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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
【幕間】ウォレスと言う男~数と正義の分断~
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139,声と怪物

当時のアメリカ南部は建国の精神やプロテスタントのフロンティア精神がまだ色濃くの残っていました。資本の力で大きな収益を生み出す北部と違い、大地に根ざした信仰と生活があり、エスタブリッシュが遅れた南部を狂気として解釈する反面、南部にはそれに抗う精神が現在まで続いています。(バイブルベルトとか現在でも大統領選などでフォーカスされますね。)

その歴史の中にウォレスは声を拾っていきます。

一九五八年の敗北は、ジョージ・ウォレスを折らなかった。


悔しさはあった。相手の方が強い言葉を使ったことも、組織や資金の差も分かっていた。だが、彼はそこで選挙そのものを疑わなかった。


選挙で負けたのなら、自分がまだ足りなかったのだ。


拳なら、倒された場所を覚えればいい。次はもっと速く動き、もっと強く打てばいい。法廷なら、相手の論理を読み、証拠をそろえ、言葉を鍛えればいい。政治も同じだと、彼は考えた。


ただ、政治で鍛えるべきものは、自分の拳でも、自分の言葉だけでもない。


人々の声を聞く力だった。


町の声。郡の声。教会の声。学校へ子供を通わせる親たちの声。工場で働く男たちの声。北の新聞に笑われていると感じている人々の声。


ウォレスは、それをもっと聞かなければならないと思った。


それが民主主義だと、彼は信じた。


※※※※※※※※※※


落選のあと、ウォレスは町を回った。


大きな演説会ばかりではない。教会の地下室、郡の食堂、理髪店、農場の納屋、工場の門、学校の保護者が集まる部屋。負けた政治家が支持者に慰められるだけなら簡単だったが、それでは次も同じ場所で倒れる。だから彼は、話すより先に聞こうとした。


ある夕方、郡の理髪店で、ウォレスは壁際の椅子に座っていた。


店の中には整髪料と煙草の匂いが混じっていた。古いラジオが小さく鳴り、床には切られた髪が落ちている。鏡の前では、理髪師が客の首に白い布を巻いていた。


その客が、鏡越しにウォレスを見た。


「ジョージ、あんたは立派だよ。そこは誰も疑ってない。貧しいところから上がって、拳でやって、法律を学んで、戦争にも行った。判事としても筋を通した。俺たちは、あんたが卑怯な男じゃないことを知ってる。」


ウォレスは黙って聞いた。


男は少し間を置いてから、声を低くした。


「だけどな、前の選挙のあんたは、まだ少し遠かった。」


「遠い?」


「そうだ。俺たちの側に立っているようで、言葉はまだ裁判所の中にあった。正しくて、きれいで、角が取れていた。北の新聞にも説明できる言葉だった。」


店の中が静かになった。


ウォレスは、その言葉をすぐには受け取れなかった。


「俺は、嘘を言いたくなかっただけだ。」


「分かってる。だから、あんたを信用してる。でも俺たちが欲しいのは、嘘じゃない。本音だ。俺たちが床屋で、食堂で、教会の裏で、声を落として言っていることを、あんたの口で言ってほしいんだ。」


理髪師が、ハサミを動かしながら続けた。


「この土地は、俺たちの親父たちが働いて作った。祖父たちは森を切り、畑を作り、教会を建てた。学校も、墓地も、家も、ここで守ってきた。なのにワシントンの連中は、地図の上で線を引くみたいに、俺たちの町を作り替えろと言う。北の新聞は、俺たちを遅れていると笑う。大学の先生は、俺たちの聖書まで古いと言う。」


誰かが低くうなずいた。


首に白い布を巻いた男は、鏡の中の自分ではなく、ウォレスを見ていた。


「ジョージ、俺たちは王様に逆らってできた国の人間だろう。遠い政府に暮らしを決められたくないから、この国はできたんじゃないのか。なのに今度は、その政府が俺たちの学校に入り、教会に入り、子供の頭の中にまで入ってこようとしている。これを自由と呼べと言われても、俺たちにはそう聞こえない。」


ウォレスは、その言葉を聞いていた。


州の権利。


その言葉なら、彼も知っていた。法律家として、何度も聞いてきた言葉だった。だが、この理髪店で語られているものは、条文の話だけではない。


祖父の畑。父親の仕事。母親の祈り。子供の学校。町の教会。墓地の石。


それらを、遠い場所の言葉で一度に作り替えられることへの恐れだった。


別の男が、煙草を灰皿へ押しつけた。


「あんたは俺たちより頭がいい。だから、俺たちの言葉をきれいに直せる。でも、それをやられると、俺たちはまた置き去りにされるんだ。あんたが本当に俺たちの代弁者なら、俺たちの言葉で話してくれ。アラバマの言葉で話してくれ。」


ウォレスは、その場では何も言い返さなかった。


自分は、まだ翻訳していたのかもしれない。


人々の怒りを法廷の言葉へ移し、人々の恐れを新聞に耐える言葉へ整え、人々の屈辱を北部にも説明できる形にしていた。それは公正であろうとする者の癖だった。嘘を避け、感情を整え、言葉を手続きの中へ収める。判事なら、それは美徳ですらあった。


だが、大衆はそれを求めていなかった。


彼らは、整えられた言葉ではなく、自分たちの言葉を求めていた。床屋の言葉。教会の地下室の言葉。畑と工場と学校の前で交わされる言葉。


この土地を、この土地の言葉で語らなければならない。


ウォレスは、そのことに気づき始めていた。


※※※※※※※※※※


別の日、ウォレスは小さな教会の地下室にいた。


長い木の机が並び、紙コップのコーヒーが置かれている。女たちは皿を片づけ、男たちは壁際に立って話していた。子供たちは上の礼拝堂の近くで走り回り、時々、大人に叱られて静かになった。


そこには、政治集会の熱はなかった。


だが、政治より深いものがあった。


年配の男が、帽子を手の中で回しながら話した。


「ジョージ、俺たちは新しいものが全部嫌いなわけじゃないんだ。車も使う。ラジオも聞く。テレビだって見る。だが、あれは少しずつ家の中へ入ってくる。最初は便利なものとして入ってくる。それから、いつのまにか子供の考え方まで変えていく。」


男は一度言葉を切った。


「北の連中は、俺たちを古いと言う。聖書を信じることを笑う。進化論の裁判の時だってそうだった。まるで神を信じる人間は、字も読めない田舎者みたいに書かれた。あの屈辱を、俺たちは忘れていない。」


ウォレスは、その話を遮らなかった。


進化論裁判は、彼の少年時代より前の出来事だった。だが、南部の記憶の中ではまだ終わっていない。北の新聞や都会の知識人に、自分たちの信仰を見せ物にされたという感覚だけが残っていた。


別の男が続けた。


「大学の先生が来る。新聞記者が来る。裁判所が来る。今度はワシントンが来る。みんな、俺たちの子供のためだと言う。だが、あいつらは俺の息子の名前も知らない。娘がどんな祈りをして寝るのかも知らない。なのに、学校の中身を変えろ、町の決まりを変えろ、親の考え方を変えろと言う。」


ウォレスは、紙コップのコーヒーを両手で包んだ。


そこにあるのは、単純な政策論ではなかった。


神を笑われた痛み。子供を奪われるような不安。町が遠い場所の言葉で作り替えられるという恐怖。それが事実として正しいかどうかは、別の問題だった。少なくとも彼らには、そう見えていた。


その夜、巡回伝道師が短い説教をした。


彼は立派な神学者ではなかった。声の大きい男だった。汗をかきながら話し、聖書を掲げる手は大きかった。言葉は平易で、部屋の奥にいる者にも届いた。


「神のない自由は、自由ではありません。人は自由という言葉を好みます。けれど、神を捨てた自由は、やがて欲望になります。家庭を壊し、子供を迷わせ、町をばらばらにします。北の新聞は、あなたがたの信仰を古いと言うかもしれません。大学の先生は、聖書より新しい学問を信じなさいと言うかもしれません。けれど、あなたがたの母親が台所で祈ってきたこと、父親が墓の前で帽子を取ってきたこと、その小さな順序を、誰が笑う権利を持っているのでしょうか。」


部屋は静かだった。


誰も、そこを政治集会だとは思っていない。だが、その言葉は政治より深い場所へ届いていた。


「守りなさい。あなたの家を。あなたの子供を。今、学校で祈りをする当たり前のことが問題となっています。

信仰を。神から与えられた自由を守らなければなりません。」


ウォレスは、その場の後ろで聞いていた。


彼自身は、深い信仰者というわけではなかった。毎晩聖書を読み、神の声に耳を澄ませる男ではない。祈りよりも、試合と法廷と選挙の方をよく知っていた。


それでも、この言葉が強いことは分かった。


これは、ただの学校の話ではない。子供の話であり、家庭の話であり、信仰の話であり、独立の話であり、自由の話だった。


法律家としてなら、ウォレスは裁定の重みを知っている。裁判所の命令を軽く扱っていいとは思っていない。だが同時に、この国には、法で人の内心まで踏み込まれない自由があるはずだとも感じた。


何を信じるか。子供に何を教えるか。家で何を祈るか。どんな町の順序を守って生きるか。それは、遠い裁判所の紙一枚で簡単に塗り替えられていいものなのか。


連邦は、彼らには法律だけを持ってくる存在ではなかった。北の新聞、大学の言葉、テレビの文化、神を持たない新しい日常。そのすべてを背負って、学校の扉から入り込んでくるものに見えていた。


抵抗しなければ、ふるさとは変えられる。


教会で祈る母の背中も、父が守ってきた畑も、子供たちが通う学校も、いつのまにか別の言葉で説明される場所になる。彼らが恐れていたのは、校舎の中の席順だけではなかった。自分たちの生き方そのものが、古く、恥ずかしく、直されるべきものとして扱われることだった。


南部の人々にとって、自由とは、連邦政府から与えられるものではなかった。むしろ、遠い政府に生活を決められないことが自由だった。親が子供を育て、町が学校を守り、教会が道徳を教える。その順序を、自分たちの手から奪われないことが自由だった。


ウォレスは、それを聞いた。


聞けば聞くほど、その声は彼の中で大きくなっていった。


※※※※※※※※※※


学校の保護者が集まる小さな部屋でも、同じ種類の不安が語られた。


黒板には、翌週の予定が白いチョークで書かれていた。机は壁際に寄せられ、中央に折り畳み椅子が並んでいる。そこに座っている母親たちは、怒号を上げる群衆ではなかった。手袋を膝の上に置き、バッグの口を閉じたり開けたりしながら、言葉を選んでいた。


一人の女が、ウォレスに向かって話した。


「判事さんだったあなたなら、裁判所の決定が軽いものではないことくらい分かっています。でも、私たちはその裁判所の人たちを知りません。あの人たちは、私の息子の名前も知らないんです。あの子が何を怖がるのか、どんな先生なら安心するのか、夜にどんな祈りをして眠るのかも知らない。それなのに、学校を変えなさい、町のやり方を変えなさいと言われる。心配だと言っただけで、私たちは悪い人間のように書かれるんです。」


ウォレスは、その声を聞いていた。


女は黒人の子供と同じ教室になることだけを恐れていたのではない。もちろん、その恐れもあった。否定できるものではなかった。


だが、彼女の言葉の奥には、もっと大きな不安があった。親が子供の世界を守れなくなること。自分たちが知っている学校が、知らない言葉で書き換えられること。聖書よりも、大学の教授や判事の言葉の方が正しいと子供に教えられること。


「新聞は、私たちを憎しみの人間みたいに書きます。でも、私は子供を憎しみで育てたいわけじゃありません。ただ、自分の子供を、知らない人たちの実験にされたくないんです。」


女はそう言って、少しだけ目を伏せた。


ウォレスは返事に困った。


法律家としてなら、別の言い方ができる。憲法、判決、平等、連邦の権限。そういう言葉は知っていた。だが、その場でそれを言えば、この女には届かないことも分かった。


彼女が話しているのは、憲法論ではない。


子供の話だった。


そして選挙とは、憲法論だけで動くものではなかった。


※※※※※※※※※※


工場の門の前では、男たちの声がもっと荒かった。


夕方の空気は湿っていて、作業を終えた男たちのシャツには汗が残っていた。彼らはウォレスの前で帽子を脱ぐ者もいれば、手を拭いてから握手する者もいた。


そのうちの一人が、煙草を指にはさんだまま言った。


「ジョージ、北の連中は正義を語る。新聞も、大学も、裁判所も、正しいことを言ってるつもりなんだろう。だが、変わるのは俺たちの町だ。あいつらの町じゃない。代金を払うのは俺たちだ。」


ウォレスは、男の言葉を待った。


「金持ちはどこへでも逃げられる。北の連中は、きれいな言葉だけ言って、自分の子供はいい学校に入れる。だが、俺たちはここに残る。学校が変わっても、仕事が変わっても、町の空気が変わっても、ここで暮らすしかない。変化の代償を払わされるのは、いつも俺たちなんだ。」


変化の代償。


その言葉は、ウォレスの中に深く残った。


公民権を支持する者たちは、正義を語る。新聞は進歩を語る。裁判所は憲法を語る。どれも大きな言葉だった。だが、町の人々はもっと小さな言葉で話していた。


子供。学校。教会。墓地。家。仕事。誇り。


その小さな言葉には、票になるだけの熱があった。そしてその熱は、上品に言い直された瞬間に冷めてしまう。


ウォレスには、それが分かり始めていた。


※※※※※※※※※※


ウォレスは、人々に怒りを教えたのではない。


怒りは、もうあった。


北に笑われた屈辱。進化論裁判の記憶。信仰を古いものとして扱われる痛み。学校を奪われる不安。子供を別の価値観へ連れていかれる恐怖。連邦政府への反発。資本とテレビと都会の文化が家の中まで入り込んでくる感覚。


それらは別々の感情だった。


ウォレスは、それを聞いて回った。紙に書き留めたわけではない。長い政策文書を作ったわけでもない。だが、理髪店の男、教会の伝道師、学校の母親、工場の男、農場の老人、そして戦争の時に横へ退かなかった自分を信用してくれた退役兵たちの声は、少しずつ彼の中に積もっていった。


そのすべてが、一つの方向を向き始める。


守れ。


ここでだけ、言葉は短くてよかった。


家を守れ。学校を守れ。教会を守れ。町を守れ。南部の自由を守れ。


彼はそれを、憎悪だとは思わなかった。少なくとも、最初はそう思わなかった。彼には、それが人々の声に聞こえた。民主主義の声に聞こえた。人々が自分の暮らしを守ろうとする声に聞こえた。


だから、彼はその声を返そうとした。


短く、強く、分かりやすく。


そして何より、翻訳せずに。


※※※※※※※※※※


次の選挙で、ウォレスの言葉は変わった。


彼はもう、丸く言わなかった。


州の権利を語る時、そこには法律家の言葉だけではなく、理髪店で聞いた怒りが混じった。学校を語る時、そこには母親たちの不安が混じった。自由を語る時、そこには教会の地下室で聞いた祈りと恐れが混じった。


群衆は、それに応えた。


彼が言葉を強くするたびに、拍手が起きる。拍手が起きるたびに、ウォレスは自分が正しい場所に立っていると思った。


それは演説というより、確認だった。


私たちは間違っていない。

私たちは馬鹿にされるだけの人間ではない。

私たちの町は、私たちのものだ。


ウォレスは、その確認を与える男になった。


彼は、自分が人々を変えたとは思っていなかった。人々は最初からこの声を持っていた。自分はそれを聞き、返しているだけだ。彼の中では、そうだった。


だから声は強かった。


嘘をつく政治家の声ではなかった。自分が聞いたと思っている声を、群衆へ返す男の声だった。


その声に押し上げられるように、ウォレスは勝った。


そして一九六三年一月、アラバマ州知事として州議事堂の前に立った。


※※※※※※※※※※


冬の空気は冷たかった。


だが、集まった人々の熱はそれを押し返していた。旗が揺れ、帽子が動き、群衆の奥からいくつもの顔がこちらを見ている。


ウォレスは、その顔を一つずつ見ていた。


理髪店で、北部に通じる言葉ではなくアラバマの言葉で話せと言った男がいた。教会の地下室で、神を笑われる痛みを語った老人がいた。学校を変えられることを恐れていた母親がいた。工場の門で、変化の代金を払うのは俺たちだと言った男がいた。戦争の呼び声から逃げなかった者として、自分を信用してくれた退役兵たちもいた。


彼らは、自分たちを悪人だとは思っていなかった。


家を守りたいだけだった。学校を守りたいだけだった。子供を守りたいだけだった。自分たちの神を、墓を、町の歩き方を、遠い場所の言葉で作り替えられたくないだけだった。


ウォレスは、そう聞いてきた。


それがすべてではないことを、彼は知らなかったわけではない。黒人が投票所で追い返され、学校を分けられ、食堂の席を拒まれてきたことを、法律家である彼がまったく知らないはずはなかった。


だが、この日、彼の前にいたのは、自分に声を預けた人々だった。


彼らは、洗練された言葉を持っていなかった。新聞に載るような文章も、大学の講義のような理屈も持っていなかった。持っていたのは、屈辱と恐れと誇りだった。北に笑われたという記憶。連邦に踏み込まれるという恐怖。神なき新しい世界が、家庭の中にまで入り込んでくるという不安。


ウォレスは、それを聞いてきた。


聞いた以上、返さなければならなかった。


民主主義とは、そういうものだと彼は信じていた。人々の声を聞き、その声を政治の言葉にする。多数の声を、壇上から返す。それが政治家の仕事であり、法律と選挙を信じる者の役目なのだと。


ただし、返す時に薄めてはいけない。


きれいな言葉に直してはいけない。


北部に説明できる言葉へ翻訳してはいけない。


アラバマの本音は、アラバマの言葉で返さなければならない。


ウォレスは法律家だった。だから、本当は知っていた。短い言葉は危ない。強い言葉は人を動かし、人を傷つける。法廷なら、その危うさを避けるために、言葉を整える。


だが、この日、彼は別の責任を選んだ。


自分を選んだ人々の本音を、建前で薄めないこと。


彼らが床屋や教会の裏で言っていたことを、州議事堂の前で言うこと。


それが代弁者の役目だと、彼は思った。


その瞬間、彼の中で何かが定まった。


判事の言葉ではない。


新聞に説明する言葉でもない。


北部に理解してもらう言葉でもない。


アラバマの言葉で話す。


ウォレスは息を吸った。


言葉は、もう彼の中にあった。


理髪店の声、教会の祈り、母親の不安、退役兵の誇り、農場の沈黙。それらが一つの場所へ流れ込んでいた。


これは、ただの政策ではない。


連邦の法に従うかどうかの話だけでもない。


アラバマはアラバマである、という宣言だった。


この州の自由は、この州の人間が守る。この州の学校は、この州の親たちが守る。この州の信仰は、この州の教会と家庭が守る。


ウォレスには、そう見えていた。


彼は、群衆の前で言った。


「Segregation now, segregation tomorrow, segregation forever.」


今ここに隔離を。

明日も隔離を。

永遠に隔離を。


その言葉は、黒人にとっては未来を閉ざす鉄の扉だった。人を人として扱わない国の古い呪いだった。


だが、その場にいた多くの白人には、別のものに聞こえていた。


連邦には従わない。


神なき新しい日常に、ふるさとを渡さない。


アラバマは、自由な州として立つ。


そう聞こえていた。


歓声が起きた。


ウォレスは、その歓声を浴びた。


群衆は、自分たちの声を聞いた。


その瞬間、政治家と群衆は、互いを映す鏡になった。

信仰が生活に密着してる南部から見ると狂っているのは北部だったかもしれません。

隔離を声にしたウォレスは、軽蔑と熱狂を生み出し彼は投票により合法的に州知事となります。


※更新は、月・木・土曜日(朝・夜)二回の週4話です。

次回は、本日夜、投稿予定です。


【お知らせ】長編のエピソードになると思わず連載を開始したので、今、前半を大幅改稿しています。


改稿後はボリュームが二倍以上になり背景もわかりやすく史実に寄せてます。(初めはヒューマンドラマを描く予定でした。)


改稿したものはタイトルに改稿としています。ぜひお読み下さい。(日本編の前まで改稿よていです!)


ジャンルもヒューマンドラマから歴史へ。


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