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城下町の魔法少女  作者: あしま
第四章 剣王祭
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リック・パーソンの剣王祭

 昼下がり…


 庭のテラスにて、穏やかな日差しと優しい風を浴びながらの遅めのランチを和気あいあいとしながら皆で楽しむ…


 そんな非現実な世界がある事への感慨にふけるより、あまりに場違な状況に居たたまれない気持ちを抑える方にリック・パーソンは忙しい。


 本日、ここ聖グリュフィス聖堂に来る事になったのは、フェリア先生の呼び出しに応じての事だけれど、彼女だって超名家エルダーヴァイン家のご令嬢。


 すっかり慣れてしまい忘れがちになってしまってるけど、普通ならお知り合いになる事なんて有り得ない雲の上の人物。


 さらに今日はそのご両親、エルダーヴァイン家当主とその夫人も同席してる。


 夫人であられるノエルさんに至っては国王陛下の実の姉な訳で…


 なんだこれ?


 聖堂の管理人と紹介されたご老人も、一見して普通のお爺さんにしか見えないのだけれど、こんな凄い人達と自然に会話をしているあたり、いったい何者なんだろう?という疑問が沸くというもの。


 いや、そもそもここの管理人というだけで、ただ者ではあるはずは無いのか…


 ここは特別区。法が介入できない聖地なのだから。



 そこまで思考したパーソンくん、自分がとんでもない場所にいるのだと今更ながら気が付き、さらに居たたまれなくなる。


 そんな彼とは、また別の理由で所在なさげにしてる少女がいるというのがちょっとだけ救い。


 しかし…まあ…救いではあるのどけれど髪がピンク色…ピンク…ピンク…


 同世代だと思われるユーリカと名乗ったピンク髪少女…せっかくだから話しかけてみようか…と、思うパーソンくんだけれど、同世代女子とほとんど接点の無い彼が、どんな風に話しかけて良いのかを分かるはずもなく…思春期か…


 それにしてもこの少女、どこかで会った事があるような気がする…


 気がするのだけれど、これだけインパクトの強いピンク髪少女を忘れる事があるとも思えない。気のせいだろうか?


 などと考えてチラチラ横目で見ていたら、うっかり目が合ってしまってドキドキしてしまう…いや、そういえば思春期真っ盛りだったなパーソンくん…


 と、そこへ


「おっまたせー!」


 という大きな声とともにメリルさんが登場。


 この人の圧の強さには、自分の母親に近いものを感じ、パーソンくんはちょっと苦手。


 で、メリルさんの横にはマリーがいる。


 不可抗力とはいえ、先程うらやましい事にマリーの裸を目撃したパーソンくん。


 その光景が鮮烈に残ってるものだから、顔を真っ赤にして目を背けてしまう…うん、思春期思春期。


 それを察知して


「若いわね」


 言ってるメリルさんとは対照的に、マリーはその事をあまり気にしていないご様子。


 着席を促されて、席に着きながら


「ね~、私の事覚えてる~?」


「あ、はい。ノエルさん…ですよね?」


 なんて会話をしながらも、どこか上の空で、そわそわ、きょろきょろしている。


「マリーさん、どうかしましたかな?」


 それをいち早く察知したのは、シニャック老で


「いえ、あの…今日はお兄ちゃんはいないんですか?」


 というのがマリーのそわそわきょろきょろの理由。


「そうですか…メリルさん、まだクルーアの事、話してなかったんですね?」


 というシニャック老に対する


「言えないか…そりゃ言えないよね?」


 ノエルさんの一言を切っ掛けに


「まさか…あんな事になるなんてね…」


「本当に…残念です…」


「メリル、気を落とさないでね?」


「ありがとう…でも…アイツも本望だと思うんだ…」


 大人達が何やら悪ふざけを始めるから


「いや、なんかクルーアさん死んだみたいな雰囲気になってますけど、生きてますからね!」


 堪えきれずにツッコミを入れたのは、意外にもパーソンくん。


「プ…アハハハ!」


 それを見て吹き出し


「はー…そういえば、こういう人達だったな…」


 感慨深げに呟くマリー。


「ま、その辺りの事は食べながら話ましょう!」


 メリルさんの号令で食事が始まり


「美味しい…お母さんの味だ…」


 またも、ぼそりと呟くマリーの一言を聞き逃さなかった大人達が、ニコニコ微笑みながらマリーを見ている。


 その視線に気付いたマリーが


「いや…アハハ…」


 照れている姿を見て、またぞろドキドキしてしまうパーソンくんは、いまいち食事に手を付けられない…




 そんな中、ユーリカ=ソフィアだけが、ずっと所在なさげにしている事に気付いたのは、パッと見猫にしか見えない魔獣だけ。


 スッと近付きパッと膝の上に乗り、横になってくつろぎだすシャルルさんに、最初は驚くユーリカ=ソフィアだけれど、なんとなくそれがシャルルさんなりの気遣いだと感じたから


「ありがと」


 誰にも聞こえないような小声で言うと


 “マ、気ニスルナ”


 男前の声がユーリカ=ソフィアの脳にだけ響くのです。




 さて、現在拘置施設に拘留中というクルーア君の状況、まるで死んでしまったかのような扱いは冗談としても、決して楽観できるような物では無いはずで


「そ、それは、だ、だ、大丈夫なの?」


 普通ならこんなマリーのように動揺する所なのに


「そうよね~、クルーアちゃんなら自力で出てきちゃいそうだし~」


「それは…流石に洒落にならないわね…」


 心配のベクトルがかなりズレてる大人達。


「いやいや、クルーア君だってそこまで無茶はしないでしょう?」


 というダリオさんの一言に


「いやいや、彼を侮ってはいけませんよ?」


 年長者のシニャック老まで、こんな事を言い出すもんだから若者達は苦笑い。


「まあ真面目な話、お咎め無しって訳にはいかないでしょうね」


「魔獣を倒した功績を鑑みても、罰金刑か禁固数ヶ月…って所ですかね?」


「やだ、あの子お金有るのかしら?罰金立て替えなくちゃいけなくなったらどうしよう?」


 等という大人達の会話が、楽しそうにしか聞こえないし、実際楽しくはしゃいでる訳ですけど、放っておいて話を進めます。


「それにしても、あの後そんな事になってたなんて…」


 マリーが気を失ってる間に起こった事は、俄には信じられない事で、最初は「またまた~」と真に受けてなかった。


 何しろ『魔獣』である。


 マリーに限らず、一般的にそれはお伽話とか伝説上の生き物という認識でしかない。


 その巨大すぎる亡骸が、未だ処理する事ができず、ここから程近い場所に横たわっているという事実が無ければ、到底信じる事などできるはずが無かった。


 そう、あれデカイわ硬いわで処理できないでいるの…


 季節的に既に酷い腐臭を放ってそうなのだけれど、どうやって処理するのだろう?


 ま、そのうち誰かが魔法か何かでパーっ処理するのでしょう、うん、きっとそうだ。



「また、あんなのが出てきたら、対処できるのなんて、今のところクルーアちゃんくらいしかいないだろうしねー。」


「罰金か…罰金かぁ…」


 と、まあ実際に罰金刑になったとして、メリルさんが立て替えなくてはいけなくなるかは分かりませんが、こんな感じで終始穏やかに会食が続きます。


 ですが、本日の本題になかなか入りません。


 現在話題の中心にあるのは主にクルーア君ではありますが、本日の主役は本来パーソンくんのはずなのです。


 マリーがこの日に目を覚ましたのだって、偶然な訳ですからね?


 そのパーソンくん、何度も言いますが、この状況にどうしても馴染めない。


 馴染めないから早く帰りたい。


 早く帰りたいから、早く話を進めたい。


 早く話を進めたいけれど、今の状況に水を差したくない。


 水を差したくないけれど、やっぱり早く帰りたい…


 と言う事で、帰りたい気持ちが水を差したくない気持ちに勝ったところで


「あ、あの…」


 勇気を振り絞って声を上げると


「ん?どうしたリック?」


 自分を呼び出した張本人である、フェリア先生が惚けた事を言うもんだから、内心でムッとする。


 内心でムッとはするけれど、それを表に出す勇気なんてパーソンくんにあるはずもなく、グッと堪えて


「あの…今日僕がここに呼ばれた理由なんですが…」


 言えば


「あ~忘れてたね~」


「あ、忘れてた忘れてた…」


「すまん、すっかり忘れていたよ…」


 と、完全に忘れ去られてた事が発覚する…


 うん、発言して良かったねパーソンくん。発言してなかったら、これ今日は本題に入る事無く散会ってなってたよ…多分…


 という事で


「それでは私は準備をしますね」


 言って、ダリオさんが席を立った所で、ようやく本題に入ります。




「さてリック…この前も聞いたが、剣王祭に出てみる気はないか?」


 わかってた事ではある。他に自分が呼び出される理由は思い当たらない。


 魔獣事件の後、フェリア先生に「推薦人を紹介する」と言われた。という事はこの中に推薦人になってくれる人がいるのだろう。


 剣王祭は誰もが憧れる大舞台であり、それはパーソンくんだって例外ではない。


 出場できるものなら出場したいけれども…だ…パーソンくんは、まだ半信半疑なのである。


 自分がパラノーマルであるという事に…



 確かに、子供の頃から人より運動神経は良かったし、剣術でも負ける事は無かった。


 しかし、それはあくまで常人の範囲内であり、超人であるパラノーマルには遠く及ばない…


「でも、ヴィジェ・シェリルと戦って生きているのだろう?」


 それだって、防戦一方でとても「戦った」と言えるようなものではない。攻撃を防げたのだってたまたまかもしれないし…


「た~またまで、防げるほど~、ヴィジェ・シェリルの攻撃が甘いものだとは思えないけどな~」


 それはそうかもしれないけど、手を抜いてたかもしれないし調子が悪かったかもしれないし…


「ま、実際に現場を見てた訳じゃないからね?何とも言えないけどさ」


 そう、実際にあの現場を目撃してた人はここには…


「あ、私見てましたよ?」


 …いた…マリー・クララベルはあの時現場にいたんだった…


「あの魔女が手を抜いてたという事は無いと思うし…リックさん?も実際凄かったですよ?私、もうダメだって思ってた…」


 そうは言われても、やっぱり自信がない…


「ふーん…」


 そんなパーソンくんの気持ちに気づいてるかは分からないが


「ま、いずれにしても、ちょっと手合わせしてみたいかな?」


 言って、立ち上がったメリルさんは、荷物をもって戻ってきたダリオさんの方をニコニコしながら見ている。


 この人の圧の強さには、自分の母親に近いものを感じちょっと苦手であった…


 今もこの人の圧力に押されている事に変わりはないけれど、その圧力の質がさっきまでとはまるで違う事をリック・パーソンは感じ取っていた。

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