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城下町の魔法少女  作者: あしま
第三章 魔獣騒乱
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魔獣騒乱10

 ちょっと高い所まで登れば、貧民街は粗方一望できるという訳で、現場指揮官はそこから貧民街で起きてる事を覗き見ている。


 しかし、双眼鏡の先に映し出される光景はとても現実で起きてる事とは思えずに、頭を抱える事しかできない。


 かれこれ30分以上。たった一人の青年が件の巨大生物を引き付け、時間を稼いでくれてるとの報告だけれど、これもいつまで持つのか分からない。


 何よりこのままではその青年の命だって危うい訳で、傍観してる訳にはいかないのだけれども、対抗する手段が何も思いつかない。


 唯一対抗できそうな軍のシバース部隊は、現在王都には駐留しておらず、最も近い所に駐留している部隊でも到着まで数時間かかるという事で、それまでどうやって凌げばよいのか…


 所詮はモブキャラに過ぎない現場指揮官にはあまりにも荷が重すぎる。ハッキリ言って逃げ出したい。


 そんな所へ


「隊長!近衛騎士スカーレット・イヅチ様が到着されました!」


 なんて報告が入れば、それは渡りに船というもの。


 ホッと胸を撫で下ろすのかと思いきや、みっともない所を見せる訳にもいかないものだから、かえって緊張してしまうのは中間管理職の悲しい性。


 緊張してしまうというのは、相手が一軍人からしてみたら雲の上の存在という事もある訳です。


 ですから、せっかく緊張感たっぷりに


「ご、ご苦労様です!」


 挨拶したのに


「うっひゃ何あれ?すっごーい!」


 テンション高く無視された上


「ちょっとそれ貸して!」


「あ、え?ちょっと…」


 双眼鏡を強引に奪ったのにも拘らず、それを全く使う事無く手を額にかざし、遠くを見渡すポーズを取って


「ね?わたしヴィジェ・シェリルが現れたからって呼ばれたんだけど、もしかしてあれがヴィジェ・シェリルなのかな?」


 件の謎の巨大生物を指して、とぼけた事を言い出すものだから


「そんな訳ないだろ!」


 思わずツッコミを入れてしまうモブ指揮官。


 あなたは何も悪くない…


「あははは!ごめんごめん」


 スカーレット・イヅチという人は、王国の筆頭魔道士ダイアナ・イヅチの孫娘。


 シバースの名門イヅチ家の跡継ぎとして期待されながら、パラノーマルでもあった事もあり、魔法よりも剣を振る道を選んだ変わり者である。


 というのは良く聞く噂ではあったのだけれども、この噂の『変わり者』と言うのが、別に魔法より剣を選んだ事とは関係無いんだな、って事を思い知った初対面のモブ指揮官。


 それにしてもさっきの緊張を返せ…


「で、どんな状況なのかな?」


 今更そんな事聞いてきても、もう締まらないぞ!と、内心思うモブ指揮官ではありますけれど、仕事は仕事。


 ここはきちっと報告しなければなりませんって事で


「…はい。今から約45分前、当初我々もシバース教アナトミクス派の出現との報告を受けて…」


「そこは良いよ別に…」


「う…駆け付けたのですが、すでにアナトミクス派の姿は無く…」


「だーかーらー!」


 一生懸命報告しようとしてるのに、横槍を入れらればイラっとするのは分かりますけど


「わたしは現状を聞いてるのだよ?簡潔にお願い」


 そこに至るまでの経緯は聞いてないって事で、これは気の毒だとは思いますけどモブ指揮官が若干悪い。


「す、すみません…」


 まあ納得はいってないんですけど、ここは気を取り直して


「現在、謎の巨大生物に対して…」


 今度こそ簡潔に説明するぞ!と思ったのに


「ちょっと待った!」


 また横槍を入れられ、話の腰を折られるもんだから


「なんですか!」


 思わず声を荒げるモブ指揮官。


 しかしながら


「謎の巨大生物ってさ…わたしだって自分の目を疑うくらいだから、受け入れ難い気持ちは分かるんだけど、アレはどう見たって『魔獣』というものだよ?」


 常識が邪魔をして誰もが発するのを躊躇し、避けて通るその言葉をあっさりと言ってしまうのも、この人の性格ならではではあるのでしょう。


 けれど、それを言ってしまったら


「いや…それは…」


「魔獣なんて…そんな」


「いくらアナトミクス派でも…」


 その場に居合わせた軍人だけでなく、スカーレットに付いてきた近衛のシバースまで動揺する。


「それじゃ、他にアレを何て説明するのさ?」


 けれど、容赦しないスカーレットが追い打ちをかけるから、変な緊張感が生まれてしまう。


 先程緊張感を奪われたモブ指揮官としては釈然としないものがあるけれども、それは置いておく。


 まあ、他にどう説明するかって事で『謎の巨大生物』なんじゃないかとも思うのだけれど、これには現実を受け入れろよって意味も込められていて、その現実というのを分かっていない訳ではありませんから、これは一同受け入れるしかない。


 アナトミクス派は禁忌を犯し魔獣化魔法を復活させたのだ…


「それで?続きは?」


 話は元に戻って魔獣の現在。


「は、はい…現在、1人の人物が応戦中で、約30分あの場で足止めをしているとの事で…」


 簡単に言ってますけど、これ割ととんでもない話ですから


「人物って誰?」


 当然スカーレットもそこが気になりますけど


「直前まで現場近くに居た守護隊隊員の話ですと、元守護隊隊員のクルーア・ジョイスという人物だと…」


 名前を聞いたところで誰だよそれ?ってなると思うじゃないですか普通?


 ところがどっこい、その名を聞いた途端、ようやく手にした双眼鏡で現場を覗き込んだと思ったら


「うそ?クルーア・ジョイスってあのクルーア君?」


 という事でして、双眼鏡で見た所で顔までは確認できないと思いますけど、既知の関係というのはお約束。


 まあ、でもお約束と言ったって、知らない人からしたらあのクルーア君ってどのクルーア君だよって話であり、そのクルーア君とは別のクルーア君の可能性だってある訳で


「ご存知なのですか?」


 モブ指揮官は聞く訳ですけど


「うん、王国士官学校中等部の時の後輩君」


 その関係性だと『いや、やっぱり別人じゃないかそれ?』って内心に思うのは、士官学校から守護隊へっていうのが普通には考えられない事だから。


「そっか、クルーア君守護隊に入ったんだ…父君の後を就いたんだね…」


 けれどスカーレットにはそれで納得がいくだけの理由があり、こればっかりは既知の間柄でないと分からない部分でありますから、モブ指揮官もそれ以上突っ込んだ事を聞くような野暮な事はいたしません。


 野暮な事はいたしませんけど


「ま、でもクルーア君ならもうしばらく大丈夫だね…」


 その謎信頼はわからない。


 確かにクルーア・ジョイスという人物は只者ではないのだろうけど、それにしたって近衛騎士であるスカーレットにそこまで信頼されるというのは何故なのか?


 そもそも、彼もまたパラノーマルかそれに相当する何かでないと、現在魔獣と対峙してるあの状況を説明ができない。


 しかし、それよりもですよ…


 仮にパラノーマルであったとしても


「ん?でも今『元』隊員って言った?」


「はい、元守護隊隊員で、現在は除隊してると聞いています」


 という事であり


「それじゃあ一般人じゃないか?それは良くない!」


 それはつまり一般人が有事の最前線で一人で戦い、一般人を守らなくてはいけない立場の軍隊が、それを何もできずに傍観してるという事になる訳で、仰る通り大変よろしくない事態。


 大変よろしくない事態ではあるのだけれど、それは当然モブ指揮官達だってわかってる訳で、じゃあ何か他に手立てがあるのか、というと何もないというのもまた現実。


「あー…あー!でもまあ仕方ないか!…」


 スカーレットも渋々ではあれ現状を受け入れるしかない。


 受け入れるしないのなら、そのまま状況を前へと進めるしかないのであって


「で、避難状況はどうなってるの?」


 話を次の段階へと移行させようとするけれど


「それは守護隊の方でやっているので…」


 分からないという事でありまして


「えー!ちゃんと連携取れてないの?」


 言われてしまえば返す言葉の無いモブ指揮官。


 加えて守護隊は屋外で活動をしていますから、避難状況を確認しようと思ったら


「せっかくここまで登ってきたのにまた下に降りなきゃいけないの?」


 という事になりますので


「面倒臭いな…いいや!」


 言ったかと思ったら、スカーレットはすぐ傍の窓からサッと飛び降りてしまうのです…


「え?」


「え?」


「あー…」


 一瞬何が起こったか分からない軍人さんたちと、呆れる近衛のシバース隊。


「こ、ここ10階ですよ!」


 慌てて窓に駆け寄り、身を乗り出して下を見下ろすモブ指揮官の目に映ったのは、魔法の力でフワッと身体を浮かせ悠然と着地するスカーレットの姿。


「何なんだ、あの人は!」


 腰を抜かしてへたり込みながら叫ぶモブ指揮官に


「悪い人じゃないんですけどね…」


 近衛のシバースの一人が、やや同情気味に語りかける。


 その姿を見たモブ指揮官は、彼らにもまた自分と同じ中間管理職的な悲哀を感じ


「皆様も苦労してるんですね?」


 溜息交じりに聞くけるけれども、それに対して近衛のシバース隊は、三人そろっての苦笑いを持って答えとするのでした。

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