表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/92

第29話 真の魔法の覚え方

 かつて、魔法とは魔物たちの使う力であったという。

 それが何故、どのようにして人間が使うようになったのかはわからない。魔物と交わり魔法を得た人間が現れたとか、人間の滅びを危ぶんだ神が同じ力を授けたとか、様々な神話が残されている。


 ある者は、自然の法則を解き明かすことでそれを利用し、操ることが出来ると考え、数秘学を生み出した。

 ある者は、魔法とは精霊の力を借りたものだと考え、精霊使いとなった。

 ある者は、魔法とは天使の歌であり、正しい詠唱と正しい音階が真の魔法になると考え、詠唱法を編み出した。


 ある者は、またある者は、別のある者は――

 そうやって、世界には様々な魔法が生まれた。

 それぞれが己の信じる方法論によって魔法を研究し、今日では様々な魔法を使う魔法使いと、そのノウハウが残されている。


全部忘れろ(・・・・・)すべて嘘だ(・・・・・)


 そういった魔法史というべきものを天龍は二言で全否定したわけだが。


 ど、どういうことなんだ天龍!

 理由はともかく訳を言えーッ!


『そう混乱するな、ユート。

 そもそも思い出してみろ、天龍眼では奇跡も数秘学も精霊使いも、全て『魔法使い』であり、スキルとしても各種の属性と、回復なり強化なりの種別のみだろう。

 数秘学だとか精霊だとか、そんなクラスやスキルは無い』


 確かに天龍の言う通り、神官のガイウスも精霊使いのアルバートも数秘学を使うクロードもまとめて全員「魔法使い」である。

 これは……つまり、呼び名は違っても本質は皆同じ、ということか?

 では、アルバートの呼び出した精霊とは、一体何だったのか。


『精霊など存在せぬ。

 仕組みとしては、迷宮に魔物が生まれるのと同じだ。迷宮ではなく術者の魔力を使って存在を維持しているだけの違いに過ぎない』


 だから、天龍眼には魔物って表示されたのか。

 しかし、精霊って本当はいないのか…… サラマンダーを実際に見たあとで聞いてもなかなか信じ難いが。


 では数秘学はどうか。

 数秘学の公式というのは、物理学に通じるものがあるが。


『ん、ブツリというのはそういうものなのか?

 確かに、自然は一定の法則に従って動いている。

 だが、それは魔法とは何の関係もない』


 関係ないのかよ!

 確かに、クロードの炎は科学の法則に反しているようだけど……


 しかし、だとすると魔法とは何なのか。

 精霊はおらず、公式も関係ないなら、アルバートやクロードは何故、精霊や公式に従って魔法を実際に使うことができるのか?


『ユートよ、その問いがそもそも間違っているのだ。

 公式や精霊が魔法を生み出すのではない。

 魔法が、精霊や公式を生み出すのだ。

 迷宮を思い出せ。あれこそは天然の魔法。存在を書き換え、幻想を現出させ、現世を改変する。小は手元の小さな火から、大は世界の創造まで、現実を思うがままに歪める。

 それこそが魔法だ』


 迷宮…… 限定的な異世界。魔力の濃く集まる場所に、自然に出来上がるという危険と資源でいっぱいの空間。

 あれも、魔法で生まれた場所だというのか。


『魔とは、あるがままの存在を歪めるもの。

 魔力とは、世界を歪める、力。

 魔法とは、望みのままに世界を歪める、法。

 世界の道理をねじ曲げて、『我の望むものよ我の望む通りにあれ』と唱えるものこそ、魔法なのだ。

 魔力は世界を動かす公式を操れる、と誰かが信じた。そのようにあれ。

 精霊が魔力で世界を操る、と誰かが信じた。そのようにあれ。

 正しい詠唱で正しく伝えれば世界は動く、と誰かが信じた。そのようにあれ。

 わかるか、ユート。仮説が定説に、幻想が現実に、過ちこそが正解になる。

 人間は魔法の真実を掘り進めるつもりで、その実、魔法という土台の上に好き放題に歪なブロックを積み重ねているに過ぎぬ』


 何となく…… わかってきた。


 科学的なアプローチとは、おおまかに三段階に別れる。

 仮定、実験、分析だ。

 まあこのへんは定義も色々あるのだが、まず仮説を立て、実際に実験し、その結果を分析する。基本的にはこの繰り返しである。

 精霊使いを例にすると……


・仮定

 自然を司る精霊が存在するのではないか。

・実験

 実際に精霊に呼び掛け、召喚してみる。

・分析

 召喚に応じてサラマンダーが現れた。精霊は実在する。


 おそらくこのようにして、様々な魔法系統が確立された。


 だがしかし、魔法とはそもそも使い手の望みを具現化するものである。


 「精霊が存在するのではないか」という仮説は「精霊が存在する」という現実に。

 「精霊を召喚する」という実験は、「精霊を作り出す」という実現に。

 「精霊は実在する」という分析は、「精霊を実在させた」という結果になる。


 魔法に対して、科学的なアプローチは無意味だ。

 このアプローチそのものが、間違った現実を量産するに過ぎないからだ。

 だから、天龍は「すべて嘘だ」と言ったのだ。


『うむ。わかるか、ユート。そういうことだ。

 魔法とは、魔力で望む結果を得ること。そこに理論も理屈もない。

 魔力はあらゆるものになる。魔法はあらゆる結果を起こす。

 そもそも、魔法が存在していること自体が魔法なのだ』


 魔法も、誰かが「人間は魔法を使える」という仮定から――


 ……ん、あれ?

 魔法が使えることそのものが魔法の結果なら、最初にその仮定を立てたときは魔法が使えないわけで……?


『人間の最初の魔法使いは、おそらく神に仕える神官であろう。

 つまり、最初の魔法は人間ではなく、神、あるいは天使、はたまた魔物から授けられたのではないかな。それにより人間は、人間が魔法を使うことが出来る、と知った。

 奇跡と魔法は違うものと認識されているようだが、魔力を扱うことが当たり前となれば、数秘学なり精霊なり、後の派生が産まれるのも時間の問題であっただろう』


 ふむふむ、なるほ……え、天使とか神とか、いるの?


『正確には、そう呼ばれる何者か、だ。

 ……全知全能? いや、私の天龍眼は全知に近いが…… 現在過去未来の平行世界全てを観測し構築し操作する存在など、結論から言えばありえんな』


 ……まあ、宗教に関わりそうな話は置いといて、と。


 なるほど、魔法というのは魔力で世界を望むように作り替えるものだ、というのはわかった。

 それで、その魔法を使うにはどうすればいいのだろうか?


『方法はひとつ、信じることだ。

 手足を動かすように、息をするように、心臓を動かすように、ごく当たり前に何の気負いもなく、魔法を使えると信じろ。

 一片の疑いもなく世界が自分の意のままになるという絶対的な傲慢。それがあれば、あとは魔力が働き、そのようにするであろう』


 ……え、傲慢とか言われても。

 俺はどちらかというと、流される方の人間だ。友人に誘われて登山部に入り、天龍に頼まれて探索士になるくらいには。

 世の中が自分の思い通りになって当然、なんていう漫画の中にしか出てこないような性格はしていない。


 これから初めてやろうとすることを根拠もなく信じ込むって結構難しいぞ……?

 しかも、努力とか頑張るとかじゃなくて、意識せずともそれが出来て当たり前、というレベルでだ。どんな俺様キャラならそんなこと思い込めるのか。


『だから言っただろう、逆に魔法が使えなくなるかもしれん、とな。

 ……だが、ヒントをやろう。

 ユート、キノコの魔物を一撃で倒せるか? ただし、素手でだ』


 素手で、ということなら…… まあ、無理だな。

 キノコは弾力性のある身体をしているし、全盛期の店長くらいの筋力ならともかく、俺では一撃どころか何十発も殴らないといけないだろう。


『うむ。では、剣を使えばどうだ?』


 それは考えるまでもない。実際に一刀両断したからな。


『それと同じだ。目的を達成するために手段を選べ。

 特別な道具を用意したり、決められた身振り手振りを行ったり、呪文を詠唱したり、そういった動作と使いたい魔法を結び付けろ。

 一度成功させれば、確信が生まれる。

 呼吸や鼓動の仕方がわからない者がいないように、確信があれば魔法が使える。

 慣れれば動作を省いても魔法が使えるようになるだろう』


 なるほど、いわゆる条件付けだ。

 パブロフの犬の逸話が有名だろう。食事の度にベルを鳴らせば、ベルを鳴らすだけで食事だと思ってよだれを垂らして飛んでくる。

 池の鯉が池に近付くだけで群がってきて口を開けるのも同じだ。


 自分で自分を意図的にそういう状態にできるかどうかはわからんがな!

 ええい、人間の脳は結構騙されやすいというし、理性で本能を騙すつもりで、何回もやってみるしかないか。


『ユートが考えすぎるのがいかんのだ。こういうのは、何も考えない楽観的で楽天的な奴の方が出来てしまうものだぞ』


 天龍にそう言われて、ちらっとディッツを見たが、おやつを食べてお腹一杯になったのか、丸くなって昼寝しながら、ふさふさの尻尾をミーシャに梳いてもらっていた。

 ……楽天的すぎても魔法に興味が持てないようだが。


 ともあれ、試してみよう。

 魔力を感知したり、操作する感覚は、ソナーの件で大体わかっている。

 手の上に魔力を集中させて…… 大事なのはイメージ。そして、そのようになると信じること。

 むむむ、魔法よこの俺の手の上に……!


「――燃えろっ!」




 ダメでした。


 数十分後、そこにはぐったりと倒れ伏した俺の姿が!


 魔力は集中できているのだが、どうしても形にならない。イメージが悪いのか、世界を操ろうという気概が足りないのか。

 結果として、魔力ばかり消費してしまった。


 ついつい夢中になって魔力を使いすぎてしまったのだが、全身がだるくて、起き上がる気力が湧かない。

 ひんやりした地面が気持ちいい……

 魔力を使いすぎたらこうなるのか…… 気を付けないとな。

 さらに無理をして魔力を使ったら、気を失ってもおかしくない。


「アルマさん、大丈夫? 肩に力が入りすぎじゃない?」

「ぐぬぬ……」


 ミーシャがしゃがみこんで声をかけてくれるが、返事をするのも億劫だ。

 というか、さっき魔法がうまく使えなかった時のミーシャと同じ状態になってるな。無駄な魔力を使いすぎだったかもしれない。


「そろそろ、洗濯物を取り込まないと。それが終わったら屋上も閉めちゃわないといけないから、今日はここまでね」

「ああ…… もうそんな時間なのか?」


 元々、屋上を使わせてもらうのは夕方までの約束だった。

 屋上に干してある洗濯物は宿泊客のものなので、日が落ちて探索から帰ってくるまでに畳んでそれぞれの部屋に返しておかなければならない。

 また、日が落ちたあとは暗くて転落の危険もあるため、屋上は施錠してしまうとのことだ。

 流石に夕方からはミーシャも仕事に戻らないといけないし、ミーシャ不在では監督責任が取れないので仕方がない。


 魔法の練習はまた明日以降でも出来る。

 洗濯物を取り込み終わるまでは横にならせてもらうことにして、ごろんと仰向けになった。

 太陽は中天を過ぎて、差し込む光も若干黄色身を帯びてきている。

 確かに、迷宮ならそろそろ帰ろうという頃合いだ。


「嫌ですわ!」


 寝転んでぼーっとしている俺の耳に、絹を割くような声が聞こえた。

 何事かと身体を起こして見てみると、ルティアがミーシャに食ってかかっていた。


 ルティアも魔法がうまくいっていないのだろうか、べたんと座り込んでしまっていて、天龍眼で見ると魔力のバーもかなり短くなっている。


「ごめんね、ルティアちゃん。でも、最初から夕方までって話だったよね?」

「でも、わたくしはまだ魔法を使えるようになっていませんのよ?

 ミーシャさん、もう少しだけお願いしますわ!」

「我が姫よ、我も此度は諦めるべきと進言する。

 御身の魔力も残りわずかの様子、これ以上は無理というもの……」

「アルバートさんまで!

 お願いします、わたくしは今日中に魔法を覚えたいんですの……!」


 ミーシャにお願いされると、アルバートもぐぬぬと言葉に詰まる。

 だが、ルティアの残りの魔力はごく僅か。どちらにしてもあまり時間はなさそうだ。


 おそらく、クロードに啖呵を切った手前、ムキになっているだけなのだろうが……


「まあ、いいんじゃないかな、少しくらい」


 意外にも、当のクロードが助け船を出す。


「僕も、もう少し練習しておきたいからね。

 日が落ちるまではまだ少しあるし、お願いできないかな?」

「うーん…… じゃあ、洗濯物を取り込んで、私が屋上に戻ってくるまでよ?

 それ以上は、場所を貸せないわ。いい?」

「ミーシャさん……! ありがとう!」

「う、うん、どういたしまして……? あ、あはは」


 ぱっと花咲く笑顔を輝かせて、ルティアがミーシャの手を握る。

 同性でも至近距離であの笑顔は破壊力が高かったらしく、何やら慌てて照れ笑いして、ミーシャは洗濯物を取り込みに行くのであった。


 ……それにしても、ちょっと意外だな。


『どうした、ユート?』


 いや、魔法に必要なのは世界を意のままに変えようとする絶対的な傲慢だ、と言っていただろう?

 それなら、周囲の人間をカリスマで操るルティアが、魔法を使うのにあんなに苦労するとは思っていなかった。


 今も、必死に魔力を集中させているが、集まった魔力はうまく形にならず、無駄に周囲に散らしているだけだ。


『ふむ…… どうも、魔力をうまく定められていないようだな。

 まあ、人が腹の裡で何を考えているかなど、天龍眼でもわからぬ。

 案外あの娘も、ユートが思うほど狡猾で厚顔無恥というわけでもないのかもしれぬぞ』


 いや、そこまで酷い印象ってわけでもないが……


 残り時間もあと少し、ということで焦っているのだろうか。魔力もかなり消費して、俺のように激しい倦怠感に襲われているだろうに……

 ……あ、倒れた。


「……って、おい、ルティア!?」


 全身の倦怠感を押しのけて、慌てて起き上がり駆け寄る。

 魔力も少しは回復したのか、なんとか身体も動いてくれた。


「ルティアちゃん!」

「おお、我が姫よ……!」


 にわかに騒然となり、皆が駆け寄ってくる。

 洗濯物を放り出して飛んできたミーシャが、あわあわするばかりのアルバートを押しのけてルティアを抱え起こす。

 ルティアは気を失っているだけのようで、すうすうと寝息のような安定した呼吸をしていた。

 ただし、魔力を表すバーは完全に尽きてしまっている。

 魔力が尽きると気絶するのか…… 魔法の使いすぎには注意しないといけないな。


「気を失ってるだけ……みたいね。

 寝かせる部屋を用意してくるわ。あと、人を呼んでくるから、誰か……えっと、クロードさん、ルティアちゃんをお願いね?」

「え? ちょっ、待…… おいっ」


 戸惑うクロードに気絶したルティアを預けて、ミーシャはぱたぱたと階下に降りていった。

 ルティアを抱えたクロードは、彼女のパーティの面々に囲まれつつ、ものすごく困った顔で俺の方を見ている。

 こっち見んな、と言いたい。


「あー…… しかし、気絶するまで頑張るなんて驚いた。アルバート、そうなる前に止めてやれなかったのか?」

「う、む」


 俺に話を振られて注目を集め、アルバートが唸る。


「我が姫にどうしても、と言われると、その、つい……」

「つい、じゃない。何のために本職の君がついてたんだい?

 ……まあ、君たちに言っても仕方ないのかもしれないけどね」


 クロードがつい、と視線を滑らせると、レジーとゴルドさんが気まずそうに目をそらした。

 似たようなやりとりが、クロードがルティアのパーティにいた頃にもあったのかもしれない。


「だって…… しゃーないじゃん?

 それにルティアちゃんだって、いつもは無茶なんてしねーって」

「そうじゃ、ルティアも今はよう頑張っとる」

「……そうだね。

 焚き付けたのは僕だけど、頑張ったのは認めるさ」


 軽くため息をつきつつも、ルティアの寝顔を見るクロードには、どこかレジーやゴルドさんに似た優しげな表情が見え隠れしていた。

 ……クロードは今は俺の仲間だけど、その表情に少しだけ、疎外感を感じるような気がした。




 そのあと、すぐにミーシャが戻ってきてルティアを空いた部屋に寝かせることになった。

 一時間ほど、俺たちが夕飯を食べている間に起きてきたが、後でレジーから聞いたところによると、起きてすぐはちょっと癇癪を起こして大変だったらしい。

 が、皆の前に姿を見せた時には、いつも通りルティアだった。

告知し忘れておりましたが、二話ほど前から更新後に活動報告をアップしています。

簡単な次回予告やら何やらを、その時の気分と状況に応じて書いておりますので、よろしければご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ