風
「ママー!見てー!!」
庭では、お下げ髪を振り乱しワイバーンと遊んでいる女の子が居た。背中に乗ったり尻尾を掴んだり、粗雑に扱っているように見えるが、ワイバーンも噛み付くふりをし、満更でも無さそうに遊んでいる。
「ふふっ、怪我しないでよ〜」
庭の隅に置いてある椅子に座り、平和な日常を眺める。今娘と遊んでいるワイバーンは、かつて私と行動を共にしていたアローだ。
「おーい!」
彼の背中に乗り、こちらに手を振っている娘の手には、昔の私と同じような痣がある。彼と契約を結んだのだ。
振り返した自分の手を見ると、細かい傷はあるものの、痣も無い普通の手だ。彼との契約の証は、私が死のうとした時にきれいさっぱり消え去っていた。
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娘が生まれた日の夜、しばらく顔を見せていなかったアローが現れ、まだ羊水にまみれた娘を見つめていた。
助産師さんや旦那は子供が食べられるんじゃないかと思い、ピリついた空気が漂う。
しかし、アローの顔を見た私は、ためらう事なく娘を両手に抱き、彼に差し出していた。
彼は元気よく泣き叫ぶ娘に注意深く、そして優しく鼻で触れた。その瞬間娘の手のひらに銀色の痣が浮かんだのが見えた。
「もしかして、この子に会うために私と仮契約したんじゃないでしょうね?」
茶化して聞くが、もう彼の声は聞こえない。その代わり、ゆっくりと瞬きをした。
"そうだけど、ノラの事も好きだよ"
そう言っているように見えたのは、私の錯覚だったかもしれない。
娘と契約を結んだアローは、その後子育てをする私の側を離れず、娘との関係を深めていった。
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「ねぇお母さん、まだアローと飛んじゃダメ?」
「ええ、まだよ。明日が誕生日なんだから我慢しなさい」
「えー、、。はあーぁ、今日か明日かなんて、そんなに変わんないのに」
不貞腐れた娘は、庭の芝生に寝転んだ。
「しょうがないじゃない。お父さんが許してくれないんだから」
「ちょっと過保護すぎなのよ。もう16になるって言うのに、、」
「そうね、もう16歳か。早いわねぇ」
これまでの事を思い出し、寝転ぶ娘の顔を見つめる。本当に色々あった。相手側の両親はもちろん結婚に反対したし、子育ても一筋縄では行かなかった。
だけど、自分の人生には無いと思っていたことを全部経験した。それは確かだろう。
いつのまにかどこか違うところを見ていたのだろう。ふと、自分が見つめられていることに気づいた。娘とアローがじっとこちらを見ていたのだ。
「やっぱりわたし15歳のままで良い」
突然そう言い放ち、抱きついてきた。アローも長い首を私と娘に巻きつけている。
「あらあら、また赤ちゃんに戻ったの?」
ふふ、と笑って2人を抱きしめ返す。娘はもちろんのこと、心なしかアローの方も体格が良くなっている気がした。私と居た時はまだ子供だったのかもしれない。
あの日から、随分と遠い所まで来てしまった。
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「グレイ隊長!あの、、っ!」
「何だ、後にしろ。書類が溜まってるんだ」
机に向かい眉間を揉んでいるグレイ。今日は娘の誕生日だ。午後休を取るために、徹夜で仕事をしていた。目元には濃いクマが浮かんでいる。
「それが、、緊急なんです、、。早急に家へ帰るようにと、、」
部下がいつもの態度とは違うことに漸く気づき、グレイは椅子を倒しながら勢いよく立った。
「っ!娘に何かあったのか?」
「いえ、娘さんは無事です。ですが、、」
答えを聞く前に、グレイは執務室から飛び出した。厩舎から、許可も得ずに馬を借り、家まで走る。
バタン!!!
「ノラ!!ノラ!居るか!」
家に入るなり大声で呼びかけるが、返事がない。
「旦那様!!、、、」
バタバタと走ってきたのはこの家の使用人だ。かなり急いで走ってきたらしく、ゼーゼーと激しく息を乱している。
「はぁっ、はぁ、旦那様、これが、、奥様のお部屋に、、、」
彼が握っていたのは、青い花の模様があしらわれている白い便箋だった。
グレイは、嫌な予感が当たりませんようにと、願いながらその便箋を受け取り、中の手紙を震える手で読み始めた。
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"愛するあなた、そして、愛する娘へ。
マチルダ、まずはお誕生日おめでとう。もうあなたも立派な女性ね。ここまで大きく育ってくれた事を誇りに思うわ。あなたは賢い子だから、これからどうすれば良いか、分かっているでしょうね。お父さん1人では不安だから、助けてあげてね。
そして、あなた。先に行く事をどうか許して。なんて、あなたはきっと許してくれないでしょうね。許さないで良いわ。
あなたからは沢山の愛や慈しみや、経験する事なんて無いと思ってた事を全部教えてもらった。とても感謝してます。
与えられた愛に見合うくらいの物を返せたかしら。
どの口が、って思うでしょうけど、2人ともどうか、幸せに生きて。悲しみは時間とともに薄れていくから。
愛してくれてありがとう。愛させてくれてありがとう。本当に毎日が幸せで溢れてた。私にはもったいないくらいに。
私はあの子に会いに生きます。きっと口も聞いてくれないくらい怒ってると思うわ。でも、何もかも許されて生きていくのはもうこれでお終いにします。
今までありがとう。私の小さな体から、溢れるくらいの愛を込めて。
ノラ・ルーミス"
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
手紙を読み終わり、もう一度読み返したグレイは、大きい体からは想像がつかない程の速さで、ノラの部屋まで走った。
「ノラ!!」
扉は開いていて、中からは、外の風が吹き込んでいる。開け放たれた窓の前にはマチルダが立っていた。
「マチルダ!ノラは、、!?」
ベッドの横に立っているマチルダは、窓の外を静かに眺めている。誰の声も聞こえていないようだ。
部屋に入ったグレイは、ベッドにノラが寝ているのを見つけた。目を閉じて寝ている様に見える。
「おい!ノラ!返事をしろ!」
肩を必死に揺さぶるが、反応は返ってこない。
「静かにして、パパ。寝かせてあげて」
マチルダは父をなだめ、乱れた布団をかけ直した。
放心したグレイは、マチルダの隣の椅子に座り込む。
「おやすみ、ママ」
ベッド横のテーブルの上には、厳重に保管していたはずの小瓶が太陽の光に照らされてキラリと光った。
ここまで読んでくれた人も、途中まで読んでくれた人もありがとうございました!!
とりあえず完結できた事を誇りに思います。
また色々勉強して次の作品を書こうと思ってるので、温かい目でで見ていただけるとありがたいです。




