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城下町の魔法少女  作者: あしま
第三章 魔獣騒乱
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そこに至るまでの経緯4

 確かに、小さい頃同年代の子供達の中で、抜きん出て運動神経は良かった。


 貧乏ながら通わせてもらった剣術の道場でもすぐに頭角を現し、年上の子達をあっと言わせた。


 しかし、自分が何か特別な存在なんて考えた事もない。


 ましてや1000万人に1人と言われるパラノーマルなんてものはおとぎ話の世界のもの。


 パーソンくんにとってはそんな非現実的な夢物語より、都会に出て貧乏から脱出するんだ、という現実の方が重要だった。


 そういう訳でいきなり『あなたはパラノーマルです!』なんて言われた所で、今の今まで普通の少年として生きてきたパーソンくんが、『はい、そうですか』と受け止められる訳もなく『あなた何言ってるんですか?』とばかりにキョトンとしてる。


「なんだよ無自覚か…喜べよ?お前は『シノドス・ミスト』『パトリック・ジオット』『セガール・ベラトン』『スカーレット・イヅチ』そしてアタシに次ぐこの国6人目のパラノーマルさ!間違いないアタシが保証する!」


 シェリル姉さん仰います。


 それは、少しでも剣術というものに触れた事のある者なら憧れの存在であり、世の中に知らない人はいないと言われるほど雲の上の存在と並んで評されたという事ですけれど…


 あ、一人犯罪者が混ざってはいますがそれ以外という事ね…


 重ね重ね、今この瞬間まで普通の少年として生きてきたパーソンくんが、はいそうですねって事にはならないですし、そもそもあなたに保証されてもという話ですけれど、それはそれとして、その話ですとちょっと一人足りなくないですか?


「ああ…そうだった…一人忘れてた…『永世剣王エステバン』…今も生きてるのかどうか知らないけどね…」


 なんか昔の特撮ヒーローみたいな名前が出てきましたけれど、他のパラノーマルと違い、パーソンくんくらいの世代になると、その名はどこかで聞いた事があるくらいの認識になる過去の人。


「エステバン…エステバンねえ…」


 その名前を口にしてから、どうもシェリル姉さんの様子がおかしくなる…


「エステバンの再来…二代目エステバン…エステバン二世…エステバンを継ぐ者…ここ10年で最高のエステバン…100年に1度の出来、近年にない良いエステ…」


 最後の方なんだ?…いやこのお姉さんずっと様子はおかしいのですけど、それまでのおかしさとは明らかに質の違うものに変わって


「エステバン…エステバン…エステバン…エステバン…」


 うわ言のように同じ事を延々繰り返し言い出した。


 これはその興味が一時的ではあれ自分達から逸れているという事であるからして、絶好のチャンスではないかと判断したパーソンくん。


 この隙にマリーに近付き


「今の内に逃げてください」


 小声で囁くけれど


「でも…」


 あなたはどうするんですか?って事で、心優しいマリーに、この少年を置いて逃げるという選択肢は無い。


「勝手に期待しておいて…さんざんチヤホヤしておいて、ちょっと期待を裏切ったくらいでさ…掌クルンは無いよな~…」


 うわ言がどうも自分語りっぽくなってきて、ますます相手にしたくない感じになってますけれど、まあ最初から相手にするつもりはないのですし、依然として自分たちに興味が向いてない状況を無駄にはできないのです。


「僕の事は良いですからあなたは逃げて」


「そんな事言われたって…」


 なんとか説得したいのですけれど、なかなか強情なマリー。


 業を煮やしたパーソンくんは


「だからさ~あいつら全部殺しちゃった~」


 というシェリル姉さんの物騒な一言を聞くか聞かないかのタイミングで


「ここは僕に任せてあなたは逃げて!」


 つい声を荒げてしまい


「あれ?そうか…いたんだっけ?」


 本当にこちらの存在を忘れてたらしい狂人の興味を、またこちらに戻してしまう結果になってしまう。


「そうか…お前がパラノーマルだって話だったね…まあどうでもいっか?…だってお前はここで死ぬんだからさ!」


 言い切るよりも早く狂人がこちらに向かって突進してくる。


 もう迷ってる暇はない。


 パーソンはシェリルからは目を離さないまま、マリーを強引に突き飛ばすようにして


「早く逃げて!」


 大声で叫ぶ。


 それを受けて、マリーは後ろ髪ひかれながらも意を決し、その場所から一番近い路地に向かって走り出す。


 今のシェリルは、ただやみくもに突進してくれるだけで、これならパーソンも難なく受け止める事ができる。


 できるけれども、さっきまでとはパワーが段違い。


 どうやら、シェリルはその能力をスピードよりパワーに集中させた戦いに切り替えてきた…というよりは何かやけくそにでもなったかのように単調な戦い方になってきたという方が正しい。


 こうなるとシェリルの動きは読みやすいのだけれども、何しろ半端なパワーではない。


 このままではジリ貧でいつかはやられてしまう…


「化物かよ…」


「良いね!褒め言葉だよ!」


 安っぽい罵倒は相手に何のダメージも与えないけれども、そういえばフェリア・エルダーヴァインが前にある人物をそう呼んでた事を思い出す。


 それが、どう意味で言った言葉かはわからないけれど、もしかしたらあの男もまたパラノーマルだったりするのだろうか?


 そしてこの状況も何とかしてしまうのだろうか?


 そんな事を考えていたら気が散ってしまい、シェリルにパワー負けしてバランスを崩し、倒れそうになってしまう…


 終わった…やられる…あーあ、あっけない人生だったな、と死を覚悟したのだけれども、しかしシェリルは倒れそうになるパーソンを踏み台にして、高々と飛び越えて行った。


 しまった…気付いた時にはもう遅い。


 最初から狂人の狙いはあの少女だったのだ。


 ふと、こんな時なのにあの男と初めて会った日の事を思い出してしまう…


『この物語の主人公だ!』とあの男は言った。


 ふざけた男だとパーソンは思った…誰だってそう思うだろう?…


 その後に会ったのは、魔法学校の女子寄宿舎付近をウロウロする不審者としてだった…どうしようもない男だと思った…


 その後の酒場での出来事…


 その後に起きた事件…


 守護隊での噂話…


 昨夜の酒場での出来事…


 あの男の事が分からなくなった…


 分からないけれども…


「何が主人公だよ…」


 主人公ってのは、友達や、家族や、知人や、ヒロインやそういった人たちが、ピンチの時に必ず現れてヒョイッと助けちゃうものなんじゃないか?


 本当に主人公なら、なんで今この場所にいないんだ?


 主人公なら今ここに現れて僕等を救って見せろよ、クルーア・ジョイス…





 マリーは逃げる前の一瞬、シェリルと目があった気がしていた。


 そうだ彼女の狙いは自分なんだ。


 だとすれば、自分を追ってくるかもしれない…


 そうすればこの守護隊隊員だけは救う事ができるかもしれない…


 そう考えてマリーは走った。


 走りながらマリーは不思議な既視感を感じる…


 この場所を同じように昔走った事があるような気がする。


 あの時も誰かに追われてたんだっけ?


 そうだ、いじめっ子に追われてたんだ…でもこれは嫌な思い出ではない。


 何故ならこれは、あの人が自分を助けに来てくれた思い出だからだ。


 自分がピンチの時、いつだってあの人は助けに来てくれた。


 10年前のあの日だって危険を顧みずに、あの子と一緒に助けに来てくれたっけ…


 ここは自分が子供時代を過ごした場所に程近い…


 今もあの人はこの近くに住んでるのだろうか?


 この街のどこかにいるんだろうか?


 だとしたら…またあの頃のように私を助けてくれないかな?


 背後から狂人が迫ってくる気配を感じる…


 今からでは魔法を使って身体能力を上げようとしても間に合わないし、間に合ったとしても残りの魔力を考えたら逃げ切る事はできないだろう…


 もしかしたら逃げようとしたのが間違いだったのだろうか?


 そうすればここで終わりなんて事は無かったのだから…


 ここで終わり?


 そんなの嫌だよ…


 助けて…お兄ちゃん…





 路地に走り込もうとしたその時、向こうから走ってくる人の気配を感じて急ブレーキをかける


「キャッ!」


「うおっと!」


 ツキからも見放されてるらしい…これでシェリルに追いつかれてしまう…


 思った次の瞬間、その場の空気がガラッと変わる不思議な感覚に襲われる。


 その感覚は路地から出てきた男を見たパーソンも同じように感じていて


「え?」


 それはもう信じられない事が起こってしまったものですから


「クルーアさん!?」


 少し間の抜けた声を漏らしてしまう…



 なんだよ、これじゃ本当に主人公みたいじゃないか…



「嘘…」


 パーソンの声が聞こえていたわけではない…


 10年経てばだいぶ雰囲気だって変っているはずだけれども、しかしマリーがその人を見間違える訳なんかないんだ…


「クルーア…お兄ちゃん?」


 確証はないのだけれど、でもその人はマリーの言葉に反応して視線を落とし


「え?ま、マリー?」


 名前を呼んでくれた…


 間違いないお兄ちゃんだ…


 お兄ちゃんが助けに来てくれたんだ…



 次の瞬間、何かに気付いたクルーアの視線が上を向いたかと思ったら、マリーの腕を取って強引に引き寄せる。


 それと同時にマリーの背中に激痛が走り、その痛みが瞬く間に意識を奪っていく。


 深い深い闇に沈みこむような感覚の中で


「私は…そしてあの守護隊の人も、これで助かったんだ」


 マリーは確信し、安堵する。

やっとそこに至るまでの経緯終わった…

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