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14.平民ディノの楽しい夏休み①

 おれ、ディノ=ハウザーは今、身の丈に似合わない大きな別荘に居た。

 こんなにデカいベッドは初めて見たし、恐る恐る座ってみると柔らかくてびっくりする。背ばかり伸びてしまったおれでも、これならハミ出さずに横になれそうだ。

 先日王宮であった舞踏会でも、色々な物が立派で驚いたものだが、生活用品はあまりなかったから比較する気持ちにはならなかった。しかし今は、普段過ごす寮の部屋や故郷の家、村長の屋敷を思い出してつい、比較してしまう。

 見晴らしの良い窓辺や、よく分からないが綺麗な気がする絵が壁に飾ってあるし、ピカピカした鏡まである。どれもよく磨かれている。

「すごい!」

「なんだこれ!」

「うわあ!」

 なんておれは一人で騒いでいるが、同室のハヤテはソファに座ってボーッとしている。そのソファも刺繍が入っててすごい。

「ハヤテはもう、カイ様のお屋敷で見慣れてるか?」

「あぁ、まあ……いや。やっぱりこっちは、別荘だけあってホテルみたいだよ」

「ほてる?」

 聞き慣れない単語をそのまま返すと、ハヤテは誤魔化すような表情をした。

 悪意あるものじゃないと分かるが、ハヤテはたまに不思議なことを言う。おれがモノを知らないだけかと思ってサラサに聞いても、知らないと言われることが多い。ハヤテの出身であるパプリカ村に行ったことはないが、何か変わった風習があるのかも知れない。

「おれはこんな部屋で眠れるかどうか、不安になる。こないだのヘレネの集いで泊まったのは、もう少し普通な部屋だったし」

「まあ、ヴォイド先生の家が有力貴族なのもあるだろうけど、オレ達を歓迎してくれてるってことだろう」

「どういう意味だ?」

「うーん……たしか、ヘレネの集いの時にディノはシズル王子がいる方の別荘に泊まってたんだろ?」

「ああ」

「オレはネリィ様の所だったけど、こんなに立派な部屋じゃなかった。多分部屋は沢山あって、賓客用の良い部屋に通して貰えてるんだと思う」

「なるほど」

 確かに侯爵家の敷地にある別荘の方が悪いということはないだろうし、外観はどっちもすごい!という感じだった。

「側近試験の夏期講習に誘ってくれた上、もてなしてくれるんだから、ヴォイド先生には感謝だな」

 そう口にしてはいるが、ハヤテの表情は冴えない。これはここまでの馬車の中でも同じだった。

 どうやらカイ王子と別行動なのが気に入らないらしいが、おれにはどう言ってやるべきか分からなくて困ってしまう。

「なあ、かきこうしゅう、というのはなんだ?」

「あー……うん、そうだな……」

先ほどと同じ表情だったが、ハヤテは話し始めた。

 舞踏会が終わり、王立学園は長期休みに入った。前期と後期で分かれる間のこの時期の休暇を、ハヤテなりの言い方では『夏休み』と言うらしい。そして夏の時期にやる勉強を、『夏期講習』と言うのだと。なつやすみ、というのは良い響きに感じられた。

「もう、一年の半分が終わったようなもんだからな……」

「そうだな。ほんと、なんとか貴族と騒ぎを起こさず過ごせて、ホッとしてる」

「そういうモンか?」

「ああ。おれの地元じゃ領主の貴族はロクな奴がいなかったし、その子供も嫌なやつばかりだった。だからケンカにでもなるかと覚悟もしてたくらいだ。学園の貴族とはまだそんなに関わりもないが……でも、お前やサラサから聞くネリィ様やカイ様、生徒会長の話だとそんなに悪くないようだし」

 ハヤテはきょとんとした顔で、そういうモンか、ともう一度呟いた。

 途中から参加させてもらったヴォイド先生の課外授業でも、おれやサラサの反応を不思議そうにしていることが多々あった。たまに、ハヤテは平民じゃないんじゃないか、と思うことがある。しかし貴族とも全然違うから、妙な奴だなという感想だ。王子の側近見習いになると、そうなるものなんだろうか。

「夕食までは先生も用があると言うし、サラサと散歩に出ないか?」

「いや、オレはいいよ。せっかくだし、二人で行くといい。ボートもあるし」

「ボート?」

「多分、裏手の湖だ」

「そんな話、してたか?湖があるなんて……」

「あ、いや、うん!えーっと……前にヴォイド先生に、別荘のこと聞いてたんだよ。場所、違ってたらごめんな」

「なんだ、そう言うことか。もし気が変わったら、後からでも一緒に遊ぼう」

「ああ、ありがと」

 ハヤテは同い年で、見た目はひょろっとした普通の奴なのに、たまに年上のように見えることがある。勉強ができるサラサとはなんだか違う感じの、頭の良さというか、モノをよく知っている感じがする。

 しかしその知識に自信がないのか、後ろめたいことがあるような素振りを見せるのが謎だった。もっと自慢すれば良いのにと思うが、それをしない。

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