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第5話 勇者と店長

 夢を見たんだ。


 なんとそれは俺が死んでしまう夢だったんだが、死んだと思ったら色々あって生き返り、しかしそこはファンタジーな異世界だった、という。

 目が覚めたら俺は自分の部屋でシーツにくるまってベッドの上にいたら良かったですねこんちくしょうめ。


 夢だけど夢じゃなかった。

 おはようございます、阿妻優斗です。


 残念ながら目が覚めたのは自分の部屋ではなく、木造建築「ドラゴンの大牙亭」の三階の客室だ。

 ベッドも清潔だがスプリングの利いた現代のものほど快適とはいかない。


 部屋はベッドの他には簡素な机とクローゼットがあるだけの小さな部屋だが、個室だ。

 雑魚寝であったり相部屋だったりするんじゃないかとも思っていたが、探索士は迷宮から持ってきた高価なアイテムや武器などがあるので、防犯のため全室個室らしい。


 時間は……残念ながら時計がないのではっきりとはわからないが、太陽は既に上っている。

 それに多分、現代では早朝と言っていいくらい、6~7時くらいだろう。


 何故かというと、まあ、夜はテレビも漫画もネットも何も無かったので早く寝たからだ。起きていてもすることがない。

 下の喧騒も俺が寝入る頃には静まっていたので、おそらく夜は早く寝て朝早く起きるのが一般的な生活サイクルだろう。




「おはよう、アルマさん!」

「おはよう」


 身支度を整えて階下に降りると、ミーシャが朗らかな声で挨拶してきた。


 昨夜、宿帳に記帳した時に、天龍眼のおかげで読むことは出来ても文字を書くことはできないのでミーシャに代筆してもらったのだが、案の定「アルマ・ユート」って書かれてた。


 まあ俺も生まれ変わったようなものだし、これからはアルマでも別に構わないんだが……


『いや、その考え方はよくないな。

 名前とは己を定義するもの。名前の変遷は自我の変遷を招きかねん』


 ところが天龍にはそのへんこだわりがあるらしい。

 自分の名前を確認するために俺を生き返らせただけのことはある。


『よかろう、せめて私だけでも、お前のことを正しい名で呼んでやろう。いいな、アル――


 ……………………


 ……アジュマ、アルゥマ、アズゥ……』


 ……………………


『……ユート、でいいか?

 おいこら笑うな、可愛いとは何事だ、私は小さな女の子ではない――かどうかは定かではないが……おい、ユート!』

「どうしたの? 急に笑いだして」


 不思議そうに首をかしげるミーシャに、何でもないと手を振ってカウンター席に座る。


 それよりもまずは朝食だ。もうさっきから香ばしいトーストの焼ける匂いとコーヒーの香りがいっぱいに広がっていて、昨晩あれだけ食べたのにお腹が減ってくる。


「モーニングセット、お願いします」

「……ん」


 俺の注文に、店長はちらりとこちらを見てうなずくだけだが、料理の腕は折り紙つきだ。楽しみに待とう。


 そういえば店長のステータスちゃんと見てなかったな…… 天龍眼に意識を集中して見てみる。どれどれ。


グランノート・レイン 人間 Lv58

48歳 男性 無属性

剛重闘士Lv36


 強っ!?


 今まで見てきた中でも群を抜くレベルの高さ、初めて見るクラス名はいわゆる上級職というやつか、しかもそのクラスのレベルも高い。

 昨晩見た客の探索士たちのレベルは一桁から、高くても30未満だったし、上級職らしきクラスは一人もいなかった。まさに次元の違うステータスだ。


 というか上級職とかあるのか……とクラスをじっくり見ていたらさらに詳細な情報がポップアップしてくる。

 今まで表示されていたのはその人の代表的なクラスだけで、実際には複数のクラスをとることができるようだ。


 グランノート店長のクラス情報は以下の通り。


戦士Lv50 武器スキルLv1以上

重戦士Lv50 戦士Lv30以上、特定の武器スキルLv4以上、重装スキルLv4以上

剛重闘士Lv36 重戦士Lv30以上、武器スキル三種が各Lv7以上、重装スキルLv7以上

調理師Lv38 料理スキルLv3以上

剣士Lv24 戦士Lv30以上、剣系スキルLv4以上

槍士Lv21 戦士Lv30以上、槍系スキルLv4以上

斥候Lv18 罠解除スキルLv1以上

商人Lv12 算術スキルLv1以上

竜殺者Lv7 ドラゴン種を1体以上討伐

農家Lv5 農作業を一定期間以上経験する


 上級どころか三次職だった! 店長パねぇ!!


 クラスに付随する筋力上昇などのアビリティとか、クラスの取得条件にもなっているスキルなどもあるが、流石に長くなりすぎるので割愛しておこう。

 ただ、クラスによるアビリティは重複するらしく、戦士と農家の筋力上昇・小や、重戦士と竜殺者の筋力上昇・中などが複数並んで表示されていた。

 色んなクラスを取るとお得なようだが、効果はクラスのレベルによって上下するようなので、取りすぎは中途半端になりかねないな。


「……何を見ている」


 ステータスを見ながら色々考察していると、当のグランノート店長が俺の前にモーニングセットを置きながら、じろりとこちらを睨んだ。


 目付きが超怖い。まさか天龍眼で見透かしていることに気付いたんだろうか? 俺は思わずびくりと肩を震わせた。


「いや、えっと…… 店長さん、強そうだな、と思って。もしかして探索士だったのかなー、とか……」

「……昔はな。怪我で引退して、ここを始めた。お前も気を付けろ」


 それだけ言って、店長はこちらに背を向けて離れていった。

 怪我ねえ。今はもう治ってるみたいだけど……と思いながら、何気なくステータスを見てぎょっとした。


筋力 78(-35)/85


 こんな感じで、ほとんどのステータスにカッコつきのマイナスがついている。

 それでも全体的にマルクさんの数倍はあるが、敏捷だけはほぼ0に近かった。このマイナスは怪我の後遺症による影響か。


 おそらく牙が飾ってあるグランドドラゴンと戦ったときのものじゃないだろうか。

 相手も凄まじかったのだろうが、店長ほどのレベルがあっても探索士というのは危険なのだ、と思うと背筋がひやりとした。


「……食え。サービスだ」

「え。……あ、ありがとうございます」


 モーニングセットに手をつけずにさらに店長のステータスを見ていたら、何故か一品追加された。


 まあ、今日は探索士協会に行って、さらに迷宮にも少し潜ってみるつもりでいる。いつまでもゆっくりしているわけにはいかないし、モーニングセットも冷めてしまう。


 まずはトースト。表面はカリッと、美味しそうな小麦色に焼けたそれが一枚。

 そしてスクランブルエッグにソーセージ。小皿のサラダとコーヒーがついてくる。


 そして、店長サービスのベーコンエッグだ。

 これがまた、ベーコンが厚めで焼けた脂の香ばしい匂いがして美味しそう。

 スクランブルとベーコンでエッグが重なってしまったことなんか気にならないね!


 このベーコンエッグを、豪快にどーんとトーストに乗せる!

 そしてかぶりつく!

 うまぁい!!


 そのままではクドいくらいのベーコンと玉子の味が、トーストの風味で優しく仕上がっている。

 外はパリッと、中はもちっとしたトーストの食感も嬉しい。


 それにしても店長の料理の腕はやはりいい。

 調理師Lv38(ちなみに料理スキルは7だった)は伊達じゃないな!


「アルマさんはいい食べっぷりねぇ。マスターが気に入ったのもわかるわ」


 二口でトースト半分をかじったところで、ミーシャがころころと朗らかに笑いながら後ろを通り過ぎた。

 気に入られ……てるのかなあ。店長の顔は相変わらず仏頂面で怖いんだけど。


 ふと思い立って、ミーシャのクラスを確認してみた。

 勇者のほかに商人とか調理人とか覚えててもおかしくないな、と思ったのだが……


◇勇者Lv1

取得条件 世界に他の勇者がいないこと

全能力値上昇・極大、成長速度補正・極大、限界突破、転職不可


 ……勇者しかない。

 おやっと思ってよく見ると、転職不可のアビリティに「勇者以外のクラスを取得できない」という効果があった。

 まあ、その勇者のアビリティが破格なのでデメリットがあまりデメリットになっていない状態だが。


 しかも能力値がまたすごい。

 現在値はいずれも10台前半なのだが、アビリティ限界突破の効果でなんと限界値が全部999になっている。あやうくトースト吹き出すところだった。

 一人だけゲームが違うぞ。勇者すげえ!


「……何を見ている」

「……いえ、なんにも」


 店長にさっきと同じことを言われた。

 目付きがさっきよりちょっと怖かった。


『……あまり勇者に関わるな。我らの目的に勇者は関係ないだろう』


 まぁ、天龍の言う通りだ。

 確かに勇者はすごいが、現段階ではごく普通のウェイトレスだし、魔王が世界を脅かしているわけでもないのだから勇者に覚醒する必要もない。

 ついでに言うと、一見戦闘力のない街のウェイトレスを仲間に誘うというのは、男として探索士として人としてちょっとどうかと思う。

 むしろ、仲間になって一緒に戦ってよ! なんて言ったら店長に殴られそうだ。一般人の四倍はある筋力で。


「仲間か……」


 戦力で言えば仲間は欲しいが、仲間になってくれる人がいるかどうかは怪しいところだ。

 特に俺は天龍を探すと言う特別な目的があるし…… その目的にずっとついてきてくれる人というのは、まずいないだろう。


「……ま、とりあえず後で考え――スクランブルエッグうまっ、玉子がふわふわだ!」


 スクランブルエッグなんて簡単なもので、自分でも作ったことがあるが、あえて言おう。あれはゴミであった。

 火が入りすぎて玉子が固くなって、単に玉子焼きをぐちゃぐちゃにしただけの失敗作だった。

 それに比べて、いや比べるのもおこがましいほどに、このスクランブルエッグの美味いことよ!




 ――と、無邪気にはしゃいでいた俺はまだ何も知らなかった。


 勇者とは何なのかも。天龍がわざわざ釘をさした理由も。


 勇者に関わった者の運命も。

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