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Shadow of Prisoners〜終身刑の君と世界を救う〜  作者: 田中ゆき
第1章

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翌朝

翌日の早朝、ヌゥは目を覚ました。


ふぅ…昨日はジーマさんに散々にやられたからな…。

今日こそはあの人を倒してみせる…! なんて無謀かな…。

でも昨日よりは成長したところ見せないと。


ヌゥが早起きするのは珍しかった。

独房にいるときはいつもアグに体を揺すられたし、アジトに来てからも誰かしらに起こしてもらっていた。

だから、一人でこんなに早く起きるなんて、彼にとってはなかなかの快挙である。

そんな彼が朝から向かうのは、8階の道場であった。


「あれ、ヒズミ?」

「ん?」


既に先客がいて、彼は驚いた。

ヒズミは的に向かって火遁を飛ばす練習をしていた。

この道場はベーラの呪術で作られており、どれだけ暴れても破壊されることはない。能力は馬車のそれと同じだ。


「休まなくていいの?」

「ええねんええねん。正直もうどこも痛くないんや。今日にでも出発したいとこやけど、今度はアンジェリーナが怪我しよってん」

「え? そうなの?」


昨夜、アンジェリーナが一人帰還して、ベルたちに傷の手当をしてもらったとのことだ。


「レインたちは、大丈夫なの?」

「さあ〜。ジーマさんに聞いてみなわからんわ」

「そっか…。無事だといいけど」

「あの三人やったら大丈夫やと思うけどな…」


ヒズミはそう言って、的に火を飛ばした。全弾的の真ん中に、見事に命中している。


「すごいすごい! あんなに遠くの的でも当てられるんだ!」

「なんや、動かへんからな…」

「そうだ、ねえ! 俺が的になってあげるよ!」

「え?」


ヌゥはヒズミから距離をとった。


「火傷すんで…」

「大丈夫大丈夫。すぐ治るからさ。ていうか、当たんないと思うけど!」

「言うたな! ええやろ! 勝負しょうや!」


ヒズミはヌゥに向かって火の弾を放つ。


(結構速いな!)


ヌゥは右に飛んでそれを避けた。


「じゃ、時間は10分ね! 時計の長針が、真上を向くまで」

「ええで! やったろやないか!」


ヒズミは連続で火の弾を吹き出す。ヌゥは軽やかな身のこなしでそれを避けた。


(やっぱり対人やと当たらへんな…こいつが異常に速いってのもあるけど…)


ヒズミは先ほどより大きな火を吹いた。

すると、火は途中で3つに分散し、ヌゥを襲う。しかしそれも彼に避けられてしまった。


「あっぶない!」

「あかんか…」


二人の攻防は続いた。二人共、なんだか楽しそうだ。


「あと五分だよ!」

「ほんまかいな…!」

「ねえ、他の忍術も使っていいよ」


くっそ〜…しゃあないな。絶対当てたろやないか。


「後悔してもしらんで〜」


ヒズミは隠れ身の術で姿を消した。


「うわ〜本当に見えないね」


一瞬で道場は静まり、ヌゥ一人だけのようになる。


(気配も全く察知できない…高度な術だ…)


ヌゥはきょろきょろと周りを見渡す。


ヒズミは見えないところから炎を打つが、ヌゥの反射神経は異常で、それさえも避けられてしまった。


(これやったらどうや!)


壁行で天井に登ったヒズミは、炎を落とす。


「うわ! 上からも!」


ヌゥはすんでのところで避けた。


「今のは危なかったあ〜」


しばらく何も起こらない状態がつづいた。


集中しろ…。すぐに避けられるようにステップを止めないように。

いや、それだけじゃ駄目だ。予測しろ…。


(時間もないし、本気で当てに行くで…)


ヒズミは指をたてて、いつでも火を放てる状態をとる。


(次でしとめたる!)


ヒズミは風遁でヌゥを横切るように風を送る。

道場の壁に風が当たって揺れた。

ヌゥはハっとその方向を見た。


(今や!)


ヒズミはヌゥの真後ろから大きな火を吹いた。


(火遁は遠距離技やとすみこませて…からの零距離範囲攻撃! これはさすがに避けられへんはずや!)


しかしヌゥは、炎を見ずに、上に高くとんで、それを避けた。

まるで、後ろから攻撃がくるのが、わかっていたかのように。


ヌゥは自分の下を通過する炎を見下ろしていた。


(読めた……!!)


「うわっ」


ヌゥはバランスを崩して、後ろに倒れ込んだ。


「ぎゃっ」


そのままヒズミの上に覆いかぶさるように落ちた。隠れ身の術はその反動で解けてしまった。

ちょうど時計の針が真上を指したところだった。


「俺の勝ち…」


ヌゥはヒズミを見下ろして、ニコッと笑って答えた。

ヒズミは少しドキッとした。

ヌゥは起き上がり、道場の休憩用のイスの上にあぐらをかいた。


「あかん…あれを避けられたら無理や…」


ヒズミも立ち上がると、負けを認めた。


読み合いって…楽しい…。

俺にも出来た…。


ヌゥは興奮していた。


「ねえ! もう一回やろうよ!」

「ええで! 今度は当てたるわ!」


二人はその後も、攻防を繰り返した。




「うーん! よく寝た!」


レインは吠えながら起き上がった。

シエナは自分に寄り添うように眠りについていた。


(黙ってたら可愛いんだけどな…)


レインが顔を近づけて彼女を覗き込むと、シエナはパチっと目を覚ました。目の前にライオンがいたので、シエナはパニックになった。


「きゃあああ!!!食べられるぅ!!!!!」


シエナはレインに思いっきりアッパーを食らわせた。

ライオンは軽く飛びあがって木にぶつかった。


「痛ったあ!!!! 何すんだいきなり!!」

「なんだ、レインか。驚かせないでよ」


(くそゴリラ女め…なんちゅー力だ…やっぱ全然可愛くねえ…)


シエナはレインに乗り、捜索を続けた。


「レイン! あれ!」


シエナは遥か遠くに巨大な虎が、シマウマの群れを襲っているのを見つけた。


「どこだよ…!」

「こっち! 3キロくらい先よ!」


(3キロって…この森の中で何で見えんだよ…)


シエナは部隊の中で、誰よりもずば抜けて目が良かった。格闘技のセンスがいいのもそれのおかげでもあるし、遥か遠くのものも見分けることができた。


二人は虎に近づいた。近くまで来るとかなりの大きさだ。象の3倍はある。向こうはこちらに気づいていない。


「スキを見て倒すぞ。まずは後ろ脚を殺る。シエナは逆から回り込め。」

「わかったわ!」


レインは右から、シエナは左から、虎の背後に回り込んだ。

虎はシマウマを食べるのに夢中になっている。


二人は一斉に飛びかかり、それぞれ後ろ脚に攻撃を仕掛けた。

レインは脚を噛みちぎり、シエナは蹴りで骨を折った。

虎は悲痛な声を上げた。


「ガルルルルル!!!!!」


虎は動かせない後ろ脚をひきずりながらも振り返り、レインをその巨大な爪で払おうとした。レインは後ろに飛んで避ける。

そのスキにシエナは虎の目を潰した。またトラは悲痛な声をあげながら、首を振り回し、両前脚を暴れさせた。


「目を殺った!」

「いいぞ! 仕留めるぜ」


レインは虎の上に飛び乗り、頭のつけ根を噛みちぎり始めた。巨大すぎて肉が厚い…。そして、マズイ…!


シエナはトラの動きを止めようと、前脚を順番に折っていく。

トラは脚を動かせなくなり、その場に倒れた。

レインはようやく虎の首の骨を噛み砕いて折ると、トラは動かなくなった。


「よっし!」

「楽勝ね!」


シエナはレインにまたがると、また走り出す。


「その視力でアシードとアンジェリーナを見つけてくれよ」

「ずっと探してるわよ…あ!」

「いたのか?!」

「アシードを見つけた! 右に4キロ先! ヘビと戦ってる! でも、アンジェリーナはいない…他に3人…知らない人間がいるわ!」

「よし! 合流すんぞ!」


レインは方向を変えるとアシードのいる方へと向かって行った。



「す、す、す、素晴らしい!!!! こんなに大きいヘビ!!!! 見たこともない!!!」


リバティはヘビを前に興奮していた。


「危ないぞ! 下がっておれ!」

「は、早く捕まえてくれ! 一体どれほどの毒を…!!!」

「おいリバティ! 下がれってば! 邪魔になるだろ!」


ゼクトはリバティの腕を掴んで後ろに下がろうとする。


アシードは大剣カトリーナを振り下ろした。ヘビは予想以上に素早く、アシードの攻撃をぬるりと避けた。


「こ、殺さないでくれ…!! どうか生け捕りに!!!」


リバティは叫んだ。


「いや、もう殺しちゃっていいから! 早く倒して!!」


ゼクトはビビりながら叫ぶ。


(こんなにでかいなんて!! まじで死ぬ!死ぬ死ぬ!!)


「アシードのおっしゃん! 頑張れー!!」


イースは呑気に応援していた。


「なんてすばしっこいヘビだ!」

「シュルルルル!!!」


ヘビは毒液を吐いた。ドス黒い液体がアシードに向かって流れていく。アシードは蛇の後ろに回り込んで避けた。


「な! なんだあれは! 欲しい!」

「だから近づくなって!」

「離せゼクト! 回収して私のコレクションにっ!!」


リバティはゼクトを払いのけて液体に近寄った。


「危険だぞリバティとやら! 離れるんだ!」


リバティは聞く耳も持たず、対毒製の手袋をはめると、持参していた瓶に液体を入れて蓋をした。


「巨大蛇の毒液…すごすぎるっ…!!」


すると、ヘビはリバティに向かって大きな口を開けて襲いかかってきた。リバティはハっとして、蛇の大口を目の前にするが、足がすくんで動けない。


「ええい! この大蛇め!!」


アシードは大剣でヘビの胴体を切り落としたが、切れた半分だけの身体をよじりながらリバティに向かっていく。


「リバティ!!」

「きゃああああ!!!」


イースはリバティの元に走っていき、彼女を押し倒した。

そしてイースは代わりに、ヘビに飲み込まれてしまった。


「イース!!!!」

「なんてことだ!!」


すると、ヘビが苦しそうな顔をしている。

しばらくすると、ヘビの身体が膨らみ、炎の爆発で破裂すると共に、白いドラゴンが現れた。


「な、なんと…」

「イース!」


ゼクトはイースに駆け寄った。


「ゼクト…!」

「イース!無事でよかった!!」


(まさか…本当にドラゴンだというのか……)


アシードはしばらくその美しく巨大なドラゴンにみとれていた。


「イース…行かなくちゃ…」

「ちょ、イース!」


イースは急に飛び上がった。ゼクトはイースに捕まったまま、空に浮いた。なんとか背中に乗り込み体制を整えたが、イースはどこかに向かってすごい速さで飛んでいく。


「イース! ゼクト!」


リバティは空を見上げながら叫んだ。

アシードとリバティは、サバンナに取り残された。


「おーい! アシード!!」


シエナとレインが駆けつける。


「今のは…ドラゴン?」


彼らもまた、飛び立つその白いドラゴンが空を進むのを、見上げていた。

























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