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城下町の魔法少女  作者: あしま
第四章 剣王祭
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魔法少女の剣王祭2

 二日前。


 魔獣騒ぎから一夜明け、今更ながらユーリカ=ソフィアは恐怖してた。


 あの状況で、殆ど無傷というのは奇跡みたいなもの。


 一歩間違えれば命を落としかねない事態であった事に、冷静になって気付いたのである。


 そんな気持ちのままだから、魔法学校では授業に集中もできず、何も頭に入らなかった。


 当面気にするべき相手であるはずのニコラ・テッサが、学校を休んでいた事にも気付いてない。


 もっとも、魔獣騒ぎの最中、自分の正体がニコラにバレた事も忘れてそうではあるけれども…。



 そんな状態でも、お腹はすくもの。



 商店街で夕御飯の食材を購入し、寄宿舎に向かってとぼとぼと歩いてると


「お嬢さん、少しお時間よろしいですか?」


 後ろから声をかけられる。女性の声だ。


 この辺りでも、怪しげな勧誘なんて珍しくはない。


 おそらくは、その類いだろうと、振り返りもせず


「…あ、結構です」


 言って逃げようとするが、強引に腕を掴まれてしまう。


「やめてください!」


 流石に、振り返って声を上げる。


 と、そこにはもうすぐ本格的な夏になるというのにコート姿に帽子を深々と被った人物が…


 怪しいにも程があるのだが、それよりもおかしいのは、結構大きめに声を上げたにも関わらず、周囲の人達がこの状況に気付いてない。


 認識阻害魔法がかけられている…その事にはすぐに気付いた。


 ここまでするのは、流石に怪しげな勧誘の類いでは無い。


「何が目的ですか?」


 言って、鋭く睨み付ける。


「久しぶりに会ったというのに、つれない事を言うではないよ」


 そう言って、コートの人物は帽子を上げて、その顔をユーリカ=ソフィアに見せる。


 瞬間、ユーリカ=ソフィアの目に涙が溢れだす。


 それは、申し訳なさと、申し訳なさと、申し訳なさが複雑に混ざり合った感情、一言で言うと約4年分の申し訳ないという感情。


「ごめんなさい…エリザベート様…」


 言って、エリザベートにがっしりと抱きついてきた。


 その反応は、エリザベートには、あまりに予想外。


 目を丸くして驚く…が、すぐに冷静になり


「謝る事など、何も無いさ」


 頭を撫でながら、らしくないほど優しい声色で語りかける。


 しかし、それは一瞬だけで、すぐに彼女はいつもの調子へと戻り


「今日は、ソフィア姫にでは無く、魔法少女に用が有って来たのだよ」


「え!?」


 本題へと入るのだった。




「単刀直入に言う。お前に剣王祭で、クルーア・ジョイスのパートナーとして出てほしい」


 場所を公園へと移して話の続き。


 いろいろと藪から棒すぎて、ユーリカ=ソフィアはただただ困惑するばかりだけれど、1つだけ確認しなければいけない事がある。


「あの…どうして私が魔法少女だと…」


 その正体は一部の人間にしか知られてない。


 いったい何をどうすれば、自分と魔法少女が結び付くのか、ユーリカ=ソフィアには思い付かない…


「我が国の諜報機関を舐めるでないよ」


 これは当然嘘である。


 諜報機関は調べてなんかいないし、そんな事をしなくても、空を飛ぶ人間なんて今のところ世界に一人しかいないのだから、すぐに分かってしまう事。


 ただ、ユーリカ=ソフィアは、自分が空を飛べる事を他人に知られている自覚が無い。


 故に空を飛べる事と自分が、簡単に結び付くとは思えない。


 その事をエリザベートは知っている。


 その事に触れずに、ユーリカ=ソフィアを納得させる答えとして、予め考えていたのがこの台詞である。


「そう…ですか」


 実際ユーリカ=ソフィアはそれで一応の納得はするけれども


「心配するな。公にするつもりはないよ」


 言われても、弱みを握られた感じがして仕方がないが、これは本当。王女殿下が件の魔法少女の正体であるなんてスキャンダル、公表できるはずがない。


「でだ…剣王祭の話だが」


 けれど弱みを握られたのもまた事実で、実際これで、この話の主導権は完全にエリザベートの物になった。


「明後日、クルーア・ジョイスを城に呼ぶ事になっている。

 奴にはそこで正式に依頼する事になるから、まだ出場が決まった訳では無い。

 だからこれは、あくまでもクルーア・ジョイスが剣王祭に出場すると仮定しての話ではあるが…」


 そこで一拍置いて


「奴のパートナーをやって貰えないか?」


 言う。


 一応は、お願いという形になっているけど、拒否権があるように思えないのは、エリザベートの独特の存在感が有っての事。


 ユーリカ=ソフィアには、『どうして自分が?』とか聞く事が有ったはずなのだけれど、そんな余裕が無く


「少し…考えさせてもらえますか?」


 言うのが精一杯だった。


「ふむ…では、明後日のこの時間、この場所で会えるかな?」


「…分かりました…」






 そう言って分かれて二日経ち、約束の時間、約束の場所にエリザベートは現れた。


 その間、考える時間はそれなりに有って、聞きたいことも整理出来てたはずだったのに、出てきた言葉は『私がソフィアだって事、グリュフィス聖堂の人達は気付いてるんですかね?』である。


 この問いに至るまでには、様々な思考があって、やはり魔法少女の正体があっさりバレている事実が気になる所。


 グリュフィス聖堂の人達には、魔法少女姿を見られているのだから仕方がない。


 エリザベートの言うように国の諜報機関が調べれば、すぐに正体は判明するのだろう。


 分からないのは、クルーアとフェリアが、あの時何故自分と魔法少女を結び付けたかだ。


 時系列的にグリュフィス聖堂の面子から話を聞いたという線は無い訳で、だとすれば何故結び付いたかと考えた時に


『もしかしたら、彼等は、ソフィアと面識があるのではないか?』


『元より、ソフィアが空を飛ぶ能力を有してる事を知っていたのではないか?』


『魔法少女と結び付けて考えたのは、ユーリカではなくソフィアなのではないか?』


『それならば、自分の正体は、グリュフィス聖堂の人達にも既にバレているのではないか?』


 加えて、追い討ちをかけるように、1つの事実が発覚した。


 前に、グリュフィス聖堂で聖エヴァレットの肖像画を見た時に感じた事…誰かに似ている。


 その正体が、今日初めて会ったはずのマリー・クララヴェルであると気付いてしまった…


『自分は、もしかしたらマリー・クララヴェルと過去に会っているのではないか?』


『だとすれば、やはり私は過去に、聖グリュフィス聖堂で彼女達と出会っているのではないか?』


 全ては自分の記憶の、ぽっかり開いた穴の部分に繋がってるのではないか…


 ただ、それを確認するのは怖い事。


 城を離れ、一般人として暮らしていれば嫌でも気付くから…


 自分の記憶が無いのが、『シバース教アナトミクス派によるクーデター未遂事件』と時期が重なっている事に…


『その事件と自分の記憶が無い事には、何か関係があるのではないか?』


 そう考えてしまうのは、必然だろう…



 そんな答えの出ない事を延々と考えた結果、いろいろすっ飛ばして的を得ない質問をしてしまった訳だけれども、そりゃエリザベートからしたら『私に分かる訳が無かろう…』だ。


 とはいえ、流石に当人達に聞ける訳が無い事くらいは理解できる。


 だから『直接聞けば良いだろう』という言葉は呑み込んだけれど、その代わりに


「お前はどうしたいんだ?」


『このまま正体を隠して良いのか?』を言外に、こう問いかける事にした。

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