0589 「雲の旅団」とホウジョウ子爵
俺たちはグレゴール案に沿って密かに様々な仕込をした後でハーベイ村へと向かった。
人員はかつてハーベイ村へ行った者たち全員と、アレクサンダーたち4人を加えた面々だ。
リンドバーグとスカイインの2隻で訪れたハーベイ村は中々盛況だった。
俺たちは2隻の魔法飛行艇を村の塀の内側の片隅において、村の様子を見た。
村はかつて無いほどにぎやかで、あちこちに色々な屋台が出ていて、日没後にはあちこちに提灯がぶら下がって、夜でも村全体が煌々としていた。
村の人たちもコロコロとした人たちはいなくなり、その様子を見たミルキィとミルファも一安心したようだ。
アレクサンダーたちもその屋台を見て色々と感心したり驚いたりしているようだ。
その内の一つの屋台で売っている棒状の木工品を手にとって、アレクサンダーは不思議そうに俺に尋ねる。
「これは一体何でしょう?
屋台には「火付け」と書いてありますが・・・」
「ああ、それは「ハーベイ火付け」と言って火を点ける道具さ」
「え?これで火を?」
「ええ、そうですよ、こんな具合にね」
不思議そうにしているアレクサンダーたちの目の前で、屋台の店主が手馴れた様子でガスッ!とピストン部分を押し込んで、火を点けて見せる。
それを見たアレクサンダーたち4人は驚く。
「何と!本当にこのような道具で火を?」
「ええ、お一ついかがですか?
これもホウジョウ様の考案された品物ですよ」
「これをホウジョウ様が?」
「このような物まで?」
驚くアレクサンダーたちに俺が笑いながら説明をする。
「ああ、そうだよ。
結構便利なんで、この村の周辺ではずいぶんと広まったみたいだよ。
特に隣のアドレイユ王国では王子自らが宣伝して回っているので、最近はそっちからずいぶんと注文が来ているみたいだ」
「え?王子自ら?」
「ああ、そこの第5王子はマジェストン校の窮理部で私の先輩なんでね。
それもごく親しい間柄なんだ。
それで私が発明した物をここで売っていると知ったら、広めるのに一役買ってくれたみたいだ」
「むむ、なるほど」
「他国の王室にまでそのような交友関係があったとは・・・」
俺は今年の新年の挨拶の時に外交使節としてやってきたスチューにハーベイ村の事を話しておいた。
ゾンデルから聞いた所によると、スチューはここで俺が村の復興を手伝った事を知ると、実際にここへやって来て、色々と見学をして感心したようだ。
そしてハーベイ火付けを始めとして、色々と買いこんで帰ったらしい。
ニコラスとライマーは俺が窮理部の先輩である王子様方と友人なのは知っていたが、アレックとフリッツは俺の交友関係が外国の王室にまで及んでいるのを知って、少々驚いたようだ。
逆に今回の事で俺が少々驚いたのは、この祭りにグランチェスター伯爵本人が来ていた事だ。
ゾンデルは復興一年祭という事もあって、ハーベイ村が友好条約を結んでいる場所には招待状を出しておいたらしいが、事情も事情なのでグランチェスター領には事情を説明して招待をやめようとしたらしいのだが、相手が是非とも参加したいとの事で結局は参加する事になったらしい。
祭りには言わば前領主の仇とも言える「雲の旅団」が村の恩人として来る事も話したのだが、前領主と自分は関係ないし、どんな事があっても決して諍いは起こさないという約束をしてゾンデルも納得したようだ。
そのグランチェスター伯爵が俺にも挨拶をして来た。
「これは初めまして!
私はアドレイユ王国のグランチェスター伯爵と申します。
以後御見知りおきを!」
「はあ、アムダール帝国のホウジョウ子爵です。
初めまして」
「いや、ホウジョウ子爵とは是非お会いしてみたかったのです」
その言葉に俺は驚いた。
「え、私と?」
「ええ、何しろこの小さな村をこれほど発展させた御本人と伺いましたのでね。
それにスチュアード様からも、もしホウジョウ子爵と会ったらよろしく伝えて欲しいと言付かっておりますので」
「そうですか、こちらこそよろしくお願いします」
なるほど、そういう理由か?
スチューが俺の事を気遣って、グランチェスター伯爵にも根回しをしておいてくれたようだ。
この村の周辺の国も、ここがアムダール帝国の自治領主たる俺と関係があると知れば、今まで以上に下手な手出しはしてこないだろう。
確かにそれは助かる。
グランチェスター伯爵も評判通り、温厚な人柄のようだ。
俺たちもその日は祭りを楽しみ、夜にはそれぞれの魔法飛行艇に泊まった。
そして翌日になって、ゾンデルが式典を開始する。
「ハーベイ村へお越しの皆様!
本日はようこそ我がハーベイ村へお越しくださいました!
私はこのハーベイ村暫定村長のゾンデルと申します!
すでに村の復興祭は真っ最中ですが、これよりハーベイ村復興一周年の式典を行いたいと思います!
まずはこのハーベイ村に最も貢献してくださった御二方を紹介したいと思います!
一人目は傭兵集団「雲の旅団」の代表である1号様!
1号様は旅団の皆様と共に、ラーガン領から攻められて壊滅しかかっていたこの村を訪れて、このような鉄壁の防御を誇る村にしていただいただけでなく、その傭兵としての卓越した戦闘技術で再び襲ってきたラーガン伯爵軍を撃退していただきました!
そしてそれだけではなく、その後三度来襲したラーガン伯爵軍を撃退した後に、これまた卓越した外交術で和平交渉をしていただき、我が村に平和と富をもたらせていただいた方です!」
そう言ってゾンデルが特別に設けられた天幕が張ってある貴賓席に向けて一礼をすると、そこには怪しげな灰色の頭巾を被り灰色の衣装を来た連中が数人おり、その中の「Ⅰ」と書かれた頭巾を被っている人物が軽く頭を下げる。
それを見た観衆たちから拍手が起こり、一部の人々は「お~!」「あれが・・」「ついに見つけたぞ!」などと声を出したり、囁きあったりしていた。
「そして今一人がこのハーベイ村の元村長の奥方であるミルファ様と、その御嬢様である、ミルキィ様の御二人の御主人様でいらっしゃるホウジョウ子爵閣下です!
子爵様はまだ御自分が平民である時に、偶然ミルキィ様とミルファ様が奴隷になっている所を購入したのですが、心優しい子爵様は御二方の故郷であるこのハーベイ村の様子を気になさり、わざわざ訪ねてくださっただけでなく、この村の復興のために尽力をしてくださいました!
現在この村の名物となっている「ハーベイ火付け」や、皆様がこの村で食べた猪骨ワンタンや猪肉まん、リンゴジャムなどは全てホウジョウ子爵様の考案であり、皆さんが旅の疲れを癒していらっしゃる当村の旅館や風呂などの設備の数々も子爵様とそのお仲間の方々が考えてくださった物です!」
ここでゾンデルが今度は俺たちの方へ一礼をすると、俺たちも軽く片手を上げて挨拶をする。
そう、今ここでホウジョウ子爵である俺と、雲の旅団の1号は、完全に別人扱いとして紹介されていた。
つまり我々ホウジョウ子爵の一団と、雲の旅団の一行は完全に別集団なのだ!
俺たちはそれを世間と一般大衆に刷り込むつもりで、わざわざ同時に別集団としてゾンデルに紹介させたのだ。
ちなみにアレクサンダーたち4人は自分たちは何もしていないのに俺たちと一緒に恩人として扱われるなどもってのほかだと言って、一般観客と一緒にこの様子を見ている。
ハーベイ村の面々にもこれからは俺と1号は完全に別人だという事を説明しておいた。
これにより、まず俺たちと雲の旅団を同一集団だと思う者はいなくなるだろう。
仮に今後そう考える者がいたとしても、今回の祭りに来た人たちに否定されるのは疑いない。
現在、雲の旅団の1号を演じているのは急遽マジェストンから呼び寄せた影主だ。
祭りに来ている人々の中にはラーガン伯爵領改め、現在のグランチェスター伯爵領からやって来て、かつての1号を頭巾越しとはいえ、見ている者もいるからだ。
その時と、あまりに1号の背格好が違っていては疑いを持たれかねない。
こういう時のために俺の影武者を勤められるように影主は俺に似せて作ったのだ。
もっとも正確には影主は今の俺より少々背は高く設定してあるし、声も少々違う声を出すように指示しておいた。
あまりにも俺とそっくりだと俺との関係を疑われてしまう恐れがあるからだ。
ちなみに2号はエルフィールで、8号は飛鷲だ。
それ以外の者たちはオリオンたちジャベックが演じている。
そしてゾンデルが再び俺に話しかける。
「さて、それでは双方の恩人からお話を伺ってみましょう。
まずはホウジョウ子爵様からどうぞ!」
ゾンデルに促されて俺が立ち上がって挨拶をする。
「まずはハーベイ村復興1周年おめでとうございます。
私も今や私の家族であるミルキィとミルファの故郷がここまで発展してとても嬉しいです。
その発展に少しでも力添えが出来たならこれほど嬉しい事はありません。
皆さんもどうぞ今日のこの村の発展ぶりを目の当たりにした様子を知り合いにお話したいただいて、これからもこの村の応援をお願いいたします」
そう言って俺は挨拶を終えて座る。
「ホウジョウ子爵様、暖かいお言葉をありがとうございました!
続いてもう一方の恩人、雲の旅団の1号様どうぞ!」
ゾンデルの紹介によって1号である影主がスクッ!と立ち上がって、挨拶を始める。
「私が雲の旅団の現在の代表である1号だ。
まずは我々がこんな格好をしているのは色々と理由があるので許されたい。
そして今、ゾンデル氏は我らの事を恩人と言ったがそんな事はない。
我々は単なる傭兵の集団であり、ハーベイ村の件は依頼された仕事を実行したまでの事だ。
我々はこの村が壊滅に瀕しているという話を聞き、その状況が我々であれば打開策があり、しかも非常に大儲け出来ると判断したからここに来て依頼を受けただけの事だ。
事実、我々としてもこの村での仕事は極めて大きな儲けになった。
もっともこの村での要請は過去にないほどの大きな儲けとなったので、少々騒ぎにはなったようだがね。
しかしそれは我々には関係のない事だ。
我々は要請されて引き受けた仕事であれば、別にハーベイ村の件でなくとも、確実に実行し依頼主を満足させるだろう。
但し、ここで言っておくが、もし現在この中に我々に対して仕事を頼もうなどと考えている人間がいれば注意してよく考える事をお勧めする。
なぜならば、我々は滅多な事では仕事の依頼は受けないし、受ける時は法外な金額を要求する集団だと言う事を知っていてほしいからだ。
具体的に言えば、報酬は最低でも金貨1万枚以上だ!」
ここで一旦1号が話すのを中断すると観衆たちはざわめく。
「すげーな!最低料金が金貨1万枚だって!」
「あいつらそんなすげえ集団なのかよ!」
「そりゃラーガン伯爵軍を手玉に取った位だからな」
「そんだけ依頼料を取るのも仕方がないって事か?」
「だけどオリハルコンの戦団だって、それほどは取らないぜ」
「安心しろ!お前にゃ連中に頼む機会なんぞないからな」
「そりゃそうだ!」
「ぬぬぬ・・・まさかそれほどの額を要求されるとは・・・」
「これは・・・」
そしてざわめきが収まってくると1号が再び話し始める。
「そして私がこの場に来たのは実はまた別の事があるからだ。
それは私はこのハーベイ村の件でかなり資産に余裕が出来たので、これを機会に引退をしようと考えたからだ」
「え?引退?」
ゾンデルが驚いて問い返すと、1号は灰色頭巾の頭でうなずいて答える。
「そうだ、ここへ来たのはそれを宣言するのはここでするのが最もふさわしいと思ったからだ。
そして私は引退するが、雲の旅団は引き続き活動を続け、仕事の依頼は受ける。
私は今日この場で引退をするが、これよりこの8号が新しい1号となって雲の旅団を引き継ぐ事となる」
そう言いながら1号は隣でスッと立ち上がった8号を紹介する。
その後で1号はサッと「Ⅰ」と書かれた頭巾と衣装を取り去ると、そこには同じ衣装ではあるが、何も書かれてない衣装を着ている者がいた。
「これで私はもう1号ではない。
ここにいる諸君、私の引退会見に付き合ってくれて感謝する。
もう私は二度と世間に姿を現す事はないだろう。
私はどこか諸君の知らない場所でゆっくりと余生を過ごす事にする。
ではさらばだ!」
そう言うと1号、いや元1号は天幕の外へ出て航空魔法を唱えたのか、空に飛びあがり、あっという間に南西の方向へ飛び去ってしまった。
それを見ていた観衆たちはあまりの事にポカンとしていたが、そこで突然話始める者がいる。
隣に立っていた8号だ。
「諸君、1号は去った。
これよりは私が1号として雲の旅団を率いる事となる。
だが、する事は以前と同じだ。
仕事は引き受けるが、その報酬は法外な金額を要求する。
しかし依頼は確実に実行するつもりだ」
そして再び観衆の目が8号に集まると、そこで8号は先ほどの1号と同じく、サッと「Ⅷ」と書かれた頭巾を取り去る。
そこには「Ⅰ」と書かれた衣装がすでに用意されていた。
「御覧の通り、これからは私が1号だ。
よろしくお願いされたい」
ここでゾンデルが戸惑いながらも新しい1号に話しかける。
「え~と、それではあなた様が新しい1号様で?」
「そうだ、但し仕事の請け方を今までと少々変えようと思う。
今までの我々は自分たちが仕事が出来そうな場所へ行って、そこで相手と交渉し仕事を請け負っていた。
しかしこのハーベイ村の件で少々名が売れてしまったようなので、今度からはある方法を使って、依頼人から仕事を請けるようにしたい。
ただし、先ほども言った通り、我々の仕事料は法外なので、それを考慮して仕事は依頼されたい。
現在、その方法を考えている所だ。
さし当たっては1ヶ月ほど経ったら、その方法を帝都アムダルンと旧都ロナバールのアースフィア広域総合組合の掲示板で教えようと思う。
我々に仕事を頼みたい人間は1ヵ月後のそれを見て交渉をされたい。
私から言いたい事は以上だ」
そう言うと、新1号はその場で座り、無言となる。
そして少々困った感じでゾンデルが話し始める。
「え~、かつての1号さんは引退していなくなってしまったようですが、引き続き雲の旅団さんは活動を続けるようですので、そちらに申し込みたい方は今新しい1号さんがおっしゃった通り、1ヵ月後のアムダルンとロナバールの組合掲示板を御覧ください。
私に言えるのはそれだけです。
それでは皆様、ハーベイ村の恩人である方々に今一度拍手をお願いいたします!」
ゾンデルの言葉に観衆たちは思い出したかのように拍手をする。
これで俺たちと「雲の旅団」の紹介は終わり、式典は本来の目的へと移った。




