クルーア・ジョイスの剣王祭2
「むしろ、何故拒否権があると思ってる?」
拒否権が無いような物言いに対して、思いきって抗議したクルーア君に、エリザベートが驚愕した表情で返した言葉がこれである。
とは言え
「お前は自分の置かれてる立場を理解しているのか?刑法犯」
言われてしまえば、事実刑法犯である所のクルーア君は「ぐぬぬっ」ってなるしかない。
つまるところ、剣王祭出場+優勝が保釈の条件という所だろうけれど、それがどうしたって戴冠式とは結び付かない。
「えー、クルーア君剣王祭出るの?私と当たったらわざと負けてくれる?」
とか、惚けた事を言ってるイヅチ先輩はとりあえず放っておいて
「剣王祭優勝と戴冠式に何の関係があるんですか?」
クルーア君は、若干不貞腐れたような態度でエリザベートに問う。
「ふむ、抑止力だよ?」
ふむ、…いや、言わんとする事はなんとなく分かるのだけれど…
「それでは、あまりに言葉が足りなすぎるよ?エリザベート」
という事になりますよ。
でも、それを国王陛下に言われるのは何となくイラっとするので、詳しい話はジオット将軍お願いします。
「近年、パラノーマルの減少が著しい…我が国でも今や現役は二人だけ…私を含めても三人だ…」
多い時でも国内10人を超える事は無いパラノーマルではあるけれど、それでもこの人数は少ない。これは分かりやすく弱体化である。
「我が国だけの問題では無いがな…」
国家間の取り決めによって、パラノーマルが戦争に参加する事は禁じられている。
よってパラノーマルの仕事といえば、パナス王国のように近衛として王族の警護にあたるとか、都市警備とか限られたものになる。
とはいえ、各国が剣王祭に選手を送り込むのも、自国のパラノーマルをアピールするためというのがあるくらいには、パラノーマルの存在が各国のパワーバランスに多大な影響を持っている事には違わない。
その数が減少してるという事は、国家間のパワーバランスとは別に重大な驚異を招く事に繋がる。反社会勢力の台頭がそれ。
その反社会勢力の代表格『シバース教アナトミクス派』は、ここパナス王国で、おそらくは戴冠式に合わせて行動してるとみられる訳で…
「クルーアには、奴等に対する抑止力となってもらいたいのだ」
という事らしい。
それは分かるが、ここで一つ疑問が沸く。
「戴冠式自体、止めちゃう訳にはいかないのです?」
スカーレットが、ボソッと言った一言がそれだけれども
「無いな…」
それはあっさりと一蹴される。
アナトミクス派の目的が何であれ、テロに屈するという形で中止に追いやられるのは、それこそ対外的にもよろしくない。
要はメンツの問題な訳だけれど、一度中止に追いやられてる事実があるから尚更だ。
さておき、国王側の目的は分かった。
しかしながら、いまだそれが剣王祭優勝とは結び付かない。
クルーア君が剣王祭で優勝したくらいで、アナトミクス派への抑止力になるかはあまりにも未知数。
つまるところ「抑止力になってもらいたい」という言葉には、剣王祭優勝以外の意味が含まれると思われ、そこから考えられる事は多くは無く、クルーア君は深くため息をついてから
「…俺はもう国家の犬に戻る気は無いですよ…」
やんわりと拒否をする。
それは、抑止力の意味が近衛になるとか、軍属になるとか、クルーア君の古巣である守護隊への復帰であるとか、そういったものだと考えたからだけれど、相手側は
「それは期待してないよ…」
…という事で、では、何を期待しているというのか?
「さて…我が国には国家機関に属する事なく帯剣が認められ、自らの判断で剣を振るう事ができ、それが国家国民のためと判断するならば国王にさえ剣を向ける事が許される特権階級が存在するの知っているか?」
知ってるも何もない。
現在、その特権階級にある人物は二人だけであり、内一人はクルーア君がとてもよく知る人物であるからして、その階級についてはそれなりに詳しいのである。
「自由騎士…ですか?」
自由騎士。
何者にも忠誠を誓わず、ただ己れの信念でのみ剣を振るう事が認められたもの…
本来は勇退する近衛騎士や殉職者等に送られる名誉階級でしかなく、その特権が行使される事はまず無いのだけれど、何事にも例外はある…
という事で、つまりだ…
「え…まさか…剣王祭に優勝したら俺に自由騎士にしてくれるとでも?…」
という事をエリザベートは言ってる訳…ですか?
「そういう事だ」
いや、真顔で言われましても…いやいやいやいや、「そういう事だ」じゃないでしょ?
陛下に対して一物ある自分なんかに自由騎士の称号を与えるのはいろいろと不味くないか?とか、いろいろ思う所はあるけれど
「剣王祭に一回優勝したくらいで自由騎士はいくらなんでも無理があるでしょ?」
というのが当然の疑問であって、先ず世論が納得するはずが無い。
それに対してエリザベートは
「建国500年記念、剣王祭200回記念、即位10年記念、それに魔獣討伐の報酬って事で十分だろ?」
という理屈で世論を押し切ろうとする。
それにしたって、自由騎士は荷が重いから
「そういうのって議会の承認とか必要だったりするんじゃ…」
なんとか言い訳を考えて、逃げ道を確保しようとするけれども
「自由騎士の付与は、いまや私に残された数少ない権限の一つだよ…議会は関係ない」
国王陛下に逃げ道を塞がれ、クルーア君は頭を掻く事になるのです。
さて、冒頭「何故拒否権があると思っている?」なんて事を言われたけれど、本当に拒否権が無い訳ではない。断ろうと思えばいくらでも断れる。
けれど本当の所、クルーア君には最初から断るという選択肢が無い。
「帯剣が認められれば、魔獣騒動のような事がまた起こっても、今回のように面倒な事にならないだろ?」
それは、確かに魅力的ではある。
自由騎士は大袈裟ではあるが、帯剣が認められてしまえば、今現在クルーア君が直面してるような状況は避けられるのだから。
しかし、そんな理由が有ろうが無かろうが断るつもりなんてはなから無く、それは今ここにいる面々にはとっくの昔にバレバレだから
「ハァー…分かりましたよ…分かりました!」
なんて、言い方で誤魔化してみても
「素直じゃないな~クルーア君」
言われてしまう始末だ。
「だって、剣王祭の話出てから、クルーア君ずっと目キラキラさせてるじゃん」
「チッ…」
だからイヅチ先輩は苦手なんだ…とクルーア君は内心思っているが、それはもうここにいる全員が分かってた事。なのでユーリカ(本物)にもクスクス笑われてしまう。
その姿を見て観念したクルーア君は
「そうだよ、出たいよ…出たいに決まってるだろ!」
ついにその思いをぶちまける。
剣王祭なんか出たいに決まってる。
むしろこの国で生まれ育った人間で剣王祭に出たくない人間なんかいるのか?とクルーア君は言いたい。
少しでも剣術を習った事があれば尚更だ。
10年前あんな事件があって、こんな能力に目覚めるまでクルーア君はどこにでもいる普通の男の子だったんだ。
毎年大勢の人間が聖グリュフィス聖堂に集まって大画面でパブリックビューイングするのが楽しみだったんだ。
亡き父と会場に観戦に行った思い出もあるんだ。
憧れない訳がない…
なんとなく…事件があって、能力の事があって、なんとなく諦めてしまっていた…
自分には縁の無いものだと思い込んでた剣王祭に、経緯はどうあれ出場できるかもしれないってんだ。
そりゃ目だってキラキラ輝くさ…
「決まりだな…」
とは言え、全てを見透かしたようなエリザベートがやっぱり少し面白くはないから
「チッ…」
と、舌打ちだけはしておく。
「パートナーとなるシバースはこちらで準備しておく」
この言葉を、もっと気にしておくべきだったのだけれど、この時のクルーア君は舞い上がっていて、もうそれどころではなかったんだ。




