15.再会?謎のチャラ男登場②
頭で分かっているのに、どうにも気持ちが付いてこないまま別荘での課外授業に参加したオレを、ヴォイドをはじめ、ディノやサラサは優しく、拘らず受け入れてくれた。
拗ねた気持ちになんとか平静を装っているつもりだったが、実際には顔に出ると言われてしまって、かなり恥ずかしい。
オレは多分、自分で思っているよりもまだまだの人間ってことなんだろう。
すごく、認めたくない。認めたくないが、ディノがサラサとリスを見たと聞いた時、自分のうっかり具合を受け入れるしかなかった。
――――ディノルートで、何度もグッズ化されている人気スチルのシチュエーションだ。
ララブをプレイしていた時から、別に『推し』なんていないつもりだった。
しかし強いて言うなら、オレはディノルートが気に入っていた。平民の男子生徒が、幼馴染の女の子と気持ちが通じ合い、共に将来を考えていく。王子様や先生より身近に感じられて、仕事人間だったオレにも共感しやすく、癒されていたんだと思う。
だから多分無意識の内に、オレはディノルート寄りの選択をしたり、後押ししてしまっていたのかもしれない。
そもそもディノとオレが参加しているサラサとの課外授業は、元々はヴォイドルートやシズルルートのものだ。ディノは居ない。
別荘も、当然ながらヴォイドルートのものだ。ここにディノがいるのがおかしい。ボートも湖も、なんならヴォイドとサラサのスチルが発生するような場所だ。
なのについ、二人の散歩を促したばかりに、本来よりかなり早い時期にリスのイベントが来てしまった。
ゲームでも時期は前後するが、ディノの好感度的なポイントがかなり高くないと起きないため、少なくとも秋以降じゃないと発生しない。
それにも関わらず、好感度を爆速で上げてしまっていた。うっかりにもホドがある。二人の気持ちは聞いてないが(いや、ディノは聞かなくてもバレバレだが)、あれだけ一緒に行動してれば、サラサとの親密度が高まっているのは間違いない。なんなら王宮での舞踏会でも、最初のダンスを促してしまったような記憶がある。
オレと言うバグのせいで、とんでもないことをしてしまっている。いや、ディノルートならそれはそれで、オレはそのつもりで生きていくしかないんだが、オレが恣意的に進めたことが別の悪いことや、予想外を呼び寄せたりしないだろうか。
もちろん、二人が出会ったのはイベントと違うリスの可能性もある。でもあの嬉しそうな、切なそうな、なんとも言えないディノの表情から想像すると。
そしてもう一つ、気付いたことがある。
せっかく乙女ゲームの世界に居るのに、肝心の二人のスチルシーンをオレが直接見られるわけじゃない、ということだ。
大事なシーンの隅に平民生徒がチラッと映り込む、なんてことは滅多にないだろう。正直、これはとても悔しい。サラサのストーキングでもすれば無理矢理見られるかもしれないが、それはあまりにキモいことだと分かる。
「ハァ……。オレが見られるのなんて、結婚式シーンとかか……?」
しかし、ガッカリしている場合でもない。
大事なのは、こんなにサラサの近くに居ても、イベントの発生状況や親密度の具合をちゃんと掴むことは出来ないという事実だ。
オレは今回、何故だかケラールトなんて怪我人まで拾って騒ぎにしてしまった。立ち往生しているのを流石に放って置けなかったし、それ自体に後悔もないが、ヴォイドの別荘イベントとしてはかなり流れを変えてしまった。
ケラールトがサラサに興味を持っていたことへのカウンターでディノも随分動いていたから、更にディノルートが深まっている可能性が高い。
既存のイベントは時期や場所までズレて、存在しない話やキャラまで出て来るとなると、オレにはお手上げだった。
あくまでもサラサの動向は気にしつつも、潔く覚悟を決めて、オレにできることをやるしかないと開き直ることにした。
+++++
考え込んでいる間に屋敷に着いたオレに、アイシーが駆け寄って来た。まるで仔犬が転がってくるような勢いだった。
「やっぱりハヤテさんの馬車だった!おかえりなさい」
まだ小学生くらいに見えるアイシーの無邪気な笑顔に、なんとも言えず気持ちがゆるんだ。
後ろからゆったりとやって来たジャンも、くしゃりと笑顔を見せてくれる。
「おかえりなさいませ」
「うん。――――ただいま」
故郷に帰らなくていいのか、とディノは聞いてくれたが、この屋敷がオレにとってはもう、帰る場所という感じがする。思考の沼にハマってささくれ立っていた気持ちが、ふわりと和らぐ。




