拙者は気になっている。
朝、俺が忍者または式神に起こされるようになって数日が経った。
俺が学校に言っている間は、家で一人と一枚が何をしているかは解らないが、まぁ、日々変わらずに流れてゆく。
「なぁ、コーサカ。お主毎日朝早く出て、夕方に帰ってくるが、何処に行ってるのだ?」
ちっこいコップの中に入ってるココアを飲みながら霧雨は俺に聞く。
霧雨は早くも我が家の酒用のコップを自分の物にしている。まぁ、身体の大きさ上しょうがないのだが。
「何処でも良いだろ。学生の本業を果たしてるのだから」
俺はトーストを齧りながらそう言った。
霧雨は『そうか』と言ってテーブルから降りた。
「忍殿、すいません…」
桜花は食事の手を止め、俺に謝る。
「何がすいませんなんだよ?」
いきなり謝られても、どう対応すればよいか解らず、桜花に聞き返す。
「霧雨のことです。大体『生紙の術』は媒体となる札を貰って一週間、自分の思うように教育をするのですが…」
育成ゲームのペットみたいだな。いや、確かにそんな感じはするよ。
「いや、良いんじゃない?桜花はあんな風に教育したんだろ?霧雨は解るとこは解ってって、結構気が利くから別にあのままで良いが…」
俺は霧雨に今の言葉を聞かれてないか周囲を見渡す。
霧雨はどうやら俺の部屋に行ったみたいで、恥ずかしい台詞を聞かれずに済んだ。
「いや、手前は一度も教育してないんですよ…」
桜花は落ち込んだ声でそう言い、俯いた。
おいおい、そりゃいくらなんでもないだろ。
俺だったら真っ先に教育して、俺LOVEな……っていかんいかん、朝から暴走してしまいそうだ。
「で、何で教育しなかったの?」
俺はカフェオレをくいっと飲み、頬杖をついて桜花に聞いた。
「それは、術の元になる紙を貰った時、使用書に『そのままでも十分使えます』とかいてあったから…」
確かその術は術使用者をベースに式神を作るのだから、自分で出来ない事とかを教えて、自分の欠点を式神で補うものなんだろうな。
「まぁ、それはそれでいいんじゃないか?さっきも言ったように、霧雨は良い奴だしさ」
俺はそう言って時計を見る。
時刻はそろそろ家を出て、学校に行く時間だ。
「じゃ、そろそろ行くよ、留守を頼むな」
俺は自分の部屋に戻り、制服を着て、鞄を持って部屋を出ようとする。
「霧雨、じゃ行ってくるぞ」
霧雨にも声を掛けたが反応なし。
何処いったんだ、霧雨の奴。まぁ、その辺に居るだろ。
おっと、それよりも早く行かなくては!!
朝の登校時間、学校に近づくにつれて、俺と同じ格好をした奴が増えてきた。
「よっと…」
鞄を持ち直す。
なんか最近疲れているのだろうか…鞄を持ち直す回数が増えたような気もするのだが。
「おーす、高坂!!」
手提げ鞄を肩の辺りに掛けて歩いていた俺に、後ろから衝撃が走る。
「いってぇッ!!」
俺は後ろを振り向く。
其処には、俺の友人の井上公太郎が笑っていた。
どうやらこいつが俺の背中を叩くか何かしたんだろうな。
「にしても違う悲鳴が聞こえたような気がするんだが」
公太郎は首をかしげながらそう言った。
「おいおい、未成年者の喫煙飲酒は法律で禁じられてるんだぞ。それに危ない薬を使用するのは速攻逮捕だぞ、ハム太郎」
俺はさっきの仕返しで公太郎の背中を叩く。
「だから公だけをカタカナで縦に読むな!!俺は『なのだ』な小動物か!!しかも俺は酒はのまねーし、あぶねぇ薬は決めてねぇ!!」
公太郎の怒涛のツッコミを聞いて清々しい気分になる俺。
俺と公太郎は教室へと向かった。
朝のHR中、俺は鞄を開け、タオルとカンケースの筆箱を出そうとする。
「こ、こ、コー……」
俺はある『物体』にタオルをかぶせ鞄を閉じた。
な、何でこいつがぁ!?
「どうした、高坂?シャーペンでも忘れたか?」
隣の席の公太郎が俺に話しかける。
「いや、何でもねえよ」
俺は曖昧に返事をし、鞄を一瞥した。
HR終了後、俺は急いで鞄から物体を回収、トイレに掛けこんだ。
「こ、こ、コーサカぁ……拙者の考えが甘かった…鞄の中は怖い…恐ろしい」
えぐえぐと涙を流しながら俺はひたすら個室の水を流している。
「ああ、そうだな。で、何でお前が鞄の中に入ってたんだ?」
俺は涙を流している霧雨をつまみ上げて聞いた。
「いや、それは毎日お主が何をしているか気になってだな」
霧雨は霧雨で俺が結構怒ってるのを解ったらしく、申し訳なさそうに言う。
「今から帰れって言ってもお前帰れなさそうだしったく、大人しく鞄の中に入ってろよ」
それを聞いた霧雨は表情を変えた。
「後生だ、お願いだ! 鞄はもう嫌じゃ! 堪忍してくれ!!」
どうやら鞄にトラウマを新たに作ってしまった霧雨。
ここまで言われるとさすがに。
「わーった。じゃぁ制服の横ポケットに入ってろ」
俺は制服のポケットに霧雨を入れた。
都合のいいことに俺の席は出席番号順の並びなので窓際。
霧雨を窓際壁側のポケットに入れてりゃどうにかなるだろう。
「あと、絶対声を上げるなよ」
俺はそう言うと教室へと戻った。
霧雨は学校で授業を受けたことが無いらしく、見るものすべてが新鮮に映り、俺は暇な授業時間でも、霧雨は目を輝かせて見ていた。
そしてお昼。
俺は公太郎らの友人との昼食を断り、人気の無い場所で購買部で買ったパンを食べている。
「いやはや、学校というものは面白いものだな。そういえばコーサ、先の授業でわからないことがあったのだが。『異人語』の授業でコーサカが意味を聞かれただろう。そのコーサカの回答は間違っていて、正解を聞いたお主らの組の者たちが何故笑ったのかが。コーサカのほかにもハム太郎というものも間違っていたが、笑われなかったぞ?もしやコーサカ、お主…いじめられているのでは!?」
霧雨はちっこい刀を抜刀つつ、言った。
「落ち着け。俺はいじめられてねーよ。まずな『heroine』って単語だったろ? 俺が問題出されたやつ」
俺は地面に木の棒で『heroine』と書く。
「うむ、それでお主は『ヘロイン』と答えたのだったな。正解は『ヒロイン』だったが」
霧雨はう〜んと悩みこむ。
「まずはヒロインの意味は女の主役って感じって言っていたっけな? で、『ヘロイン』は危ない薬で、だ。俺の問題他にも単語がいっぱい書いてあったろ?」
俺は教師になったつもりで地面に次々に書いていく。
それを見て霧雨はうんうんと頷く。
「その前に書いてあった文をすべて日本語に直すと『彼女は今回の公演でヒロインをやっています』という内容になるのだが……俺の答えでは『彼女は今回の公演でヘロインをやっています』ということになってしまうんだ」
黙り込む霧雨。
「あははははっ!!ちょ…コーサカ…それはっ!!」
意味を理解した霧雨のツボに入ったらしく、霧雨はごろごろと転げまわって苦しんでいる。
「公演でやけになって薬使ってるのばれてるよ、彼女!!」
そういやなんでこいつヘロインが何なのか知っているんだろう? まぁ、家にいるとき午前中から正午までの時間教育番組見てたんだろうな。その知識としておこう。
『ブーン…ブーン…』
ポケットに入れていた携帯のバイブレーションが動く。
俺は携帯を開いて見ると、桜花からのメールで、霧雨がいないことを心配して俺にも報告してきたのだった。
俺は『遊びに行ってるんじゃねーの?俺が帰ってくるまで帰ってこなかったら対策を考えよう』とメールを打って返信した。
桜花は心配でたまらないだろうが、俺は……実際に目の前で窒息死しそうになってる姿を見てるからなぁ。
午後の眠い授業も何とかこなし、桜花に『食材を買って帰る』とメールをし、スーパーでお買い物。
それが終わるころにはすっかり日も沈みかけ、夕暮れになっていた。
「あー今日は楽しかったぞ、コーサカ♪ これならばまた機会があれば行きたいものだ♪」
霧雨は制服の胸ポケットに入って上機嫌で言っている。
それを俺はちょっと見る。
その視線に気がついたのか、霧雨は『冗談だぞ…』と言っている。
「毎日はたまらねーが、たまにならいいぞ。そのときは俺に絶対に言うこと」
霧雨は驚いたように目を見開いて…『いいのか!?』と何度も俺に聞いてきた。
「ああ、たまにだぞ、たまに。あと桜花が心配してるから適当に出かけると言っておけ」
そういって家への帰路を急ぐ。
そして家の前…玄関先にて。
「霧雨、お前は今日そこの公園で遊んでた。学校には行ってない、おーけ?今日のことは桜花にゃ言うなよ。小言が飛んできそうだからよ」
俺は霧雨に笑いかけた。
「承知!」
霧雨も満面の笑みで頷いた。
どうも、水無月五日です。
前回の、あとがき忘れちゃいました。
何とか微妙に進んでいるこの話。
ちょっともうしばらくは全体的に小説書くスピード、私情により遅れそうですが、なんとかがんばります!!
今回も読んでいただき感謝感激です!!




