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城下町の魔法少女  作者: あしま
第四章 剣王祭
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パッと見猫にしか見えない魔獣が見た『聖女』

『聖女エヴァレット』が現れても、『聖女の剣』と『預言者』は、特に驚く事も無くて「ああ、この状況に慣れてるんだな」って思ったんだ。




『預言者』は立ったまま泣き続けていて、『聖女の剣』はしゃがみ込み、どこか遠くを見つめている。


「違う…パナフィが知っていたとしても、あんたが知っていたとしても…結局あの娘を追い込んだのは…俺だ…」


 ボソッと呟くように、そう話す言葉には力がない。


 こんな『聖女の剣』は見たくないな…そう思った。


「ううん…悪いのはこうなる事を知っていて、貴方達をこの時代に送り込んだ私だよ…自分を責めないで…」


 そう言いながら、剣呑としている二人の元に近付いていく『聖女エヴァレット』は、何となく話をややこしくしそうな気がしたから


 “ア、アノ…”


 勇気を出して、二人との間に割って入ったのだけれど、そんな俺に『聖女』は微笑む…


 その微笑みが寂しそうに見えて困惑してる俺を、『聖女』はスッと抱え上げ


「シャルルちゃん…だよね?初めまして…ミレイです」


 そう自己紹介するから、ちょっと混乱する。


 “…『聖女エヴァレット』様ジャナイノ?”


「ああ…ええとね…『ミレイ・エヴァレット・タカムラ』…それが私のフルネームだよ?」


 なるほど、『エヴァレット』というのはミドルネームだというのは分かった。


 なぜミドルネームが独り歩きしてるのか…とか思う所はあるけれど、今はそれを気にしている場合ではない。


『聖女』の手から逃れるべく、身体を動かして抵抗してみるけど、俺はあえなく抱き抱えられる。


 それが存外良い感じだったものだから抵抗するのをやめてしまった。



 俺が落ち着いたのを確認して、『聖女エヴァレット』は再び二人の元に歩きだし


「聞きたくないかもしれないけど…」


 と、断ってから話を始める。



「…君達も気付いてると思うけど、あの街で起こった事には、煽動した人間がいるの。

 その煽動者は『聖グリュフィス』の死後、彼女に成り代わって『聖グリュフィス』になる…

 その後の彼の行動が、本物の『聖グリュフィス』の功績と合わさって後世に伝わったんだね…」


『聖女の剣』と『預言者』は、ピクリとも反応しないように見えるけれど、心が乱れてるのは俺には分かる。


「パナフィの読んだ文献は、パナス王国歴500年に『聖グリュフィス聖堂』内で発見される物だけど、それを書いたのはその煽動者だよ。

 罪の意識は有ったんだろうね?正しい歴史は正しい歴史でちゃんと残そうとしたんだ…」


 俺はと言えば、何の話をしてるのかさっぱり分からずにいるが、『聖女』が話した『聖グリュフィスの死後』っていうのが引っ掛かってはいた。


 …いや、本当は分かっていたんだ。あの後…『聖グリュフィス』が自ら命を絶ったという事を。


 ただ、誰もその事を明言しないから、『そんなはずはない』って思い込もうとしてたんだ。



「…煽動者って誰だよ…」


「…『ソルティオ・グリュフィス』…セシリアの兄よ…」


『聖女の剣』が、深くため息をつく…心はそんなに乱れていない。あまり意外な人物ではなかったのだろう。


「あいつ…『父親がおかしくなったのは魔族と魔獣のせい』って本気で考えてたからな…」


 妹である『聖グリュフィス』の魔族との共存という方針にも、反対していたのを覚えてる。


「彼も、妹の死を望んでた訳じゃないの…『聖グリュフィス』を名乗る事になったのも本意じゃなかった…」


「…民衆を束ねるのに必要だった…って所かな?」


 ずっと泣きじゃくっていた『預言者』が、ようやく落ち着いてきたようで、会話に入ってきた。


 それを待っていたのだろう…


『聖女エヴァレット』が深く息を吸い込み、吐き出し、俺を抱く手に力が入る。


 意を決したといった感じの彼女の心は、不安でいっぱいになっていてる。


「ねえ?カズアキ…パナフィ…私の手伝い…辞める?」


「…なんだよ急に」


「私は私の目的のためだけに、都合良く歴史を作り替えてきた。

 それなのに、君達にはその歴史を変えるなって言うんだから…全部私の我が儘なんだから…無理に付き合わなくても良いんだよ?」


 本心じゃ無いんだろうなって思った。


「…あんたなら、それに俺がどう答えるかも分かってるんじゃないのか?」


「そう…だね…」


 本当にそうだろうか?


 それなら、何故『聖女エヴァレット』はこんなにも怯えているのだろう。


 “答えが分かってたって、怖いものは怖いんだよ?”


 突然『聖女』の声が脳内に響く。


 俺の思考を読んだのか、念話を使って俺にだけ話しかけてきたんだ。


 “それに、もしかしたら、私の知ってる答え通り彼が答えない可能性だって、ゼロじゃないんだよ…”


 よく分からない…


 “ジャア、ナンデソンナ事聞クノ?”


 それを聞く意味ってなんだ?


 ”それはね…それを聞かなかった時にどうなるかも、私は知ってるから…“


 なるほど、自分の望む結果を得るためには聞きたくない事も聞かなくちゃいけないという訳か…


 ”卑怯なんだ、私…“


 個人的には、そうは思わない。


 ただ…


 ”面倒臭イネ…“


 とは思う。


 ”うん…そうだね…“


 そう言って、俺にまた寂しそうな微笑みを見せてから、『聖女』は再び二人に向かって語りかける。


「酷い事をしてるって自覚はあるんだ…

 私は、世界中から憎まれても、恨まれても、嫌われても仕方ないと思う…それは覚悟してた事」


 これは本音で


「でもね…友達にまで恨まれたくないし、憎まれたくないし、嫌われたくない…

 人に辛い思いさせておいて自分は辛い思いしたくないって…勝手だよね…」


 これも本音で…


「だからね、二人がこんな思いをするのが、もう嫌だっていうなら…もう、私と関わるの、やめても良いんだよ?」


 これは本音ではない…


 それは、ものすごく下手くそな嘘で、『やめないでほしい』『これからも自分とかかわり続けてほしい』という言葉が漏れている…


『独りになりたくない』という叫びが聞こえてくる…



 神様だと崇める者も少なくない『聖女エヴァレット』は、神々しさなんか欠片も無くて、恐ろしく綺麗な人だったけど、俺の目には驚くほど普通の人間に見えたんだ…



「ねえ…ミレイ?あなたなら、この後私が何を言うかも分かるんじゃないかな?」


「うん…そうだね…」


『預言者』は、もうすっかりいつもの調子をとりもどしてるようで


「私達は、そういうの全部了解した上で、あなたに協力してるの…そうだよねカズアキ…」


『聖女の剣』に圧力をかけるのを忘れない。


「…ああ…そう…だな」


 そして、『聖女の剣』はそれを渋々受け入れる…良く見る光景でホッとする。


「だから私達は、共犯者。あなた1人に責任を押し付ける気はありません…」


「うん…」


「…お願いだから、1人で抱え込まないで…」


 その言葉の後、少しだけ『預言者』の心が乱れたのを感じたけど


「うん…ありがとう」


『聖女』は、それで安心できたようだ。


「でもね…今はちょっと…休みたいかな?」


「うん…そうだね…休もっか…」


『聖女の剣』は、まだ塞ぎ込んでいるけれど、剣呑とした空気は消えていて、ようやく俺も安心できた。


 だから、不意に『聖女』が俺を抱え上げて


「後は君だね?」


 って言い出したのに虚をつかれてしまった。


「残酷な事を言うけれど、君がこのまま元いた場所に戻れば、殺されてしまうの」


 それは、何となくそうなんだろうなとは思っていた。


 こんな見た目でも魔獣である事に変わらない俺が、あの時代のあの場所で無事で生きていられるはずがない。


「君はどうしたい?」


 “ドウッテ?”


「それでもあの場所に戻りたい?それとも別の場所で生きていきたい?」


 本音を言えば、元の場所で『聖女の剣』と『預言者』…そして『聖グリュフィス』と俺の3人と1匹で、穏やかに過ごせるのが一番の望みだ。


 しかし、それはもう叶わないと分かっているから


 “…生キテイキタイ…”


 そう答えるしかない。


「じゃあ1つ、私のお願い聞いてくれるかな?」


『あ、これ拒否権無い奴だ…』って気付いた時には手遅れで『聖女』が俺の額に自分の額を当て、うっすら光を放ったと思ったら


「君にいくつか新しい力を付与しました」


 って言い出すから、困惑する。


「ゴメンね、君まで巻き込んで」


 それは、別に良い。仕方の無い事だ。それよりも


 “…オ願イッテ、何?”


 重要なのはこっちの方。


「君に与えた力を、使うべき時がきたら使ってほしいんだ…」


 “使ウベキ時ッテ?”


「その時がきたら分かるよ」


 あまりに漠然とした願いだったけれど


「約束ね?」


 言われて


 “ウ…ウン…”


 思わず頷いてしまう。


「お休みするついでにね、この子をある所につれてって、ある人に預けてほしいんだ…」


「シャルルは、それで良いの?」


 “ウン…ソレデ良イ”


『聖女』が、俺を『預言者』に渡す。


「ある人って?」


「行けば分かるよ」


 そう言ってほほ笑む『聖女エヴァレット』のには、最初に感じた寂しさが消えていた。


「じゃあ、またね、パナフィ」


「うん、またね」


「カズアキもね…」


「…ああ」


 言った瞬間、世界が光に包まれ、眩しさで目を閉じる。


 次に目を開けた時、目の前に見慣れた聖堂が建っていた。


 けれど『聖グリュフィス』の大きな屋敷は無くなっていて、代わりにこじんまりとした建物が建っている。


 ここは元の場所ではないようだ。


「なんだ、ここかよ…」


『聖女の剣』がぼやくのと同時に後方から足音が近付いてくる。


 振り返ると老人が1人立っていて


「ふむ…私が君達と会うのは50年ぶりくらいかな…

 エヴァレットの塔の大調査の時以来だが、君達にとっては違うのかな?」


 話しかけてきた。


「ううん、私達も塔の調査以来よ…ただ、私達は3年ぶりくらいだけどね」


 今聞いてもめちゃくちゃな会話をしていると思うが、『聖女の剣』と『預言者』はその老人とは既知の間柄らしいというのが分かった。






 それから3ヶ月後、『聖女の剣』と『預言者』は、『聖女エヴァレット』の元に帰っていった。


 付いていきたいという気持ちは、勿論あった。


 だけど、それは叶わない願いだと分かっていたから、俺は『聖女エヴァレット』との約束を守るため、ここに残って現在に至る。

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