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――あれは、十年前のことだ。
ユラは、トワと手を取り合い、砂漠の中を歩いていた。
国にいたところで、どうせ殺されてしまう。それならば、平和な国に行こうと……。
隣国に行ったら何とかなるだろうと、ただそれだけの思いで、無謀な砂漠横断を決めた。
――結果、死にかけた。
実際、ユラもトワも、砂漠がどんな所かよく知りもしなかったのだ。
視界を穢す風。どこまでも広がる黄色い砂だけの大地。
――もう助からないだろう。
丸二日、飲まず食わずで、熱波の中にいて、自然とそれを理解した。
――……でも。二人はいつまでも死を迎えることはなかった。
「…………まだ、生きたい?」
赤髪の男が、そう訊ねた。
そう。
――――それが、すべての始まりだった。
エンラのおかけで、ユラは生き延びることが出来た。
あの時の選択を、後悔したことなんて一度もない。
でも、エンラはどうなのだろう?
二人に血を与えたことで、エンラの人生は、大きく変わってしまった。
(……父様は、もしかしたら、悔やんでいるのでは?)
後悔していたとしても、おかしくはない。
エンラ側に利点など一つもないのだから……。
(むしろ、私たちを助けたせいで父様は……)
強くならなくてはいけない。
能力だけではない。
あらゆることで、ユラは頑張らなければならないのだ。
父を、がっかりさせるわけにはいかないのだ。
―――だけど。
後継者に選んだ娘のこんな醜態を知ってしまったら?
そうしたら、きっとエンラは…………。




