パッと見猫にしか見えない魔獣が見た『聖戦』
猫とお喋りしたいとか、猫の寿命がもっと長ければとか…
そんな猫好き魔法使いの安易で身勝手な発想で、俺は生み出された。
不幸だったのは、生み出されて間もなく、住んでいた城塞都市が魔族の侵攻にあった事。
聖地エヴァレッティアから程近いこの地は、予てより水資源を巡って争いが絶えなかったが、魔族もまた水資源の独占を目的に攻めてきたんだ。
飼い主の魔法使いも戦闘に駆り出され、そのまま帰こなかった。
俺は唐突に身寄りをなくしてしまう。
こうなると魔獣の端くれとはいえ、所詮子猫。
まだ狩りすらまともにできない俺に生きる術はなく、飢えと渇きであっという間に死の縁となった。
意識が朦朧とし、このまま気を失えばそのまま目を覚ます事は無いだろう…と覚悟を決めた所で
「あら?子猫」
人の声。
「…すごい衰弱してるじゃない!」
「助けるのか?」
「当たり前でしょ!」
そんな会話が聞こえたかと思ったら、途端に身体が楽になる。
魔法使いらしき女が回復系の魔法をかけてくれてると気付いたら、男が器に水を入れてサッと差し出し
「人間の食べ物は猫には良くないんだけどなー」
言いながら荷物の中から何やら取りだし、細かく千切って差し出す。
何かは分からないけど、食べられる物である事には違いない。
迷う事なく、がっつくけれど、何しろしばらく飲まず食わずが続いてた訳で、胃がすぐには受け入れてくれずに戻してしまう。
「あー、ほら慌てないの」
言いながら女の人が優しく撫でてくれて、それでようやく、自分は助かったのだと確信を持てたから
“アリガトウ…”
ってお礼を言ったんだ…
本当は見知らぬ人間に念話なんか使っちゃいけないのだろう。
「え?今の何?」
何しろ、自分がただの猫ではない…魔獣の類であるというのがバレてしまうのだから。
「…お前、もしかして今喋ったのか?」
でも、根拠はないけれどこの人達なら大丈夫かな?って思ってしまった…というか
“ウン…助ケテクレテ、アリガトウ”
ちゃんと、自分の言葉でお礼が言いたいと思ったんだ。
ともかく、これが俺と“彼等”の出会いである。
「私は『預言者』…で、彼が…」
「『犬』だ…」
そう自己紹介した彼等はに悲壮感は無く、とてもこの街に残された住民とは思えない。
そもそもこの街に人が残っているのかも怪しいのだけれど、かといって外から来たというのも魔族の支配下にある現状では考えにくい…
「時間だね?」
「行くか…」
「じゃあね、猫ちゃん…」
そう言って立ち去る二人の後をこっそり付けていく。
向かう先は、この街をぐるっと囲む城壁の、その中でも最も警備の厚い中央門。
“何ヲスルノ?”
わざわざ殺されに行くつもりかと、思わず飛び出した俺を
「ああ、付いてきちゃったか…」
『預言者』が抱き抱え
「危ないからじっとしててね?」
言った瞬間、『犬』が門へと走り出す。
壁の中からの襲撃に、魔族達が当惑してたのもあるのかもしれない。
『犬』は並み居る魔族達をあっという間に切り捨てていき、門の警備はあっさりと全滅してしまった。
すると今度は『預言者』が、流れるように門に施された結界を解いていき
「私達の仕事はここまで。ここからは、あの人達の仕事なんだ…」
そう言って門を開ける。
しばらくの静寂の後、聞いた事の無い音が遠くから聞こえてくる。
それはすぐに静寂を破り、爆音を響かせ、『鉄の騎馬』に乗った13人の騎士と、白銀の衣を纏った1人の魔導師が門をくぐり、目の前を通り過ぎていった。
それが俺が初めて見た『聖グリュフィス・シバース』と13人の超常的騎士団『パラノーマルナイツ』だった。
占拠していた1,000を下らない魔族達を僅か14人が倒し、街を解放するのに時間はかからなかった。
かくして、この街は騎士団の拠点となり、俺は『聖グリュフィス』達と行動を共にする事になる。
人間と魔族が本格的に戦争になるのは、それから半年あまりが経ってから。
もとより、魔族側の目的が『水資源の独占』である以上、衝突は避けられなかっただろうけど、それでも『聖グリュフィス』は戦争を避けるために手は尽くしたんだ。
『パラノーマルナイツ』だってそうだ。力無き正義は無力って奴だ。
だが、魔族はその上を行く力でそれに応える。
これまで決して一枚岩では無かった魔族達は、魔王を名乗る人物の元に結集し、さらに最強の生物兵器『ドラゴン』を投入してきた。
泥沼化するかと思われた戦況は、『犬』と『預言者』の本格的な介入によって聖グリュフィス側の優勢に変わっていく。
『ワルダクリスタ砦解放戦』
『アグリ平原の戦い』
2つの大きな戦闘で勝利した『聖グリュフィス』はらついに魔王軍を追い込み、魔族の拠点都市『ディシディシー』で決戦を迎える。
激戦の末、『聖グリュフィス』は『魔王ディルヴァ』との一騎討ちに勝利するが、直後『ディシディシー』上空に超巨大魔獣が現れる。
『魔王ディルヴァ』が敗れると共に、世界を滅ぼすために起動するよう仕掛けられていた『ファルシスファ』だ。
起動した『ファルシスファ』は、真っ直ぐに聖地エヴァレッティアを目指し、破壊の限りを尽くしながら進んでいく。
『聖グリュフィス』になす術は無く、絶望的な状況のまま『ファルシスファ』が城塞都市に迫ろうとした時、エヴァレットの塔から何かが飛んで来る。
それは『天駆ける鉄の騎馬』
『天駆ける鉄の騎馬』は『ファルシスファ』の前で『鉄の巨人』へと姿を変え、最終決戦が始まる。
圧倒するかと思われた『鉄の巨人』だったが、『ファルシスファ』の驚異的な回復能力によって決め手を失い、やがてじり貧になっていく。
その最中、あの『鉄の巨人』こそ伝説の『聖女の剣』であると確信した聖グリュフィスは、自分達にもできる事は無いかと『預言者』に協力を仰ぐ。
巨大な魔法陣を形成し、ありったけの魔力を振り絞って『ファルシスファ』の回復能力の封印を試みる。
その魔法が『ファルシスファ』に通じるかは未知数で、一種の賭けみたいなものだったが、功を奏する。
『鉄の巨人』も封印魔法の効力がある、僅かな時間を逃さない。
両腕を切り落とし防御ができなくしたところで、最後の一撃に全身全霊をかける。
『ファルシスファ』の胴体は真っ二つになったかと思うと、まるで土でできた人形のように崩れ去り、完全に消滅するのだった。
対した『鉄の巨人』も力尽き、大地へ落下する。
落ちた『鉄の巨人』の元へ駆けつけると、その中から一人の男が出てくる。
「やはり…貴方が『聖女の剣』だったのですね?」
聖グリュフィスの問いかけに男は答える。
「そんな格好良いもんじゃないさ。俺はただ、自分の目的のためにあいつに尻尾振ってる『犬』みたいなもんだ」
「パラノーマルの意味?それはね、大昔の言葉で『超常現象』って意味なんだ。
…君も魔獣だから言ってしまうけど、彼らも広い意味では魔獣なんだよ。
でも魔獣と戦う者も魔獣というと、反発する者も出てくるのでは…というのがあってね…」
俺が聖グリュフィスからその話を聞いたのは、戦争終結からしばらく経っての事だった。
「だから、彼らは魔獣ではない。魔法とは違う説明不能な何かで生まれた特殊な人間って事にしようってなってね…それで苦し紛れに生まれたのが『パラノーマル』という訳さ…」
そう語る聖グリュフィスが、何故かとても悲しそうに見えたんだ…




