第21話 休息
『火山と温泉の街』は、カインドック王国最大の火山と、その麓に位置する温泉街で有名な街だ。小さな街だが、多くの観光客が訪れる名所でもある。
勇者パーティはこの街でお屋敷みたいな大きな宿を貸し切り、3泊ほど休む予定になっていた。
「勇者アリス様と勇者の仲間の皆様、長旅お疲れ様でした! この街の温泉でゆっくりとお休みください!」
勇者アリスたちは宿の女将や従業員から熱烈な歓迎を受ける。雷鳴槍のボルトや魔法剣士のジャスティンはその過剰すぎる応対に満足げな表情を浮かべるが、アリスはどこか居心地悪そうにしていた。
「……宿を貸し切ったり、3日も休んだりする必要ないのに」
「そう言うな。王都から経済都市まで、連戦だったんだ。それに大きな戦いが控えている。少し休んだ方が良い」
貸し切った宿の休憩スペースで集まる勇者と勇者の仲間たち。不満を口にするアリスを、聖騎士のレオナルドがなだめる。
「さて諸君、これからのことについてだが――」
レオナルドが今後の日程について改めて一同に説明する。
これから彼らは、この火山と温泉の街を経由して西の港町に向かう。西の港町には、現在魔王軍の艦隊が集結しているらしい。
「魔王軍の艦隊……魔物に操艦なんてできるんですか?」
「できない事はないと思います。人語を話す魔物だっているんです」
「それでも戦艦を運用するなんて複雑なこと……」
「いえ、もし知能の高い魔物がいれば……」
ジャスティンの疑問に、氷狙撃手のスナイトが意見を述べる。
「スナイトの言う通りだ。目撃情報では船上にいるのはゾンビやスケルトンのようだが、明らかに奴らを操っている、それこそ高い知能を持った魔物がいると考えられる」
レオナルドは引き続き、西の港町に接近している魔王軍の艦隊について説明を続ける。
「……艦隊については以上だ。その後は、海を渡り東の大陸にあるエスタード王国に向かう。復習になるが、エスタード王国は現在魔王軍の侵攻により、王都と国土の7割を奪われ、滅亡の危機に瀕している」
「王子、それならばこんなところでのんきに休んでいる暇はないのでは?」
アリスがレオナルドに意見する。
「いや、だからこそだ。これから戦いは一層厳しくなる。一度無理やりにでもここで休んでおく必要がある」
「僕はそんなに弱くありません! ハヤトと旅をしていた時は、1週間近い長期戦も当たり前でした!」
アリスの言葉に、五色魔導士のエイミィがあきれたようにため息をつく。
「アリスちゃん……君は大丈夫かもしれないけど、私たちは持たないよ」
「そう……ですね……すみません」
エイミィの言葉にアリスがおとなしくなる。いくら高等職位とはいえ、全員が勇者並みの体力を持っているわけではない。
「まあ、そういう意味でもここでの休息は必要だ。みんな、ゆっくり体を休めて、英気を養ってくれ」
「ゲイル、誰もいないな?」
「はい、レオナルド様。皆さん外に出ています……」
レオナルドの寝室に、電光石火のゲイルが入る。
アリスはせっかくだからと団体客用の大部屋を借りて自主訓練中。雷鳴槍のボルトと聖術師のティナ、魔法剣士のジャスティンは街に出ていて、その他の面々は宿の温泉につかっている。
「赤いドラゴンファイターに関する情報は?」
「……お金を渡して全部入らないようにしているっス」
「そうだ、それでいい……赤いドラゴンファイターに関する情報は、絶対にアリスに触れさせるな。今のアリスには刺激が強すぎる。どういう反応をするか……最悪暴走しかねない」