29.兄ちゃん、食事中に遊んではいけません!
「僕もお風呂に入ってくるので、それまで火の管理をお願いします」
ハンバーグの数が多いため、しばらく煮込む時間がかかるだろう。
その間に僕はお風呂に入ることにした。
「あぁー、やっぱりそうですよね……」
お風呂場の扉を開けると中は汚れていた。
なぜ水場が汚れるのかと思ったが、浴槽に靴下や服も浮いていた。
そんな中、アルノーさんは気にならないのかシャワーを浴びている。
「アルノーさん、騎士たちっていつもこんな感じ何ですか?」
「いや、ここで水浴びをしたことはないので……」
「水浴び!?」
震えているアルノーさんのもとへすぐに駆け寄る。
シャワーのようなところから出ているのは水だった。
先にお風呂に入っていたのに、中々出てこないことが気になっていたが、まさか水浴びをしているとは……。
「これで温度調節はできませんか?」
壁に付いている石に手を触れると、赤く輝いた。
「熱っ!?」
アルノーさんから聞いたことのない大きさの声に僕も驚く。
「わああああ! ごめんなさい!」
今度は勢いよく熱湯が出てきた。
どうやら水が出る石と温める石で温度を調整する仕組みのようだ。
「気にしないでいい。でも助かった……」
「まさか使い方を知らなかったんですか?」
アルノーさんはこくりとうなずいた。
そりゃー、お風呂場が荒れるのは仕方ないね。
きっとお湯の出し方が分からず、急いで水浴びをして出てきたのだろう。
僕はそこら中に落ちている服や靴下を拾い、片隅に寄せる。
湯船もどこか黒くなっているから、今日は入らない方が良いね。
「石鹸もないし……もうちょっと発展した世界に作って欲しかったな……」
「発展した世界……?」
「あっ、気にしなくていいですよ!」
もっと近未来の世界にゲームができていたら、生活も大変じゃなかったのに。
そう思いながら、お湯で全身を洗って戻ることにした。
調理場に戻ると、なぜか騎士たちの列ができていた。
「みなさん、どうしたんですか?」
「もう終わったからここで待っている」
木筒を切る作業が終わり、料理ができるのを待っていたようだ。
エルドラン団長だけ見当たらないのは、一人でお弁当箱を作っているのだろう。
「煮込みハンバーグはできてそうですか?」
煮詰まったソースが小さく弾け、調理場から食欲をそそる匂いが立ちこめる。
「たぶん良い感じだぞ?」
「美味しそうだよ」
「これで完成ですか?」
ジンさん、ゼノさん、エリオットさんは鍋の前でジーッと鍋の中を覗いていた。
まさか火の管理を任せていたが、ずっと眺めていたのだろうか。
「完成なので盛り付けましょうか」
ハンバーグは形を崩すことなく、照りのあるソースをまとって鍋の底に収まっていた。
すぐにお皿に煮込みハンバーグを載せると、騎士たちが我先にと手を伸ばしていた。
そんなにお腹が空いていたんだね。
匂いを嗅ぎつけたのか、エルドラン団長もいつの間にか椅子に座って待っていた。
「温かいうちに食べましょうか」
「アルノーは戻ってきたのか?」
エルドラン団長は周囲をキョロキョロとしていた。
「アルノーさんならそこにいますよ……?」
「おっ……そうか……」
やはり普段のアルノーさんは認識しにくいのだろう。
僕にはお風呂で温まって、少し眠たそうなアルノーさんが見えているけどね。
煮込みハンバーグを見てはよだれを垂らしているのか、睡魔と戦ってよだれを垂らしているのかどちらだろう。
弟妹も睡魔と食欲を天秤にかけながら、こくりこくりとしていたのを思い出す。
「では……いただきます!」
「「「いただきます!」」」
挨拶を済ませると一斉に煮込みハンバーグに手が伸びる。
やっぱり煮込みハンバーグの匂いには逆らえないもんね。
僕はパンを手に取った。
「焼き色は均一だし、見た目も美味しそうだね!」
パンを指で押すとすぐに戻るほどふんわりとしていた。
一口食べてみると、レオのところで作ったパンとは異なり、食感が軽く、小麦の甘さがしっかりと出ていて食べやすいパンだった。
火を使う窯と庁舎にある窯で出来上がりが違うのだろう。
「アルノーさんが手伝ってくれたから、美味しくできましたね」
僕の言葉にアルノーさんはふわりと笑った。
今度は粉を混ぜるところから、一緒に作ってみようかな。
「うぉ!? アルノーのパン美味いぞ!」
「エルドラン団長、食べすぎっす!」
「食べるのが遅いやつが悪い」
隣同士で座っているエルドラン団長とジンさんはいつものように取り合いをしていた。
煮込みハンバーグも材料が少なかったけど、しっかりと濃厚な煮込みソースができていた。
パンにつけて食べても合うから、さらにパンが進むね。
「なっ……なんだあの食べ方は!?」
「俺もマネしてみるっ……うめええええ!」
「俺もやって……うめえええええ!」
僕の食べ方をマネしたエルドラン団長とジンさんは声を上げていた。
美味しいのはわかったけど、静かに食べようね。
エリオットさんを見習って――。
「やっぱりソウタのパンは美味い……」
エリオットさんは静かに涙を流しながら食べていた。
あぁ、この人も美味しいものを食べた時に大げさな反応になっていたっけ。
「なっ、エルドラン団長せこいっす!」
「私もソウタの愛情不足です!」
「お前らのパンは俺のだ!」
エルドラン団長は迫ってくる騎士たちを手足で押し退けていた。
「うめええええええ!」
相変わらず黒翼騎士団は変わり者が多くて、賑やかだね。
この騒がしさが僕のぽっかりと空いた胸を埋めてくれているような気がした。
でも……。
「ご飯は座って食べてください!」
「「「……はい」」」
エルドラン団長をはじめとする騎士たちは、すぐに椅子に座った。
遊びながらご飯を食べてはいけないってちゃんと教えないといけないからね。
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