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城下町の魔法少女  作者: あしま
第四章 剣王祭
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そんな訳で1ヶ月ほど時間を遡る

 目下、帯剣禁止法違反で勾留中という立場のクルーア・ジョイス君。何故か馬車に揺られ、王城に向かっている。


 留置施設から直行となったのだけれど、そこは同乗するパトリック・ジオット将軍が用意周到。小綺麗な格好に着替えさせている。



 件の魔獣騒動で、国王陛下自ら謝辞を言いたいとかでの召還なのだけれども、そんな単純な話じゃないだろうな?って事は容易に想像できる。


 それなのにもかかわらず、クルーア君が陛下の召還に素直に応じるのは、現在『あの子』…エリエル=ソフィアが置かれてる状況に対して思うところがあったから。


 聞きたい事も言いたい事も山ほど有るって事で、ジオット将軍と馬車で二人きりという状況にも文句を言わず、城門までやってきた。


 この間一言も言葉を交わす事は無かったのだけれども…



 それはさておき、ロールプレイングゲームなんかだと冒険者が王城を自由に出入りできたり、王様と自由に話したりするけど、どんだけセキュリティガバガバなんだよって話で、普通は有り得ないでしょ?有り得ないよね?


 少なくても、ここグランパナス城は、警備は万全。簡単には入城できないようになってます。


 ほとんどの一般市民には一生縁の無い場所であり、外から眺めるのが精々なのだけれど、クルーア君がここに入るのはこれが初めてではないのです。


 ただ、その時の事はクルーア君にとって苦い思い出であり、封印したい黒歴史に分類される事。


 できる事なら二度とこの場所には近付きたくなかったという思いもあるのだけれど、ここまで来たら引き返す訳にもいかない。




 衛兵に入城手続きを行うのを待つ事数分。無事入城許可を得て城壁をくぐれば、王城の全容が眼前となり


「チッ」


 沸き上がる苦い思い出と共に、ずっと我慢していた舌打ちが出てしまう。


「…クルーア」


 その様子を見たジオット将軍、「陛下の事を殴るかもしれない」と言ったクルーア君の言葉が、決して冗談ではない事を知っているから気が気でならないのだけれども


「大丈夫ですよ…」


 今はその言葉を信用するしかない。






「お前が死ねば良かったんだ!」


 当時10歳だったクルーアが国王陛下に向かってそう言い放ったのは、陛下を庇い殉職した父クロードの叙勲式での事。


 その言葉は、ジオットにこそ響いた。


 当時ジオットは近衛騎士隊長。本来、国王を護るのは自分の役目。


 その役目を果たせなかったばかりか、警備に当たっていた守護隊隊員の1人を死なせてしまった…それも実の弟を…


 死ねば良かったのは自分ではないか?という思いがずっとあるのだけれど、不思議とその事でクルーアに責められた事はない。


「チッ」


 その代わり顔を合わせる度に舌打ちをされる訳だけれども、そういう経緯があるから、これは仕方がないんだと諦めている。


 しかし、本当に国王陛下に暴挙を働くのであれば話は別。看過できる訳はない。


 看過できる訳はないのだけれど、10年前、ジオットを含めパラノーマルが三人かかっても暴れるクルーアを抑える事ができなかったという事実がある。それをなんとか止める事ができたのは、クルーアの母メリル・ジョイスがその場にいたから。


 そのメリルのいない今日は、何かあればクルーアを止める術はない。


 まあ子供ではないのだから…とは思いつつも、ジオットは不安で仕方がなかった。




 それは、実はクルーアも同じ。


 怒りたくて怒る訳じゃない。暴れたくて暴れる訳じゃない。何よりそんな疲れる事をしたくないし、なるべくなら穏便に事を進めたい。


 しかし、父クロードの直接の仇である、アルフォンス・ジェリコーを前にして、逆上し取り乱して大失敗したのはついこの間の事。


 10年前の出来事が、いまだに自分の心に深く傷となって残っているという事実に、クルーア自身が驚いていた。


 今、国王陛下に何か余計な一言を言われたら、自分を抑える自信は全く無い。



 そう…何より不安なのはあの王様が、そういう余計な一言をぽろっと言ってしまうタイプの人間だという事なのだ。




 と、まあここまで来てとうとう召喚に応じた事を後悔し始めたクルーア君。逃げて逃げられない事もないだろう…よし!逃げてしまおう!って事で踵を返した所で


「お待ちしておりました!」


 聞き覚えのある女性の声で呼び止められるから動きが止まる。


 その声に対して後ろを向いてる状態なので確認する事ができないが、それはつい最近聞いたばかりの声で間違いない。


 その人物がジオット将軍に敬礼をし、ジオット将軍もそれに敬礼で返したところで、恐る恐るゆっくりと振り返ると


「やあ!クルーア君」


 そこにはアヒル口が特徴的で、いつもニコニコ笑顔を崩す事のない


「イヅチ先輩…」


 が、立っていた。



「何で…」


 こんな所にいるんですか?と聞きそうになったけれど、そもそも彼女は近衛騎士。


 先日の魔獣騒動。シバース教アナトミクス派のパラノーマル、ヴィジェ・シェリル対策で、要請を受けて出動したのが特殊な事例であって、王族の警護こそが本来の彼女の任務。王城に彼女がいるのは当然の事なのです。


 その事をすっかり失念していたという事は、とっくにクルーア君が冷静さを失ってた事を意味するのだけど、ここで彼女と出会った事でちょっとだけ落ち着きを取り戻し、ちょっと落ち着きを取り戻せば、他にも失念してる事があるのに気付くのです。


 そもそも、王城だからって王様だけがいる訳じゃない。当たり前だけど、ここには様々な人間が出入りし働いていて、その中にはクルーア君の見知った人物も何人かいる訳です。


 スカーレットの登場で逃げる気の失せてしまったクルーア君が、案内されるまま入った応接室で待ち構えてた人物もその一人。


 悪意が全く無いように見えるスカーレットの笑顔とは対照的な、悪意しか感じない微笑で


「久しいな?クルーア」


 なんて語りかけてくる、エリザベート・イヅチがそう。


 スカーレットとエリザベート。この母娘がこの場にいるというだけで、実は充分にクルーア君が暴れた時のストッパー役…と言うよりは暴れさせないための抑止力の方が正しいかな?になってる。


 なにも腕力で抑えるだけが抑止力ではないのですよ。


 しかし、そんな事とは知らないジオット将軍は、今ここに陛下がいない事でクルーア君が機嫌を損ねないかと戦々恐々。


「陛下は?」


 ちょっと焦り気味にエリザベートに尋ねます。


 それにしてもジオット将軍、いくらなんでもクルーア君に対して怯えすぎではなかろうか?


 流石にちょっと不自然に思えてきましたけど、その事に興味の無さそうなエリザベート。


「もうじきいらっしゃいますよ?」


 悪意しか感じない微笑を崩す事なくそう答えるのに、一拍遅れてクルーア達の入ってきたのとは別の扉が開く。


 同時に、ジオット、エリザベート、スカーレットの三名が流れるような動作で跪くもんだから、クルーア君が面食らってる所に


「待たせてしまったかな?」


 本当に申し訳なさそうに言いながら、国王シルドラ・パナスが入ってきた。


 クルーア君、こういう時どうしたら良いのかわからない。戸惑いを隠せず若干挙動不審になっていると


「クルーア君…」


 スカーレットに小声で話しかけられ、やはり自分も跪かなくてはいけないのか、と判断。


 見よう見まねで跪こうとするけれど、国王陛下に続いて部屋へと入ってきた人物を見て動きが止まってしまう。


 彼女がここにいる事を失念してた訳ではない。ただ彼女がこの場に同席するとは全く想定していなかった。


 さて、今の彼女をなんて呼べば良いのだろう?


 本当は『姫様』と呼ばなければいけないのかもしれないけれど、クルーアは彼女が『姫様』じゃない事を知っている。


 何より彼女もまた自分にとって大切な人。10年ぶりに合う家族である。


 だから、それが間違ってようがなんだろうが彼女の事はこう呼ぶんだ。


「リカちゃん?…」


 何年かぶりにその愛称で呼ばれた少女ユーリカ・マディン(本物)は、少し戸惑いながら


「うん…リカです。クルーアお兄ちゃん」


 そう答えるのです。











「そっか…今はクララベルを名乗ってるんだ」


 所変わって聖グリュフィス聖堂内孤児院。マリーの部屋。


 元々着ていた服以外に着替えを持っていないマリーに対して、やたらフリフリした服を着せようとするメリルさん。それをなんとか制したマリーが、シンプルなシャツとショートパンツに着替えた所。


 ちょっとだけ母娘二人きりで、この10年の事を話していました。



 ここにいた時のマリーは、戸籍上もジョイス家の人間だった訳です。


 しかし、シバース教アナトミクス派によるテロ事件の後、事件に巻き込まれ、その中心にいたマリーは、何故か国王命令で国外追放となります。


 6歳の子供を国外追放とか頭おかしいんですよ、あの王様。


 ともかく、それでもってマリーは国を追われる事となるのですけど、流石に6歳の子供を一人で旅立たす訳にはいきません。誰かが付いていかなくてはという事になりました。


 そこで名乗りを上げたのが、当時この孤児院で働いていたナオミ・クララベルだったのです。


 そのクララベルの姓をマリーが名乗ってる事に思うところあるメリルさんですけど、まず確認したい事は


「ナオミさんは、今どうしてるの?」


 であり


「…2年前に亡くなりました…」


 との事。


 聞けば、王国を離れてからの二人は様々な理由で一つ所に落ち着く事ができず、移動移動の繰り返し。その無理が祟ってしまったのだろうという事。


「そっか…」


 かける言葉の思い付かないメリルさん…沈黙を作ってしまう。


「あの…お母さん?」


「なーに?」


 その沈黙を破ったのはマリーの方。


 ずっと疑問に思ってた事を、この話の流れで聞いてしまおうと思い立ち


「ナオミさんって…私の本当の…」


 そこまで言いかけた所で、メリルさんは静かに首を振る。



『私の本当のお母さんなの?』


 マリーの聞きたい事はすぐにわかる。


 でも


「ナオミさんから直接その話を聞いた事は無いの」


 というのが事実。


「でも、まあ、そうだろなって思ってたけどね?」


「だよね?」


 孤児院の前に捨てられていたマリーをメリルさんが引き取ってから二年ほど経ったある日、不意に現れたのがナオミさん。


 会った瞬間、直感的にマリーの実母だと気付いた。


 当然今更何しに来たんだって思いますし、「自分が母親だ、娘を返せ」なんて言うのだったら一発ぶん殴ってやるところなのだけど、ただただここで働かせてほしいとだけ懇願されて絆されて雇う事になる。


 その仕事ぶりは至って真面目で、マリーを特別扱いするような事も無かったから、マリーの実母だというのは思い過ごしだったのかな?とさえ思うようになってきた所に、クーデター未遂事件が起きる。


 追放されるマリーに付き添う事を申し出る姿は鬼気迫るものがあって、それを見ていたメリルさんはナオミさんがマリーの実母であると確信するのだけれど、当時はメリルさんだって大変な時。


 あれこれ考えるよりも、その申し出を有り難く受け入れようと、マリーを任せる事にした。


 あれから10年。再会したマリーがクララベル姓を名乗ってると聞いたから


「てっきりナオミさんが、母親だって名乗ったのかと思ったわ」


 だとしても、あの時マリーを守れなかった自分にナオミさんを責める事なんかできないと思うメリルさんだけど


「ううん…ナオミさんは何も言わなかったよ?」


 それを貫いたナオミさんは凄いと思う。


 もっとも、本当に彼女が実母だったのかはわからない。


 仮にそうだったとして、どんな事情で産まれたばかりの我が子を捨てたのか、どんな思いでここで働かせてほしいと懇願したのか、追放されるマリーに付いていくと決意したのか…確かめる方法はもう無い…


 なので彼女が実母であるというのはあくまで仮定なのだけれど、その仮定が事実であるとして


「ナオミさんの事、恨んでない?」


 聞いてみるけど


「なんで?」


 その質問はマリーには無意味。


 彼女は自分が実の母親に捨てられた事は知っている。しかし、その記憶は全く無いのだから実感もまるで無い。


 恨む恨まない以前の話であって、だからナオミさんに対しての思いは


「感謝しかないよ?」


 なのである。


 それが、なんだかメリルさんには嬉しく思えて


「そっか」


 自然と笑顔になり


「そうだよ」


 マリーも笑顔で返す。




 そうして母娘が笑顔で見つめ合う事数秒…


 きゅるるるって割と大きな音が鳴る。


 メリルさんは一瞬何の音か分からなかったのだけれど、マリーの顔がみるみる赤くなっていくのを見て、それがマリーのお腹が鳴た音だと気付いて大爆笑。


 何しろマリーは3日も眠り続けていたので、3日も何も食べてないのです。


「お母さん、お腹すいた」


 恥ずかしそうにそう言うと


「そうだね?皆も待たせてるし、早くお昼にしましょうか!」


 メリルさんが答えてサッと立ち上がる。


 それに合わせてマリーも立ち上がろうとした所で


「あ!でもその前にもう1つだけ話とかなくちゃいけないや」


 メリルさん、とても大事な事を思い出す。


 え?まだ何かあるの?という思いは言葉に出さずに


「なに?」


 とだけマリーが聞く。


 それは


「リカちゃんの事」


 そして、魔法少女エリエル・シバースの事。

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