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朝、井戸の水を汲みに行こうと木箱を抱えて外に出た私は、門のすぐそばの草むらに「それ」を見つけて、思わず息を呑んだ。
「……人が、倒れてる?」
見慣れない灰色の服を着た、私と同じくらいの年齢の少年だった。
すぐに周囲を見回す。このあたりは街外れの寂しい街道沿いで、最近は気性の荒い魔獣が出没すると噂されている危険な場所だ。もし賊の襲撃や魔獣の群れが近くにいるなら、ここに留まるのは危ない。
しかし、周囲に動く影はなく、風が草を揺らす音だけが聞こえていた。
私はゆっくりと少年に近づき、その場にしゃがみ込んだ。
「もしもし、大丈夫ですか?」
声をかけながら肩を揺すってみるが、返事はない。ただ、小さく規則正しい呼吸の音が聞こえ、胸が上下している。生きている。
大きな怪我はないようだが、顔色は青白く、まるで体中の気力をすべて使い果たしてしまったかのように疲れ切っていた。泥で汚れた上着の隙間から、実戦で使い込まれたような、小さなナイフの柄が見える。
「行き倒れ……? でも、どうしてこんなところで」
放っておけば、本当に魔獣の餌食になってしまう。
私は木箱を地面に置き、彼の腕を自分の肩に回して、なんとか立ち上がらせようとした。細身に見えたが、男の子を一人で抱えるのは想像以上に重い。
その時、少年の懐から、小さな石の板が滑り落ちて地面に転がった。
「あ……」
それは、この国の誰もが神殿で授かる、自分の力を示す石板だった。
拾い上げて持ち主に返そうとした私の目が、そこに刻まれた文字に釘付けになる。
通常、石板には「体力」や「魔力」といった言葉の横に、自分の強さを表す綺麗な数字が刻まれるものだ。私の石板だって、どれも十か二十くらいの、すっきりとした数字しか書かれていない。
だが、彼の石板は異常だった。
小さな文字で、見たこともない長さの数字の羅列が、石板の端までびっしりと刻まれていたのだ。
「3.14159……何、これ……?」
いくら読んでも、終わりが見えない。こんな奇妙な石板は見たことがなかった。街の偉い兵士様や、有名な魔法使いの石板だって、こんな風にはなっていないはずだ。
その時、遠くの森の奥から、地響きのような不気味な鳴き声が響いた。
ハッと我に返り、石板を少年のポケットに押し込む。理由を考えている場合ではない。
「とにかく、中に入れないと……!」
私は奥歯を噛み締め、気を失ったままの少年の体を動かした。引きずるようにして、一歩、また一歩と、自分の家へ向かって彼を運び始める。
この奇妙な数字を持つ少年が、一体どこから流れてきて、何から逃げてきたのか。
その時の私は、まだ知る由もなかった。




