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城下町の魔法少女  作者: あしま
第四章 剣王祭
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リック・パーソンの剣王祭3

 戦争が無い時代に孤児となる子供は、事故や病で両親を亡くすとかがほとんどでしょう。あとは産まれたばかりの子が孤児院の前に置き去りにされてるとかが、希によくあるくらい…か…


 引き取り手がいない事情は様々でしょうが、彼女の場合はちょっと特殊なのではないだろうか?



 メリル・ジョイスの両親は、王都の商業地区で宝飾店を営んでいました。


 それなりに裕福な家庭で、両親の愛情にも恵まれ何不自由なく育ちます。


 幸せな家庭が一転するのは、メリルが8歳の時。


 両親の営む宝飾店に白昼堂々強盗が入り、たまたま遊びに来ていたメリルも巻き込まれてしまいます。


 命乞いをする間もなく両親は殺されてしまい、隠れていたメリルも敢えなく見つかってしまうのです。


 自分も殺されてしまう…


 そう絶望する彼女を救ったのは、通りすがりの一人のシバースの少女でした。


「救える命があって救える力があるのに、つまらぬしがらみで救う事が許されないなら、何の為のシバースか!」


 彼女を救った当時11歳の少女が、少女の行動を咎める大人達に言い放った言葉は今でも彼女の胸の中に残っています。


 そうして彼女は、必然的にシバースに憧れる事になりますが、当時もシバースに対して強い偏見を持つ者はいます。彼女の親族は、まさにそんな人達ばかり。


「シバースになりたい」


「私がシバースだったら、パパもママも死なずに済んだ」


「どうして私はシバースじゃないの?」


 そんな事ばかり言う彼女を疎ましく思い、誰一人引き取り手になろうとはしなかったのです。


 そうして彼女は聖グリュフィス聖堂孤児院に預けられる事になりました。


 転機は11歳の時に訪れます。


 シバースの能力は例外はあれど、遅くとも10歳までには覚醒するもの。


 自分はシバースにはなれないという現実に塞ぎ込んでいた彼女に


「強くなりたいなら、剣術でも習ってみる?」


 そう勧めたのは、当時のエルダーヴァイン家当主フィオナでした…ダリオさんのお婆様。


 フィオナは友人だった、ロイ・エステバンの道場に彼女を連れていきます。


 そこで、軽くお試し程度の手合わせをしてみたらさあ大変。


 相手をした並み居る門下生達を、ばったばったと倒してしまうのです。


 それはもう一目で次元が違うと分かる戦いっぷりで、彼女がパラノーマルである事を疑う者はいませんでした。


 エステバン家はかつては何人もパラノーマルを輩出してましたが、もう何代も輩出しておりません。


 なのでロイには、あまりよろしくない思惑もあったのかもしれませんが、そんな訳で彼女を養子にしたいと申し出ます。


 当初は養子になる事を渋るメリルですが、かつて彼女を見捨てた親族共が何処からともなく噂を聞きつけ、我こそはと引き取り手となる申し出をしてくる、という醜態を晒した事で、彼女は彼女自身の意思でエステバン家の養子になる決意をします。


 かくしてメリル・エステバンとなった彼女は、ロイの元で剣術を学び、2年後、かつて彼女を救った少女エリザベート・イヅチをパートナーに華々しく剣王祭デビューを飾るのです。



 その彼女の代名詞と言われる技が、八体残像。


 当時の彼女の桜色のコスチュームと相まって「花びらが舞うよう」と形容されたその技は、観る者を魅了しました。


 それは今もなお健在で


「大人げないな~」


 なんてノエルさんに言われてますが、マリーやユーリカ=ソフィアは勿論、大人達ですら映像以外でその技を観るのは初めて。


「ほう…」


「これは…」


「すごい…」


 一様に語彙力が低下するほどに、聖グリュフィス聖堂にいる面々を虜にするのです。


 ただ一人を除いて。


 当然それは、8体のメリル・ジョイスに囲まれたリック・パーソン。見とれてる場合じゃない。


 さあどうする?


 ヴィジェ・シェリルの残像攻撃は1対2の要領で対応できた。


 その、ヴィジェ・シェリルの4体残像を、3倍の12体の残像で潰したクルーア・ジョイスは、もう意味が分からない。


 1つ確かなのはヴィジェ・シェリルやクルーア・ジョイスのそれと、メリルのこれは目的が違う。


 前者は超高速反復運動からの連続攻撃で、とにかく攻撃を当てるのが目的。ほぼ分身に近いが、その分一撃一撃が軽い。


 対するメリルは、これまで残像を、純粋に囮として使っている。こちら側の的を絞らせない事。そうして隙を作る事が目的といった所か?


 詰まる所、この8体のメリル・ジョイスの内、1体が本体であり、それを見極められれば受けるかかわすかできるはず…


 いや…果たしてそうか?


 これまでのメリルの攻撃はどうだった?


 全てがそうでは無いにしろ、死角からの攻撃が多くはなかったか?


 目に見えるメリルは全て残像で、本体は死角から襲ってくるのではないか?


 そこまでの思考を一瞬で行い、リックは神経を研ぎ澄ます。最初の攻撃で感じた、空気の震えを探し始めたのだ。


 前…


 後ろ…


 右…


 左…


 上?…


 いない…何処にも空気の震えを感じない。


 それは8体の残像に対しても同じ事で、狙いは間違ってない。


 残る可能性は下だ。


 全神経を足元へと集中させた所で、空気の震えが大地を這う。


 それは猛烈なスピード近付いてきて、リックの真下で急激に上昇する。


 咄嗟に一歩下がりながら魔法剣を振り下ろすと、メリルの切り上げた魔法剣と衝突し、激しい金属音が鳴り響いた。


「うそ…」


 これまで1度も破られた事の無かった八体残像が破られた瞬間である。


 メリルは勿論、大人達が驚愕の表情をしている。


 だが、まだ終わった訳じゃないと、メリルはリックの剣を弾き、距離を取ろうとする。


 そこで


「そこまでにしましょう」


 シニャック老の一言で、この模擬戦は終了となった。


「なんで!?」


 が、負けず嫌いが発動してるメリルさんは納得がいかないご様子。


「落ち着きなよ~、これ以上はリカちゃんが持たないよ~?」


 言われて、ユーリカ=ソフィアを見やると、消耗してふらふらになっている。


 熱くなって周りが見えなくなっていた。


「ほんとそういう所、クルーアちゃんとそっくりだよね~」


 悪い所が似ていると言われて面白い訳もなく、じとっとした目でノエルさんを睨むメリルさん…ノエルさんは嬉しそう。


 にしても


「大丈夫ですか?ユーリカさん」


「は、はい…なんとか…」


 ユーリカ=ソフィアの魔力不足は深刻のようだ。


「あれで何で魔法少女は空飛べるのかね?」


 そんな疑問を持つのは、魔法を使えないメリルさんだからで


「それはですね?彼女が人が空を飛ぶという事に何の疑問も持ってないからです」


 というのが答えらしい。


 ダリオさん曰く、魔法少女エリエル・シバースにとって空を飛ぶとは、せいぜい軽めのランニングくらいの事なのだろうと…


 やはり魔法の使えない者にはちょっと分からない…



 さて、そんな立場的に聞き捨てなら無い会話をすぐそばでされているのに、全く気付かない人物が1人。


 リック・パーソンくんは、張り詰めた糸が切れたようにへたり込んでいる。


「大丈夫か?リック」


「は、はひっ!」


 フェリア先生に、急に声をかけられ、思い切りビクッとなってしまいます。


「しかし、すごいな。メリルさんの技を破るなんて…」


 いくらなんでも、永世剣王相手にここまでやるとは思ってなかった、というのが正直な感想。


 それは、ここにいる全員が同じ事ではあるけれど、1人だけちょっとだけ違う感想を持ってる人がいる模様。


「珍しいですね?『防御タイプ』のパラノーマルなんて久しぶりに見ましたよ…」


 そのシニャック老の一言で


「ああ、そういう事か~」


 ノエルさんも、得心を得る。


 けれど、理解したのはこの二人だけで


「…はい?」


「防御タイプ?」


「何の事です?」


 他の人達は一様に頭の上にクエスチョンマークを出している。


「え~!メリルも知らないの~?」


「う、うん…何の事なの?」


 当事者であるメリルさんにも、その知識が無いのが意外ではあるけれど、それが返って嬉しくて


「そっか~…じゃあちょっと説明しようかな~」


 ドヤ顔のノエルさんによって、パラノーマルについての講義が始まるのです。

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