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11.予算?思考を尽くす生徒会室③

「ヘアメイクを専門の方にお願いすることの大事さは、分かりました。でも、それなら衣装の予算を減らすしかないですね」

 オレは、本題へと話を戻した。

「衣装も、このランクが最低限です。これより下では王宮のダンスホールに合いません」

「となると、予定人数では赤字です」

「…………」

 ネリィが言うのだから、必要なことなのだろう、とは飲み込める。

服装も髪型も、舞踏会を構成する大切な要素なのだろうし、ネリィがムキになるのは、平民生徒に恥をかかせないためだというのも分かる。

「それなら、そもそも予算が妥当なんですか?毎年やっていることですよね?」

「今年は、平民出身者が多いの。セラ様のご支援もあって、年々増加しているから、その分貸衣装として必要な数が増えちゃって」

「なるほど……貴族の方は、借りる必要がないんですか?」

 サラサの補足を聞き、ネリィへ尋ねる。

「えぇ、定期的に仕立てるのが一般的ですし、社交界もありますから、自前のものを持っている人が殆どですわ」

「――――なら、それを貸してもらえば良くないですか?」

「え」

「たしかに!同じ年頃の生徒同士なら、流行や体格も近いかも」

 サラサも、ハッとしたように乗ってくる。

「予算が足りないのは、専門のお店から借りるからですよね。貴族の皆さんは、不要なドレスってないんですか?」

「まさか、わたくしのドレスをどなたかに……?」

「お気に入りを出さなくてもよくて、クローゼットに眠ってるものがあれば一日だけ貸してもらうというのはどうでしょう?せっかくここは三分のニくらいが貴族生徒だし、意外と集まりそうでしょう?」

 生徒は普段制服で過ごしているし、夜な夜な社交界に出ている令嬢は少ないだろう。

つまり、使っていないドレスがあるはず。

 男子だって、以前屋敷でキリシュやフィデリオの話を聞いた感じ、何着かは盛装を持っている様子だった。

「――――確かに、生徒同士で融通できれば、外部で調達する分は最低限で済みますわね」

「でしょう」

「でも、自分のドレスやタキシードを平民に貸し出したいと申し出る生徒は、あまり多くないと思いますわ。貴方達にこう言ってしまうのは、心苦しいですけど」

「ネリィ様、大丈夫です!私、ちょっとアイディアがあるんです。考えをまとめてくるので、また話を聞いてくれますか?」

「え、えぇ……」

「ハヤテも、ありがとう。どうせ借りるなら、お金掛からない方がいいもんね」

そう脳天気に笑うサラサに、ネリィは難しい顔をしている。

オレも、出来るかどうかなら出来そうだと思った反面、ネリィの反応を見ると、五分五分のような気がしていた。

 プロに頼むと楽なのは、お金という対価で全て事足りるからだ。

それを身近に頼るとなると、お金より分かりにくい対価が発生することがある。タダより高い物はない。

 不安を覚えつつも、取り敢えずサラサの主人公パワーに任せて、オレは鏡を元の場所に戻した。


 そうこうしている内に、カイはシズルへのプレゼンが上手くいったらしい。

「この走り書きしかなくても、迷わず話すことが出来た」

「そりゃあ、そうですよ。資料も作りましたが、そのためにずっと話してアウトプットしたじゃないですか。アレが正に練習なんです」

 職場では、年次が上がると「資料に時間を掛けるな」と指示を貰うことも増えるものだった。それでもオレは、先輩からの教えに従い資料作りを通した準備こそが一番のプレゼン対策だと信じていた。最終的に捨てる内容でも、調査と検討を重ねた上でなら、洗練された結論を導く手助けになる。

 もっとも、コレをやり過ぎて残業やら休日出勤やらに追われることになったので、ホドホドも大事なポイントだ。

「シズル様からは、次の指示はなんと?」

「王宮側への依頼事項の清書と、時間毎の……そう、ハヤテが昨日言っていた、タイムスケジュールだ。あれを用意する」

「分かりました。去年の資料も貰えたなら、オレは――――」

「いや。ここまで来たら、自分で出来る。ハヤテはネリィ達の手伝いをしてくれ」

 おお。

 カイが、キッパリと言った。シズル相手のプレゼンを一人でやり切った自信がそうさせたんだろうか。

 屋敷のメイド達のようについ手を出したくなっていたオレは、フゥ、と一つ息を吐いた。側近としてのオレは、カイの補佐をすることはあっても、カイのお世話係ではない。

「分かりました。ネリィ様達もそれぞれ業務が進んでそうなので、オレは大人しくテスト勉強でもしてます」

「ああ」


 人の世話をするのは、大変な面もあるが、妙にやり甲斐を感じて“気持ち良くなる”危なさもある。

(カイの生徒会役員としての仕事を、オレが横取りするのは違うな……)

 あくまでも有志生徒として、弁えるのが正解だろう。

 学力が並のオレは、今のオレに一番足りていない事として、大人しく試験勉強を進めることにした。

 大学入試や入社試験の記憶も遥か彼方で、この世界の勉強には思った以上に苦戦している。記憶が戻る前に学んだはずの基礎知識がトんでいるのが、非常にイタイ。

 そろそろオレがカイの側近見習いになったことは学内でも周知され始めたようで、逆に言えばオレの成績が悪いと、カイの評判にも響いてしまう。

何より、奨学補助制度の規定枠から外れれば、状況によっては退学となる。

生徒会でのカイの様子は気にしつつも、有志生徒らしく、オレは自分の学業を優先することにした。

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― 新着の感想 ―
ITベンチャーに昔いた自分としてはハヤテに親近感があり、一気に読ませていただきました。人の目を気にしたり、効率的に進めたかったりするんですよね。現実世界の癖が抜けないのも面白かったです。ハヤテがカイの…
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