19話 不在の証明~勝利そして~
今日はキューバ革命終結。
カストロはゲバラはなにを感じたのか?
この章のあらすじ
(1958-1959)
舞台は1958年、キューバ革命クライマックス
。
たった300人の反乱軍が、6000人の政府軍に挑んだ「サンタ・クララの戦い」
。
武器は銃ではなく「ラジオの声」。
現代のSNS戦争を先取りしたような情報戦の果てに、ふたりの英雄が見たものとは。
そして、アメリカという巨大な飼い主に対して、彼らが牙を剥く瞬間を描く、男たちの友情と別れの物語。
【1959年1月 ハバナ / 勝利のパレード】
ハバナの通りは、紙吹雪と絶叫でできた海だった。
オープンカーのジープが進むたび、波が割れるように民衆が押し寄せる。「カストロ!」「ゲバラ!」「自由を!」
――その熱狂は、鼓膜を通り越して直接骨を揺さぶるようだった。
だが、私の隣に座るチェ・ゲバラは、愛用のベレー帽を目深に被り、どこか居心地が悪そうに視線を泳がせている。
「……うるさいな」
「ああ。生きてる人間の声だ」
私は葉巻を噛みながら答えた。
ゲバラの視線が、ふとジープの後部座席に向けられる。
そこには予備の弾薬箱と、乱雑に積まれた毛布があるだけだ。
本来なら、そこに『彼』が座っているはずだった。
「……なぁ、カストロ」
「なんだ」
「あいつのこと、なんて呼んでたか覚えてるか」
私は、空席になった後ろの席を見つめた。銃弾をすり抜け、どんな場所にも入り込み、情報を運んだ少年。
「ああ。『キャット』だろ」
そう、あれは猫だった。
すばしっこい野良猫。彼はいつも、小柄な体を丸めてジープの隅に座り、大人たちが吸う葉巻の煙にむせては笑っていた。
『司令官、勝ったら一番高いミルクを飲ませてくださいよ』
そんなふざけた願いを口にしていた猫は今、サンタ・クララの共同墓地で、冷たい土の下にいる。
沿道の少女が、ジープに花束を投げ入れた。鮮やかな赤い花だ。
それが一瞬、あの日少年が流した鮮血に見えて、私は思わず息を呑んだ。
「命も、使い切っちまえば終わりか」
ゲバラが、誰にも聞こえない声で呟いた。
「……さあな。だが、少なくとも俺たちの命よりは、重い使い方をしたはずだ」
私は投げ込まれた花束を拾い上げ、誰もいない後部座席にそっと置いた。
ここはお前の場所だ、キャット――
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