翌朝
翌日の早朝、ヌゥは目を覚ました。
ふぅ…昨日はジーマさんに散々にやられたからな…。
今日こそはあの人を倒してみせる…! なんて無謀かな…。
でも昨日よりは成長したところ見せないと。
ヌゥが早起きするのは珍しかった。
独房にいるときはいつもアグに体を揺すられたし、アジトに来てからも誰かしらに起こしてもらっていた。
だから、一人でこんなに早く起きるなんて、彼にとってはなかなかの快挙である。
そんな彼が朝から向かうのは、8階の道場であった。
「あれ、ヒズミ?」
「ん?」
既に先客がいて、彼は驚いた。
ヒズミは的に向かって火遁を飛ばす練習をしていた。
この道場はベーラの呪術で作られており、どれだけ暴れても破壊されることはない。能力は馬車のそれと同じだ。
「休まなくていいの?」
「ええねんええねん。正直もうどこも痛くないんや。今日にでも出発したいとこやけど、今度はアンジェリーナが怪我しよってん」
「え? そうなの?」
昨夜、アンジェリーナが一人帰還して、ベルたちに傷の手当をしてもらったとのことだ。
「レインたちは、大丈夫なの?」
「さあ〜。ジーマさんに聞いてみなわからんわ」
「そっか…。無事だといいけど」
「あの三人やったら大丈夫やと思うけどな…」
ヒズミはそう言って、的に火を飛ばした。全弾的の真ん中に、見事に命中している。
「すごいすごい! あんなに遠くの的でも当てられるんだ!」
「なんや、動かへんからな…」
「そうだ、ねえ! 俺が的になってあげるよ!」
「え?」
ヌゥはヒズミから距離をとった。
「火傷すんで…」
「大丈夫大丈夫。すぐ治るからさ。ていうか、当たんないと思うけど!」
「言うたな! ええやろ! 勝負しょうや!」
ヒズミはヌゥに向かって火の弾を放つ。
(結構速いな!)
ヌゥは右に飛んでそれを避けた。
「じゃ、時間は10分ね! 時計の長針が、真上を向くまで」
「ええで! やったろやないか!」
ヒズミは連続で火の弾を吹き出す。ヌゥは軽やかな身のこなしでそれを避けた。
(やっぱり対人やと当たらへんな…こいつが異常に速いってのもあるけど…)
ヒズミは先ほどより大きな火を吹いた。
すると、火は途中で3つに分散し、ヌゥを襲う。しかしそれも彼に避けられてしまった。
「あっぶない!」
「あかんか…」
二人の攻防は続いた。二人共、なんだか楽しそうだ。
「あと五分だよ!」
「ほんまかいな…!」
「ねえ、他の忍術も使っていいよ」
くっそ〜…しゃあないな。絶対当てたろやないか。
「後悔してもしらんで〜」
ヒズミは隠れ身の術で姿を消した。
「うわ〜本当に見えないね」
一瞬で道場は静まり、ヌゥ一人だけのようになる。
(気配も全く察知できない…高度な術だ…)
ヌゥはきょろきょろと周りを見渡す。
ヒズミは見えないところから炎を打つが、ヌゥの反射神経は異常で、それさえも避けられてしまった。
(これやったらどうや!)
壁行で天井に登ったヒズミは、炎を落とす。
「うわ! 上からも!」
ヌゥはすんでのところで避けた。
「今のは危なかったあ〜」
しばらく何も起こらない状態がつづいた。
集中しろ…。すぐに避けられるようにステップを止めないように。
いや、それだけじゃ駄目だ。予測しろ…。
(時間もないし、本気で当てに行くで…)
ヒズミは指をたてて、いつでも火を放てる状態をとる。
(次でしとめたる!)
ヒズミは風遁でヌゥを横切るように風を送る。
道場の壁に風が当たって揺れた。
ヌゥはハっとその方向を見た。
(今や!)
ヒズミはヌゥの真後ろから大きな火を吹いた。
(火遁は遠距離技やとすみこませて…からの零距離範囲攻撃! これはさすがに避けられへんはずや!)
しかしヌゥは、炎を見ずに、上に高くとんで、それを避けた。
まるで、後ろから攻撃がくるのが、わかっていたかのように。
ヌゥは自分の下を通過する炎を見下ろしていた。
(読めた……!!)
「うわっ」
ヌゥはバランスを崩して、後ろに倒れ込んだ。
「ぎゃっ」
そのままヒズミの上に覆いかぶさるように落ちた。隠れ身の術はその反動で解けてしまった。
ちょうど時計の針が真上を指したところだった。
「俺の勝ち…」
ヌゥはヒズミを見下ろして、ニコッと笑って答えた。
ヒズミは少しドキッとした。
ヌゥは起き上がり、道場の休憩用のイスの上にあぐらをかいた。
「あかん…あれを避けられたら無理や…」
ヒズミも立ち上がると、負けを認めた。
読み合いって…楽しい…。
俺にも出来た…。
ヌゥは興奮していた。
「ねえ! もう一回やろうよ!」
「ええで! 今度は当てたるわ!」
二人はその後も、攻防を繰り返した。
「うーん! よく寝た!」
レインは吠えながら起き上がった。
シエナは自分に寄り添うように眠りについていた。
(黙ってたら可愛いんだけどな…)
レインが顔を近づけて彼女を覗き込むと、シエナはパチっと目を覚ました。目の前にライオンがいたので、シエナはパニックになった。
「きゃあああ!!!食べられるぅ!!!!!」
シエナはレインに思いっきりアッパーを食らわせた。
ライオンは軽く飛びあがって木にぶつかった。
「痛ったあ!!!! 何すんだいきなり!!」
「なんだ、レインか。驚かせないでよ」
(くそゴリラ女め…なんちゅー力だ…やっぱ全然可愛くねえ…)
シエナはレインに乗り、捜索を続けた。
「レイン! あれ!」
シエナは遥か遠くに巨大な虎が、シマウマの群れを襲っているのを見つけた。
「どこだよ…!」
「こっち! 3キロくらい先よ!」
(3キロって…この森の中で何で見えんだよ…)
シエナは部隊の中で、誰よりもずば抜けて目が良かった。格闘技のセンスがいいのもそれのおかげでもあるし、遥か遠くのものも見分けることができた。
二人は虎に近づいた。近くまで来るとかなりの大きさだ。象の3倍はある。向こうはこちらに気づいていない。
「スキを見て倒すぞ。まずは後ろ脚を殺る。シエナは逆から回り込め。」
「わかったわ!」
レインは右から、シエナは左から、虎の背後に回り込んだ。
虎はシマウマを食べるのに夢中になっている。
二人は一斉に飛びかかり、それぞれ後ろ脚に攻撃を仕掛けた。
レインは脚を噛みちぎり、シエナは蹴りで骨を折った。
虎は悲痛な声を上げた。
「ガルルルルル!!!!!」
虎は動かせない後ろ脚をひきずりながらも振り返り、レインをその巨大な爪で払おうとした。レインは後ろに飛んで避ける。
そのスキにシエナは虎の目を潰した。またトラは悲痛な声をあげながら、首を振り回し、両前脚を暴れさせた。
「目を殺った!」
「いいぞ! 仕留めるぜ」
レインは虎の上に飛び乗り、頭のつけ根を噛みちぎり始めた。巨大すぎて肉が厚い…。そして、マズイ…!
シエナはトラの動きを止めようと、前脚を順番に折っていく。
トラは脚を動かせなくなり、その場に倒れた。
レインはようやく虎の首の骨を噛み砕いて折ると、トラは動かなくなった。
「よっし!」
「楽勝ね!」
シエナはレインにまたがると、また走り出す。
「その視力でアシードとアンジェリーナを見つけてくれよ」
「ずっと探してるわよ…あ!」
「いたのか?!」
「アシードを見つけた! 右に4キロ先! ヘビと戦ってる! でも、アンジェリーナはいない…他に3人…知らない人間がいるわ!」
「よし! 合流すんぞ!」
レインは方向を変えるとアシードのいる方へと向かって行った。
「す、す、す、素晴らしい!!!! こんなに大きいヘビ!!!! 見たこともない!!!」
リバティはヘビを前に興奮していた。
「危ないぞ! 下がっておれ!」
「は、早く捕まえてくれ! 一体どれほどの毒を…!!!」
「おいリバティ! 下がれってば! 邪魔になるだろ!」
ゼクトはリバティの腕を掴んで後ろに下がろうとする。
アシードは大剣カトリーナを振り下ろした。ヘビは予想以上に素早く、アシードの攻撃をぬるりと避けた。
「こ、殺さないでくれ…!! どうか生け捕りに!!!」
リバティは叫んだ。
「いや、もう殺しちゃっていいから! 早く倒して!!」
ゼクトはビビりながら叫ぶ。
(こんなにでかいなんて!! まじで死ぬ!死ぬ死ぬ!!)
「アシードのおっしゃん! 頑張れー!!」
イースは呑気に応援していた。
「なんてすばしっこいヘビだ!」
「シュルルルル!!!」
ヘビは毒液を吐いた。ドス黒い液体がアシードに向かって流れていく。アシードは蛇の後ろに回り込んで避けた。
「な! なんだあれは! 欲しい!」
「だから近づくなって!」
「離せゼクト! 回収して私のコレクションにっ!!」
リバティはゼクトを払いのけて液体に近寄った。
「危険だぞリバティとやら! 離れるんだ!」
リバティは聞く耳も持たず、対毒製の手袋をはめると、持参していた瓶に液体を入れて蓋をした。
「巨大蛇の毒液…すごすぎるっ…!!」
すると、ヘビはリバティに向かって大きな口を開けて襲いかかってきた。リバティはハっとして、蛇の大口を目の前にするが、足がすくんで動けない。
「ええい! この大蛇め!!」
アシードは大剣でヘビの胴体を切り落としたが、切れた半分だけの身体をよじりながらリバティに向かっていく。
「リバティ!!」
「きゃああああ!!!」
イースはリバティの元に走っていき、彼女を押し倒した。
そしてイースは代わりに、ヘビに飲み込まれてしまった。
「イース!!!!」
「なんてことだ!!」
すると、ヘビが苦しそうな顔をしている。
しばらくすると、ヘビの身体が膨らみ、炎の爆発で破裂すると共に、白いドラゴンが現れた。
「な、なんと…」
「イース!」
ゼクトはイースに駆け寄った。
「ゼクト…!」
「イース!無事でよかった!!」
(まさか…本当にドラゴンだというのか……)
アシードはしばらくその美しく巨大なドラゴンにみとれていた。
「イース…行かなくちゃ…」
「ちょ、イース!」
イースは急に飛び上がった。ゼクトはイースに捕まったまま、空に浮いた。なんとか背中に乗り込み体制を整えたが、イースはどこかに向かってすごい速さで飛んでいく。
「イース! ゼクト!」
リバティは空を見上げながら叫んだ。
アシードとリバティは、サバンナに取り残された。
「おーい! アシード!!」
シエナとレインが駆けつける。
「今のは…ドラゴン?」
彼らもまた、飛び立つその白いドラゴンが空を進むのを、見上げていた。




