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11.予算?思考を尽くす生徒会室②

 放課後の生徒会室。

 カイは手元に清書した書類を持ち、改めてシズルの元へ向かった。内心聞き耳を立てたいくらいだったが、こう言う時は呼ばれるまで気にしないでおくべきだ。

上司の資料作りやプレゼン準備の手伝いなんて、山ほどやってきたこと。

きっと上手くいくはずだと、信じることこそがこの瞬間のオレの仕事だと思おう。

 一方で、生徒会室の奥ではサラサがネリィと何か話しているのが見えた。

表情から察するに、雲行きが怪しい感じに見える。

 オレ自身は主にカイのサポートということで、まだちゃんとしたタスクは持っておらず、資料整理やら舞踏会自体の勉強を進めているだけだった。

手を空けておくのも大事だと思いつつ、二人の様子につい意識が向かう。

「衣装だけじゃダメなんですか?」

「ダメですわ。ヘアメイクもあってこそ成り立ちますの。宝飾品は控えめになるでしょうし、ヘアメイクも無しとなったら、衣装ばかり立派で目も当てられません」

「でもそうすると、ヘアメイクで予算の半分です。衣装とどちらも、というのは無理ですよ」

「――――ハヤテさんは、どう思います?」

「え」

「どうせ、聞いていたんでしょう?」

 急に呼ばれて、仕方なく参加する。机には貸衣装業者の案内と、予算を書き出したメモなどが散っている。

どうやら、舞踏会での貸衣装の用意と、ヘアメイクなどの予算割で折り合いが付かない状況らしい。

「オレもサラサと同じく、自分で出来そうな所を切り詰める方が早いと思いますが」

 衣装を作るより、髪型と化粧を各自で整える方が現実的な気がして、サラサの意見に乗る。前世で同期の女子だって、派手ではないが毎日お化粧をしていたし、新卒の男子も気合いを入れる時にメンズ化粧品を使うと言っていた。

 ネリィは、賛同が得られないことに苛つくかと思ったが、曇った表情のまま押し黙った。暫く思案顔をした後、不意に、サラサの背後に立つ。

「ヘァッ?なななな、ど、どうかしましたか?」

 無言でツカツカと歩いて後ろに立ったかと思えば首元に手を回されて、サラサは驚きで身を竦めていた。

オレも咄嗟のことで、ネリィの意図が分からない。

 ネリィは黙ったまま、サラサの両サイドに結んでいた髪を解いてしまう。

 サラリ、と肩より長い赤み掛かった髪が流れる。女子の髪型になど普段注目しないだけに、突然のギャップに少しドキッとした。

「ハヤテさん、鏡を」

 急に話し掛けられて一拍遅れる。しかしオレは慌てて、部屋の壁から鏡を外して戻る。

 二人の正面に立つと、髪を下ろしたサラサと、後ろからその肩を抱くネリィが映った。

 なかなか絵になるが、こんなスチルは見たことがない。

「舞踏会に合う髪型を、貴方は幾つご存じですの?」

「あ……」

「わたくしと貴方のように、髪の長さや色味が違えば、結い上げ方も変わります。ダンスで崩れないように、食事で邪魔にならないようにしなければいけません。殿方だって同じですし、お顔剃りの必要な方もいらっしゃるわ」

「それは、そうですけど……」

「服の着方が分からない平民は居ないでしょうけど、普段と違うヘアメイクを、個人に合った形で衣装とバランスよく仕上げるとなると、簡単なことではありません。何より、舞踏会中は目の前の相手の服装以上に、顔を見ます。自前で無理にまとめた髪型で、その表情はどうなると思います?」

 鏡の中の、髪が乱れてしまった自分と、整ったままのネリィを見比べて、サラサはそれを想像したようだった。

 確かに、顔周りである髪型の印象は大きい。

そして、普段整えられることに慣れていない平民ほど、それは顕著に出るのだろう。

 前世でも、顔に注目されるとなれば男でもメイクで整える習慣があった。そして皆、動画サイトやSNSで見たのを真似て、失敗しつつ小慣れて行く。

 髭くらいは剃れるだろうけど(いや、この乙女ゲームの世界で髭面の学生は見たことないが)、眉剃り辺りからはアブなそうだ。女子だって、漠然とみんな綺麗にしている気がしたが、普段のサラサのようにノーメイクの女子も多いんだろう。

「すみません、簡単に考えてしまって……」

「――――いいえ。ごめんなさいね、急に驚かせて。でも社交界では、服装そのものより、全体のバランスで似合っているかどうかを見るの。それに、大事なご挨拶の前に髪型やお化粧、ドレスが崩れてしまって、それに本人だけが気付いていない、なんてことも起きてしまうかもしれません」

 ネリィは手櫛でサラサの髪を纏めると、先ほど解いたのより凝ったような髪型へと変えていく。

 侯爵令嬢に髪を整えられていく状況に、流石のサラサも戸惑いで顔を真っ赤にしている。

視線で助けを求められているが、オレには鏡を持つことしかできない。

「はい、こちらの髪も似合いますわ」

 器用なもんだなと思うくらい、一瞬だった。

「――――わぁ。髪型、綺麗にして貰えると嬉しいですね。ネリィ様、ありがとうございます」

「大したことはしてませんわ」

 鏡の自分とネリィを交互に見ながらポーッとしているサラサは、乙女ゲームの主人公らしい愛らしさがあり、ディノにも見せてやりたいなあと思ってしまう。

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