第22話 正義のために
しくじり9 自分の正義を妄信し、過去に法を犯していた
どんなに観光客で賑わう火山と温泉の街にも、『黒い部分』はある。
「まいど」
「…………」
フードで顔を隠して雷鳴槍のボルトはそんな『黒い部分』に足を運んでいた。
『あるもの』を手に入れるためだ。
「…………」
目的の物を手に入れたボルトは、周囲を確認して人通りの多い所に戻った。
とりあえず誰にも見られていない。
計画は、今夜のうちに実行できそうだ。
「すみません。今の方に何を売ったのか、教えて頂けませんか?」
「ひっ!?」
魔法剣士のジャスティンは丁寧な口調で、ボルトに何かを売った路地裏の商人に剣を突きつけた。
「ジャスティンさん……そんなことしたら怖がられてしまうわ……」
聖術師のティナがジャスティンの剣をどかし、路地裏の商人の手に金貨を握らせて問いかける。
「驚かせてごめんなさい。さっき、何を売ったのか教えて頂けないかしら」
「え、えと……その……」
「足りないかしら? これでどう?」
「金貨が……3枚……あの……の、呪いの首飾りを……売りました……!」
「そう……ありがとう。おやすみなさい」
情報を聞き出したティナは商人に睡眠魔法をかけて眠らせる。
呪いの首飾り――古来より、数々の陰謀に使われてきた呪いの道具だ。当然、御禁制の品である。
「さて、これでボルトさんの企みは大体見当がついたわね」
「そうですね。さて、この商人は憲兵に連行してもらうとして……ふう、ボルトさんの悪事に手を貸すのは正義に反しますが……」
「そんなことは言っていられないわ。アリスちゃんを何とかするのが私たちの『正義』よ」
「確かに。僕たちは正義のためにアリスさんを導かねばなりません」
聖術師のティナ=セイル=ブロンゲールは、元は教会の修道女だった。
聖術師の高等職位に目覚める前から、目的のためには手段を選ばない女だった。
修道女時代から、重病の患者や死期の迫った老人に家族の許可を取らずに、秘密裏に『安楽死』を施していた。それこそが正義だと信じていた。
不審に思った同僚たちもいたが、ティナは無実の罪を被せ、時には事故を装い、それらを排除してきた。自分の信じる正義のために。
彼女は自分の正義に溺れていた。
魔法剣士のジャスティン=アルバ=ブランクロウもまた、自分の信じる正義を絶対と信じ、それを妨げるすべてを容赦なく排除してきた。
窃盗を働いた貧民街の子供にも容赦なく、炎魔法で全身を焼き、そして斬り殺した。過剰な処分で、逆にジャスティンが罪に問われてしまうところ、彼は貴族の権力でそれを握りつぶした。勇者の仲間として選ばれるまで、領内でそんなことを繰り返した。
正義のためには、法を犯すこともいとわない――そんな矛盾を抱えていた。