第19話 それぞれの陰謀
間もなく夜が明けようとする中、川に下水を流すトンネルの中から、獣戦士のカマスと五色魔導士のエイミィが出て来る。
「はあ、はあ……何とか逃げ切ったか……なんか今日は地下と下水に縁がある一日だったな……」
「証拠は今頃がれきの下さね……さあ、急ごうか、カマスくん。幸い私たちの出発も今日だ。何事のないうちにこの街を出よう」
カマスとエイミィはずぶぬれになりながらも宿に戻る。
地下闘技場はドラゴンファイターレッドによって守られたこと。
獣人にされた人たちは全員元に戻ったこと。
すべての証拠はがれきの下に埋もれず、衛兵たちの手に渡ったこと。
これらの事実を、カマスとエイミィは知らないまま、次の街に向かうことになる……
「レオナルド様、やはりエイミィ殿は裏社会に通じ、違法闘技場で荒稼ぎをしていた用っス……衛兵局によって証拠は全部集められているっス」
「カマスは?」
「多分何らかの事情で、エイミィ殿に弱みを握られたようっス……」
「そうか……」
「それと、ティナ殿とジャスティン殿、ボルト殿の動きもなんか怪しいっス」
「わかった……ゲイル、引き続き『勇者の仲間たち』の監視を続けてくれ」
宿屋の一室にて。
電光石火のゲイルから報告を受けて、聖騎士のレオナルドは大きなため息をついた。
どうしてこう、自分の思い通りにならないのだろう?
「レオナルド様、エイミィ殿とカマス殿に対する処罰は――」
「見逃す」
「はい?」
「今回は、見逃す。証拠も回収しておいてくれ。手段は任せる」
エイミィとカマスの勇者パーティの一員として、いや人間としてあるまじき行為を、レオナルドは闇に葬り去ろうとしていた。
「ど、どうしてっスか? こんな重罪、放っておいたらもっと大きな事件が――」
「これはあの二人に対するカードだ。これから先、違法な手段でも使わなければどうしようもないことが起きる……」
「アリス様のことっスか?」
「そうだ」
レオナルドは憂慮していた。
勇者アリスが、暴走することを。
その結果、自分のコントロールから外れることを。
最悪の場合、自分の利益に反する勢力になることを……
「アリスにはなるべく、ゴーシュかスナイトを組ませる。それが一番アリスの精神状態にとって一番安定するだろう。あとは……」
レオナルドは気味の悪い笑みを浮かべる。
「ティナとジャスティン、ボルトの出方次第だな……あの三人はどんなカードを持っているのか……」
「…………」
ローブで姿を隠した雷鳴槍のボルトは、貧民街で目的の物を手に入れた。
燃やすと強い睡眠効果をもたらす、植物の葉を粉にしたものだ。違法薬物の類であり、当然値段も高い。有力な貴族の出であるボルトにとっても大きな出費だ。
だが、必要な出費である。
勇者アリスを、自分の虜にするために……
「……やっぱり、ボルトさんね」
「目的は……アリス殿を……」
ボルトは気づいていなかった。
そんな自分の後をつける、二つの人影に……