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転生先で生活能力ゼロ騎士団に保護された結果、僕がおかんになりました〜誤解されがちな騎士団を立て直します〜  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売
第三章

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103/103

103.兄ちゃん、食堂に向かう

「あのー」


 僕はゆっくりと近づき、彼の肩をトントンと叩く。


「ひゃい!」


 聞こえてきたのは可愛らしい驚いた声だ。

 どうやら驚かせてしまったらしい。


「驚かしてすみません」


 僕がすぐに謝ると、青色の瞳がジーッと僕を見つめていた。

 金髪で青色の瞳だけど、どこかで見たことあるんだよね。

 それに誰かに似ているけど、身近にいる人じゃないから中々思い出せない。


「何かありましたか?」


 あまりにも見つめてくるので、僕は彼に聞いてみた。


「いえ、私を見ても態度を変えなかったので……」

「態度……あぁ!? 貴族の方でしたね!」


 僕は黒翼騎士団の制服を着ているから、貴族の子どもからしたら立場は下になるのだろう。

 僕はすぐに姿勢を正して、拳を胸の前に当てる。

 それを見た少年は少し残念そうに表情を曇らせた。

 正しいことをしたのに、間違えたのかな?


「すみません。まだまだ礼儀とかわからないので……」

「いや、気にしないでくれ。むしろ私はそれが嫌なんだ……」


 どうやらあまり畏まって接してもらいたくないのだろうか。

 年相応に接してもらえないのも大変なのかな?


「えーっと、僕の名前はソウタって言うんだけど、君の名前は?」

「私かい? 私は……ルシ……ルシアだ」

「ルシアくんね!」


 これで名前を聞いたから、少しは距離が近くなるだろう。

 よく弟妹の友達と一緒に遊ぶことが多かったけど、名前で呼んであげると警戒心が減って、すぐに仲良くなれるからね。


「ルシアくんは迷子かな?」

「いや、君の方が迷子じゃないのかい?」

「うっ……」


 迷子かと聞かれれば迷子だろう。

 だが、迷子になっているのは彼も変わらないと思うけど……。


「よかったら一緒に探検しませんか?」

「探検?」

「ええ、僕はこの通り騎士なので、目的地までルシアくんを守りますよ!」


 そう言って、僕はルシアくんの手を握る。

 城の中を探検していたら、そのうち食堂の場所ぐらいわかるだろう。


「ルシアくんはもう文字の勉強を始めた?」

「私は何年も前に習いましたよ」

「うわー、やっぱり貴族ってスパルタなんだね」


 僕は朝勉強したばかりなのに、同じ年頃のルシアは数年前に習ったようだ。

 きっと二~三歳ごろには貴族の教育が始まったことになる。


「たくさん勉強するのが貴族として勤めだからね」

「ふふふ、じゃあ将来は立派な貴族にならないといけないね」


 そう伝えると、ルシアくんはその場で足を止めた。

 その表情はどこか暗く、辛そうに見えた。


「本当に勉強を頑張ったら立派な貴族になれるのか? 毎日毎日、剣を振るか勉強するか……そんなのことをして意味があるのか?」


 ずっと縛られていることが、ストレスになっているのだろう。

 この年頃だと走り回ってみんなで遊びたいよね。

 弟妹が同じ年頃の時は椅子に座ることすら嫌がっていたのに……。

 気づいた時には僕の手はルシアくんの頭の上にあった。


「なっ……なんだ!?」

「あっ、頑張っているなと思ったら、つい撫でちゃった」


 ずっと頑張っているのに、褒めてもらえなかったら、やる気も続かないだろう。

 それに今まで接してきた貴族は、みんなガチガチに縛られて、詰め込まれる教育を受けてきた。

 だから、人に甘えるってことを知らない。

 ここは年上である僕の出番だ。


「あんまり頑張りすぎも体に悪いですからね」

「そんなこと知ってる」

「本当に? ほら、腕を広げて!」


 僕はルシアくんの腕を広げると、勢いよく抱きついた。

 大変な時って人の温もりを感じると、自然と体の力が抜けてリラックスできる。

 ゼノさんなんて僕を人形みたいに感じているのか、ずっと抱きついてくるからね。

 どうしたらいいのかわからないのか、宙に浮いていたルシアくんの手はゆっくりと僕を抱きしめ返す。


「ほら、リラックスしてきたでしょ」

「そうだな」


 少し照れくさそうに笑っているルシアくんは、年相応な顔をしていた。


「じゃあ、探検の続きでもしますか!」


 さあ、いざ探検すると言っても、城の奥を見て回ったことがないから、どこに向かえばいいのだろう。


「ソウタはどこに向かってたんだ?」

「僕? えーっと、食堂の場所って知ってる?」


 僕の言葉にルシアくんはポカンと口を開けた後、すぐにクスクスと笑い始めた。


「なっ、ルシアくんも迷子じゃん!」

「いや、私は一度も迷子って言ってないからな」


 そう言いながら、ルシアくんは僕の手を引っ張っていく。

 さっきよりもどこかその手は大きく感じるほど、グッと握られている。

 まるで自分の進む道の迷いがなくなったのだろう。

 これじゃあ、どっちが騎士かわからないね。

 ただ、ルシアくんが歩いて行くのは、僕が歩いて来た方向だった。


「ひょっとしてだいぶ過ぎてたのかな……?」

「かなり奥まで来てたからね。あまり奥には近づいたらダメって聞いてなかったのか?」

「んー、あまり城のことはわからないからね……」


 コンラッド団長からは何か聞いた覚えもないし、エリオットさんとは来た時はずっと付きっきりだったもんね。


「そうか……。まあ、貴族は姑息なやつも多いからね」

「その時は僕が守って……」


 いざ胸を張ろうとしたら、ルシアくんは握っている手を目の前に出してニヤリと笑った。


「守ってもらいますね」

「くくく、ああ、私がソウタを守ってあげよう」


 なぜかルシアくんの表情が逞しく見えた。

 ルシアくんは迷うことなく廊下を進んでいく。

 途中ですれ違う人たちは、彼の姿を見ると慌てて頭を下げた。

 中には緊張した様子で挨拶をする人までいる。

 やっぱり貴族ってすごいんだなぁ。

 僕がそんなことを考えていると、ルシアくんは少しだけ居心地が悪そうに視線を逸らした。


「みんな、私を見るとああなんだ」

「人気者なんだね」

「そういうわけじゃないと思うが……」


 むしろ困ったような声だった。

 やっぱり偉い家の子なんだろうな。

 いくら子どもでも数十年後には、上司になるかもしれないと思えば、よそよそしくなるのかもしれない。

 その点、僕は子どもだからと誤魔化せるだろう。

 そもそもルシアくんがそれを拒んでいるからね。

 しばらく歩くと、遠くから香ばしい匂いが漂ってくる。


「おおっ!」


 思わず声が漏れた。

 まさか本当に匂いで食堂のある場所がわかるとは思わなかった。


「たぶん食堂があっちにあるよ!」


 僕の言葉にルシアくんは肩を震わせた。

 どこか寂しそうな顔をした後に、ニコリと微笑んだ。


「ソウタは食べることが好きなんだね」

「うん! よかったら今度何か使ってあげるよ!」

「本当に作れるのか? 城で迷子になるのに?」

「迷子は関係ないもん……。料理は任せなさい!」


 僕が胸を張ると、ルシアくんはクスクスと笑っていた。

 角を曲がると大きな扉が見えてきた。

 美味しそうな匂いはその先からする。

 どうやら本当に食堂に着いたようだ。


「着いたよ。この先が食堂だ」

「ありがとう!」


 僕は勢いよく礼を言った。

 もし一人だったら、今頃まだ城の中を彷徨っていたかもしれない。

 だが、ルシアくんはその場で足を止めた。


「私はここまでだ」

「あれ? 入らないの?」

「私は勉強の続きをしないといけないからね」


 そう言って微笑む。

 どこか寂しそうにも見えたが、さっきよりずっと表情は明るかった。


「そっか。また会えたら探検しようね」

「ああ」


 ルシアくんは一瞬だけ目を見開いた。

 まるで、その言葉を予想していなかったみたいに。


「今度は迷子にならないように気をつけるよ」

「それは無理だと思うな」

「ひどい!?」


 僕が抗議すると、ルシアくんは楽しそうに笑った。

 年相応の無邪気な笑顔だ。


「それじゃあ……ソウタ」

「うん、またね!」


 彼は少しだけ言葉を選ぶように間を置いた。


「今日はありがとう」


 その小さな声で一言だけを残し、踵を返す。

 金色の髪が揺れ、窓から差し込む光を受けて明るく輝いている。

 伸びた背筋は、さっきまでよりずっと大きく見えた。


「ルシアくん、絶対美味しい差し入れ持って行くね!」


 振り返ることなく片手を上げた彼は、そのまま廊下の向こうへ消えていった。

 初めて貴族の子どもと話したけど、思ったよりも変わった子だった。

 イメージしていた貴族よりも偉そうじゃないし、真面目なのにどこか寂しそう。

 まるで無理に大人になろうとしている少年って感じだ。

 少しだけでも気分転換になれたなら良かったかな。


「またいつか会えるといいな……」


 僕は気持ちを切り替え、目の前の大きな扉へ向き直った。

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