15.再会?謎のチャラ男登場①
なんだかもう、自己嫌悪やら後悔やらも、底まで行くと浮上するしかないんだなと身に染みる。
オレは今、ヴォイドの別荘からディノ、サラサの二人と別れた馬車で移動している。行く先は彼らのように自身の故郷ではなく、カイの屋敷だ。
結局今のオレには、帰る場所も、やるべき事も、カイの隣にしかないのだと悟る。少なくとも、カイに不要だと言われるまでは。
行きと違って話し相手も居ない道中のため、ドジの反省と、屋敷に残して来た、戻ってからやらなければいけない事について思いを馳せた。
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舞踏会を区切りとして、学園が長期休みに入った頃。
屋敷では、先日から進めていた塀の工事についてほぼ完了した所だった。
効果の有無は分からないが、アイシーとジャンから報告が上がって以来、外から屋敷の中を窺っているような不審者や、その形跡は見つかっていない。
オレは塀の完成と合わせて、チェックリストの見直しで動き回っていた。
以前は屋敷中の使用人が普段居る場所くらいしか考慮してない内容で伝えていたが、いい加減それぞれの役割や業務内容を把握していかないといけない。
今までも学校が終わった後に少しは学んできていたが、時間帯によって仕事が変わる使用人も多く、実態の把握は難航していた。
家事に近い仕事と、この世界(あるいはこの時代)特有の仕事があり、それを独自の振り分けで運用していることから、想像が及ばないことが多かった。
一見非効率に見える役割分担にも、商習慣や価値観などの理由があり、オレが雑に指摘すると常識を知らないのかと苦い顔をされることがある。
常識と言えば先日も、朝食のことで料理長に苦い顔をされてしまった。
「わたしも田舎の出身ですけど、ハヤテさんの田舎は随分変わった所だったんですね」
なんて、カリナの純粋な言葉が胸を刺す。オレがモノを知らないばかりに、パプリカ村が変わった村扱いされてしまっている。
だって、生卵とか食べたいだろう。飼っている鶏から採れたてなら良いじゃないかと思ったが、コックが思わずメイドを呼ぶくらい変わったことだったらしい。
(この世界の衛生観念もフワフワしてるから、大人しく加熱して食べることにしたが)
そもそもコックでもないオレが、調理場へ入ること自体が良くないという。
そんなこんなで、客人扱いからだいぶ使用人らしくなってきたオレは、屋敷の中でも着実に浮き始めていた。教室でもどこでも、所詮はこんなものだ。
しかしそうこうしている間に、ある時カイから話があると、執務室に呼ばれた。
カイは、舞踏会でのオレと国王陛下のやり取りについてその後も触れることはなかった。オレから謝っても、気にしなくていい、と言われてしまう。
しかし多分、その言葉通りではなかったんだろう。
「ヴォイド先生から、別荘への招待がある」
「先生から?」
「側近試験について、教室で学ぶより屋敷の方が良いと思うから、ということだ」
「それは、有難いです」
元々休みの間、復習だけを繰り返すことには限界を感じていた。特にカイは、オレの振る舞いや言動が側近として問題ないか、という目線で注意してくれることもなく、これで良いのか分からない気持ちで過ごしていた。
「日程はいつ頃ですか?」
「先生は既に別荘に滞在してるらしいから、明後日にでも向かうといい。サラサと、ディノ=ハウザーも一緒にとのことだ」
「明後日、ですか?でも明後日は、カイ様が王宮に行く日じゃないですか」
「ああ。別荘に行くのはハヤテだけだ。俺は暫く王宮で用事がある」
まさかの、別行動の提案だった。
確かに、側近のことや貴族のことを学ぶのに、カイが参加する必要はない。けれど逆に、カイが王宮で過ごす際、側近としてのオレは不要なのだろうか。見習いだから?
「ハヤテ?」
「あ――――いえ、はい。カイ様は、王宮で何を?」
「公務の準備だ。シズルがやっているようなことを、俺も学び始めないといけない」
「それは、側近見習いがご一緒してはいけないものですか?」
「いけなくはないが、父――王からも、今回は俺一人で十分と言われている」
「陛下から……」
カイが王宮で何を学ぶのか、オレには今想像も付かない。聞けば教えてくれるかもしれないが、どちらにしてもオレが横に居たところで役には立たないんだろうと、この時思ってしまったのだ。
学内で少しばかり王子と周りの生徒の間に入ることを覚えても、所詮は友達程度の存在なのかもしれない。
何より、国王からそう言われてしまったとなると。
「――――分かりました。ヴォイド先生の下で、きちんと学んできます。カイ様も、戻ったら王宮でのことを教えてください」
「ああ。側近試験についても、分かることがあれば伝えよう」
無力感で奥歯を噛み締めたくなったが、事実は受け入れるしかない。オレはこの世界のことを十分には理解出来ていないし、側近の仕事も、カイの王子としての役目も、知らないことばかりだ。
頭に来ているのは、本当のことを言われて響いてしまっただけ。傍らに居てくれないと困る、と思わせるくらいのものを、これから身に付けて行くしかない。
役に立たないかも知れないが付いて行きます、とは言えなかった。それならさっさと側近試験に受かるべきで、その近道はヴォイドとの勉強なのだから。




