21話 首輪はいらない
初めて当時の国際情勢を書きます。
キューバ革命後、ちゃんと世界は革命政権を承認します。でもその背景は。。
【1959年4月 ワシントンD.C. 副大統領執務室】
「――それで、カストロ首相。君の国を安定させるために、我々は3000万ドルの借款を用意してもいい」
ニクソンは、慈悲深い保護者のような顔で切り出した。
「ただし条件がある。アメリカ企業の資産凍結を解除し、選挙を早急に行うことだ」
カストロは、差し出された書類を見つめた。
そこに並ぶ数字の羅列。
3000万ドル。莫大な金だ。
だが、カストロの脳裏に浮かんだのは、札束の山ではなく、あのサンタ・クララで泥に沈んだ通信機と、血まみれの少年の手だった。
(キャット……。お前の命は、こいつらにとってはこの程度の端金らしいぞ)
カストロはゆっくりと顔を上げた。
「副大統領。あなたは『安定』と言った」
「ああ。君たちにはそれが必要だろう?」
「我々の仲間は、安定のために死んだんじゃない。祖国のため、そして個人の尊厳のために死んだんだ。」
カストロの声が、低く響く。
「私の部下に、16歳で死んだ通信兵がいた。彼は最期まで、自由なキューバの声を届けるために叫び続けた。……この金で、彼の命が買い戻せるとでも?」
ニクソンは眉をひそめた。話が通じない、という顔だ。
「センチメンタルな話はよそう。死んだ兵士への補償金なら、この中から出せばいい。十分に葬式を出せる額だ。」
その瞬間、カストロの中で何かが完全に断ち切られた。
目の前の男は、血の匂いを知らない。
ベルベットの上で眠る
「太った猫」
たちに、我々の言葉は届かない。
カストロは立ち上がった。
その巨体が、執務室の天井を圧迫するように見える。
「金はいらん」
「……何?」
ニクソンが目を見開く。
「我々は、乞食ではない。首輪もいらない」
カストロは、あの日、死んだ少年の目蓋を閉じた手のひらを、強く握りしめた。
「帰らせてもらう。……私の国には、あなたたちのドルよりも価値のある『骨』が埋まっているんでね」
カストロが部屋を出て行くと、重苦しい沈黙が残された。
ニクソンはまだ気づいていない。
たった今、アメリカの裏庭にいた従順なはずの小国が、獰猛な虎へと姿を変えたことに。
次からば再びキューバ。
キューバ出身のカストロたちと、革命かゲバラの距離が離れていきます。
日本への来日も、そろそろですね。
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