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城下町の魔法少女  作者: あしま
第四章 剣王祭
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剣王祭開会式後の一幕

『今後、エリエル・シバースは、まだ未成年である事、魔獣騒動時における功績等を考慮して、王室預かりとする。』


 よって彼女の罪は、取り敢えず不問となるそうな…


 過去の判例に基づいた物らしく、法的には問題無いらしいけれど、それで誰が納得するんだ?という話を


「これは、王女殿下の希望でもある」


 の一言で押し切ろうとする。


 こういうエリザベートの強引さは、王室に対しても反発を産みそうな物だけれど、直後、彼女の隣に一人の少女が現れた事により全てを収めてしまう。


 シバース教アナトミクス派のクーデター未遂から10年、公に姿を現す事の無かったソフィア姫だ。


 これも、エリザベートが用意したサプライズの1つ。


 認識阻害魔法で姿を隠していたソフィア姫が、突然現れて、深々と頭を下げる。


 再び、頭を上げた所でニッコリ微笑み、小さく手を振れば、会場で、街頭ビジョンの前で、自宅の映像機器の前で…国中で歓声があがる。


 たったこれだけで、魔法少女の扱いにおいて、世論を味方につけてしまった。


 そのソフィア姫の様子を、彼女が影武者である事を知る人達は、それぞれ複雑な心境で眺めていた。






 開会式が程無く終了しての大部屋控室で、明日以降のスケジュールの説明が行われている。


 と言っても、事前に知らされている話ばかりだから、聞いている者は殆どなく、皆思い思いに駄弁っていた。


 クルーア・ジョイスも話を聞き流している1人であり、今は自分のパートナーが魔法少女であった事への不満を抱え、若干苛立だっている。


 開会式に登場した、ソフィア姫=ユーリカ・マディンを見つめる魔法少女の、今にも泣き出しそうな…それでいて嬉しそうな…そんな表情を見てしまったのも、彼をもやもやさせていた。


「あの…私じゃダメ…でしたか?」


 そんなクルーアの心情を察した魔法少女エリエルに気を使わせてしまったのは完全に失敗。


「いや、ダメじゃないけどさ…」


 元より彼女が悪い訳ではない。


 全てはエリザベートが仕組んだ事だし、自分だって薄々感づいていたのに、何もしなかった。


 彼女を責める理由は無い。


 それに、エリザベートに仕組まれたとはいえ


「自分で決めたんだろ?」


 強要されたというなら話は別だが、『あの人はそういう事はしないだろう』という謎の確信がある。


「はい…自分で決めました」


 それならば、とやかく言うのは大人気ない。


「なら、それで良いよ」


 それで不満が消える訳ではないけれど、クルーアは彼女をパートナーにする事を受け入れた。





 ま、そもそも選択肢なんか無いんだけどね。




 さて、クルーアくんはそれで良いとして


「僕には、一言くらい相談してくれても良かったんじゃないか?」


 この間、頻繁に魔法少女と会う機会が有ったにも関わらず、この事をずっと隠されていたフェリア先生は面白くない。


 とはいえ、予想はしてた事でもあるし、別に怒ってるという訳ではないから


「す、すみません…エリザベート様に口止めされてたので…」


 苦笑いで返すエリエルちゃんに、深いため息をしてから


「ま、無理はするなよ?」


 優しく気づかいを見せる等する。


 その後ろ、場違い感から申し訳なさそうに立つリック・パーソン…のさらに後方…おそらく、この事を全部知ってたであろう人物…スカーレット・イヅチがニヤニヤしながらこちらを見ている…のは、まあ無視をして


「それよりも、お前はこの一月どうしてたんだ?」


 話題をクルーアくんへと振る。


 クルーアくんへの免罪は、とっくに発表されていた。


 それにも関わらず、今日この日まで王城から自宅へ戻る事は無かった。


「ずっと軟禁されてたのか?」


 おそらくは、クルーア君剣王祭出場の情報漏洩を防ぐためだろう。


 口止めされてただけのエリエルちゃんとの扱いの差はともかくとして、軟禁という言葉を使いはしたものの、エリザベートなら監禁もありうるというのがフェリア先生の認識。


「いや、ずっと城にいた訳じゃないけどさ…」


 だからその答えは、意外な物ではあった。


 ただし、それは自由だったという訳ではない。


「けど?」


「…詳しくは話せないけど…エリザベートさんの……手伝いを………させられ…てた…」


 そう語るクルーア君の顔が突如、かつて無いほど蒼白く変貌する。文字通りの顔面蒼白。


「報酬は良かったんだよ?報酬は…」


 報酬があったという事は、仕事として正式に依頼されたという事だろうけど、譫言のようにそう言う姿は尋常ではない。


 何があったかは気になる所だけれど、クルーア君のただならぬ様子は、流石のフェリア先生ですら詮索するのを躊躇うほどで


「は…早く…お家に帰りたい…」


 その悲痛な訴えに


「お、おう…」


 そう一言、答えるしかできなかった。




 そうこうしてる間にスケジュール説明が終わり、それを待っていたかのように


「エリエル・シバースはいるか」


 強く張り上げてる訳でも無いのに、やたらと響く声と共に、エリザベートが入ってきた所でクルーア君我に返る。


 エリザベートの登場は室内に緊張を走らせ、並み居る剣士達ですら、その存在感威圧感に圧倒されるほど。


 さしものフェリア先生ですら、若干強張ってるように見える。


 エリザベートを前にして、平気でいられるのは、娘であるスカーレットとクルーア君。


 そして


「なんでしょうかエリザベート様?」


 そう笑顔で答えるエリエルちゃんくらいな物。


 何故か、この二人が親しげな雰囲気を醸し出しているのを周囲が不思議がっている所、クルーア君が一言文句を言おうと割って入ろうとするが


「ソフィア殿下が、そなたに会いたがっている」


 の一言で、動きが止まる。


「どうする?」


 エリザベートが問うのと同時に、エリエルちゃんの顔を伺えば、そこには戸惑いを隠せない姿が…


 無理もない。


 当然の事だが、ここで言う『ソフィア殿下』とは、影武者であるユーリカ・マディンの事。


 今、このタイミングで本物のソフィア姫であるエリエルが、彼女に会う事に意味があるかは分からない。


 二人が会う事によって、何かが変わるかもしれないし、何も変わらないかもしれない。


 何かが変わるとして、それが良い事であるか、悪い事であるかも分からない。


 二人が会うべきか否かの答えが分からず、心配である事を隠しきずに、もう一度エリエルちゃんの方を見やれば、その隣にはそれはそれは情けない表情で彼女を見つめるフェリア先生がいて、エリエルちゃんはというと、そんなフェリア先生とクルーア君を不安そうな顔で交互に見てる。


 その様子を見て、クルーア君は、おそらく今の自分がフェリア先生と同じ様な顔をしてるのだろうと気付くのだった。


 情けない…


 例えば今ここに母メリル・ジョイスがいれば、エリエルちゃんの頭をポンと軽く叩いて


「会ってきな…」


 と言って、彼女の背中を押すのだろうとクルーア君は思う。


 同じ様に、フェリア先生もまた、母ノエル・エルダーヴァインがいたら、エリエルちゃんの両肩に後ろから手を置き


「行ってきな~」


 と言って、文字通り背中を押すのだろうと思う。


 詰まる所二人共、ここは背中を押して、エリエル=ソフィアとソフィア=ユーリカを会わせるのが正解…否、会わせてあげたいと考えてる。


 それなのに、それがもたらす結果を怖れて何もできずにいるのだ。


 情けない…


 普段、偉そうな事を言っていても、人としてまだまだ未熟だという事を二人は思い知った。


 でもね?迷ってる人の背中を押すのは、別に成熟した人間にしかできない事では無いのですよ?


 エリザベートの「どうする?」に答えられないでいるエリエルちゃんの、腰のちょっと下辺りを軽い衝撃が走る。


 犯人はスカーレット・イヅチである。


 本当は臀部をクリーンヒットさせたかったのに腰マントが邪魔で、ちょっとズレてしまった事が不満なのはおくびにも出さず、満面の笑みを浮かべ


「会ってきちゃいなよ魔法少女君!」


 って言うけれど、そうは言われてもエリエルちゃんの迷いは取れはしない。


「君は、姫様にお礼を言わなくちゃいけないんじゃないかな?」


 確かに、建前上、今のエリエルちゃんの立場を保障してくれたのは、ソフィア姫という事になる。


 魔法少女が一国の姫殿下に謁見するには十分な口実ではあるけれど、そういう問題ではない。それでは前には進めない。


 エリエル自身怖いんだ。今、このタイミングでソフィア=ユーリカと会う事に…


 そこでスカーレットは、エリエルに近付き、耳元で誰にも聞こえないように囁く。


「君の決心は、そのくらいで揺らぐものなのです?ソッフィア…」


 言われてハッとして、スカーレットに振り向けば、彼女は舌を出しておどけてみせる。


 考えてみれば、彼女はエリザベートの娘な訳で、全てを把握していても不思議では無いのだけれど、今までその事に考えが及んでいなかった。


 いったい、いつから自分の正体を知っていたのだろう。


 もしかすれば魔獣騒動の時、既に知っていたのかもしれない…


 そんな事を考えて、動きの止まるエリエルちゃんの背中を、スカーレットはかるく押して


「行ってこい!」


 満面の笑顔で言う。


 エリエル=ソフィアは、この『このえのお姉さん』が大好きだった。


 いや…今でも大好きだ。


 だから、彼女への返事は「はい」とか「分かりました」とかじゃなく、昔のように


「…うん」


 …そう言ってエリザベートへと向き直し


「行きます…姫様に会います」


 不安はまだある表情だけれど、宣言し前へと歩き出す。


 それを受けて、エリザベートは深い深いため息をつき、エリエル=ソフィアのちょっと後ろで、まるで実家を離れ、都会へと旅立つ我が子を見送る心配性の夫婦のようになっている、クルーア君とフェリア先生に向かって


「心配するな。彼女は私が責任を持って家まで送り届ける」


 と、言い残し大部屋を出ていく。


 エリエルちゃんが室内の面々に一礼して、エリザベートを追うように退出するのを見計らい


「君達、少し考えすぎだよー?」


 言いながら、ドヤ顔のスカーレットが二人の肩に手を乗せてくるから


「チッ…」


 クルーア君は舌打ちし、フェリア先生は無言でスカーレットを睨み付ける。


 そこに、追い討ちをかけるように


「ふん…ちょっと姫様に気に入られたからって、イイ気になってるんじゃないですわよ!」


 空気を読まずに言い出すのはレイクチユル・ミスト嬢。


 当然、フェリア先生の眼光は、その矛先をレイクチユル嬢へと変える。


 そうなるとレイクチユル嬢、開会式で一度フェリア先生に敗北してるから、ここでは思わず目を逸らしてしまい、それが悔しいもんだから、パーソンくんを睨み付ける事にする…


「また、僕ですか?…」


 さて、そんなレイクチユル嬢の横に1人の少女が立っていて


「すいませんすいませんすいません…」


 連呼しながら、ペコペコと頭を下げている。


 開会式の時は気付かなかったくらいには、存在感の少ない少女は、おそらくレイクチユル嬢のパートナーなのだろうけど、フェリア先生は彼女をどこかで見た事が有る気がした。


 けれど、いまいち思い出せない。


「ま、いいか…」


 とはいえ、気にしても仕方ないと、彼女の素性を詮索するのを止め、エリエルの出ていった扉を見つめる。


 その後ろで


「やめてよレイク…フェリア先生、ほんとに怖いんだから…」


「ふん…」


 という会話が小声で行われたが、それがフェリア先生の耳に届く事はなく、他に特筆すべき事も無くなったので、開会式後の一幕はこれにて終了とする。

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