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城下町の魔法少女  作者: あしま
第四章 剣王祭
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パッと見猫にしか見えない魔獣が見た『聖戦』2

「シバースというのはね、全ての魔導師の始祖『アレックス・シバース』の、正当な後継者だけが名乗る事が許される特別な名前なんだよ」


 そんな話をしてくれたのは、戦争が本格化する少し前だっけ?


『聖グリュフィス』のする話に興味は無いのだけれど、あの人はいつも楽しそうに話をするから、話を聞くのは嫌いじゃなかった。





 あの人がおかしくなったのは、いつからだったのだろう…


 いや…おかしくなったのはあの人だけじゃないんだ。


 何もかもがおかしくなっていたんだ。




 戦争終結後も、魔族残党との小さな紛争が後を経たなかった。


 ある時、少し大きめな紛争が地方で起こり、俺は『聖グリュフィス』の依頼を受けて鎮圧に向かう『聖女の剣』と『預言者』に同行し、城塞都市を離れる。


 戻ってきたのは2ヶ月後…たった2ヶ月で街の様子は一変していた。



『魔族』というのは、人間並みに知性を高めた『魔獣』である。


 当然、その全てと敵対してた訳じゃない。


 友好的な者、協力的な者もたくさんいた。


 そういう魔族達は、戦争後も城塞都市に残って普通に暮らしてたはずだった。



 …民衆による虐殺が始まっていた。



 魔族や魔獣、それに類するあらゆるものを、あるいは撲殺し、あるいは生きたまま火を付け、あるいは磔にして晒し者にする…


 長年苦しめられた恨みもあるのかもしれないが、それだけでこの惨状を説明できるだろうか?


 俺達は事情を知ってるだろう『聖グリュフィス』に話を聞くため、街の東にある屋敷へと向かう。



 対面した『聖グリュフィス』は憔悴しきってるように見えて…だからだろう…『聖女の剣』は声をかけるのを躊躇っている。


『聖グリュフィス』は…というと、心ここにあらず。俺達が部屋にいる事さえまるで気付いてなかったかのような


「…やあ、お帰り。ご苦労だったね?」


 その一言で会話が始まるまでが、とても長く感じた。



「どうなってる?」


「何がだい?」


「何がじゃないだろ!なんで街があんな事になってるんだ!」


「…君達が街を離れてすぐに、『街の中に魔王軍の残党が紛れ込んでる』って噂が流れたんだ…真偽は分かってないが最初はそんな噂だった」


「…それで?」


「…それから間を空けずに、今度は『魔族や魔獣は必ず狂暴化する』なんて噂が流れ出してね?まったくの根拠のないデマゴーグだ…」


「それで!」


「ご覧の通りだよ?『奴らが暴れだす前に殺してしまえ』ってね…」


「何故止めない!」


「止める?どうやって?力ずくでか?」


「そうじゃない!何かあるだろ方法が…」


「何かってなんだよ…」




 嫌だったよ…二人がケンカする所なんて見たくなかった…




「…騎士団は?」


「…逃がしたよ」


「何故!?」


「何故?いくら誤魔化した所で彼等も魔獣である事に変わらないんだぞ?

 君は彼らに、自分が護ってきた人々に黙って殺されろというのか!それとも剣を向けろと?」


 “モウヤメテヨ!”



 だから思わず叫んでしまったんだ…



 念話ができる事と関係があるのだろうけど、俺にはある程度、今その人がどんな感情なのかを知る事ができる。


 二人とも、その感情はぐちゃぐちゃで、そんな状態で話をしたって良い事なんて何も無いって事くらい、まだ幼かった俺にも分かるから


 “ヤメテヨ…”


 もう一度言ってみた…


 それで二人は黙るけれど、冷製になれたかというとそんな事は無い。


 しばらく無言が続く。


 先にその無言に堪えきれなくなったのは『聖女の剣』の方で、彼は不意に踵を返す。


「…止めに行く」


「どうやって?」


「…分からないよ」


 そう言って『聖女の剣』は、部屋を出ていった。



 本当は、涙を流していた『聖グリュフィス』についていた方が良かったのかもしれない。


 でも俺は、ただずっと黙っていただけの『預言者』の感情が、その時言い争っていた二人以上にぐちゃぐちゃだったのを知っていたから、『聖女の剣』を追う彼女についていく事にしたんだ。





『聖グリュフィス』の屋敷の近くには大きな聖堂があった。


 今では『聖グリュフィス聖堂』と呼ばれてる聖堂だ…当時はそんな風には呼ばれてなかったが…


 その聖堂の前に差し掛かった所で『預言者』は立ち止まる。


 ただならぬ雰囲気に『聖女の剣』も嫌でも気付き


「どうした?」


 声をかける。


「私は預言者なんかじゃない…予言なんかできない…」


 それは俺には驚きの告白だったのだけれど


「ああ…」


『聖女の剣』にはそうではないらしい。


「私はただ歴史が好きで、文献を沢山読んでるから歴史に詳しいってだけの未来人…」


 当時の俺には、言ってる事の意味がまるで分からなかったのだけれど


「知ってるよ…」


 これも『聖女の剣』には既知の事のようだ。


「『聖グリュフィス』の文献も、いろいろ読んだんだよ…信憑性の高い物もそうでない物も…本当に…沢山…」


 そう語る『預言者』の目には涙が流れてて


「…何泣いてんだよ?」


『聖女の剣』も戸惑いを隠せない。


「1つね…歴史家には全く相手にされてない文献があったの…

『聖グリュフィス』の逸話を元にして造られた創作物だろう…って言うのがその文献の評価で…私もそう思ってた…」


 思ってた…過去形という事は今は違うという事だ。


「その文献はね?…だいたいの事は、私達が良く知ってる話と一緒なんだ…

『聖グリュフィス』の13人の仲間が魔導師じゃなかったり…私や貴方が出てくるのも…定説では無かったけど他の文献にも書かれた物は有ったもの…

 でもね…その文献には他のどの文献にも書かれてない事実が書かれていたの…何だか分かる?」


 俺にはさっぱり分からない事だったが、『聖女の剣』には心当たりが有るようだった。


 けれど彼は、何も答えず…答える事ができず、彼女の次の言葉を待っている。


「その文献にはね…『聖グリュフィス』が、少女として描かれているの…」


 それが何だ、と思った…俺の知ってる『聖グリュフィス』は女性でしかあり得ない…


 だが、これも二人の認識は違うようで…その言葉を聞いた『聖女の剣』は、『預言者』から顔を背ける。


「私は、その文献が大嫌いだった!」


 一度落ち着いたかに見えた『預言者』の心がまた乱れ始めた。


「ねえカズアキ?

 あの娘は…セシリア・グリュフィスはまだ16歳の女の子なんだよ?」


「…何が言いたいんだよ…パナフィ…」


 思えば、この二人が本名で呼び会うのを聞いたのはこの時が初めてだったような気がする…


『預言者』は、深く息を吸い込み吐き出してから語り始める。


「戦争終結後、城塞都市で魔族に対する虐殺が起こる。その対策方針で、『聖グリュフィス』と『聖女の剣』は決裂。失意の…『聖グリュフィス』は…彼女の自室で…」


 そこまで聞いた『聖女の剣』は、顔色を激変させ走り出そうとする。


 刹那、世界が眩い光に包まれて、俺達は真っ白な…本当に何も無い真っ白な世界へ放り出される。


 俺は混乱して真っ白になった世界を右往左往するけれど、二人には慣れた事のようで驚きもせず…『預言者』の話は続く。


「…たった16歳の女の子が…『アレックス・シバース』の後継者に選ばれ、人類の命運をかけて魔族と戦い…その魔族の王が自分の父親で…自分の手でその命を奪ったんだよ…その結果が、こんな事になって…彼女だってこんな事望んでる訳ないじゃない…」


『聖女の剣』はその場に崩れ落ちる。


「…知ってて…黙ってたのか?」


『預言者』は、答えない…


「なんで!」


 …今更だけど、これは俺が見せたかった記憶ではない。


 俺が見せたかったのは、戦争終結までの記憶。


 これを見せるのは俺の本意ではない…


 言い訳に聞こえるかもしれないけれど、コントロールできなくなってる。


 おそらくだけれど、これを見せたい奴がいて、ソイツがコントロールを奪ってるんだ…



「…なんでって、君達の仕事は歴史を変える事じゃないでしょ?」



 ソイツを見た時最初に思ったのは、『ああ、聖堂にある肖像画そのままなんだな…』だった…


 黒い肌…長い手足に小さい顔…黒い瞳…濃い緑を基調とした衣服…


 俺は猫だ…人間とは美的感覚が違う…


 だけどその俺が、一瞬心を奪われるほど


 “…綺麗…”


 と思ってしまった。


「責めるなら、私を責めて…カズアキ…」


『聖女エヴァレット』が、そこに立っていた。

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