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城下町の魔法少女  作者: あしま
第三章 魔獣騒乱
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魔獣騒乱11

 “ナア?サッキカラ魔法少女ガ空飛ビマワッテル気ガスルンダガ気ノセイカ?”


「いや、気のせいじゃないな…何やってんだアイツ」


 台詞だけ見ると余裕があるように感じられるクルーア君とシャルルさんの会話だけれども、正面にはでっかい魔獣が居座っており、絶えずこちらに攻撃を仕掛けてきてるのを巧みに躱しながらの会話です。


 クルーア君はともかく、抱き抱えられてるシャルルさんには余裕なんて全くありません。


 シャルルさん、余裕は全く無いのですけれど、そんなに高くもない高度であっち行ったりこっち行ったりしてるエリエルちゃんが、どうしても目に付いてしまう。


 それを理由にクルーア君に話しかける事で、少しでも気を紛らわせようとしてるのです。


 “子供抱カカエテナイカ?”


「抱えてるな…ほんと何やってんだアイツ…」


 クルーア君はクルーア君で、エリエルの事が気になって仕方がない。


 仕方がないのだけれども、今は魔獣をここで食い止めることが先決ですから放っておくしかない。


 で、エリエルは何をしてるかと申しますと、一言で申しまして、やらかしています。


 首尾よく親とはぐれたらしきお子様を見つける事はできたのだけれど、その子をどこに連れていけば良いのか分からない。


 おそらく貧民街のどこかに避難者が集められてるのではないか?と当たりを付けたのだけれども、避難者が集められてるのは貧民街の中ではありませんから見つかる訳はありません。


 あっちこっち飛び回ってただ無駄に時間を食ってしまっているのです。


 最悪、聖グリュフィス聖堂に連れて行くという手もあるにはあるのだけれど、なんだかそれはカッコ悪い…


 もう泣きそうなエリエルちゃん…


「お姉ちゃん…元気出して?」


「うん…大丈夫だよ?」


 終いにはさっきまで泣き叫んでたお子様に慰められる始末。


 斯くなる上は、お子様を抱えた状態ではあまりやりたくないのだけれども、高度を上げて遠くを見渡せるようにするしかない。


「危ないからしっかり掴まっててね?」


「うん、分かった!」


 言って、お子様のしがみ付く力が強くなったのを確認してから、エリエルの方も抱える腕に力を込めて一気に高度を上げていく。


「大丈夫?怖くない?」


「うん怖くない!たのしー!」


 お子様には余計な心配だったようですけれど、それはともかく、高い所に上がった所で相当目が良くないと避難場所を特定できるものではないと思うのですけれど、思いの外早く見つかってしまうのは、そうしないと話が進まないという著者側の都合。


 大通りを挟んだ貧民街の向こう側に大勢人が集まっており、その中に同じ濃紺の服を着た集団が居るのが確認できる。


 おそらく見慣れた王都守護隊の制服だろうけれども、なるほど貧民街の外に避難してたのであれば、エリエルたちに見つける事などできない訳で


「あー…もっと早く、こうするんだった…」


 がっくり後悔しますけれど後の祭り。


 今は何よりこのお子様を親御さんの所に連れて行くのが先決ですから


「すぐにママの所に連れてってあげるからね!」


 宣言しますけれど


「それ、さっきも聞いたよ?」


 怪訝な顔してツッコミますから、エリエルちゃんは苦笑い。


 ともかく、あそこに行けば何かわかるに違いない。


 おそらくは魔獣を食い止めておくために、あの場で奮闘してるのであろうクルーア君の方をチラッと見やり、エリエルはお子様を抱えて避難所へと向かうのでした。








 近衛騎士スカーレット・イヅチと言えばそれなりの有名人ですから、一般人はもちろん守護隊隊員や軍人さんだってお仕事中とはいえ、その動向が気にならない訳ではない。


 指揮官の所へ向かうために建物の中に入っただけで、内心では「おーすっげー」って思うものですし、その数分後その人が10階の高さが飛び降りてきて、フワッとサラッと着地して見せるのだから「うっわやっぱりすげー!」ってなるんですけど、いや…何故飛び降りた?


 困惑するな、というのが無理な話だけれども


「避難状況を知りたいんだけど、責任者誰?」


 聞かれれば、いろいろ思う所があっても仕事モードに入るのがプロというもの。


「はい!自分です!」


 すぐさま、守護隊側の現場責任者が駆けつけ


「周辺住民の避難は終了していますが逃げ遅れた者が数名居るとみられまして、しかしながら現状では捜索は困難んで…」


 との事で、さてどうしたものか…


 あの魔獣をどうにかする方法なんて、現状で考えられるのは魔法ぐらいしか考えられない。


 それも中途半端な威力のもので「仕留め損ねました」なんて訳にはいかないですから、最大級の魔法を打ち込むのが得策。


 そうなると、魔獣だけでなくその周辺へ多大な影響を及ぼす事は必至だけれども、逃げ遅れた住民が魔法に巻き込まれて…なんて事は避けたい所。


 どのみち、クルーア君をそのままにして魔獣と一緒に吹き飛ばす訳にもいかないですから、誰かがあそこまで行かなくてはいけない。


 それはとても危険な命懸けの行為ですし、常人に務まる任務とも思えないですし、で?誰が行くの?


「わたしだよねー…やだなー!」


 いや…そんな聞こえるように言わないでくださいよスカーレット様…


「いや、そうは言ったってあれ怖いよ?」


 まあ気持ちは分からないではないですけれど、そうこうしてる内にも時間は進んでしまう訳でして、早いところ決断してほしい所へ


「おい!こら!」


「イヅチ様!」


 ってな感じで守護隊隊員の制止を振り切って、一人のご婦人がスカーレットに詰め寄ります。


「わ!なになに?」


「お願いです!息子を探してください!」


 聞けば、避難の途中で逸れてしまったとか。


 おそらくはまだ貧民街の中にいるのではないか…これも憶測でしかなく別の場所へ避難してる可能性だってあるにはあるのだけれど、そうは言ったってお母さんは気が気ではない。


 こうなれば、立場的にも性格的にも放っておく事ができないスカーレット。


「分かりました…これからわたしがお子さん探しに行きますから、お母さんは安心してください…」


 なんて安請け合いしてしまって若干の後悔をしますけれど、もう覚悟を決めるしかない。


 そこへ、タイミングよく降りてきた近衛のシバース達の一人に


「良いんですか?」


 問われるけれど


「クルーア君だって放っておけないし、どの道行くしかないでしょ?」


 これはもう覚悟を決めたというよりも、諦めの境地。


 誰かがいかなくてはいけないなら自分が行くさってな感じ。


 そうと決まれば、近衛のシバースと作戦の打ち合わせをしなくてはという訳で、まず最優先は逃げ遅れた住民の安全確保。


 その間シバースの三人はなるべく見晴らしの良い所…今降りてきた建物をまた上ってもらう事になる訳で申し訳ないのだけれど…で、魔法の準備をしつつ待機。


 住民の安全確保が終了すると同時に、ドカンと一発でっかいのをぶっ放す…


 と、段取り付けたのは良いですけれど、そんなに上手くいくかいな?


 まあ、それがお仕事でお給料貰ってる訳ですから、やれるだけの事はやらないといけないという訳で


「じゃあ行ってくる。後の事はよろしくね?」


 部下たちに、若干かっこつけ気味に言うスカーレットに


「息子の事、お願いします」


 さっきのお母さんが涙ながらに言うもんだから


「任せてください!」


 なんて胸張ってみせちゃいますけど…正直どれだけ逃げ遅れてる人達がいるのか分からないのに、それを自分一人でなんていうのは、いかにスカーレットが超人だからと言っても荷が重い。


 せめて後一人か二人、手伝ってくれる人がいればありがたいのだけれど軍も守護隊も当てにはならないよなー、なんて考えてる所に


「ママ!」


 お空の上から声がする。


 いきなりお空の上からお母さん呼ばわりする声が聞こえたら、誰だって困惑すると思います。


 誰だって先ずする事は、自分の耳を疑う事だと思いますけど


「ママー!」


 もう一度その声が、しかも先程よりも近くで聞こえたなら、耳よりも脳の方を疑うべきなのではないかと思われます。


「タケル?」


 しかしそのマンマ呼ばわりの声に、先程のお母さんが反応し、お空を見上げるものだから、スカーレットもそれにつられてお空を見上げると、そこには縞々のパ…いやもうそれは良いか…一人の少女が子供を抱えて空を飛んでいるのです。


「この子のお母さんですか?」


「は、はい…タケル!」


「ママー!」


 身体を宙に浮かせたまま、お母さんに子供を渡すその少女が、噂の魔法少女である事を理解するのに時間はかからない。


「良かった!ずっと探してたんです」


 心底嬉しそうにするその笑顔に、スカーレットは思う所がある訳で


「いえ…こちらこそありがとうございました…」


 心からの感謝を言うお母さんとは相反し


「お…おい、どうする?」


 犯罪者である魔法少女を前に


「いや…どうするって言われても…」


 逮捕するべきか?と、ざわつき始めた王都守護隊の面々を


「ちょっと待った!」


 思わず牽制せずにはいられない。


 それはもう完全に思い付きだけれども、空を飛べるなんて能力をこの状況で放っておく手はない。


「あ…でも一般人か…」


 目の前で違法行為を行ってる人間を一般人と呼んで良いかは疑問だけれど、軍属でもない人間を頼る事を、由としないのがスカーレットであり


「ま、でも仕方ないか!」


 同時に、こういう人でもある…という訳で


「ねえ?魔法少女君!」


 協力を要請するべく声をかけれると


「は…はい何でしょうか?」


 何故か顔を手で隠しながら、答えているから


「ぷ…な、なんで顔隠してるの?」


 本当は顔を隠す理由に心当たりがあって笑いを堪えながらのスカーレット…


 という訳でここからはエリエルちゃん目線。




 守護隊の皆さんがざわつき始めて、その理由が自分にある事にすぐに気づき、まずいかな?逃げた方が良いかな?と、判断を迷ってる所への「ちょっと待った!」。


 ビックリして声のした方を向いたら、そこにいるのが自分の…エリエルではなく、ユーリカでもなく、ソフィア・パナスの良く知る人物だったから二重にビックリ。


 スカーレット・イヅチが近衛になったのは5年前。


 当時9歳のエリエル=ソフィアは、ユーリカ(本物)と一緒に、彼女によく遊んでもらっていた。


 よく遊んでもらってはいたのだけれど、それはスカーレットが仕事中の事。つまりはサボっていたという事です。


 当時の近衛隊長に見つかっては怒られて、同僚の近衛騎士に見つかっては怒られて、彼女の母親であり、ソフィアの教育係でもあったエリザベート・イヅチに見つかっては呆れられる…という毎日で、何故そんなにしてまで仕事をサボろうとしていたのかは、当時のソフィアには分からなかったけれど、それはそれでソフィアにとって王城に居た頃の、数少ない楽しかった思い出の一つなのです。



 で、そのスカーレットが今目の前に居るという事で、思わず顔を隠してしまったけれど


「ねえ?魔法少女君!」


 声をかけてきた彼女の表情は、彼女特有の柔かさの中に、自分の知らない彼女の真摯な一面を垣間見せ


「これから、逃げ遅れた人の捜索に行くんだけど、君さえ良かったら手伝ってもらえないだろうか?」


 魔法少女へのその申し出は


「イヅチ様…それは…」


 困る、という守護隊の人に向かって


「責任はわたしが取る。それでいいだろ?」


 キリっと言い放つ姿をカッコイイと思ってしまう頃には、顔を隠すのも忘れてしまっていた。


「で、どうかな魔法少女君?」


 エリエルに断るという選択肢は無く


「はい…手伝わせてください!」


 力強くそう答える。

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