パッと見猫にしか見えない魔獣の記憶が残した爪跡
「あんたは、なんてもの見せるのよ!」
“イ…痛イ!イタ!イタッ!”
シャルルさんの記憶から覚めた後は、皆が皆、ぼーっとしていたけれど、意識がはっきりするまでには個人差があるようだ。
1番最初に回復したのはメリルさんで、今は同じくぼーっとしていた、シャルルさんのこめかみをグリグリしてる。
シャルルさんの記憶が残した爪痕は甚大で
「重いな~…重いよ~…」
ヘビーな長編映像作品を観た後のような疲労感を皆に与えていた。
“前半ハトモカク、後半ハ不可抗力ダ。俺ノ意思ジャナイ!”
「言い訳するな!」
「まあまあ、メリルさん、その辺で」
シニャック老の一言でようやくメリルさんから解放されたシャルルさんは、一目散にユーリカ=ソフィアの膝の上へと避難する。
「後半のインパクトが強すぎて、前半なんて忘れたわよ…」
「『聖女の剣』に『預言者』ねぇ…」
「『パナス王国歴500年に聖グリュフィス聖堂で発見される文献』…ですか…」
「う…嘘だ…『聖グリュフィス』様が…女の子?」
思う所は、それぞれだけれど
「あれが聖女様か~…」
「肖像画そのままでしたね…」
何より聖女エヴァレット登場のインパクトが
「っていうかシャルル…聖女様に会った事あるんだね…」
という事実もあって強烈に印象として残ったようだ。
「綺麗だったよね…」
「綺麗でしたね…」
シャルルさんは、『神々しさなんか欠片も無い』と言っていたけど
「神様…って感じしたけどな…」
って、マリーのように感じる人もいる。
シャルルさんの場合、心をある程度読む事が出きるのが影響しているからだけれど、感じる事は人それぞれで
「聖エヴァレット様って~、何となく~、マリーちゃんに似てなかった~?」
冗談めかして言ってはいるけど、ノエルさんがそう感じたのも嘘ではない。
「えー!肌の色だけでしょ?私、あんなに綺麗じゃないですよ?」
それに対してマリーは、ちょっと過剰に反応するけど、その様子を見ていたユーリカ=ソフィアが、複雑な心境になってるのを見抜いたのはシャルルさんだけ。
“ドウシタ?大丈夫カ?”
またぞろ、彼女にだけ聞こえるように念話を送れば
「う、うん…なんでもないよ?」
明らかに、なんでもなくない返事が返ってくる。
シャルルさんもそれは最初から分かっているし、心配ではあるけれども、それ以上突っ込んでも何も出てこないと判断。
”ソウカ…“
とだけ言って、後は何も聞かない。
さておき、ヘビーな長編映像を、一本見せられた感じになってはいるけど、これが事実である証拠は何処にも無い。
「これ、本当にシャルルさんの記憶なのですか?」
というダリオさんの疑問も、もっともである。
“信ジル、信ジナイハ個人ノ自由ダ”
と、シャルルさんは仰います。
けれど、ラストシーン近くの登場人物であるシニャック老が
「私が見た光景は、そのままでしたね…
あの時、カズアキが酷く落ち込んでいたのをおぼえてます。
二人とも何も話さなかったですが…なるほどそんな事があったのですか…」
って言うんだから、少なくても全部が全部シャルルさんの作り話、というのは無いようだ。
「これが事実なら、以前シニャックさんが話してくれた『歴史上の聖女の剣が同一人物』という話も、信憑性が出てきますね…」
「あ、ああ、そうか…聖エヴァレットの力で、時代を行き来してるのか…」
そう…シャルルさんの記憶が事実であるなら、シャルルさんは『聖グリュフィス』の時代から、現代まで、時を渡ってきた事になる。
『聖女の剣』と『預言者』に至っては、それを何度も繰り返してると考えられる。
「私が知ってるだけでも、他にも何人か時を渡ってきた者がいます…
そうやって『聖エヴァレット』は、歴史に干渉してきたんですね」
こんな話をしても、おそらく信じる人間はほとんどいないだろう。
魔法が存在する世界だからといっても、時間移動なんてあまりにも荒唐無稽だ。
「そういえば、記憶の中のシニャックさん、『エヴァレットの塔の大調査』が50年前って言ってましたよね?」
フェリア先生が気になったのはこの部分。
エルダーヴァインによる『エヴァレットの塔の大調査』は、今より約150年前。
という事は、あれは100年近く前の話という事になる訳で
「シャルル…あんた何歳なの?」
という疑問が沸いてくる。
”サアナ、ソンナモノ、イチイチ数エテナイ“
シャルルさんはこう言いますが
「97歳ですね」
シニャック老は、しっかり把握してるようでして
「あなたが、ここに来た時2歳と言ってましたし、あれから今年で95年目ですよ?」
という事らしいです。
”知ランガナ…“
彼を魔獣化した魔導師は、いったい彼の寿命をどれだけ伸ばしたのだろう…猫の平均寿命を鑑みるに単純に10倍とかだろうか?
という話を大人達は普通にしてるけれど、この部分において、若者達が気になるのはそこではない。
シャルルさんの記憶に登場したシニャック老は、今と何も変わってないように見えるのである。
あれが100年近く前という事は…
「あ、あの…そもそもシニャックさんって何歳なんですか?」
という話になる訳で、若者を代表し、何故かパーソンくんが恐る恐る聞く。
「…517歳になりますかね」
驚愕の答えが返ってきた。
冗談にしか聞こえないが、ここまでの話からして本当の事である可能性は否めない。
ユーリカ=ソフィアは、以前から聞いていた話ではあるけれど全く信じてなかった。
普通に考えれば信じられるはずがない。
それが、シャルルの記憶を覗いた事で、俄然信憑性が増した訳である。
「ま…その話はいいじゃないですか?」
しかし、シニャック老にはそう言われ、大人達は訳知り顔で『それ以上突っ込むな』という空気を作ってくる。
そうなれば若者達は引くしかない。
いずれ話してくれる時が来るだろう…という事でこの話はおしまい。
さて、シャルルさんの記憶は長い長い物語だったのだけれど、時間的には10分程度しか経ってない。
しかし、そのわずか10分程度で、一同はぐったり疲れきってしまっている。
「そもそも、何でシャルルの記憶を見る事になったんだっけ?」
それも、もう忘れてしまったし、どうでも良くなった。
そんなに大事な事でも無かったのだろう。
少しの沈黙…
「今日は、その辺でお開きにしましょうか?」
最初に言い出したのはシニャック老で
「賛成〜」
ノエルさんが追随すば
「よし!じゃあ、マリー、リカちゃん、片付け手伝ってくれるかな?」
メリルさんも、それに乗っかり
「うん」
「はい」
マリーもユーリカ=ソフィアも異論は無い。
誰も彼も、帰る準備をしようとしてる中
「ちょっとちょっと、今日ここに集まった主旨はなんでしたっけ?」
ダリオさんだけが、それを覚えていたようで
「なんでしたっけ?」
今日の主役だったはずのリック・パーソンくんまでもこの有り様…
「いや…君の剣王祭の話だよね?」
呆れるダリオさんに
「あー…」
「あ~…」
「ああ…」
「あぁ…」
「あ…」
「あっ…」
一同声が揃い、シャルルさんが思いっきり欠伸をした所で、ようやく話が元に戻ります。




