158,キューバから見たピックス湾③~ケネディの決断そして厄介な勝利
アメリカ編で描いたアメリカから見たピックス湾事件をキューバ側から描く三話目。
ピックス湾も佳境。
アメリカの軍艦は動くのか。
キューバ側は資料が少ないので、いくつかの事実を元に作者の推論でつなぎ合わせます。
キューバはアメリカの攻撃をかなりの精度で察知していたという立場で話を進めます。根拠はあまりに出来すぎたキューバの勝利の手際のよさです。
一九六一年四月十七日、午後三時四十分。
ピックス湾の上空は、まだ不安定だった。
海から来た部隊は、潮の匂いと泥と湿地と細い道に絡め取られている。補給船は空から叩かれ、岸へ上がった兵士たちは、自分たちがどこまで進めるのかも分からないまま、低い草とぬかるみの中で身を伏せていた。
キューバ側の無線は忙しく鳴っていた。
前線からの報告。空軍からの報告。民兵からの報告。道路封鎖の報告。捕虜の数。敵の負傷者。沈みかけた船。火を噴く補給。見えない艦隊の位置。
勝利の形は、少しずつ見え始めていた。
だが、カストロはまだ笑わなかった。
彼は地図の上に肘を置き、ピックス湾の外側、沖合の海へ視線を落としていた。そこには、鉛筆で薄く引かれた線がある。亡命者部隊の船ではない。もっと大きな影だ。
アメリカ海軍。空母。
もしそこから艦載機が飛べば、戦場の色は一瞬で変わる。亡命者部隊の失敗は、米軍の直接介入へ変わる。湾の泥で終わるはずだった戦いは、国全体を焼く戦争になる。
若い士官が、前線報告を持ってきた。
「敵は、補給の再編に失敗しています。こちらの空は、まだ使えています。内陸への突破も確認できません。」
「捕虜は。」
「増えています。ただ、まだ全体は崩れていません。沖合を見ている者が多いようです。アメリカが来ると信じているのでしょう。」
カストロは頷いた。
彼らは空を見ている。それは当然だった。
亡命者部隊は、自分たちだけで来たのではない。海の向こうの巨大な国が背中にいると信じて、この島へ戻ってきた。失敗すれば、空母から救いの手が伸びる。アメリカは、自分たちを見捨てない。
そう信じなければ、こんな湿地へ命を投げ込めるはずがなかった。
カストロは、短くなった葉巻を灰皿へ置いた。
「彼らの目を折るには、空母が飛ばないことを見せるしかない。」
士官は黙っていた。
その言葉は、勝利宣言ではなかった。
むしろ、敵の最後の希望がどこにあるかを冷静に見ている声だった。
無線機が鳴った。
通信兵が受話器を取り、数秒聞いてからカストロを振り返った。
「偵察からです。沖合の艦隊に大きな動きあり。空母からの組織的な発艦は確認されず。艦隊は距離を保っています。こちらへ踏み込む気配はありません。」
部屋の空気が、一瞬だけ止まった。
その報告の意味を、全員がすぐに理解できたわけではない。
敵の大軍が来ない。
米軍の旗が、前へ出てこない。上陸部隊は、切り離された。
だが、カストロは報告を聞いた瞬間、勝利に酔う者の顔にはならなかった。むしろ、その目はさらに冷えた。
「もう一度確認しろ。艦載機の大規模発進はないんだな。」
「はい。現在のところ、確認できません。艦隊は戦場を覆う位置へ踏み込んでいません。」
カストロは地図を見たまま、低く言った。
「なら、やることがある。」
士官が顔を上げた。
「追撃ですか。」
「違う。」
カストロは葉巻を取り、火をつけ直さずに指で挟んだ。
「撤収だ。」
その言葉は、あまりにあっけなかった。
ピックス湾で敵を袋に入れた。戦闘機は残った。民兵は動いた。国民は沸き立ち始めている。前線にいる者なら誰もが、もう少しその場にいたくなる。勝利の匂いを吸い込み、泥の上に立ち、自分たちがアメリカを退けたという実感に浸りたくなる。
だが、カストロは違った。
「捕虜の処理を急がせろ。負傷者は敵味方を問わず運べ。民兵には略奪を許すな。報道には、われわれが勝ったことだけではなく、秩序を保っていることを見せる。ピックス湾を祭りにするのは、ハバナの人民に任せればいい。」
士官は戸惑いながら頷いた。
「司令官は、現地を離れるのですか。」
「ここで勝ったことはもう分かった。次は、なぜ勝ったかを政治にしなければならない。」
カストロは地図を畳ませた。
「ピックス湾は終わりではない。アメリカが一線を越えなかった理由を考える時間の始まりだ。」
※※※※※※※※※※
同日、午後四時二十五分。
ゲバラからの無線は、西部方面の警戒線から入った。
雑音が強かった。遠くで車両の音が聞こえる。ゲバラはピックス湾にはいない。だからこそ、彼の声は戦場の興奮から少し距離を置いていた。
「アメリカの艦載機は飛ばなかったそうだな。」
カストロは、ジープへ向かう途中で受話器を受け取った。
「ああ。亡命者部隊は切り離された。」
「若い大統領は、お利口さんだったわけだ。」
その皮肉に、カストロは笑わなかった。
「だから厄介だ。」
ゲバラは無線の向こうで、少し黙った。
「馬鹿なら楽だった。艦載機を飛ばし、米軍の旗を前に出し、この島を焼こうとする。そのときは、こちらも山へ戻ればよかった。道路を切り、補給を叩き、都市を捨てても戦う。痛みは大きいが、帝国を泥沼へ引きずり込める。」
「だが、彼は引いた。」
「引ける敵は、面倒だ。」
ゲバラの声は、怒りではなく観察だった。
「自分が送った部隊を見捨てることができる。国の顔を守るために、手足を切れる。そういう政治家は、次にもっと見えにくい手を使う。」
カストロはジープの扉に手をかけたまま、沖合の方を見た。
空母は見えない。
だが、その見えない距離が逆に重かった。
「次は、こんな茶番にはならない。」
カストロは言った。
「偽装した爆撃機、亡命者部隊、自由キューバという包装紙。今回は、彼らもまだ自分の指紋を隠したかった。だが、敗北した以上、次はもっと執拗になる。暗殺、破壊工作、禁輸、封鎖、外交圧力。あるいは、本当に軍を動かす。」
「だから盾が要る。」
ゲバラが言った。
以前の密談で出た言葉と同じだった。
“盾”、そして、ソ連。
カストロは受話器を握り直した。
「社会主義宣言は、もう国内向けの旗だけではない。われわれは、アメリカに空襲され、海から侵攻され、それを自分たちの手で退けた社会主義の島になった。モスクワに助けを受けずにだ。
この意味を、モスクワに分からせる。」
「高く売るわけだな。」
「そうだ。」
カストロは迷わず答えた。
「砂糖を売るように、この島の地政学的価値も売る。アメリカの喉元で、社会主義を宣言しアメリカを退けた島だ。ソ連がこれを無視できるなら、彼らは反帝国主義を語る資格がない。」
ゲバラは低く笑った。
「利用するのか。」
「利用する。利用される前に。」
「盾は重いぞ、カストロ。盾を持てば、腕は自由ではなくなる。モスクワは理想郷ではない。大国だ。大国は、必ず自分の都合を持つ。」
「分かっている。」
カストロは、ピックス湾の泥を踏んだ軍靴を見た。
「軽い盾では、アメリカは止まらない。」
無線の向こうで、ゲバラが咳をした。喘息の短い音が、雑音に混じった。
「なら、こちらも覚悟しなければならない。ソ連の盾を借りるということは、ソ連の影もこの島へ入れるということだ。兵器、顧問、書類、通訳、そして大国の計算。革命はまた別の重さを背負う。」
「背負うしかない。」
「そうだな。」
ゲバラの声が、少しだけ柔らかくなった。
「それでも、今日の勝利は無駄ではない。アメリカは、この島に触れると血を流すことを知った。ソ連は、この島に賭ける価値があることを知る。人民は、自分たちがバチスタの時代へ戻らないために戦えることを知った。」
カストロは、ようやく短く笑った。
「お前にしては、ずいぶん穏やかな評価だな。」
「俺は医者だ。患者が死ななかった日は、いちおう喜ぶ。」
「キューバは患者か。」
「重症だが、まだ生きている。」
その言葉に、カストロは少しだけ目を細めた。
ピックス湾の空には、黒煙が残っている。
だが、島は生きている。
「ハバナで会おう。」
カストロは言った。
「この勝利を、次の戦争の準備に変える。」
※※※※※※※※※※
一九六一年四月十八日、午前九時十分。
ピックス湾では、抵抗が細くなっていた。
亡命者部隊の顔から、最初にあった硬い自信は消えている。彼らは、空を見上げる回数を減らしていた。何度見ても、来るはずの救援は来ない。見えるのはキューバ機であり、聞こえるのは革命軍の声であり、足元にあるのは、自分たちを飲み込む泥だった。
捕虜になった一人の男は、武器を地面に置いたあとも、しばらく海の方を見続けていた。
「来るはずだった。」
彼はスペイン語で呟いた。
「彼らは、来ると言った。」
その声を聞いた若い民兵は、何も言えなかった。
目の前の男は敵だった。銃を持ってこの島へ来た。だが、捨てられた者の顔をしていた。海の向こうの大国が約束した救いを信じ、その救いが来ないまま、泥の中に取り残された男の顔だった。
民兵は、前日の演説を思い出した。
バチスタ時代へ戻さない。
土地を奪い返させない。
人民が取り戻したものを守る。
その言葉は、昨日までは大きすぎた。だが、目の前の捕虜を見ると、少しだけ形が変わった。これは、単に敵を倒す戦いではない。海の向こうの大きな手が、人間を駒にして動かすことへの戦いでもあった。
民兵は銃を下げ、捕虜に水筒を差し出した。
「飲め。」
捕虜は一瞬ためらい、それから受け取った。
勝利とは、こういう小さな瞬間にも現れる。
泥と血と怒声の中で、それでも自分たちが何者になるかを選ぶ瞬間だ。
※※※※※※※※※※
同日、午後五時二十分。
ハバナでは、勝利の知らせが広がり始めていた。
最初はラジオだった。
次に新聞社の前に人だかりができた。
やがて、街角で誰かが叫んだ。
「ピックス湾で勝っている!」
その声は、砂糖袋を運ぶ労働者の肩を止め、店先の女たちを振り向かせ、学校帰りの子どもたちを走らせた。空襲の翌日に社会主義の名を聞いた人々は、その言葉が本当に戦場で試されていることを知った。
アメリカが来た。
そして、退けられている。
それは単なる軍事報告ではなかった。
物語だった。
自分たちが何者なのかを、街全体へ刻む物語だった。
ハバナの通りでは、誰かが国旗を振った。別の誰かが「祖国か、死か。」と叫び、周囲がそれに続いた。酒場ではラムの瓶が開き、工場では作業着の男たちが機械を止めてラジオに耳を寄せた。
もちろん、すべての人間が熱狂していたわけではない。
不安な者もいた。
息子が前線にいる母親がいた。
夫の帰りを待つ妻がいた。
亡命者部隊の中に親戚を持つ者もいた。
だが、その複雑な沈黙も含めて、島の感情は一つの方向へ傾き始めていた。
アメリカは、敵として姿を現した。
キューバは、それを退けた。
社会主義宣言は、もはや抽象的な思想の名ではなかった。空襲で死んだ者の名、湿地で戦う民兵の名、学校へ向かう子どもの名、土地を耕す農民の名と結びつき始めていた。
カストロの演説は、上陸までの橋だった。
だが、勝利が近づくにつれ、その橋の上に人々が集まり始めた。
※※※※※※※※※※
一九六一年四月十九日、午前十一時五十五分。
ピックス湾の戦闘は、終わりに近づいていた。
無線の向こうから、捕虜の数が報告される。武器を捨てる部隊。散発的な抵抗。負傷者。輸送。海へ逃げようとする者。降伏の白布。
カストロは、すでにハバナへ戻る道の途中だった。
ジープの座席に深く腰掛け、泥のついた軍服のまま、報告を聞いている。周囲の兵士たちには疲労と高揚が混ざっていたが、カストロの目は遠かった。
ピックス湾の泥ではなく、もっと北を見ていた。
フロリダ。
ワシントン。
モスクワ。
そして、その三つを結ぶ見えない線。
※※※※※※※※※※
弟のラウルからの報告が入った。
「東部、グアンタナモ方面に大きな動きはない。第二波の上陸も、現在のところ確認できない。兄さん、ピックス湾は勝ったと見ていい。」
カストロは、無線に向かって短く答えた。
「勝ったのは戦場だ。国家はこれからだ。」
ラウルは少し黙った。
「ハバナは沸いている。みんな、兄さんの名前を叫んでいる。」
「叫ばせておけ。だが、軍は浮かれるな。捕虜の扱いを乱すな。民兵の規律を保て。われわれは盗賊に勝ったのではない。国家として勝ったのだ。」
ラウルの声が、少し引き締まった。
「了解した。」
「それと、ソ連との連絡を急がせろ。大使館、貿易、軍事顧問、すべてだ。こちらから先に動く。」
「もう次か。」
「もう次だ。」
カストロは、ジープの窓から流れるカリブの光を見た。
「アメリカは、一度負けただけで諦める国ではない。ケネディは馬鹿ではなかった。ならば、次はもっと厄介になる。」
※※※※※※※※※※
同日、午後七時三十分。
革命宮殿の窓から見えるハバナは、祝祭の熱を帯びていた。
街のあちこちに灯りが揺れている。歌声が聞こえる。勝利を知らせるラジオの声が、開け放たれた窓から窓へ伝わっていく。人々はまだ貧しく、物資は足りず、生活は苦しい。それでも、その夜だけは、自分たちの国が自分たちの手にあるように感じていた。
カストロは、その街を見下ろしていた。
背後の机には、すでに別の書類が積まれている。
捕虜交換。
被害報告。
空港の修復。
国際報道への対応。
ソ連大使館との連絡。
砂糖取引。
石油。
兵器。
顧問団。
そのすべてが、勝利の余韻よりも早く机の上へ押し寄せていた。
ドアが開き、ゲバラが入ってきた。
軍服には移動の埃がついていた。顔色は悪い。喘息のせいだけではなく、数日間の緊張が体を削っていた。だが、その目は妙に冴えていた。
「街は祭りだな。」
ゲバラは、帽子を取りながら言った。
「人民には必要だ。」
カストロは窓の外を見たまま答えた。
「空襲で死者が出た。海から敵が来た。勝った。ここで喜ばなければ、怒りだけが残る。」
ゲバラは机の書類へ目を落とした。
「君は喜んでいない。」
「喜んでいる。」
カストロは静かに言った。
「だが、酔ってはいない。」
ゲバラは椅子に座らず、窓の近くまで歩いた。二人は同じ街を見た。外では若者たちが旗を振っている。女たちが歌っている。誰かが、カストロの長い演説の真似をして笑いを取っている。
「この勝利で、君はますますアンタッチャブルになる。」
ゲバラは言った。
「国民にとっても、敵にとってもだ。アメリカは、君を殺すか、遠くから絞めるかしかなくなる。」
「お前もだ。」
「俺は外国人だ。いざとなれば便利に嫌われる。」
カストロは振り向いた。
ゲバラは軽く肩をすくめたが、その言葉は冗談だけではなかった。アルゼンチン生まれの医者。革命の英雄。国立銀行総裁。工業相。戦場では信頼されるが、国家運営の失敗は彼に向けられやすい。彼は自分の位置をよく知っていた。
「お前は、この国の外から来たからこそ、この国の未来を外へつなげられる。」
カストロは言った。
「俺はこの島に根を張る。お前は、この島の勝利を世界へ持ち出す。」
ゲバラは、すぐには答えなかった。
「まだ早い。」
「分かっている。だが、いずれそうなる。」
カストロは机へ戻り、ソ連関係の書類を手に取った。
「まずは盾だ。ピックス湾で、われわれはアメリカを退けた。だが、それはアメリカが自分の顔を隠したまま来たからでもある。次に本気で来られたら、この島だけでは受けきれない。」
ゲバラは、机の向かいに立った。
「ソ連は盾になる。だが同時に、交渉相手にもなる。友人ではない。」
「友人でなくていい。」
「同志では。」
「同志という言葉は、便利すぎる。」
カストロは書類を置いた。
「モスクワには、こちらの価値を見せる。アメリカの喉元にあり、空襲と侵攻を受けても倒れず、社会主義の名で人民を結束させた島だと。砂糖を買わせ、石油を送らせ、兵器を出させる。必要なら軍事顧問も受け入れる。」
ゲバラは、窓の外の歓声を聞いた。
「そして、いずれもっと重いものを求めることになる。」
カストロは、その言葉の意味を理解していた。
まだ核という言葉は出ていない。
だが、二人ともその方角を見ていた。
アメリカを本当に止める盾とは何か。艦隊を止め、爆撃機を止め、大統領の机に置かれた侵攻計画を止めるものとは何か。
答えは、あまりにも重い。
「そのときは、そのときに考える。」
カストロは言った。
「考える時間を作るために、今日勝ったのだ。」
ゲバラは、葉巻を取り出しかけて、やめた。
「君はいつも、勝った日に次の負け方を考える。」
「国家を持ったからだ。」
その言葉は、部屋に静かに落ちた。
ゲバラは、ゆっくり頷いた。
「革命軍の時代なら、勝てば山で笑えばよかった。国家になれば、勝利は書類になる。捕虜、補修、外交、貿易、次の侵攻への備え。……面倒なものだな。」
「面倒だから、国なのだ。」
カストロは窓へ視線を戻した。
「だが、面倒な国を持たない人民は、いつまでも誰かの農園で働かされる。誰かのカジノで皿を洗わされる。誰かの港で積み荷として数えられる。」
ゲバラは、その言葉には笑わなかった。しかし少し胸が熱くなるのを感じる。
「なら、盾を買おう。」
「買う。高くてもな。」
「代金は。」
「自由の一部かもしれない。」
カストロは、そこで初めて小さく息を吐いた。
「だが、全部奪われるよりはいい。」
ゲバラは机の端に手を置いた。
「覚えておけ、カストロ。盾が鎖になる日は必ず来る。大国は小国の自由を守るためだけには動かない。奴らは、自分の喉元のことを考える。いつか必ず、われわれの頭越しに何かを決める。」
カストロは、ゲバラを見た。
「それでも今は、盾が要る。」
「分かっている。」
ゲバラは短く答えた。
「俺は止めに来たのではない。値切りに来た。」
カストロは少し笑った。
「モスクワ相手に値切るのは骨が折れるぞ。」
「アメリカ相手に戦争をするよりは、まだ安い。」
その言葉で、二人の間にわずかな笑いが生まれた。
外の歓声が、さらに大きくなる。
人民は勝利を祝っている。
その勝利の上で、二人は次の屈辱の種を選び取ろうとしている。
ソ連という盾。
社会主義という国旗。
アメリカの喉元に刺さる小さな島。
ピックス湾の勝利は、キューバを守った。
同時に、キューバを冷戦の中心へ押し出した。
カストロは、ソ連大使館へ送る最初の連絡文書を手に取った。
「始めよう。」
ゲバラは、窓の外のハバナをもう一度見た。
「次は、海岸の泥では済まないな。」
「済まない。」
カストロは言った。
「だから、こちらも泥だけでは戦わない。」
机の上で、書類の束が静かに揺れた。
外では、勝利の歌が続いている。
その歌の向こうで、まだ見えないソ連の船が、遠い海のどこかを進んでいた。
ピックス湾の顛末を世界は驚きをもって迎えます。
アメリカの空襲後、社会主義を宣言し自らの力で退けました。
次は外交の季節がやってきます。
※更新は、月・木・土曜日(朝・夜)二回の週4話です。
次回は、本日の夜、投稿予定です。
【お知らせ】長編のエピソードになると思わず連載を開始したので、今、前半を大幅改稿しました。
改稿後はボリュームが二倍以上になり背景もわかりやすく史実に寄せてます。(初めはヒューマンドラマを描く予定でした。)
改稿したものはタイトルに改稿としています。ぜひお読み下さい。(日本編の前まで改稿です!)
ジャンルもヒューマンドラマから歴史へ。
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