14.平民ディノの楽しい夏休み⑥
迎えが来ることになって気を持ち直したのか、椅子に腰掛けながら、ケラールトはおれ達の夏期講習を眺めていた。
なかなか話し好きのようで、お茶の時間も一緒に過ごすことになった。
「君達は、王立学園の学生なの?」
「ああ。サラサはなんと、特待生だ!」
「ちょっとディノ、やめてよ。学生は学生なんだから」
「そうかあ。いやぁ、友達ということで自慢したくなる気持ちも分かるよ。特待生ってことは、セラ王子から直々に声が掛かったってことだろう?」
「え……あぁ、うん。そうだけど」
ケラールトはどうやら、サラサを気に入ってしまったらしい。おれは分かりやすく睨みたくなるが、ハヤテが横から制してくれた。
「ハヤテ君とディノ君も、貴族じゃないのに凄いな。奨学補助を受けられてるんだろ、地域で一人しか貰えないっていう」
「あ――――あぁ、うん。おれはハリッサ村からで、ハヤテはパプリカ村から」
「そうなのか。地元には友達も残して来たんだろ?」
「まあ……」
特待生の話は、王都で生活していれば耳に入ることもあるだろう。しかし奨学補助については、おれ達も入学が決まった後に寮で初めてちゃんと話を聞いた。実際に入学して寮を使う人間が確定してから、審査で選ばれているとかなんとか言っていた気がする。
ケラールトが王立学園に随分と詳しいのが気になったのは、サラサもハヤテも同じらしい。少し、場の空気が変な感じになっていた。
「あー、ごめんごめん。僕もほんとは、王立学園に通いたかったんだ。でも家の都合でね……」
おれ達の表情で自分の話し振りに気付いたのか、ケラールトは慌てて言葉を添えた。
確かにこの屋敷で一緒に過ごした時間は短いが、商人にしては行儀作法がしっかりしていると、先生も褒めていたくらいだ。
何より、オレ達が学んでいることにも強く興味を示して色々なことを質問された。上辺じゃない質問ぶりを思い出すと、本当に学園に通いたいと思っていたんだろうと感じた。
「確か今は、カイ王子も入学されたんだろう?」
「ええ。私とハヤテと、同じクラスです」
「そうなのか。クラスではどんな感じなんだい?」
「うーん、普通ですよ。みんな最初は少し戸惑ってましたけど、最近は普通に話しもします」
「学内平等、ってやつだ。でも実際は、大変なこともあるんだろうな」
「そりゃあ色々あるけど、今はハヤテが側近だから大丈夫だ」
「まだ側近じゃない、見習いだ」
「――――君が?カイ王子の?」
「ハイ、まぁ」
「そうか!王子は側近と過ごすと言うけど、貴族じゃなくても……そうか」
「言っておきますけど、ハヤテはカイ王子に選ばれて、側近見習いをしてるんです」
「あぁ、ごめんごめん!悪気はなくて。ただ感心したんだよ」
ハヤテは気にしていないようだが、サラサは少し頬を膨らませていた。おれも、ハヤテのことを侮られるのは腹が立つ。
ケラールトはそれからも、王立学園のことを色々と聞きたがっていた。たまに課外授業で習ったような話も出て来て、こういう風に知識を使うものなんだと新鮮な気持ちになる。
ケラールトの迎えが来たのは夕方になってからで、先生は遅くなるのを心配したけど、荷物が止まってしまっているから急ぐのだという会話をしているのが聞こえた。
「――――それでは、お世話になりました。ハヤテ君、側近試験頑張ってね」
思わぬ来訪者だったけど、学園の外の人と話すのは新鮮さがある。
見送った後、おれはハヤテに話し掛けた。
「ケラールト、ご主人に怒られてないかな?」
「さあな。随分変わったやつだったけど」
「ハヤテが言うのか」
「――――どうせ、オレは変わってるよ」
「冗談だ。気を悪くしないでくれ」
「まあそれは良いけど、ディノ。あんまり未だ、オレが側近見習いだとかは外で話さないでくれ」
「何故だ?自慢なことなのに」
「公示で色々言われてるカイ様に、側近が居るとか居ないとかで噂が立つのも良くないだろ。それに、側近試験も未だだなんて……」
「ん?おれは、側近試験の話なんてしてないぞ?夏期講習中に、先生が説明したんじゃないか?」
「いや――――ケラールトが見てた授業でそんな話はしていない……」
おれは勝手に心配して、ケラールトがサラサと二人にならないように気にしていた。そうなるとサラサは言わないだろうし、うっかり気付かず喋ってしまったのはおれかもしれない。
「うーん。記憶にないが、そうするとおれかな……気を付けるようにする」
「……ああ」
ハヤテはまた、何かを考え込んでいる。
ケラールトと話したことで、側近のことをまた悩んでいるのかもしれない。
あと三日で夏期講習も終わる。
おれとサラサはそのまま、故郷の家に戻る予定だった。ハヤテもパプリカ村に帰らないのかと聞いてはみたが、カイ様の屋敷に戻ると言っていた。
ハヤテはちゃんと、カイ様に言いたいことが言えるだろうか。あるいはカイ様も、ちゃんと話してくれるんだろうか。
気付けばハヤテも、おれにとってはサラサと同じくらい心配で気に掛かる存在になっていた。
次話、ハヤテはある人物から手紙を受け取る




