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「ところで、エルゼは何しに来たの?」
「はっ! そうですわ! あなた、モルドレッド様の婚約者になるという話ですけど、私か婚約者になりますから! それを言いに来たのですわ!」
「それはどうもご親切にありがとう」
そんなことのためにワサワザ挨拶に来るとは中々良い子ではないですか。
「・・・それだけですの?」
「えっ? おめでとう?」
「なぜ疑問系なのです! あなた、モルドレッド様を取られて悔しくないんですの!?」
「えっ? 別に興味ないし」
「な、な、なんですのー! あの、モルドレッド様ですのよ!? 美しくて強くて知的で、しかもちょっと可愛いんですのよ!?」
「えー? 美しく? 強く? 知的? 可愛い? 一つも同意するところがないなぁ」
「むきーっ! なんですの! あなたにはモルドレッド様は勿体ないですわ! あげませんわよ!」
「どうぞどうぞ。お持ち帰りですか? それとも国内でお召し上がりですか?」
「もーっ! 知りませんわ! なんですの、この人! あなた達もなんとか言ってやりなさい!」
エルゼはいじりがいがあるなぁ。
振られたグルメ戦隊は戸惑っている!
「いや、あの、私はお目通りかなったことがありませんので」
「私も会ったことありませんー」
「んー、興味ない」
おおっと、ブルー、ピンク、イエローともにスルー!
「もう! では私が次期王妃で異存ありませんのね!?」
ブラックがプンプンだ! 子供らしくて可愛らしいぞ!
「いやー、それはどうかなー」
私、どうもちょいSみたいです。お母様からの遺伝ですね、きっと。
「ど、どういう意味ですの!?」
「だって、国王陛下は私と婚約した者を王太子にするつもりみたいだし」
「もー、なんなんですのー! 普通、第一王子のモルドレッド様でしょう!?」
「知らないわよ。伯父様が決めるんだから」
「もう! いいです。その時はゲイルマン帝国に連れて帰りますからね!」
「どうぞどうぞ。オーダー! モルドレッド、テイクアウト、ワン、プリーズ!」
「むきーっ! ハンバーガーみたいに言わないでくださる!? 不敬罪ですわよ!」
「大丈夫だよー。子供だし、従兄弟だし。私も王族だもん」
「私だって、皇族なのですわ!」
「すごいねー、ぱちぱちぱちー」
「せめて、手を叩きやがれですわ! ぱちぱちぱちーってなんですの!」
「いやー、打てば響く感じ、いいねー。エルゼちゃん!」
「もうっ! 知りませんわ!」
ブラックはプンプンだ!
ブルーはオロオロしている!
ピンクは紅茶を嗜んでいる!
イエローはショコラがなくなってションボリだ!
「まあまあ、紅茶お代わりいる人ー?」
「「はーい」」
ピンクとイエローはマイペースですね。ブラックにも注いでおきましょう。まあ、セーラが入れるのですけど。
「そう怒るなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
ちょっと低めの良い声で言ってみました。
「な、なんですの! そんなこと言われても許しませんから!」
「怒った顔も魅力的だけど、私は君の笑った顔の方が好きだな」
大して笑った顔も見てませんけど。
「す、好き!? そ、そんなこと言われましても・・・」
パチン!
指を鳴らすとセーラが私の側に侍ります。
何も打ち合わせしてないのに、セーラって本当に凄いわー、ちょっと怖いわー。正直、やってみただけなのに。
私はセーラから受け取った白いバラの蕾を、そっと差し出します。
「プリンツェッシン・エルゼ。さあ、笑って。今は私達と、この一時を楽しもう」
「えっ!? あ、は、はいっ」
可愛いわー。この子ちょっと意地っ張りなだけで、結構素直な良い子なのよね。
そして素直だから勢いだけの雰囲気に流されちゃうのよね。
「可愛いエルゼ。もう、あまり男に踊らされないでおくれ」
「え、で、でも・・・ いえっ、なんでもないですわ!」
「まあっ、素敵ですわ。エルゼ様、白いバラの蕾の花言葉をご存じですか?」
シャーリーはお花が好きなのでしょうね。でも、蕾の花言葉まで知っているのは、ちょっと怖いですよ。
私ですか?
知りませんよ、もちろん。
誰だと思ってるんですか。武闘少女ですよ!
「いいえ、存じませんわ。ご存じでしたら、お教えいただけます?」
「はい、もちろんですわ。白いバラの蕾の花言葉は、『恋をするには早過ぎる』『少女時代』ですわ」
ブホッ!
思わずアールグレイが咽せました。
セーラ、こえーよ!
なんていう花を渡すんですか!よく用意できましたね!
もうっ! 全身がむず痒いです!
マズいですよ。また私の黒歴史に一ページが刻まれてしまいました。
そして、シャーリー。あなたもそんなこと気付いても言わなくて良いですから!
しかも皆の前で!
もうイヤンイヤンです!
でも、ここまで来たらグッと堪えて訳知り顔で、優しく微笑みながら頷きますよ。
「えっ・・・」
エルゼはぽっと頬を赤らめています。
ええ、やってやりましたよ!
どうせ黒歴史なら、やりきりますとも!
テンプレマスターの心意気をとくと見よ!
今日は縦ロールでビスクドールスタイルですけど、男役やりきりますよ!
「そう。君はまだ幼い。そんなに早く一生の伴侶を決めることはないさ。人生は長い。
今この時だけの少女時代を楽しく笑って過ごしておくれ」
ぎゃー!
自分で言ってて気持ち悪い!
けど、楽しい! やっぱり、私はお母様の娘なのですね。
『君はまだ幼い』って、私も同い年やっちゅーねーん!
リアは頬を赤らめて、ポーッとしています。
クローディーは俯いて顔が見えませんが、耳まで真っ赤になって肩を震わせています。
分かります。爆笑を我慢しているのですね。
あなたとは良き友になれそうです。
シャーリーは、ニコニコ微笑んで見守っています。
あなたはどうなの!?
天然なの!? 黒い人なの!?
侮れませんよ、シャーリー。そういうの、嫌いじゃないです。
おおっ、エルゼちゃん、真っ赤です。目までウルウルしちゃってます。
純真な少女にやりすぎたかなー?
「お、お姉さま・・・」
「えっ?」
「お姉さまとお呼びしても?」
えー!? エルゼちゃん、同い年だよ!
「もちろんさ。光栄だよ」
最近は私の中の幼女が大人しくなったと思ったら、小悪魔ちゃんが暴走しはじめましたよ。
「ブホッ!」
クローディーが咳込んでいます。噴き出したのを誤魔化すのに必死です。
「わ、私もいいですか!?」
おお、アゼリア、お前もか!
シャーリーは相変わらず微笑んだままです。やはり黒い人なのか!
「ああ、もちろん。可愛いリア」
いやぁ、我ながら留まることを知りませんね。
クローディーがピクピクしています。笑いすぎて息ができないようです。
シャーリーの口元が震えています。黒くはないんですね? ポーカーフェイスがお上手なだけなんですよね!?
リアとエルゼは上気した頬をおさえ、ウルウルした目で見つめてきます。
やりすぎました、てへへ。
「おやっ? エルゼ、素敵なペンダントを付けているね?」
エルゼの胸元に紫の宝石が煌めいています。
「はい、これはモルドレッド様に頂いたのです。肌身離さないようにと」
「ほぅ、それはそれは。エルゼの魅力にモルドレッドは参っているようだね」
なんだか口調が戻らなくなってきました。
「少し見せて貰えるかい? アメジストなのかな?」
「さあ? 分かりませんわ」
エルゼの胸元に手を伸ばすと、エルゼがビクッと緊張します。可愛いなぁ。
エルゼってば、私のこと異性として見始めている気がします。
ペンダントは肌身離さずらしいので、掛けたままで見せてもらいます。
ペンダントトップを手に取ったとき、弱い魔力を感じました。
「お嬢様!」
セーラが叫び、バサバサという音とともに、大きなコウモリの群れが襲ってきました。
弱い魔力を有しているので、イビルバットでしょう。雑魚ですね。
「皆! テーブルの下に隠れて!」
私はエルゼを抱き寄せながら、テーブルの上のカトラリーを手に取り、投げナイフの要領でイビルバットを撃ち落としていきました。
ふふふっ、暗器術訓練の成果を見るが良い!
まあ、数匹撃ち落とす間にセーラがほとんど殲滅していましたけど。セーラが手を振るだけで、軒並み墜ちていきます。
「大丈夫だったかい、プリンツェッシン?」
「え、ええ。大丈夫ですわ」
余程怖かったのか、エルゼは私にギュッと抱き付いて首筋に顔を埋めます。
チュッ
あれ?
今、首筋にキスされました?
「エルゼ?」
「な、なんですの!?」
触れないでおきましょう。触れるとマズい気がします。
「お嬢様方、大丈夫ですか?」
セーラが皆の安否を確認しています。まあ、セーラの殲滅が早過ぎるので、誰も怪我なんてしている訳がないのですが。
せっかくの魔物なのでレベリングしたかったのですが、皆さんの安全にはかえられません。
「部屋に戻りましょう。セーラ、お母様達の所へお連れして」
不安そうな皆様を保護者の元へ送ります。
こんなことがあると、もう皆来てくれないかもしれませんね。淋しいです。
保護者会に合流すると、皆さんお母様方に抱き付いておられました。
エルゼはずっと私に抱き付いてますよ。
この人、独りで来たのでしょうか。
「エルゼ、今日は誰と来たの?」
「じ、侍女のジゼルですわ!」
エルゼの視線を追うと、こちらに見知らぬ侍女が向かってきていました。
透けるような白い肌というか、青白い顔色の十代半ばの女性です。大丈夫でしょうか。
癇癪持ちで有名な皇女が先触れもなく大公家に乱入するのを止められなかっただけでも罰される可能性がありますし、まして魔物とはいえ皇女が襲われていますから、護衛ともども罰を受けるのかもしれませんね。
「ジゼルさん、あなたには罰が降りないように掛け合っておきます。
大丈夫ですか? 顔が真っ白ですよ」
「大丈夫です、お嬢様。お気遣いありがとうございます」
「皆様、本日は当家の警備が至らず、ご令嬢を危険な目に合わせてしまい、申し訳ありません」
お母様が大公家を代表して謝辞を述べておられます。
「いえ、エリザベス大公夫人、コウモリでは仕方がありませんわ。幸い誰も怪我をしておりませんし、どうかお気になさらず」
「そうですわ。お気になさらないでください」
「ありがとうございます。ご令嬢の皆様にも、どうかお気を悪くされず、娘のスカーレットと仲良くしてやってくださいまし」
「もちろんですわ! 私達、もうお友達ですものね!」
やはりシャーリー頼りになる。
「私もです。私の方こそ、是非今後とも友誼を結んでいただきたく思います」
母親がいるからでしょうか、またリアが堅い子になってしまいました。
「私も、もうお友達になっていただきました」
クローディーは、甘いものと笑いが絡んでいないとちゃんとしますね。
「わ、私も、お友達になっていただけますか?」
エルゼが私の裾を摘みながら上目遣いで恥ずかしそうに言ってきました。
「もちろんです。エルゼももうお友達ですよ」
にっこり微笑んで返すと、エルゼは嬉しそうに頬を赤らめました。
「あの、皆様も?」
「もちろんですわ」
「もちろんです」
「面白い人は、お友達です」
クローディー、ちょっと素が出てますわよ!
「ありがとうございます! 嬉しいですわ!」
他国にまで癇癪持ちの皇女とか言われていると、お友達ができにくいのでしょうね。とても嬉しそうです。
化粧は濃いけど、こんなに可愛い良い子なのに、誰が癇癪持ちとか言い出したんですかね?
化粧を濃くするのは心をガードしているとかいう話を聞いたことがあるので、誹謗中傷で傷付くのが怖かったのかもしれませんね。
可哀想に。
私はエルゼの手をギュッと握り、にぱっと笑いかけました。
先程までの色気を振りまくような微笑みとは違う子供らしい笑顔に、エルゼは驚いたような表情を浮かべましたが、すぐに私と同じように子供らしい、にぱっと笑顔を見せてくれました。
『称号 魔性の幼女を取得しました』
『魅了を取得しました』
『魅了耐性を取得しました』




