第44話 一時共闘
「ごきげんよう、アルマさん。またお会いしましたわね」
「おはよう、ルティア。偶然だな」
ばったりとルティアと出くわした。
前は街中の自由市場だったが、今度は迷宮門前町の、ラディオンの森の入り口だ。
お互いにパーティ全員がそろっていて、フル装備である。
普段と服装が変わらないのはルティアぐらいだ。
まあ、ルティアだって探索士なんだから、今まで会わなかった方がおかしいくらいだろう。
お互いに今から迷宮に向かうので、自然と一緒に歩くことになる。
「新しいお仲間が増えましたのね。そちらの方は?」
「ああ、斥候のユズだ」
斥候と聞いて、獣人の少年斥候ディッツがちらりと視線を向けた。
その視線に気付いたユズがにこにこと笑顔で手を振ると、ディッツは照れて顔を赤くしながら、手を振り返す。
そんなディッツをからかうように、レジーが軽く小突いた。
「ふぅん…… ユズさん、わたくしはルティアと申します。仲良くしてくださいましね。……ふふっ」
「ユーザニナ・ニンフィア。ユズだよ。……むっ」
つんと胸をそらして微笑むルティアに、ユズは胸を張りながらも眉根を寄せる。
……この二人の差は、人間とエルフというだけの差とはとても思えないな。
「ユズ、あまり構わない方がいい」
「まあ、随分な言い方ですこと」
クロードがユズの肘を引いて離れさせると、今度はルティアがぴくりと眉を震わせる。
何の駆け引きだよ、これ。
『ふむ。これが世に言う三角関係というやつか』
いや、絶対違うと思うんだけどな……
そんなことをやっている内に、道は分岐路に差し掛かる。
今日は牙狼の迷宮だから、あっちだな。
「それじゃ、俺たちはこっちの道だから……」
「あら? 奇遇ですわね、わたくしたちもそちらですわ」
というわけで、もうしばらくルティア達と一緒に歩くことになった。
……というか、これはもしや。
「そういえば最近、アヅマっちの噂、聞くんだけどさ。
ゴブリンをバサーッと真っ二つにしたとか、すげー魔法で大爆発起こしたとか、鉄鉱石で協会のカウンターを埋め尽くしたとか、最近パないんじゃね?」
「ん、そんな噂なんかになってるのか?」
前の剣と、ガンシューティングでゴブリンの魔法を誘爆させたのと、ドロップアイテムの鉄鉱石をバックパック一杯に持ち込んだ話か。
迷宮内では別の探索士に会うこともあるし、ガンシューティングは音も派手だし、探索士協会には他の探索士もいるし……噂になってもおかしくはないが、なんだか話が盛りぎみだ。
まあ、噂ってのはそんなものかもしれないが。
「あ、うん、アズマは結構前から噂になってるよ。
クロードが学士なのは有名だったけど、妙な剣を持ってその学士と二人で迷宮に入る剣士がいる、ってぼくも聞いた」
「人呼んで、三日月剣のアヅマ! なんつって」
「そんな風に呼ばれたのは初めてだよ」
漫画やゲームで二つ名とか持ってるキャラを、なんか恥ずかしいとか、いやそんな風に呼ばれるヤツいないだろとか、そう思っていたのだが、まさか自分がそうやって呼ばれることになろうとは……!
せめて三日月刀のアヅマと呼んで欲しい。
『いや、こだわるところはそこなのか?』
この世界に日本は無いし、日本刀という呼び方に違和感はあったんだよな。
三日月といえば、天下五剣……名刀トップ5に数えられる中でも最も美しいと言われる、三日月宗近である。
三日月刀。名刀にあやかった名前も悪くない。
「その腰の剣が、噂の三日月剣かいのう。
ゴブリンば真っ二つにするちいうには、ちぃとばかし細っこくて頼りなさげじゃけんども」
「いや、これは新しい剣で、その名も三日月刀という。
前の剣よりも凄い剣になってる……はず」
結局、試し切りはまだなのである。ぶっつけ本番だ。
だが、天龍眼に嘘はない。これは以前の試作刀よりも凄い刀なのだと、天龍眼とゲイルさんを信じるしかあるまい。
「……あの、アルマさん? 何処まで一緒に来るんですの?
わたくしたちはこの迷宮なのですけれど……」
話をしていたら、いつの間にか目的の場所についていたようだ。
探索士の誰かが設置した看板が置いてある。
まあ、そうなんじゃないかと思ったんだけど。
「大丈夫だ、ここであってる。
俺達も、今日から牙狼の迷宮に挑むんだよ」
「……大樹の迷宮で会ってから、まだ二月もしていないのに牙狼の迷宮に入るんですの……!?」
ルティアが驚いたように開いた口元を手で覆う。
やっぱり、ルティア達も牙狼の迷宮に潜っているようだ。
「それに、たった三人でなんて…… クロードさんにしては、大胆な判断ですわね?」
「君に心配される必要はないよ。
むしろ、僕は君の方が心配だね。あれから魔法は使えるようになったのかい?」
「わたくし達はいつも牙狼の迷宮に入ってますの。わたくしが魔法を覚えるまでもなく、危険なんてありませんわ!」
「まったく、君はまだそんな調子なのかい? パーティに貢献していないのを申し訳ないと感じるべきだよ」
「……ねぇ、何あれ?」
流れるように口論を始めたルティアとクロードに、ユズが呆れたように指差して聞いてくるが、俺に聞かれても肩をすくめるしかない。
向こうのメンバーも、困ったように手を出しあぐねている。
聞いていると、お互いの主張はこんな感じだ。
ルティアは、俺達がたった三人で牙狼の迷宮に入るのが心配。
クロードは、剣も魔法も使えないルティアが心配。
……不思議だ、喧嘩しているはずなのにこうしてまとめてみるとまるで互いの身を案じる仲のいいカップルみたいだぞ。
まあ、それぞれの言い分もわからなくはない。
俺も新しい迷宮で不安はあるし、ルティアと初めて会った時に天龍が予想した末路のひとつが「不相応なレベルの迷宮で死ぬ」だったしな。
「よし、わかった。じゃあ、今日は一緒に迷宮を探索してみないか?」
「はあっ?」
「え…… あの、なんでそうなるんですの?」
「俺も、新しい迷宮に挑むのに多少の不安はあったんだ。ここに慣れてるルティア達と一緒に探索できるなら心強い。
あれこれ言うより、俺たちがここで戦えるかどうか、見てもらえれば早いしな。お願いできないかな、ルティア」
「……え、ええと、クロードさんがどうしても、というのでしたら? わたくしとしては、やぶさかでも……?」
ルティアも学士とクロードには辛辣だが、実際のところ、これで意外にお人好しだ。頭を下げて頼んでみたら、少しびっくりして戸惑いながらも、そんな風に言ってくれた。
こちとら腰の低い日本人である。頭を下げるのに大した抵抗はないが、こちらの世界の人はそうでもない。
「アヅマ、これくらいで頭なんて下げなくていい。僕は……」
「いや、クロード、ここは学士も馬鹿にしたものじゃない、というのを実際に見せるべきじゃないか?
そうすれば、ルティアの頑なな態度も和らぐかもしれない」
「む……」
クロードも、ルティアの姿勢に抵抗があるだけで、意外なことにルティア自体のことは、ルティアがクロードを嫌っているほどには嫌いでもないのだ。
というか、ちらっとだけ好感度を確認してみた。
いや、ミーシャが二人を仲がいいとか、ルティアがクロードを好きだとか言ってたのを思い出してしまって、つい。
クロード・アレスティン
好感度 +5/-4
ルティア・フラウミーネ
好感度 +7/-7
勿論、この数字は俺ではなくお互いに対する好感度だ。
というかお前ら、互いに好意も嫌悪もすごく高いんだけど、ほんと一体何があったらこんなにこじれるんだ?
ところで天龍、+7とか-7ってどれくらいの好感度なのか。
『結婚したいくらいの好意と、目に入れたくもないくらいの嫌悪、といったところかな。
……女心は複雑とは言うが、いやはや……』
なにそれ複雑すぎる。
ちなみに+10と-10は?
『世界の総てを捧げ尽くしても足りぬほどの狂愛と、今すぐ殺さずには正気を保てない程の殺意』
なにそれどっちもこわい。
……まあ、今回はつい好奇心に負けて見てしまったが、やはり好感度を見るのはやめておこう。
特に他人同士のそれはプライベートに踏み込む行為でもあるし、ちらっと見るだけでもかなり負担があるようだ。
ぶっちゃけ今、頭が痛い。文字通りの意味で。
「アズマ? 顔色悪いけど大丈夫?」
「大丈夫だ、ユズ。何でもない。
ともあれ、そういうことで……いいかな?」
「……わかった。これもいい機会かもしれない」
「ぼくは別にいいよ」
クロードとユズには異存はないようだ。
……ユズの方は後ろに「どっちでも」とつきそうだが。
「クロードさんがそこまで言うなら、仕方ありませんわ」
「ま、アヅマっちなら大丈夫っしょ」
「噂の三日月刀ちいうんも気になるけぇの」
ルティアのパーティも、問題はなさそうだ。
というかパーティの性質上、ルティアがよしと言えば反対するようなことはないだろう。
その後、ドロップアイテムの分配などを少しだけ話し合ってから、一緒に迷宮に入る。
ちなみに、ドロップアイテムは1:2の割合で、迷宮から出たときに分配することになった。
人数比通りなので、妥当なところだろう。
「……ルティアを頭数に入れるのか?」
「言いたいことはわかるけど……」
Lv4だもんなあ。
レベルが上がってないということは、経験を積むようなことをしていない、という意味でもある。
戦力という意味では期待できない。
でも、そもそもルティアがいないとあっちはパーティが成り立たないのも確かだしなあ。
「ま、実際どうなのかは実戦で見せてもらうとしよう」
「……そうだね。ルティア以外は十分に強い探索士のようだし」
ともあれ、俺達はルティアたちと一緒に牙狼の迷宮へと足を踏み入れることになったのであった。
次回予告
ルティア達と共に牙狼の迷宮に挑むこととなったユート達。
新たな武器、そして新たな魔法で狼に立ち向かう。
そして、ルティア達の実力は如何に。
次回、第45話「狼との戦い」。




