28.兄ちゃん、騎士に戸惑う
「おっ、パンができたのか?」
「良い匂いがするぞ!」
目が合った騎士たちはゾロゾロと調理場に入ってきた。
できたばかりのパンを見て、よだれが垂れないように必死に啜り上げている。
「アルノーさんの初めてのパンなので、先に味見をどうぞ!」
せっかくだから手伝ってくれた人から味見をしないとね。
アルノーさんはロールパンを一つだけ手に取り、ゆっくりと口に運んでいく。
「美味しい……本当にこれは僕が作ったのか……」
一瞬にしてアルノーさんからは笑顔が溢れてくる。
笑ったら目が細くなって優しそうに笑う人なんだね。
「おぉー、アルノーが初めて笑ってるところを見たぞ!」
「なんか……今日は明るいな!」
アルノーさんって物静かな人だけど、普段から笑わない人のようだ。
同じ騎士なのに初めて笑ったところを見たって聞いて僕は一番びっくりしている。
「ゼノさん、泣き止みましたか?」
「ずぅー、泣いてないもん!」
それに僕はこっちでもびっくりしていた。
まさかゼノさんが泣いているとは思わなかった。
さっきまで震えていたが、今は鼻を啜っている音が聞こえてくる。
相変わらずゼノさんは僕を離そうとしないし、なんか騎士たちってよくわからない人が多いね。
「なぁ、俺にもパンを食わせてくれないか?」
「腹減ったぞ!」
エルドラン団長やジンさんからお腹の鳴る音が聞こえてきた。
さすがに美味しい匂いが漂った調理場だとお腹が空いてしまうのだろう。
「せっかくだから今日はロールパンに合ったおかずにしようと思います! だから……我慢してください」
「「「えぇー!」」」
騎士たちの声が調理場に響く。
別に食べてもいいけど、今食べちゃうとすぐにパンがなくなっちゃいそうだもん。
「アルノーさん、お風呂に入って来てください! その間に料理組とお弁当箱作り組に分かれましょうか」
せっかく用意してもらった木筒でお弁当箱を作っておいた方が明日も楽だろう。
丸ごと木があるなら、横長のお弁当箱も作れそうだしね。
ジンさん、ゼノさん、エリオットさんが料理の手伝い。
エルドラン団長を中心にその他の騎士たちがお弁当箱を作ってくれることになった。
何でもエルドラン団長って手先が器用だと黒翼騎士団の中でも知られているらしい。
確かに料理をやったことがないって聞いていた割には揚げ物もできていた。
「よし、お前ら大きな弁当箱を作るぞー!」
「「「うおおおお!」」」
形と大きさを伝えると、エルドラン団長は騎士を連れて外に向かった。
少し心配になってくるが、きっと大丈夫だろう。
重箱のようなものを一人一つ用意することになったら、その時はお手上げだ。
「さぁ、僕たちも夕飯を作りましょうか」
「おい、ゼノもそろそろ離れろよ!」
ジンさんは僕からゼノさんを引き剥がす。
やはり少し鼻先が赤くなってトナカイみたいになっていた。
「ではエリオットさんは好きな野菜でサラダを作って、ジンさんにはお肉を粗挽きにして、ゼノさんには玉ねぎを粗みじん切りにしてもらいますね」
これならゼノさんが泣いていたってわからないもんね。
僕はその間にできたばかりのパンを細かくすりつぶす。
「ソウタ、大体細かくなったぞ!」
「ぐすっ……こっちもできたよ」
「ではそれを混ぜ合わせてください!」
粗挽きしたお肉に玉ねぎを入れて、パン粉と塩を軽く入れて混ぜ合わせる。
「今から何を作るんだ?」
「煮込みハンバーグを作ろうかと……あっ、ワインってありますか?」
「エルドラン団長の部屋から少し盗んでくる」
ジンさんは楽しそうにエルドラン団長の部屋に向かっていった。
その間にゼノさんと拳サイズのハンバーグをいくつも作り、それをエリオットさんが両面に焼き目がつくように焼いていく。
「ワイン持ってきたぞ!」
しばらくすると、ジンさんがワインを片手に戻ってきた。
「それってエルドラン団長のお気に入りじゃないのか?」
「一番高そうなやつを持ってきたぞ!」
ゼノさんの言う通り、明らかに高そうな見た目をした綺麗なガラス瓶を持ってきた。
さすがに高いワインを使うわけにはいかないし、煮込んでしまえばワインの香りとコクは減ってしまう気がする。
「一番安そうなやつでいいですよ」
「そうか……! じゃあ、これは俺がもらって」
ジンさんは自分のズボンのポケットに入れようとしていた。
「それは俺のだろ?」
「ゲッ! エルドラン団長じゃないっすか!」
だが、エルドラン団長はジンさんの後ろでずっと見ていた。
すぐにジンさんからワインを奪うと、別のものを持ってきてくれた。
「これなら安くもないし、使っても構わないぞ!」
「いや、安いので――」
「安いワインだと苦いから、きっとソウタは食べられなくなるぞ?」
ワインを飲んだことがないからわからないが、安すぎるのもいけないのだろう。
この世界の果物があまり甘くないのも、関係していそうだしね。
僕はワインを受け取ると、そのまま火にかけてアルコールを飛ばしていく。
トマトと水で濃さを調整して、煮込みソースは完成だ。
「エリオットさんは焼いたハンバーグをここに入れて少し煮込んでください!」
ハンバーグを焼いて出た肉汁も含めて、鍋の中に入れていく。
肉と玉ねぎの甘みがソースに絡んで、煮込んでいけばさらに美味しくなる。
「そういえば、エルドラン団長の方はどうですか?」
「ああ、ソウタに聞くために来たのを忘れていた」
エルドラン団長は煮込みハンバーグが気になっているのか、鍋の中をずっと覗き込んで肝心の用事を忘れていたようだ。
「どっちの方が使いやすそうだ?」
エルドラン団長は二つのお弁当箱を持ってきた。
一つは革紐で蓋を固定させているもの。そして、もう一つはスライドして蓋をはめ込むものだった。
「顔に似合わず器用ですね……」
「ははは、昔からよく言われているからな」
どうやら本当にエルドラン団長は器用なようだ。
スライド式のお弁当は大きさの違うもので重ねてあり、革紐で固定してある方は、お弁当箱自体が大きめにできている。
「どちらも使い勝手は良さそうですね!」
スライド式は汁溢れしないだろうし、革紐固定はサンドイッチとかパンを入れるのに向いていそう。
「おっ、じゃあ両方作ってくるか!」
エルドラン団長はどこか嬉しそうに戻って行った。
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