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城下町の魔法少女  作者: あしま
第三章 魔獣騒乱
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聖グリュフィス聖堂孤児院の午後

 聖グリュフィス聖堂孤児院、というのは正式名称という訳では無いのだけれど、同じ敷地内にあるという事でいつの間にかそう呼ばれるようになったのです。


 今はメリルさんが一人で切り盛りしてるのですけど、元々はエルダーヴァイン家の人間が営んでいたそうでして、今でもエルダーヴァイン家が出資をしているとの事。


 なるほど、それでメリルさん、ノエルさん達と面識があった訳だとエリエルちゃんは納得したのですけど…まあ実際はそれだけじゃないんですけどね。


 それはともかくですね、その聖堂と孤児院のある敷地内の中庭というんですか?まあ庭ですね。


 聖堂孤児院の庭に現在、ユーリカ・マディンではなく、ソフィア・パナスでもなく、何故か魔法少女エリエル・シバースがその姿で立っているのです。


「なんでこんな事になったんだろう…」


 ひたすら困り顔の魔法少女の周りを、孤児院の子供たち、並びにその御友人数名が取り囲み、キャッキャキャッキャやられては、そりゃエリエルちゃんも頭を抱えるってものでして。


 いやもうほんと何でこうなったの?っていうのは時間をちょっと遡って説明いしたいと思います。






 メリルさんと一緒に聖堂に到着したのが一時間弱前。


 中庭ではBBQ的な事をするための準備がされている。聞けば、たまに近所の子供達を集めてこういった事をしているらしい。


 しかし本日は特別。


 何故なら、エルダーヴァイン夫妻とそのご令嬢がいらっしゃってるから…


 エルダーヴァイン家のご令嬢という事は、要するにフェリア先生な訳です。


「僕がいたら何か問題があるのかい?」


 まさか今日ここにきてるとは夢にも思わないエリエルちゃんが、驚きを隠せないでいる所へ、こんな事を言っちゃいますから


「も~フェリアちゃん、そんな言い方しちゃダメでしょ~」


「マ…母さん、生徒の前でちゃん付けはやめてくれないかな?」


「な~に格好つけてるのよ~今だって最初ママの事ママって呼ぼうとしたくせに~」


「なー!ち、違う!」


 ママには頭が上がらないという事が露呈します。


 学校では怖い先生というイメージが、母ノエルの手によってガタガタと音を立てて崩れていくのを、呆然と眺めていたエリエルちゃん。今度は突き刺すような視線を感じる。


 ドキッとして振り返ると、子供達がジトッとした目でこちらを見ている訳です。


 ここは孤児院なのですから、子供がいるのは、まあそりゃそうなんですけど、エリエルちゃん、実はあんまり子供が得意ではないので、どんな顔をしてよいのか分からない。


 子供達は子供達で、知らないピンク頭のお姉さんがいるものですから、それはそれはおっかないって事でこちらに一向に近づいてこようとしない。


 見かねたメリルさんの


「みんなおいでー!」


 の一言で、ようやくぞろぞろとこちらへやってくる、その数5名…あれ意外と少ない。


「うん、うちの子は今3人だけだからね。後の二人はお友達」


 説明が終わった所で綺麗に横並びに並び


「右からカーツ、レイツ、キルカ…で、そのお友達のジンタ君とクルムちゃん」


 メリルさんがザックリ紹介する。


「さあみんなご挨拶!」


「こんにちは~」×5


「はい、こんにちは…えーと、ユーリカです。ユーリカ・マディン」


 という事で、一通り自己紹介が終わったのですけど、ユーリカ=エリエルちゃんはというと、ジンタ君、クルムちゃんと紹介された二人が、妙に気にかかる。


 二人が自分を見る目が、他の三人とはまたちょっと違うものであるというのもあるのだけれど、何かこう心に引っ掛かる物があって、しかしその正体はわからないまま


「お肉焼けましたよ!」


 いそいそと食材焼き係に徹していた、ダリオさんの号令でもって用意されたテーブルへ集合となりました。


 エリエルちゃんもそれじゃあ移動しようと踵を返し、子供たちに背中を向けたその刹那バサッと、乾いた音と共にエリエルちゃんのスカートが捲り上がり


「キャッ!」


 叫び声をあげ、後ろを振り返ると、スカート捲りの犯人ジンタ君が目をキラッキラさせながらこっちを指差す。


「やっぱり!しましまパンツだ!」


 大声で叫ぶから


「な、何するの!」


 エリエルちゃんだってそれは怒りますけれど


「しましまだ…」


「うん…しましまだね…」


「しま…」


 といった子供たちの反応に交じって


「この前とは色違いね…」


 メリルさんまでこんな事言い出すもんだからエリエルちゃん顔真っ赤。


 しかしエリエルちゃん、いまだ目をキラッキラさせながら指差しっぱなしのジンタ君の


「しましまパンツのお姉ちゃん!」


 の一言で何かに気付き、続くクルムちゃんの


「ま、魔法少女のお姉ちゃん…」


 の一言で確信に至る…


 この二人、先日の騒動の時に広場にいた子供達だ。


 なるほど、この二人に妙な引っ掛かりを感じた理由がそれだった訳だけれども、何故この子が自分の事を「しましまパンツのお姉ちゃん」と呼ぶのか皆目見当もつかない。


 見当はつかないけれども、穿いてるのがしましまパンツである事が魔法少女エリエル・シバースである証拠に等なる訳ないのだから


「ち、違うから!私、魔法少女じゃないから!」


 必死の抵抗を試みるけど


「だってピンクの髪の人なんて他にいないじゃん!」


 ジンタ君の無慈悲な一言がエリエルちゃんの記憶を約一か月前へと遡らせる。


 そういえば以前に子供に着替えてる所を見られた事があった…


「あ…あの時の…」


 これは誤魔化し切れないと覚悟を決めた所で、一斉に子供たちが集まってきて


「えーすっごーい!」


「魔法少女?何それ何それー!」


「わーいたっのしー!」


 途中明らかに大人の声も混ざってましたけど、目を爛々と輝かせる子供たちに迫られるというのは、子供が苦手なエリエルちゃんには脅威であります。


 そこへ追い打ちをかけるように


「ね~魔法少女になってみせてよ~」


 と、誰かが…っていやこれノエルさんだな。ノエルさんが言ったものだから


「みったーい!」


 子供たちも大はしゃぎ。


 衣装はこの前ここにおいていってるので、衣装がない事を理由に断る事もできないエリエルちゃん。困ってメリルさんに救いを求めますけど


「アタシも見たいかもー」


 メリルさん、目も合わせずに同調圧力かけてきてもう逃げ道はなくなった。


 そこへ


「盛り上がってますね?どうしました?」


 今まで聖堂内にいたシニャック老が現れたので、もうエリエルちゃん縋る思いでカクカクシカジカと現状を説明しますけれど


「別に良いんじゃないですか?見せてあげても」


 シニャック老、無慈悲に一蹴。


「用意してあるんですよね?」


 と、ちょっと意味の分からない事をメリルさんに聞くシニャック老に


「うふふ…はーい」


 ものすごく嬉しそうに答えるメリルさんの姿を見て、「あー、これはこの一連の流れが無かったとしても、私に魔法少女の格好をさせるつもりだったんだな…そしてそれは避けられない運命だったんだな」…とエリエルちゃん、観念をして現在に至る。







「これ私が作ったものと違いますよね?」


「うんアタシが作った!」


 自分の作った衣装と明らかに生地が違うので、着替えてる途中から気付いてはいたけれども、その使われてる生地がなんかとんでもない物のような気がして戦々恐々。


 この生地について聞きたいのだけれど、聞くのが怖いと思ってたところへ


「すごい生地ですねこれ…繊維の一本一本が魔法でコーティングされてる…」


 フェリア先生が興味津々でら何かとんでもない事を仰っておられます…


 いや生地が魔法でコーティングっていうのは聞いた事がありますけれど、繊維の一本一本ってどういう事ですか?


「そうなの?私にはさっぱりわからないんだけどシバースの人が見ると違うんだね?聖堂の倉庫にあった古い生地、適当に選んで使ったんだけどさ…」


 すっとぼけた事を言うメリルさんに


「いや…この生地今の技術じゃ作れないですよ?どうやってるのかさっぱりわからない…」


「ちょっとこれは相当高価なものですよ?億はくだらないのではないでしょうか…すごいものが眠ってるんですねここの倉庫…」


 ここで言う億という単位を日本円に換算すると、どうなるか分からないのですけど、今度はエルダーヴァイン父娘が目を丸くしながらとんでもない事を仰られていて


「それは、おそらく私がここの管理者になるよりも以前から、ここにあったものじゃないですかね?」


 シニャック老の話に


「それじゃあ少なくても500年以上は昔の物という事ですか…はあ…」


 別の意味でとんでもない事を、ダリオさんがサラッと言ってます。


 とんでもない事をサラッと言っておりますが、メリルさん、何事も無かったように話を続ける。


「んー、その生地がどのくらいすごくて高価かはわからないけど、こっちならなんとなくわかるわよ?これはリカちゃんが作ったものには無かったんだけど、魔法少女エリエル・シバースと言えば腰マント!腰マントなのよ!」


 熱っぽく語りながら、大きなリボンの付いた腰に巻くマント状の物を取り出す。


 それは絵本のエリエル・シバースが身に着けていた物なのだけれども


「あ、あれいまいちどうなってるのか分からなくて作れなかったんです…」


「実はエリエルの腰マント。かつて実の妹でありながらアナトミクス・シバースと敵対した、魔女クリスティン・シバースが着用してたマントをモデルにしてるんだけど」


 クリスティン・シバースのマントと言えば、国宝に指定されていて、現存しているのは王国立博物館に展示されてる物だけのはずなのですけれど


「これはそれと全く同じ物を摩改造して、腰マントに仕立て上げました!いやー国宝級の代物にハサミ入れるって快感だわ!」


 メリルさんも大概とんでもない人ではあります…


 まあ、しかしクリスティンのマントと全く同じ物なんて言われても


「え~レプリカでしょ~?レプリカよね~?」


 そう思うのが心情というものではないかと思うのです。


 まあ、たとえそれがレプリカだとしても、それはそれで魔法的にすごい物であるというのは間違いないのは分かるので、半信半疑でいるノエルさんに対して


「それはクリスティンが初代パナス王妃に献上した物ですから、本物で間違いないですよ?」


 またぞろシニャック老のトンデモ発言が飛び出します。


「何それ…聞いてないよシニャックさん…」


 流石に若干青ざめるメリルさんと


「嘘…ああご先祖様…」


 妙な感慨に浸るノエルさんと


「良いのですか?そんな大事なものをこんな風にしてしまって…」


 いたって冷静なフェリア先生に


「はは…そうですね…あの方…初代パナス王妃なら多分こう言うんじゃないですかね…」


 シニャック老は前置きをして


「衣服や道具なんて物は使われて初めて価値の出るもの。飾られたり仕舞われっ放しになって使われないんじゃ道具がかわいそうさ!…てね?」


 そう言われても、ここにいる人の中に初代パナス王妃と面識のあるものなどいるわけがありませんから、微妙な空気になります。


 そもそもシニャックさんは何故まるで初代パナス王妃と面識があるかのような口ぶりなのか…


 それ以外にも今の一連の会話の中のシニャック老の話に、ちょこちょこあれ?変だな?って思う所がエリエルちゃんにはあるのですけれど、今はシニャック老の事以外にもあれ?って思う事があり


「あの…メリルさん?」


 思い切って確認することにしてみます。


「何?」


「あのメリルさん…エリエル・シバースの事ちょっと詳しすぎませんか?」


 そうです。エリエルの腰マントがクリスティン・シバースのマントが由来とか、普通なら知り得ないような情報だと思うのに、なんでそんなことを知っていたのか


「ああ、だってアタシ…作者だから」


 答えはいたってシンプル。


 ですけど、それはエリエルちゃんにはあまりにも意外な、そして驚愕の答えだったものですから


「え…え?…えー!」


 大きな大きな叫び声が、聖堂孤児院に響き渡るのです。

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