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城下町の魔法少女  作者: あしま
第四章 剣王祭
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クルーア・ジョイスの事情6

 クルーア・ジョイスが王都守護隊に入ったのは、父が何故ジオット家から絶縁されてまで守護隊に入ったのを知りたかったから。


 自分も守護隊隊員になれば、それが分かるんじゃないか…というのは安易な発想で、その結果は守護隊という仕事に失望して除隊するという事になり、何故父親が守護隊に入ったのかを理解する事はできなかった。


 いや、本当は最初から分かっていたんだ…






「たまには、家にも顔を出しなさい」


 言いながら、メリルはクルーアに手を差し出す。


「…はい」


 やや間があって、不服そうではあるけれど、クルーアはそう答えてメリルの手を取り、メリルはクルーアを引き起こす。


 フェリアやマリーに格好の悪い所を見られた…と思うクルーア君だけれども、当の二人はそんな事は考えてはいない。


 ただ『いつか見た光景だな…』と思うだけ。


 実際に過去にこんな事があったのか分からないけど、ここにいる全員が、この雰囲気を『懐かしい』と思っていた。




 それはそれとして…


 クルーア君は、もう一度自分の部屋をグルっと見回し、以前は存在しなかった家具類を指差して


「流石に、これはやりすぎじゃない?」


 恐る恐る言ってみれば


「テヘッ」


 とか言って、おどけてみせる母メリル…


 これらが、いったい誰の財布を使って購入したのか気になる所だけれど、割とクルーア君の趣味に合うのが腑に落ちない。


「まあ、座りなよ~」


 そんなクルーア君を促すノエルさんには、別の興味がある。


 ノエルさんのニコニコ顔に、何やら良くない予感を感じながら、座り慣れないソファーに腰掛けるクルーア君。


 マリーの用意したお茶に手をかけようとした時…


「フェリアちゃんに聞いたんだけどさ…クルーアちゃん、エリザベートの手伝いしてたんだって?」


 言われて、動きが止まる。


 フェリア先生を見やるけれど、顔をそらして知らん顔。


 いや、別にエリザベートの手伝いをしていた事自体に知られて困る事はさほど無いんだ。


 そもそもクルーア君のお仕事は、エリザベートのボディーガードの様なもので、エリザベートとその部下達が、あそこで何を調べてたのか、成果はあったのか等、何も知らされてないので、聞かれても答えられない。


 ただ…


「それってさ、アルカトラ…」


「わー!」


 それは思い出したくない出来事。


 ノエルさんの言葉を最後まで聞かずに、耳を塞いで縮こまる様は、何かに怯えているようである。


 何かに怯えるクルーア君なんてのは、めったにお目にかかれないもの。それをこの人が、面白がらない訳がない。


 耳を塞ぐなんてのは無駄な足掻きな訳で、すぐそばまで寄って


「アルカトラズ遺跡…」


 って言えば、小声だって聞こえない訳がない。


「あの遺跡から、生きて帰ってきたんでしょ~?流石だね~クルーアちゃん」


「やめてくださいやめてくださいやめてください…」


 怯えに拍車のかかるクルーア君。


 こうなると、その『アルカトラズ遺跡』とやらで、クルーア君の身に何があったのか気になる所だけれども


「ノエルさん、そのくらいにしてあげて?」


 見かねたメリルさんが助け船を出す。


「いや…そもそも俺、あそこでエリザベートさんが何を調べてたかなんて知らないですよ?」


 それを受けて、なんとか正気を取り戻したクルーア君がそう言えば


「そっか~。まあ、何かしら成果が有れば情報入ってくるだろいしね~」


 ノエルさんはサラッとそう答える…エルダーヴァイン家の情報網…侮り難し。


「エリザベートの探し物は、今回も見つからなかったか~」


 ノエルさんの言う『エリザベートの探し物』という表現。遺跡調査と聞かされてたクルーア君は、若干違和感を覚えるのだけれど、この話はこれでおしまい。


 まあ、物語とは直接関係は無いので、その遺跡で何があったのかを描く事はありません…ありませんからね?


 と、まあ話を戻して…


 ノエルさんの話が終われば、次はメリルさんの番。


 メリルさんの気になる事はただ1つ。


「で、リカちゃんの様子はどうだったの?」


 開会式に登場したのは、予想外の出来事。メリルさんも驚愕した訳だけれども、知りたいのはその事ではなく城での様子。


「元気でやってたよ」


 そういうクルーア君の言葉に


「そう…」


 一瞬安堵するメリルさんだけれども、続く


「今はエリザベートさんに魔法を教えてもらってるってさ」


 という事実に表情を変える。


「なんですって?」


 魔法を学ぶ事は良い。後々の事を思えば、むしろ積極的に学ぶべきだと思う。


 だがしかし、教えているのがエリザベートというのが引っ掛かる。


「あの子大丈夫かしら?」


 メリルさんの心配に


「いや、エリザベートさんだって鬼じゃないんだから…」


 と、答えはしたもののそれは本心ではなく…実は遺跡調査にもユーリカ(本物)は同行してたというのは内緒にしておく事にする。


 そこで、不意にチャイムが鳴る。


 ここは、自称『何でも屋』のクルーア君の事務所を兼ねてるので、依頼者がくる事が無い訳ではない。


 とはいえ、これまで受けた依頼は数えるほどしかなく、依頼者の可能性は低いと思うクルーア君。


「誰だ?」


 と訝しく思うよりも早く


「はーい」


 と、マリーが自然な流れで応対しようとするから


「いや、ちょっと待って…」


 と、止めようとするけれどマリーはおかまいなしにドアを開ける。


「いらっしゃい」


 来客に対して、にこやかに速やかに中に通そうとするもんだから


「おかしくない?」


 流石のクルーア君も、若干怒り気味になるけれども


「お邪魔します…」


 言って入ってきた人物を見て


「いや、おかしくない!?」


 一段大きな声が出る。


「クルーアちゃん、小さい事気にしすぎ~」


「全く…人間ができてないな…」


 と、エルダーヴァイン母娘は言いますけれど、これは果たして小さな事だろうか?


「シニャックさんに、メリルさんはここだって聞いたんで…」


 申し訳なさそうにピンク色の髪の少女…ユーリカ=ソフィア=エリエルがそういうのを聞いて、クルーア君は頭を抱える。


 聞けばエリエルちゃん、クルーア君宅を掃除する際、エルダーヴァイン母娘やマリーは勿論、メリルさんですら太刀打ちできなかった、あの『黒い悪魔』に対して、パッと見猫にしか見えない魔獣シャルルさんと共に、圧倒的強さを発揮したらしい…


「…何やらしてんの」


『一国の王女殿下に』は言外にして、ジトッした目で母を睨む。


 まあ、過ぎた事をとやかく言っても仕方がない。


 ここに来たのは、『なんとなくメリルさんの顔が見たくなったから』らしいエリエルちゃん。


 開会式の後の事は、予めフェリア先生から聞いているから


「…で、久し振りに姫様に会ってどうだった?」


 メリルさんは直球で聞く。


「はい…元気そうでした」


 さて、ここでこの話を深く掘り下げるのは、そもそも姫様は魔法少女エリエルの正体を知っている設定なのか…とか、その他諸々ややこしくなりそうなので、ここにいる誰もしたくない。


 なので


「そっか…」


「…はい」


 という、やり取りだけでこの話は終了とし


「それにしても、剣王祭に出る事、私達には言ってくれても良かったんじゃないの~」


 ノエルさんが話を変える。


「エリザベート様に誰にも言わないように言われてたので…」


 またも申し訳なさそうにエリエルちゃんはそう答えるけれど、エリザベートの名前を出した事で、ある事を思い出す。


「あ、そうだ…メリルさん?」


「ん?」


「エリザベート様が『大会当日は出席するように』って…」


 エリザベートからの言伝てを簡潔に伝えようとすると


「あ、あー、あー聞こえなーい!」


 メリルさんは、そう言って耳を塞ぐ。


 その姿は、何かに怯えているというのとはちょっと違うけれど、さっきのクルーア君の仕草に酷似していて


「親子だね~」


 というノエルさんの一言に、フェリア先生とマリーが笑い、クルーア君が不貞腐れ、メリルさんは照れて、エリエルちゃんがキョトンとし、シャルルさんは大きな欠伸をする。


 そんな、たわいもない時間はその後も続き、皆で食事をした後、解散となった。





 何故、父クロード・ジョイスが貴族という地位を捨ててまで、守護隊隊員となったのか…


 簡単な事だ。彼はただ軍人になりたくなかっただけ。


 軍人になれば、王都を離れる事が多くなり、家族と離れ離れに暮らす事になる。


 クロード・ジョイスはそれが嫌だっただけ。職業なんて何でも良かったんだ。


『ノブレス・オブリージュ』なんかクソ食らえで、私欲に走った訳だから、それは絶縁されても仕方がない。


 だったら…だ。何故父は国王を庇って死んだんだ?


『友達だからだよ…』


 かつて母に問い返ってきた言葉がそれだった…


 クルーア・ジョイスはそんな父を誇りには思えない。


 けれど、皆が帰り静かになった部屋にいると、父のその気持ちは、よく分かってしまう…


「で、なんでお前はここに残ってるんだ?」


 “マ、気ニスルナ”


 静かになった部屋に一人になるのを、ちょっと怖いと思っていたクルーアを察して、一人…一匹だけ残ったパッと見猫にしか見えない魔獣…


 クルーア君は不本意ではあるけれど、その存在を有難いと思うのだった。

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