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雷帝の後継者  作者: 森戸 玲有
第5章
29/56

1

 イシャナは、癖のある弟を心配しているつもりでいた。

 子供の頃から、ルフィアは変わっていた。

 いつも、ぼうっとしていて、空ばかりを眺めていて、たまに話しかけても、一言、二言、囁く程度に話す程度だった。


(こいつは、言葉が分からないのではないか?)


 ルフィアは、本気で頭の病なのではないかと可哀想になった。

 だから、ある日、イシャナは意を決して父に相談をした。


 ――ルフィアは病気なのではないか?

 ――だったら、医者に診せた方が良いのではないか?


 しかし、父はなぜか顔を真っ赤にして、怒鳴った。


 ――お前には、弟がそのようにしか見えないのか!……と。


 おかしな話だ。

 なぜ、気にかけてやったのに、自分が叱られなければならないのか……。

 ルフィアは、健康上の理由から第二王子としての公務をこなすことは出来ない。

 幸い、手先は器用で、絵を描くことが好きだという話だから、何処か静かな場所で、好きなことをして、ひっそり生きた方が良いのではないか……。

 しかし、イシャナは長い年月を経て、少しずつ確実に気付いていった。

 ルフィアは、イシャナを騙していたのだ。

 何もできないふりをして、帝王学、史学、医学の知識、剣術、兵法、様々な知識や武術をあっさりと習得していた……らしい。

 おまけに、王子であることを隠して「ハルア」という名の芸術家として、イラーナ国内で高い評価を得ているというではないか。

 弟は王位になど興味を持っていない。たまに顔を合わせても、相変わらずイシャナそっちのけで空ばかり見ている。 

 イシャナの敵ではないはずだ。

 …………けれども。

 国民がルフィア=ハルアと知ったのなら、人気は更に上昇し、誰もルフィアの発言を無視できなくなるだろう。

  神官長の言葉が、日に日に気になっていった。


(…………ルフィアが魔道に堕ちている……と?)


 バカバカしいと言えば、その通りだが、確かに、ルフィアは三千年前の女王の資料や宝飾品を収集していた。

 女王イラーナと言えば、長い王家の歴史の中で、腫物扱いされている初代女王だ。

 魔道を駆使し、魔物を国から遠ざけた。しかし、実際は毒を持って毒を制したにすぎない。彼女自身は、即位してから長く生きていないのだ。

  結局、人としての道を踏み外した対価だと、子供の頃に神官長から聞いた。

 そもそも、彼女が魔道に堕ちたせいで、魔物が人間界を狙うことになったという話だった。


(ルフィアの奴…………)


 もしも、魔道に堕ちてしまったのなら、大変なことだ。

 ましてや、この国の第二王子が魔物になど興味を持つなんて……。

 ルフィアは変わっている。その可能性は十分にあるだろう。

 だから、神殿の壁画を描かせることにした。

 あの神殿には、魔物除けを多数配置している。本当に弟が魔道に堕ちていたら、何らかの反応を示すはずなのだ。


「…………王子」

「………えっ?」

「ここじゃよ」


 声がした。

 白い月と同等の白皙。

 金髪の少年が窓枠に座っている。


「誰だ、何なんだ。お前は!?」

「しいいっ」


 いかにもこの国の人間ではない民族衣装に身を包んだ子供は、人差し指を口元にあてて、あどけない微笑を浮かべていた。

 ここは王宮の中でも、一番警護の行き届いている場所のはずなのに……?


「お前、どうやって……?」

「ほほほっ、そう警戒しなさんな。殿下に耳よりの情報を……と思って、ワシはやって来たんじゃよ。つまり、殿下の敵ではないということじゃ」

「敵ではない? 本当なのか?」

「今のところは……の」

「なにーっ? それは、どういう意味だ?」

「まあまあ、この話を聞けば、ワシの言いたいことも分かるはずじゃ。…………この国の第二王子、ルフィア王子のことでな」

「なっ!?」


 …………そうして。

 少年は甲高い声のくせして年寄りめいた口調で、イシャナの気にしていた情報を語っていったのだった。

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