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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
二人の英雄の友情と別れ(前編)
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170/214

169,パニックと熱気

ケネディの演説で水面下で動いてきたキューバ危機は表面化されます。

海上封鎖。国連での証拠の突きつけ。

それを両国民はどのようにみまもったのでしょうか?

翌日、世界は演説を待っていた。


ワシントンでは、テレビ局の照明が大統領の顔を白く照らしていた。カメラの前に座ったケネディは、遊説先で見せていた笑顔をもう持っていない。


原稿は整っていた。


声も整っていた。


だからこそ、その言葉は危険だった。


大統領は、国民に向かって語り始めた。


キューバに、ソ連の攻撃的ミサイル基地が建設されていること。


それが西半球全体への脅威であること。


アメリカは、これ以上の攻撃兵器の搬入を許さないこと。


そのために、キューバへ向かう船を海上で止めること。


彼は、封鎖とは言わなかった。


検疫と言った。


blockadeではなく、quarantine。


一つの言葉が、戦争の扉の前に置かれた。


封鎖と呼べば、戦争行為に近づく。検疫と呼べば、まだ国際社会へ説明できる。だが、海の上で艦が船を止めるという事実は、言葉ほど柔らかくはない。


大統領は、ソ連に基地の撤去を求めた。


同盟国に結束を求めた。


国連に問題を持ち込むと語った。


グアンタナモ基地の強化にも触れた。


そして、偵察を続けるとも言った。


世界には、アメリカが発見したものだけが語られた。


基地。


ミサイル。


発射台。


搬入される攻撃兵器。


言葉にされたものは、すぐに世界を走った。


言葉にされなかったものは、まだ沈黙の中に残った。


※※※※※※※※※※


ハバナでは、ラジオの前に人が集まっていた。


革命宮殿の一室では、英語の分かる者が紙と鉛筆を構えている。隣には翻訳担当が座り、オスバルド・ロペスが文言を書き留めていた。


カストロは椅子に座らず、壁際に立っている。


ゲバラは机に片手を置き、ラウルは地図を開いたまま、耳だけをラジオへ向けていた。


ソ連顧問のオルロフ大佐は、表情を消していた。彼はモスクワの時計を背負っている。だが、その時計の針が今どこを指しているのか、ハバナにいる彼自身も完全には知らない。


雑音が入った。


それから、ケネディの声が流れた。


硬い声だった。


怒鳴る声ではない。


だから、余計に重かった。


ソ連。 攻撃的ミサイル基地。 キューバ。 西半球。 脅威。 海上検疫。 攻撃兵器の搬入阻止。 監視の継続。 グアンタナモ基地の強化。 同盟国。 国連。


翻訳が追いつかない箇所は、オスバルドが英語のまま書き取り、横にスペイン語を書き込んでいく。机の上には、昨夜までに集められた紙がまだ残っていた。


風邪。 遊説中止。 南部。 公民権。 フロリダ。 亡命者。 米軍基地。 グアンタナモ。 海軍。


そのすべてが、今夜一つの言葉へ吸い込まれていく。


キューバ。


演説が終わっても、すぐに誰も話さなかった。


ラジオの雑音だけが残った。


最初に口を開いたのはラウルだった。


「基地は見られた。少なくとも、ミサイルと発射地点は。」


オスバルドは、紙に線を引いていた。


「演説の重心は、攻撃的ミサイル基地、そして搬入阻止です。彼は封鎖とは言っていません。検疫と言っています。」


ラウルの声が強くなった。


「言葉の問題ではない。海で船を止めるんだ。事実上の封鎖だ。封鎖なら戦争行為だぞ。」


誰も否定しなかった。


ゲバラも、今回は比喩を使わなかった。


「検疫という言葉を使ったこと自体が、外交だ。」


オスバルドは頷いた。


「はい。アメリカは戦争行為に近いことを始めながら、まだ戦争ではないと言える言葉を選んだ。これは国内向けでもあり、同盟国向けでもあります。ですが、もっと重要なのは、相手に向けたメッセージです。」


カストロが振り向いた。


「相手とは誰だ。」


オスバルドは、すぐには答えなかった。


それから、慎重に言った。


「キューバだけではありません。」


部屋の空気が一段重くなった。


「続けろ。」


カストロが言った。


オスバルドは演説文を机に置き、いくつかの言葉に鉛筆で線を引いた。


「アメリカは、キューバへは警告している。これ以上進めば軍事衝突になる、と。世界へは正当化している。これは侵略ではなく、攻撃兵器の搬入阻止だ、と。そしてソ連へは、出口を残している。」


「出口。」


ラウルが低く繰り返した。


「はい。空爆ではなく海上検疫。侵攻ではなく搬入阻止。つまり、まだ引き返す道があると言っている。ですが、その道を誰が歩くのかは別問題です。」


ゲバラが、机の上の紙を見た。


「アメリカはこの島を見ながら、モスクワに話している。」


その言葉が、部屋に残った。


オルロフの表情は変わらなかった。


だが、彼の沈黙が、かえって答えのように見えた。


カストロは、ゆっくりと煙草に火をつけた。


「俺たちの土に置かれたものを、俺たちの頭越しにか。」


オスバルドは、否定しなかった。


「その可能性があります。アメリカが本当に全面戦争を望むなら、演説の形も言葉も違ったはずです。彼らは強く出ている。同時に、ソ連が引ける言葉を選んでいる。」


ラウルが地図を叩いた。


「ソ連が引けば、どうなる。ここにあるものは消えない。道路も発射地点も、基地も、われわれの上に残る。アメリカは写真を持っている。世界はそれを見る。ソ連が引いても、爆撃されるのはこの島だ。」


ゲバラが言った。


「アメリカは撃つかもしれない。ソ連は引くかもしれない。どちらにしても、燃えるのはキューバだ。」


オルロフがそこで口を開いた。


「モスクワはキューバを見捨てません。」


カストロは、オルロフを見た。


「見捨てるかどうかの話ではない。交渉の机に、俺たちの椅子があるかどうかの話だ。」


オルロフは言葉を探した。


その一瞬が、また沈黙を重くした。


カストロはオスバルドへ向き直った。


「アメリカは何を知っている。」


「基地とミサイルは見ています。発射台や道路、建設状況も掴んでいる可能性が高い。」


「何を見ていない。」


オスバルドは、演説文の余白を見た。


「断定はできません。」


いつもの言葉だった。


だが、その夜は誰も苛立たなかった。


「ですが、もし核弾頭の所在まで確実に掴んでいるなら、演説の重心は違ったはずです。彼は、これ以上の攻撃兵器搬入を止めると言いました。ミサイル基地の撤去を求めています。弾頭そのものを切り札としては出していません。」


カストロは、机の上の紙を見下ろした。


基地。 ミサイル。 検疫。 搬入阻止。 撤去要求。


そこには、まだ書かれていない言葉があった。


弾頭。


ラウルの顔が険しくなった。


「敵が弾頭を見ていないなら、それは安心材料ではない。本当の火を知らないまま踏み込んでくる。」


ゲバラも頷いた。


「そして、ソ連がその火を交渉の外へ置くなら、火だけがこの島に残る。」


オルロフは、今度は黙った。


その沈黙もまた、答えだった。


カストロは低く言った。


「今夜は、まず島だ。アメリカは世界に向けて話した。俺たちは、島がどう動いているかを見る。」


※※※※※※※※※※


新聞は、夜のうちに声を持った。


ワシントンでは、輪転機が回り始めた。見出しは大きく、黒く、急いでいた。


ソ連ミサイル、キューバに。


大統領、海上検疫を宣言。


核戦争の危機。


米海軍、カリブ海へ。


新聞は、事実を運ぶ。


だが、事実は見出しになる時、いつも少し姿を変える。


テレビを見た者が電話をかける。電話を受けた者が隣人へ伝える。隣人が車を出す。夜の道路にヘッドライトが増える。


アメリカの家庭では、台所の棚が急に小さく見えた。


缶詰。 水。 粉ミルク。 乾電池。 懐中電灯。 薬。 毛布。


スーパーマーケットの棚から、食料品が減っていく。店員は箱を開けるが、箱より早く手が伸びる。母親は子どもの手を握ったまま、乾いた豆の袋を籠に入れる。父親は、地下室に何を置けるかを考える。


核戦争という言葉は、軍事用語ではなくなった。


台所の缶詰の数になった。


地下室の水の量になった。


子どもを寝かせた後の、夫婦の沈黙になった。


フロリダでは、別の恐怖が走っていた。


亡命者の中には、ついに始まると拳を握る者がいた。ピックス湾で失った名誉が、今度こそ取り戻されると信じる者がいた。


だが、別の者は黙っていた。


島には、まだ母がいる。 兄弟がいる。 墓がある。 帰れない家がある。


キューバが焼かれれば、憎んだ政権だけが焼けるわけではない。


海の向こうで燃えるのは、祖国でもあった。


※※※※※※※※※※


ハバナでも、夜は眠らなかった。


ただし、眠らない理由は一つではなかった。


民兵の詰所へ向かう者がいる。港へ戻る者がいる。地区委員会へ顔を出す者がいる。家族を抱きしめてから、黙って外へ出る者がいる。


恐怖はあった。


当然だった。


恐怖のない勇気など、ただの鈍さだ。


だが、その恐怖は、すぐには暴動にならなかった。


列になった。


秘書のセリアの机には、軍の紙だけでなく、医療の紙が増えていた。


包帯。 消毒液。 縫合糸。 注射器。 担架。 古い毛布。 輸血用の瓶。 献血希望者の整理。


世界の終わりが近づいても、国家は紙で動く。


セリアは、診療所からの連絡を受けるたびに、軍事報告の束と同じ机の上に置いた。爆撃機の報告と包帯の数は、本来なら同じ種類の紙ではない。だが、その夜は同じだった。


戦争は、砲声より先に診療所へ来る。


彼女は、そのことを知っていた。


会議室から出てきたゲバラが、紙の束に目を落とした。


「医療は。」


「動いています。献血所を開く準備も始めています。」


「もう集まっているのか。」


「はい。まだ命令前ですが、地区から問い合わせが来ています。どこへ行けばいいのか、と。」


ゲバラは、しばらく黙っていた。


「命令ではなく、列が先にできるか。」


「そうなりそうです。」


ゲバラは、小さく頷いた。


「革命が国家になっても、人間の方が先に動くことがある。」


セリアは、紙を揃えながら言った。


「その人間を迷わせないのが、国家の仕事です。」


ゲバラは、彼女を見た。


「君は時々、俺より厳しい。」


セリアは、表情を変えなかった。


「秘書ですから。」


※※※※※※※※※※


革命宮殿では、カストロがまだ起きていた。


机の上には、ケネディ演説の翻訳、グアンタナモ周辺報告、ソ連側通信、住民説明の文案、病院からの連絡、献血所開設の報告が並んでいる。


セリアが、診療所からの最初の報告を置いた。


「献血希望者が集まっています。数はまだ多くありませんが、増えています。労働者、教師、学生、年配の女性。民兵ではない者も並んでいるそうです。」


カストロは、その紙を手に取った。


軍の紙より薄い。


だが、軽くはなかった。


彼は目を閉じた。


すると、診療所の光景が浮かんだ。


白い壁。


消毒液の匂い。


古い椅子。


足りない包帯。


机の上に置かれた鉛筆。


そこに、あの若い見習いがいる。


山で薬箱を抱えて走っていた少年は、もう少年ではない。だが、銃を構えた兵士とも違う。革命の演説台に立つ者でもない。新聞に名前が出る英雄でもない。


ラサロは、きっと戸惑っている。


けが人が来たのだと思って表へ出る。だが、そこにいるのは負傷者ではない。港湾労働者、教師、母親、老人、学生。彼らはまだ撃たれていない。まだ血を流していない。けれど、これから流れるかもしれない誰かの血のために、自分の血を差し出そうとしている。


ラサロは、最初の一人の名前を書く。


手は震えているだろう。


だが、逃げない。


カストロは、その姿を見たわけではない。


それでも、目を閉じると分かった。


あの青年は、きっとそうしている。


革命が守らなければならない人間とは、こういう形をしているのだと思った。


命令されなくても、誰かの痛みに自分の身体を差し出す者。


銃を持たなくても、国の前線に立ってしまう者。


完璧に近い。


だから、危うかった。


そういう人間ほど、戦争は真っ先に奪っていく。


祖国か、死か。


その言葉は、勇気だった。


だが、同時に呪いでもあった。


国民がその言葉を自分の血で引き受け始めた時、指導者はもう、その血を軽く扱えない。高揚は力になる。支持は盾になる。だが、血を差し出す覚悟を持った国民は、時に国家の手を越えて進んでいく。


独立とは、本来なら当たり前の営みだった。


自分の土地を持つこと。


自分の港を持つこと。


自分の学校を持つこと。


自分の医療を持つこと。


自分の砂糖を、自分の国のために使うこと。


だが、アメリカの喉元でそれを貫く時、当たり前は戦争の理由になる。


カストロは目を開けた。


机の上には、献血の報告があった。


その向こうには、地図があった。


グアンタナモ。 港。 空港。 発射地点。 海。


守らなければならないものは、地図には描かれていない。


地図の外で、ラサロのような者たちが列を作っている。


「国民へ言葉を出す。」


カストロは言った。


セリアが紙を用意した。


「恐れるな、とは言わない。恐れない人間はいない。だが、恐怖に国を渡すな、と言う。」


ゲバラは、黙ってその言葉を聞いていた。


カストロがいま見ているものを、彼もおそらく分かっていた。


血を差し出す国民を前にして、革命はもう美しい言葉だけでは済まない。


その血を守るのか。


その血を求めるのか。


二つは、時に同じ道の上にあった。


※※※※※※※※※※


ラサロは、診療所の倉庫で包帯を数えていた。


包帯。 消毒液。 縫合糸。 注射器。 担架。 古い毛布。


紙に書く数字は、いつも足りない。


戦争が来るかもしれない夜には、なおさら足りない。


彼は、棚の奥から古い木箱を引き出した。山にいた頃なら、薬箱一つを抱えて走れば、それがすべてだった。だが、いま目の前にあるのは診療所だった。机があり、寝台があり、消毒液の匂いがあり、壁には手書きの診療予定が貼られている。


革命は、山の道だけではなくなった。


国家になった。


国家になった革命は、包帯の数を数えなければならない。


外が騒がしくなった。


ラサロは顔を上げた。


最初は、負傷者が運ばれてきたのだと思った。まだ爆撃はない。だが、事故かもしれない。混乱の中で誰かが転んだのかもしれない。


彼は表へ出た。


診療所の前に、人が立っていた。


一人ではなかった。


二人、三人、十人。


港湾労働者の男が帽子を握っている。小学校の教師が、肩に薄いショールをかけている。年配の女が、身分証を胸に押しつけるように持っている。学生らしい青年が、落ち着かない顔で列の後ろに立っている。


ラサロは戸惑った。


「けが人は。」


港湾労働者が首を振った。


「まだだ。」


「では、何を。」


教師が言った。


「血を。」


ラサロは、一瞬意味が分からなかった。


年配の女が、少し苛立ったように言った。


「献血だよ。戦争になるかもしれないんだろう。私は銃は持てない。目も悪い。でも血ならある。」


学生が、恥ずかしそうに腕を出した。


「僕も。」


列の後ろから、別の声がした。


「戦えないから、血を置いていく。」


その言葉で、ラサロの胸の奥に何かが触れた。


彼は、かつてゲバラに言われた言葉を思い出した。


人間は、守るものがあるから銃を持つ。 銃を持つために人間になるわけではない。


あの時、ラサロは分かったつもりでいた。


だが、本当には分かっていなかった。


銃を持つ者だけが、国を守るのではなかった。


血を差し出す者もまた、まだ見ぬ負傷者の隣に立っていた。


診療所の中から医師が出てきた。


「ラサロ、記録を取れ。名前、年齢、既往歴。水を用意しろ。椅子を並べるんだ。」


ラサロは、はっとして頷いた。


「はい。」


彼は中へ走り、紙と鉛筆を取った。


手が少し震えていた。


怖いからではない。


いや、怖かった。


しかし、その怖さの形が、少し変わっていた。


前線とは、銃声のする場所だけではなかった。


誰かが生き残るために、別の誰かが自分の血を差し出す場所もまた、前線だった。


ラサロは、最初の一人の名前を書いた。


それから二人目。


三人目。


列は、少しずつ長くなっていった。


※※※※※※※※※※


十月二十五日、ニューヨークの国連本部で、別の舞台が始まった。


そこには、畑も、港も、診療所もなかった。


椅子。 机。 翻訳機。 国旗。 マイク。 そして、世界中の目。


国連は法廷ではない。


だが、その日、アメリカは議場を法廷のように使った。


裁判官はいない。


判決もない。


あるのは、世界世論だった。


アメリカ国連大使アドレー・スティーブンソンは、ソ連代表ワレリアン・ゾーリンへ鋭い視線を向けた。


声は静かだった。


だが、その静けさは、相手を逃がさないためのものだった。


「ゾーリン大使、ソ連はキューバに中距離および中長距離ミサイルを配備したのですか。否定するのですか。」


ゾーリンは、表情を硬くした。


通訳の声が議場に流れる。


スティーブンソンは畳みかけた。


「通訳を待つ必要はありません。イエスかノーでお答えください。」


ゾーリンの顔に、苛立ちが浮かんだ。


「私はアメリカの法廷に立たされているのではない。」


その言葉を待っていたかのように、スティーブンソンは引かなかった。


「あなたは今、世界世論の法廷に立たされているのです。」


議場がわずかにざわめいた。


ゾーリンは、声を強めた。


「検事のような質問には答えられない。」


スティーブンソンは、さらに一歩進んだ。


「では、答えを待ちましょう。」


彼は間を置いた。


その間は短かった。


しかし、議場にいる者には、長く感じられた。


「地獄が凍りつくまででも、私は回答をお待ちします。」


その瞬間、質問は質問ではなくなった。


アメリカは、ゾーリンから答えを得ようとしていたのではない。


答えられない姿を、世界に見せようとしていた。


そして、写真が出された。


言葉で勝つためではなかった。


言葉を終わらせるためだった。


空から撮られた写真。


キューバの赤土。 道路。 発射地点。 ミサイル関連施設。 建設の痕跡。


写真は、言葉より強かった。


ソ連が何と言おうと、世界の目はその紙に吸い寄せられた。防衛的援助という言葉は、写真の前で弱くなった。キューバの防衛という主張は、秘密基地という名前へ押し流されていった。


ソ連が回答を拒んだ事実そのものが、アメリカの演出の一部になった。


それは真実の追求であると同時に、舞台だった。


証拠であると同時に、外交兵器だった。


※※※※※※※※※※


ハバナにも、その報告は届いた。


遅れて、切れ切れに、翻訳され、要約され、電報になって。


オスバルドは、国連から届いた報告を読んだ。


カストロ、ゲバラ、ラウル、バルデス、オルロフが同じ部屋にいた。


「写真を出したか。」


カストロが言った。


「はい。」


オスバルドは頷いた。


「基地の写真です。発射地点、関連施設、道路、建設状況。世界の前で切れる札としては、強い。」


ゲバラは、低く言った。


「写真は銃より静かだ。だが、名前を奪う力は銃より強い。」


ラウルは、地図へ視線を落とした。


「どこの写真だ。」


オスバルドは、報告書の地名を指でなぞった。


「サン・クリストバル周辺。ほかにも複数の地点が追われている可能性があります。」


カストロは訊いた。


「弾頭は。」


部屋が静かになった。


オスバルドは、すぐに答えなかった。


そして、慎重に言った。


「出していません。」


オルロフの目が動いた。


オスバルドは続けた。


「アメリカは、基地を見ています。ミサイルも見ています。発射地点や建設状況も見ている。ですが、今日、世界の前で切った札は写真です。弾頭そのものではありません。」


ラウルが言った。


「持っていないのか。」


「断定はできません。」


オスバルドは、いつものように言った。


「しかし、少なくとも、世界の前で切れる札としては持っていない。もし持っているなら、今日出さない理由は薄い。」


ゲバラは、窓の外を見た。


「写真に写らないものが、一番人間を焼く。」


カストロは、机に置かれた報告書を見下ろした。


写真は強い。


写真はソ連を追い詰めた。


写真はキューバの言葉を奪った。


防衛は、秘密基地と呼ばれた。


だが、写真は万能ではなかった。


写っていないものがあった。


弾頭。


島のどこかにあり、世界の写真にはまだ写っていない火だった。

キューバは表面化し、両国は臨戦態勢になります。

核弾頭の存在までは知らないアメリカは海上封鎖を、ソ連は核戦争にならない政治的なコントロールを、キューバは自国の生存を。

お互いが部分的に目隠しをした状態で激しい政治ゲームが始まります。


※更新は、月・木・土曜日(朝・夜)二回の週4話です。


次回は、土曜日の朝に投稿予定です。


【お知らせ】長編のエピソードになると思わず連載を開始したので、今、前半を大幅改稿しました。


改稿後はボリュームが二倍以上になり背景もわかりやすく史実に寄せてます。(初めはヒューマンドラマを描く予定でした。)


改稿したものはタイトルに改稿としています。ぜひお読み下さい。(日本編の前まで改稿です!)


ジャンルもヒューマンドラマから歴史へ。


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