわかったら…もしかしたら……。

くそ…あの日のフラッシュバック以来何も思い出せない…。


あの国に行けば…何かがわかるのか…。


アグは牢屋をあとにした。


























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