10.助言!箱入りの王子様①
本来あるべき形とはだいぶ違うが、課外授業では和気藹々と過ごしていた。
サラサとディノが、平民の目線で積極的な質問をしてくれるお陰で、オレは側近として認識しておくべき両方の価値観を客観的に学べている。
オレ自身も平民なのは間違いないが、なんせこの世界に家や家族がないため、重要視するべき部分を捉えるのが難しい。
文化とか価値観とか、多分そんな風なものが、オレの中には足りていない。だからこそ特別扱いして貰えている面もあると思うが、この隔たりを無視してカイの側近にはなれないなと、最近特に感じていた。
ゲームのシナリオとは大分ズレてしまったが、二人と一緒に学べていることは、側近見習いとしては有り難かった。
「生徒会で今度、王宮での舞踏会を企画するの」
「それって、試験後の休みにある?」
サラサ達との雑談の中だった。舞踏会という単語にふと、スチルイラストが思い浮かぶ。
「うん。前期修了記念の会で、生徒も先生方も参加するし、招待客も来ることになってるんだ」
「試験と並行で準備か……優秀な生徒会役員じゃないとできないな」
王宮での舞踏会は、当然ゲームのシナリオにもある。
攻略対象とのダンスを踊り、その中での会話や、ラストダンスの相手について選択肢があり、親密度に影響して来る。
プレイしている時は定番だと思って受け入れていたが、実際にスケジュール感を考えると、なかなかハードだ。
「お前は特に、試験の成績も大事なんだろう?無理するなよ」
「ありがとう、ディノ。でも、ネリィ様が張り切ってるし、私も出来るだけ頑張って、生徒会の役員だって認めてもらいたいんだ」
サラサからはよく、生徒会での話が出て来る。その中でも多いのが、ネリィの話題だった。
ゲームではライバルのはずだが、聞いている限り関係は良好なようで、教室でも以前より会話をする様子が目に入る。
「ネリィ様って、侯爵家のご令嬢だろ?結構怖い方だって聞くけど、大丈夫なのか?ほら、ヘレネの集いの時も色々あっただろ」
「確かに少し厳しい方だけど、話せば分かってくれるし、素敵な方だよ。ヘレネの集いの時も、私が上手く連絡出来てなかったのがいけないんだし……」
「連絡?サラサから、連絡入れてたのか?」
「――――あ、うん。慌ててたけど、ネリィ様のご友人に伝言をお願いしたの。でも、上手く伝わらなかったみたいで」
今更ヘレネの集いの話が出てきて、思わず反応してしまう。
あの時はサラサがドタキャンしたことになっていたが、実は連絡を入れていたのか。
だとしたら、ネリィに伝わらなかった理由が気になる。
「あ、でもね、謝ったらネリィ様も説明してくださったの。ハヤテのお見舞いに行った時のことも話してくれて、引きずるのはやめようって」
「ちゃんと伝言してたなら、そう言えば良かったのに」
「うん……でも、私が勝手にネリィ様と親しい方だと思ってただけだったら、申し訳ないし。直接説明しなかった私の落ち度だよ」
確かに、スマホや、インターネットどころか電話もないこの世界では、伝言や手紙が連絡手段になってしまう。
それが上手くいかないなんて、珍しくもない。
けれどゲームのシナリオを知るオレには、十中八九ネリィの取り巻きによる嫌がらせだったんだろうと想像がついた。
今更蒸し返す気はないのでここまでにしたが、気に留めておくことにする。
「ねえ、ハヤテ」
「ん?」
課外授業が終わった後、軽く引き留められる。
「カイ様、生徒会のことって何か言ってた?」
「いや、別に……」
「ハヤテが側近だから言うんだけど、王宮との調整について、お困りのような気がするの。ネリィ様も気にされてるようだけど、なかなか私からお話しができなくて」
生徒会でのことは、カイから話題にされることはなかった。確かに一般生徒に話して良いことには線引きがあるだろうし、オレも積極的に聞いてはいけない気がしていた。
けれど最近は自分の課外授業のことばかり気にして、カイの様子を細かく見られていなかったかもしれない。
オレはサラサに、気に掛けておくと告げた。
登下校では普段、オレはカイと一緒に馬車を使っている。
オレの課外授業や、カイの生徒会の予定などもあり、最近は馬車で片方を待つことも多い。
見習いの間は仕方ないのかも知れないが、側近という立場ながら別行動が多いことに、申し訳ない気持ちも強かった。
「どうかしましたか?」
帰り道、馬車に乗ってから三回目の溜息を吐いたカイに聞いてみる。
「え?」
「浮かない顔をしているようなので」
無自覚だったらしく、窓ガラスを鏡のように見つめてから、カイは諦めたような顔をした。
「王宮で舞踏会をやるんだが」
「生徒会が主催するという?」
「ああ。思ったよりやる事が多く、滞っている状況なんだ」
「例年に比べて遅れている、ということですか?」
「例年……?」
「え。毎年のことですよね?マニュアル……資料とかないんですか」
「ない……と思うが、聞いていないな。会長であるシズルからも、特に何も言われていない」
「上級生は何もしてないんですか?」
「ああ。毎年新たな生徒会役員が中心になって企画するものだから、特には」
ネリィが張り切っているとサラサは言っていたが、新人三人で進められる規模なのだろうか。
それに、試験勉強とも並行しなければならないはず。
「――――話した方が良いと思います。最初からヤバそうなのが分かっているのに黙ってて、ギリギリになって助けを求められても、周りだって困ります。ネリィ様がどう思っているかは分かりませんが、上級生や先生方にも、早めに相談した方がいいです」
「そうだな、試験が終わってから……」
「カイ様。早めというのは、気付いた時です。流石に今夜シズル様の屋敷へ行けとは言いませんが、明日にでも相談してください」
「ハヤテ」
「オレは、カイ様のクラスメイトとして、カイ様が優秀なのを知っています。ネリィ様やサラサだって同じく優秀です。それでもカイ様がそんな溜息を吐く状況なら、待っているだけじゃ変わらないと思います」
個人成績だけなら優秀でも、チームや部署単位にした時、上手くいかずに課題が出て来ることは多い。
課題や問題が起きること自体は仕方のないこととして、原因と対策について、どれだけスピーディに動けるかが大事だと思う。
少なくとも、今問題が起きているのかどうか、自分たちだけで解消できるのか、まずは現状を認識しないと何も動けない。
「舞踏会のことはチラホラ話題になってますが、生徒会主催って話で、生徒会新一年生のみが主催するとは聞いていません。だから、使えるものは上級生でも使った方がいいです」
そう言えばゲームでも、主人公に試験勉強か舞踏会の準備かを選ばせるシナリオがあった気がする。
そもそもイチ生徒が悩むようなことじゃないだろう、と当時思ったことが口を出ていた。
どっちも上手くいく方が良いだろうし、ララブではシズルに頼ったりヴォイドに頼ったり、そんなエピソードもあったはずだ。
「オレの課外授業も暫くは休止なので、何か出来ることがあるならお手伝いしますから」
「ああ。わかった」




